なぜEVは「乗り物酔い」を招くのか? 世界1700万台突破の影で進む科学的解明とその課題とは

EV乗車の新たな課題

 世界のEV販売台数は2024年に1700万台を突破した。前年比で25%の増加に相当する。国際エネルギー機関(IEA)は、2030年までにEVが全自動車販売の40%を占めるとの予測を示す。

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 そんななか、意外な現象も報告されている。SNS上で、EVの助手席や後部座席に乗って車酔いしたとする投稿が増加しているのだ。EVの購入を検討する層にとっては注目すべき情報である。

 過去の学術研究を調査すると、EVに乗車した際に気分が悪くなる理由に科学的根拠があると示す報告が複数見つかる。

エンジン音欠如の副作用

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リポート「何が起こるかを事前に知る:予知的な音声合図は、乗り物酔いを軽減することができる」(画像:Applied Ergonomics)

 アムステルダム自由大学を中心とする研究チームは、2020年に『Applied Ergonomics』で、EVにおけるエンジン音の欠如が乗り物酔いを悪化させる主な要因である可能性を報告した。

 内燃機関(ICE)車に慣れた人は、エンジン回転数の上昇を示す音を聞くと、脳が速度の変化を予期し、身体がそれに備える。しかしEVの電気モーターは静かであるため、脳と身体が加速に備えられない。特に同乗者は、不意の急加速を体験しやすい。

 実験では20人の参加者を2グループに分け、9mの線路を往復するソリに乗せた。ソリはランダムに一時停止し、その後進行方向を変えた。Aグループのソリは停止直前に音が鳴ったが、Bグループは無音だった。

 15分間の搭乗後、乗り物酔いの程度を自己評価してもらったところ、無音のBグループで酔いを感じた者が有意に多かった。

 研究チームは、音などで車両の次の動きが“予告”されることで身体の準備が整い、酔いを軽減できると説明している。つまり、音や視覚情報で次の動きを予測できれば、乗り物酔いは起きにくい。

 EVでは車の次の動きが予測しづらいため、身体が準備できず、車酔いが起きやすい状態にあるということだ。

EV静寂の新たな課題浮上

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リポート「視覚的な手がかりは自動運転車の乗り物酔いの軽減に役立つのか?レビュー記事」(画像:Journal of Automobile Engineering)

 別の研究では、EVに搭載される回生ブレーキ技術が乗り物酔いの原因になる可能性が報告されている。回生ブレーキは、減速時の運動エネルギーをモーターで電気に変換し、バッテリーに充電する技術だ。

 中国・重慶医薬学院の研究チームは2024年5月、『Journal of Automobile Engineering』にて、「回生ブレーキの強度が高いほど乗り物酔いを引き起こす可能性がある」と発表した。

 16人の乗り物酔いしやすい被験者を対象とした実験で、回生ブレーキの強さと吐き気の程度に明確な相関関係が確認された。研究チームは

「この研究結果は、EVにおける動作の手がかりの重要性を浮き彫りにし、回生ブレーキシステムの設計とそれに対応する人間と機械の相互作用戦略についての洞察を提供します」

と指摘している。フットペダルを緩めただけでブレーキがかかる感覚は、慣れていない者にとって奇妙だ。特に同乗者にはこれまでにない不慣れな体験となる。最悪の場合、車酔いを引き起こすこともある。

 問題の根底には、車両が現在あるいはこれから行う動作を乗員に伝える視覚的・感覚的な手がかりの不足がある。この課題への対応策のひとつが、視覚、聴覚、振動などの人工的信号を提供することだ。

 排気ガスを出さず、走行時の静粛性はEVの大きなメリットとされてきた。しかし、EVの静かさは再考が必要になってきた。これまでは歩行者が車の接近に気づきにくいデメリットが指摘されてきたが、今回の研究は車酔いの要因にもつながることを示している。

擬似音が変える運転体験

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EV(画像:Pexels)

 興味深いことに、一部の自動車メーカーはEV設計においてエンジン音の再現に取り組んでいる。

 欧州ステランティス傘下のアバルトは、「アバルト500e」に約6000時間をかけて開発した擬似排気音システムを搭載した。

 BMWも同様のシステム「Iconic Sounds Electric」を開発し、i4やiXなどのEVに搭載している。スポーツモードでは力強い音を、エコモードでは静けさを際立たせるサウンドに切り替え、運転体験の質を高めている。

 メルセデスAMGの次期EVはV8エンジンの轟音を再現することを発表した。3基のモーターが500馬力超を発揮し、V8サウンドを響かせるこのEVはマッスルカー愛好家はもちろん、乗り物酔いしやすいユーザーにとっても朗報になる可能性がある。

 メルセデスAMGは、このV8サウンドEVが「エモーショナルな体験」を提供することを目的としていると説明している。これが乗り物酔いの軽減にもつながれば、予想外の強みになるだろう。