地方の崖っぷち遊園地「自虐」に潜む生存戦略

老舗遊園地が歩んだカオスへの道, 実は「二度死んだ」メルヘン村, キャラクターの力で起死回生, 何気ない一枚の写真がきっかけで……, 哀愁と笑いのコンボ, カオスに振り切ったSNS運営, トイレ事情もエンタメに昇華, 怖くてカオスが、優しく迎えてくれる

坂道を上った先に、その遊園地は見えてくる(筆者撮影)

とある遊園地の名前をネット検索してみると、なぜか予測変換に「怖い」「検索してはいけない」「ホラー」といった不穏なワードが出てくる。

【画像を見る】怖すぎる、カオス、ホラー……と言われる遊園地、その驚く姿

その遊園地とは、佐賀県武雄市にある「森とリスの遊園地メルヘン村」である。1992年に開業し、今日まで33年間地元のファミリー層を中心に幅広く親しまれている。

老舗遊園地が歩んだカオスへの道

てんとう虫コースターやメリーゴーラウンドなどの乗り物に、九州最大級9万個のボールプールも備えた屋内外アスレチックゾーン、さらにリスやウサギなどへの餌やりが楽しめる動物園、ドッグランも併設され、一年中楽しめる場所だ。

コンセプトは「ヨーロッパメルヘン」で、園内には童話の世界をイメージした動物やキャラクターなどのオブジェが並ぶ。

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明るい色遣いのポップなイラストもかわいい(筆者撮影)

しかし、そんな牧歌的な風景とは裏腹に、施設名で検索すると冒頭のような予測変換ワードが出てくるうえに、SNSでは「怖い遊園地」とも呼ばれている。その理由の一端、いや大半は狂気に満ちた公式SNSにある。

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メルヘン村公式Xのスクリーンショット

こちらの公式X。リスの愛らしいイラストに反して、まるでこちらの脳内にその名を刻みつけようとするかのような怒涛の「メルヘン村」羅列。文字化け風の謎のプロフィール文……。

ちなみに文字化けを直してみたら「これを読めたら君ハイパーメルヘンなんだよ♪ようこそメルヘン村へ」だった。なかなか芸が細かい。

さらに、よく「メルヘン村はもう潰れたと思ってた」などと言及されるため、固定ツイートは以下のようにしている。

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怒涛の潰れてないアピール。怖い。年中無休で営業中だ(メルヘン村公式Xよりスクリーンショット)

強烈だ。一言で表現すると「カオス」というやつだ。「怖い遊園地」と言われるのも当然だろう。

筆者は長崎県生まれ・育ち。メルヘン村へは車で1時間もかからなかったため、子どものころからレジャースポットとして親しんできた。親に連れられて、かわいい動物たちとふれあい、遊具で遊んで大満足だった。

いつの間にこんなことに……?

童話の世界観を持つ老舗遊園地が歩んだカオスへの道。いったいどんな変化が訪れたのだろう。その背景を知るべく、メルヘン村を訪ね、副支配人の境田さんに話を聞くことにした。

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実は「二度死んだ」メルヘン村

メルヘン村へ足を踏み入れると、漆黒の瞳で高みから見下ろしている巨大なリスのオブジェが現れる。「なにか目玉となるものを」と、開園から7年目の1999年6月に8000万円を投入し完成したメルヘン村のシンボルである。

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高さは7.3m(地上からの全高は9.1m)で、2019年に「日本一大きいリスのオブジェ」に認定されニュースとなった(筆者撮影)

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副支配人の境田さんが迎えてくれた。「自分はあくまでもドン・グリスの付き人ですが」と謙虚な姿勢を崩さない(筆者撮影)

まずは、順を追ってこの地方の小さな遊園地がたどった数奇な運命を紹介していきたい。

1992年に開園したメルヘン村だが、実は2011年にもとの運営会社が倒産してしまった。そこを新肥前観光が引き継ぎ、その後2019年に「忍者村」で知られるマールが買収した。

つまりは、メルヘン村は10年の間に2回の買収劇を経験しているのだ。当時のTwitter(現X)では「メルヘン村は2回死んだ」と話題になっていた。

まさに崖っぷち経営である。

なお、「忍者村」とは九州唯一の忍者体験型テーマパークであり、メルヘン村から車で約10分の場所にある。正式名称は「元祖忍者村 肥前夢街道」。つまりは「忍者村」が「メルヘン村」の親のような存在に当たる。

キャラクターの力で起死回生

2019年の買収で、メルヘン村の経営体制は一新された。

「私も実は忍者村の出身なんです。人手確保のため、学生時代に忍者村でアルバイトをしていた私にも声がかかり、メルヘン村に就職することになりました。売り上げアップはもちろん、ひたすらコスト削減を目指していた時期でした」

少子高齢化が進む今、全国各地の遊園地は集客数が年々減少している。「メルヘン村」もその例にもれず、平日は来客が3~5名のこともあったそうだ。コストをかけずにPRすることは、運営の大課題となった。

