日本橋室町でカラスミチャーハン 『富錦樹台菜香檳(フージンツリー)』(中央区・日本橋)

イラスト:なかむらるみ

東京で見つけた、本場台湾の味を堪能できるレストラン

 東京もド真ん中の日本橋三越前にやってきた。ライオンのブロンズ像が置かれた本店玄関の入り口には、何年か前から昔の呉服店時代を思わせる藍染めのノレンがいい感じで提がっているが、広重の浮世絵にも描かれた呉服屋の越後屋が立っていたのが、いまの三越本店と三井本店の間の道角だ。広重画(駿河町之図)でセンターに富士山が描かれたこの道、いつしか桜が植えられて「江戸桜通り」と名づけられているが、歩いていくとやがて右手に日銀のクラシックな旧館が見えてくる。

日本橋の桜の名所として知られる「江戸桜通り」。

 三越と三井の建物も昭和初めの建築で充分クラシックではあるが、辰野金吾設計の日銀旧館(本店本館)は明治29年(1896年)竣工というから、東京の洋風建築としては最古の部類だろう。そう、三越のライオン像ほどポピュラーではないが、ここの玄関にも2頭のライオンを象った意匠が飾られている。

 日銀の先の常盤橋の堀端には江戸城名残りの石垣が残され、崖上の公園には渋沢栄一の銅像が立っているが、その斜向いあたりの工事現場が三菱地所によるトーチタワーという超々高層ビル(高さ385メートル、62階建)が建設されようとしている場所だ。越後屋前の浮世絵で広重が富士を描いていた方角に当たっている。

 渋沢像といえば、1万円の紙幣から遡って“お金の歴史”をテーマにした「貨幣博物館」という無料のミュージアムが通り過ぎた日銀の向かいのビルにある。久しぶりに立ち寄って、江戸の大判小判から、僕の幼少期の記憶に残るなつかしいお札(お菓子屋のオツリなんかでたまにぐしゃぐしゃのが混じってきた高橋是清の50円札とか)を眺めて、コレド室町の方へ向かった。

東京メトロ半蔵門線・銀座線三越前駅直結の「コレド室町テラス」。「フージンツリー」は2階に入る。

 三越の向かい側の棟(コレド室町1、2、3)には何度か入っていたが、「室町テラス」という別館的な建物が千疋屋の先の神田寄りの一角にあるとは知らなかった。今回めざすのはここの2階フロアーに入った「富錦樹台菜香檳(フージンツリー)」という台湾料理店。店というより“レストラン”の表記が似合うラグジュアリーな雰囲気のところなのだが、ここのランチメニューにある「カラスミチャーハン」を人から勧められたのだ。昼によく行く仕事場近くの定食屋で顔を合わせる、東大先端研を出た台湾人エリート青年のオシだから信頼性もある。

台湾前菜盛り、小菜、台湾揚げ出し豆腐、スープ、台湾産カラスミ炒飯がセットになったランチメニュー「台湾産カラスミ炒飯セット」(2380円)。

 ランチ定食のメニューがいくつか設定されていて、その1つにカラスミチャーハンが入っているのだが、前菜、スープも付いていて2000円を切る値段はこの感じのレストラン(5ケタ数字が並ぶシャンペンのメニューもある)としては安い方だろう。

 ピータンと塩タマゴ、台湾ソーセージとズッキーニなどを組み合わせた前菜も味が良く、目当てにしていたカラスミチャーハンは、なるほど確かにカラスミを使っているな……とすぐにわかるほどふんだんにカラスミ片が入っていて、タラコとはまた違ったオツな風味を出している。皿を運んでくるたびにいろいろと料理説明をしてくれるウエーターを兼ねた副店長の台湾人青年に「こういうカラスミのチャーハンは屋台料理にもあるのか?」と尋ねたところ、カラスミは酒のツマミによく食べるものの、チャーハンはこの店のオリジナル、と見ていいようだ。

「富錦樹豆花」(980円)。豆花とは、おぼろ豆腐のような台湾の伝統的なスイーツ。

 副店長とは別にこの店の広報を担当している大林鈴さんにお話を伺ったところ、「フージンツリー」はもともと台北郊外に開発されたニュータウン(森ビルのヒルズ地区くらいの規模)の名称で、そこの看板レストランとして2012年にオープン、日本1号店としてこのコレド室町テラスの店が開店したのは2019年秋。「すぐにコロナ禍になっちゃいまして」と大林さん、苦笑いする。

 そういう事情もあってか、さほど知られていないが、この2階フロアーは「フージンツリー」ばかりでなく、台北のオシャレ書店&衣料雑貨の「誠品生活」のコーナーが広がり、台湾ウーロン茶の小店なども置かれ、日本橋のなかの台湾街……といった雰囲気になっているのだ。「フージンツリー」のテラス席の向こうには、さっき眺めた日銀休館の1角が眺められる。

◆◆◆

今回訪れたお店

富錦樹台菜香檳(フージンツリー)

住所 東京都中央区日本橋室町3-2-1 COREDO室町テラス 2F

電話 03-6262-5611

営業時間 11:00~22:00(LO21:00)

定休日 無休(施設に準ずる)

※掲載したお店や施設の臨時休業および年末年始・ゴールデンウイーク・お盆休みは営業時間などが変更になる場合がございます。事前にご確認ください。

※2025年8月15日時点での情報です。

※料金は原則的に税込み金額表示です。

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PROFILE

泉麻人コラムニスト

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1956年東京生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、編集者を経てコラムニストとして活動。東京に関する著作を多く著わす。近著に『黄金の1980年代コラム』(三賢社)『夏の迷い子』(中央公論新社)、『大東京23区散歩』(講談社)、『東京 いつもの喫茶店』(平凡社)、『1964 前の東京オリンピックのころを回想してみた。』(三賢社)、『冗談音楽の怪人・三木鶏郎』(新潮新書)、『東京いつもの喫茶店』(平凡社)、『大東京のらりくらりバス遊覧』(東京新聞)などがある。『大東京のらりくらりバス遊覧』の続編単行本が2021年2月下旬、東京新聞より発売された。

なかむらるみイラストレーター

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1980年東京都新宿区生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒。著書に、月刊たくさんのふしぎ『かっこいいピンクをさがしに』(福音館書店)、『おじさん図鑑』(小学館)、『おじさん追跡日記』(文藝春秋)がある。泉さんの本では『東京ふつうの喫茶店』『東京いつもの喫茶店』(平凡社)、『大東京 のらりくらりバス遊覧』『続・大東京 のらりくらりバス遊覧』(東京新聞)などでイラストを担当している。

https://www.tsumamu.net/

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