『イカゲーム』の影で不発連発…日本版”韓流ドラマ”が視聴者を獲得できない「根本的な理由」と、それでも作り続けるテレビ局の思惑
リメイクも共同制作も低調が続く
夏ドラマが中盤に突入し、クライマックスに向けて盛り上がりが期待される中、業界内で「これは厳しい」と噂されているのが韓国絡みの下記2作。
斎藤工主演の『誘拐の日』(テレビ朝日系、火曜21時)は、『シグナル』『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』などを手がけたスタジオ・ASTORYの韓国ドラマリメイク。
清原果耶主演の『初恋DOGs』(TBS系、火曜22時)は、『愛の不時着』『トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜』などを手がけたスタジオドラゴンとの共同制作であり、韓国人俳優のナ・イヌがメインキャストで出演している。
どちらも勝負をかけた力作であることは間違いないが、ここまでは視聴率、評判ともに低調が続き、中盤に入ると話題にあがることすら減ってしまった。
さらに前期の春ドラマを見ても、『梨泰院クラス』『夫婦の世界』『SKYキャッスル~上流階級の妻たち~』などを手がけたスタジオ・SLLとの共同制作オリジナルドラマ『魔物』(テレビ朝日系)を放送。しかし、こちらもさほど話題にならないままひっそりと終了した。
深刻さを感じさせられるのは、これらの作品が原作や韓国ドラマのファンから酷評を受けていること。もちろん楽しんで見ている人もいるが、原作や韓国ドラマのファンによる批判はそれを覆い尽くすほど活発に書き込まれている。
現在Netflixでは『イカゲーム シーズン3』が公開され世界中で話題になっているが、なぜ地上波の韓国系ドラマは受け入れられず、ヒット作になりづらいのか。その背景と問題点を掘り下げていく。

『誘拐の日』公式Xより引用
日韓の価値観と文化の違いが障壁に
韓国ドラマを採り入れることに積極的なのはテレビ朝日とTBS。最近の動きだけを取っても、テレビ朝日は『六本木クラス』『SKYキャッスル』をリメイクし、TBSは韓国人のチェ・ジョンヒョプをダブル主演の1人に据えた『Eye Love You』を手がけたほか、キム・ムジュンを『ブラックペアン2』『キャスター』にキャスティングした。さらにどちらも韓国のドラマ制作会社などと提携して共同制作を進めている。
ただ、リメイクはさほど話題にならないだけでなく、原作ファンから厳しい言葉を浴びせられ、共同制作も韓国ドラマファンからの反応は薄い。また、韓国人俳優が出演してもファン以外からの反響は少なく、再出演を期待する声もあがってこない。
嫌韓の人が多い時期もあったが、近年はそのニュアンスが薄れていたにもかかわらず、なぜこれらの取り組みは不発に終わってしまうのか。
実際のところ、地上波におけるリメイク、共同制作、韓国人俳優の出演には、越えづらい壁のようなものが存在している。
その最たるものは、日韓の価値観と文化の違い。そもそも同じアジアというだけで日本と韓国の価値観と文化は大きく異なり、互いの国にアジャストさせることは難しい。もちろん欧米と比べれば近いのだが、それでも「多くの人々が衣食住のさまざまなシーンで共感できるか、違和感なく受け入れられるか」と言えばかなりあやしく、没入感は得られづらくなる。
韓国人俳優の出演に関しても、日本人視聴者にしてみれば、韓国人と日常生活で関わり合うことは少ない。彼らと恋をし、仕事をするだけで非日常を描いたドラマになり、日韓を行き来するようなシーンも非現実的すぎて感情移入が難しくなってしまう。
地上波では3カ月ごとに30作前後のドラマが放送される中、あえて感情移入がしづらい韓国系ドラマを選ぶ必然性は薄い。少なくとも現在の地上波では「韓国が好き」という前提がなければ越えられない壁があることは間違いないだろう。