就職後の境田さんが取り組んだのは、園の象徴的な存在である「リスをメルヘン村の目玉にする」こと。キャラクターの力で起死回生を図ったのだ。今でこそ「ドン・グリス」の名前で知られる園を代表するキャラクターだが、当時はまだ名前がなかったという。

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このリスを園の目玉にと奮闘。当時は黄色だった(画像提供:メルヘン村)

「まずは、いろいろな日本一を記録認定するサイト『NIPPON-1.NET』に応募して、認定されました。それを祝して、老朽化したボディをピカピカのゴールドに塗り変えました。SNSで名前も公募して、現在のドン・グリスに決まりました」

こうして、1999年に「巨大なリスのオブジェ」として造られ、親しまれてきた存在は、20年の時を経てようやく名前が付けられたのだった。

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現在、ドン・グリスのキャラクターはすっかり浸透して、公式スタンプも販売中。「LINEスタンプはおかげさまで多くの方々にダウンロードいただいております。ありがたく運営に回させていただいてます」と境田さん(公式サイトよりスクリーンショット)

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さらには、『ドン・グリス』のテーマソングが地元出身のミュージシャン・徳久望さんによって制作され、不動の園内BGMとして浸透している。これが一度耳にすると忘れられないメロディで、つい口ずさんでしまうから恐ろしい……。気になった人は「ドン・グリス 曲」で検索を!(筆者撮影)

何気ない一枚の写真がきっかけで……

さらに、境田さんはSNS運営にも着手。Twitter(現X)を中心に、園内の情報やイベントについて積極的に投稿するようになった。

最初の頃はごく一般的な運営を行っていたSNSだが、ホラーテイストな写真やメルヘンな雰囲気とはかけ離れた写真を投稿していたことをきっかけに人気テレビ番組『月曜から夜ふかし』からオファーが来る。それはこんな一枚だ。

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こんな感じの投稿だ。メルヘンなキャラクターと遊具が、夜の闇の中で独特の存在感を見せている。実際の写真は残念ながらデータが残っていないそう(メルヘン村公式Xよりスクリーンショット)

それを見たテレビ番組スタッフから連絡があり、『月曜から夜ふかし』の中で自虐CMをつくることになった。このテレビ出演が、地方の小さな遊園地だった「メルヘン村」を一躍全国的に有名にした。

哀愁と笑いのコンボ

見ていない方が多いと思うので、2020年に『マツコの月曜から夜ふかし』で、どんな自虐CMを公開したのか少し紹介したい。

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滑り台になっているドン・グリスのオブジェ。裏側はこんな感じ(筆者撮影)

例えばこちらのドン・グリスのオブジェ、実は尻尾はすべり台にもなっており遊べるのだ。しかし、実際に滑ってみると傾斜の迫力に対してとてもゆっくり進む。自虐CMでも子どもたちからも「あんまり滑らん」とすぐ飽きられていたが、設置費用はどーんと8000万。

かなりの金額を費やして造られたオブジェだが、それ以前に実はメルヘン村は下水道の設備が導入されておらず、2020年時点でもぼっとん便所だったのだ。令和の時代に……。案の定番組内でも「そのお金で水洗トイレを導入したほうがよかったのでは?」とマツコから突っ込まれていた。

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テントドーム(画像提供:メルヘン村)

また、敷地内にはテントドームがあり、雨の日でも子どもたちが三輪車で遊べるようになっている。ところが砂埃がひどいため、ある日砂利を敷いてみたら三輪車が空回りしてこげなくなってしまったという……。

遊園地の目玉である観覧車も、ギシッというさびめいた駆動音が聞こえてきたり、強風にあおられたりする様子を「独特のスリルと迫力がある」と含みのある表現でアピール。

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観覧車から見た風景(筆者撮影)

ほかにも忍者村に買収されたことによる“大人の事情”や、副支配人・境田さんのサラリーマンとしての悲哀もユーモラスに取り上げており、哀愁と笑いのコンボが絶妙な取り上げられ方をしていた。

番組の反響はどうだったのだろうか?

「番組放送直後(2020年9月放送)の一年間は、放送をご覧になられたお客様が多くいらっしゃいました。特に秋の行楽シーズンの11月のデータで見てみますと、例年約7000名前後だったのがこの年は約1万1000名と、すごかったですね」

前年比約1.6倍とは絶大な影響力である。それ以降は、インターネット記事をはじめ、インフルエンサーやYouTuberの発信の影響で、来園者がいるという。

「最近では仲里依紗さんの番組を観てご来園される方も多いです。他にも、メルヘン村をVR空間で再現いただいたクリエイターさんもいらっしゃって。その方のVR作品を見て、本物のメルヘン村を見たいと関東や北海道など全国各地からわざわざ佐賀までお越しいただいたり」

ネットのバズのいい効果が出た、お手本のような例だ。

一方で筆者のように物心ついた頃からメルヘン村に親しんできた立場としては、悲哀の混じったPRに情緒が乱されそうになる気もするが、いずれにせよ公式SNSが投下した小さな遊び心は、全国放送をきっかけにメルヘン村の新たなブランドとなった。

それに対し「よしきた」と思い切り舵を切ったのが境田さんたちだ。

カオスに振り切ったSNS運営

テレビ出演後、メルヘン村の公式Xは水を得た魚のようにどんどん自由に、さらにカオスになっていく。

平日は園内に客が少なく、その誰もいない様子を撮影した写真に「疎です」などの言葉を添えてSNSに投稿。

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(メルヘン村公式Xよりスクリーンショット)

すると、フォロワーから「疎を体験しに行く」などのリアクションが寄せられる。それに対して、「年内だと疎じゃなくて廃になってるかもちれないよ。だから今すぐ会いに来てホシイナ」などの独特の口調で返答を畳みかける。

ユーモアあふれる投稿や打ち返しが面白く、フォロワーもそれを期待している節がある。

「いろいろなバズらせ方ってあると思うんですけれど、楽しんでいただけることを第一に心掛けています」と境田さん。

こうしたSNS運営の背景には、忍者村で培った精神があるのだという。

「実は、私はもともと忍者村のSNSの大ファンだったんです。はっきりとは覚えていませんが、2010年とか割と早い段階で、忍者村では施設の老朽化や来園者数の少なさを笑いに昇華した発信をしていたんです。いまのメルヘン村での発信も、『夢街道イズム』といいますか、そんな美学がベースになっていると思います」

“親”から“子”へ受け継がれている、お客さんファーストなDNAを感じるからこそ、カオスな中にも味わいが感じられるのかもしれない。

こうしたSNS運営は園全体の方針なのだろうか?

「SNS運営はこの方針でOKが出ています(笑)。ただ、最も大切なことはメルヘン村現地でお客様にお楽しみいただくことなので、『それを心がけてSNS運営しないと一過性で終わってしまうぞ』と、支配人からいつも口を酸っぱくして言われています(汗)」

トイレ事情もエンタメに昇華

先ほど、テレビ出演時の自虐CMでぼっとん便所の現状が取り上げられたと書いたが、実はそれ以降、メルヘン村のトイレ事情に新たな変化が起きていた。

2020年にテレビに出た当時は「ぼっとん便所を水洗トイレ」にすることが当面の悲願だったが、2023年に水洗式トイレへと進化を遂げたのだ。

「メルヘン村はぼっとん便所歴が30年以上でして。もういい加減に現代と足並みを揃えようということで。その際に、ドン・グリスと佐賀県ご当地キャラクターの有明ガタゴロウ君で“完成イベント”をしたんです。約50人ぐらいの方に来ていただいて、園としても盛り上がりました」

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2023年に行われた水洗式トイレ完成イベントの様子(画像提供:メルヘン村)

トイレの改装も一つのイベントにしてしまう力技がすごい。なんと、水洗トイレのテープカットまで行っていた。国内では類を見ないのではないだろうか。筆者はその出来事を新聞で知ったが、その記事に付けられた「さよなら、ぼっとん便所」というタイトルがとてもキャッチーで印象に残っていた。

なお、その新しい水洗トイレはGoogleマップにまで登録されており「メルヘントイレ」という名前になっている。それを境田さんに伝えると「えっ、それは知りませんでした。なんですかそれは」という反応。おそらく客がユーモアで登録したのだろう。評価は堂々の星5つである。

「でも実は……観覧車の近くにあるもう1つのトイレはまだ未工事なので、実はメルヘン村のぼっとん便所歴は更新中で現在33年目になります(笑)」

怖くてカオスが、優しく迎えてくれる

メルヘン村園内を散策すると、スタッフの方々のあいさつが気持ちいい。遊園地ゾーンでは、電力節約のため観覧車など一部の遊具が稼働していないことが多い。そんなときは「すみません」と声を掛けて、電源を入れてもらうのだ。

この日は、女性のスタッフさんから「どちらからですか?」と聞かれ、世間話をしながら観覧車が動き出す様子を間近に見ていた。ギシッというさびめいた駆動音も優しく感じられる(けれどこのあとまぁまぁな強風に揺られて少し怖かった)。

両膝を揃えて、強風の揺れに体をこわばらせながらふと上を見ると、ドン・グリスの顔があった。この場所にせっせと貼り付けているスタッフさんの姿を思うと、なんだかいとおしい。

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自販機の中にもドン・グリスのステッカーが……(筆者撮影)

スタッフの女性にお礼を告げ観覧車を降りると、女性2人組がいた。聞くと、たまたま旅行先でGoogleマップを開いたらここが見つかり、ネット記事の情報を見てやってきたという。

「怖くてカオスって聞いて(笑)。それもあるけど、なんかゆるくて、みんな優しくていい場所! また来たいです」と、いい意味で期待を裏切られた様子。2人が頭にかぶったドン・グリスのバイザーがそれを物語っていた。

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メルヘン村を思いっきり満喫する女性2人組(筆者撮影)

現場とSNS、これからも続いていく、メルヘン村流のとがったおもてなし。現在は、忍者村と、同じ経営である温泉旅館「入船荘」も加えたユーモアあふれるトライアングル戦略も実施中だ。

これからも老舗遊園地は、かめばかむほど味わい深い、そんな魅力を発信し続けてくれるだろう。

【写真を見る】本編で紹介しきれなかった写真も!メルヘン村の中の様子はこんな感じ。