作り方の違いが良さを消し、ファンも厳しい
日韓における放送回数と放送時間の違いもヒットにつながりにくい理由の1つだろう。
日本より韓国のほうが放送回数はかなり多く、放送時間はかなり長いため、リメイクすると必ずといっていいほどひずみが出てしまう。さらに韓国のクリエイターが日本のドラマに参加する場合、放送回数の少なさと放送時間の短さに慣れていないため、実力を十分に発揮できないという状況が懸念されている。
加えてリメイクには原作ファン、共同制作のオリジナルには韓国ドラマファンからの厳しい視線が注がれ、納得させられなければ批判がネットにアップされてしまう。実際、制作サイドが彼らを刺激しないような形で無難にまとめた脚本・演出になるケースも少なくない。
リメイクにしても共同制作にしても、リスペクトなのか。それとも様子見の段階なのか。あるいは遠慮し合っているのか。まだ互いの強みを融合させたような作品は見当たらない。
その難しさを裏付けているのが、各作品が放送されている曜日。今夏の『誘拐の日』と『初恋DOGs』は火曜に放送されているが、それ以前の『六本木クラス』と『SKYキャッスル』は木曜、『魔物』は金曜が選ばれていた。いずれも平日が選ばれたことがわかるだろう。

『初恋DOGs』公式Xより引用
民放各局は2010年代前半あたりから平日夜の視聴率獲得に苦戦していて、特に録画や配信で見る人も多いドラマは悩まされてきた。その点、韓国系ドラマは「平日夜にリアルタイムでドラマを見てくれるのは女性層であり、なかでも韓国ドラマ好きの人なら期待できるのではないか」という狙いがある。逆に男性視聴者も多い土日は好き嫌いのはっきり分かれる韓国絡みのドラマはリスクが高く避けられやすい。
しかし、肝心の韓国ドラマ好きは地上波でのリメイクや共同制作に厳しい目を向けているだけに、そのマーケティング感覚は危うさを感じさせられる。それ以前に韓国ドラマ好きはどれくらいいるのか。多かったとしても、本家の韓国ドラマを差し置いて地上波のリメイクや共同制作を選んでもらえるのか。ここまでの結果を踏まえると、その狙いは外れているように見えてしまう。
ヒットせずとも韓国から得られるものが大きい
しかし、テレビ朝日とTBSの取り組みは決して失敗ではなく、未来に向けた貴重な一歩となるのかもしれない。
ここまで手がけてきた地上波における韓国ドラマのリメイクや共同制作のヒットは難しいとしても、それ以外に“得られるもの”が多く、日本テレビやフジテレビに対するアドバンテージになっていくことが推察される。
その“得られるもの”の最たるところは、韓国ドラマの制作ノウハウやシステム、ビジネススキーム、グローバルのプロモーションなどを学べること。なぜ韓国ドラマの脚本・演出・演技は世界各国で評価を得ているのか。どのようにお金を稼ぎ、制作費に回し、ビジネスを成長させているのか。グローバルに売り込む上でどんなことが大切なのか。
なかでも放送収入の減少に悩まされるテレビ局にとってNetflixやディズニープラスなどのグローバルプラットフォームでヒットさせるポイントを学びたいところだろう。ドラマにおけるIPビジネスは民放各局における「起死回生の一手」と言われるだけに、先を行く韓国から得られるものは多いはずだ。
ドラマではなく音楽に目を向けると、韓国人メインのK-POPアーティストはもちろん、日本人に彼らのノウハウを採り入れたNiziU、JO1、INIなどの人気も定着。幅広い人気というより、「推し活」による局地的な熱狂を生み出し、ビジネスを成功させている。
韓国ドラマは放送より配信向きで相性が悪い
一方、民放各局のゴールデン・プライム帯で放送されるドラマは、CM収入の大きさから今なお視聴率獲得が求められるだけに、局地的な熱狂より幅広い人気を得ていかなければならない。その点、リメイク、共同制作、韓国人俳優の出演は、前述した価値観や文化、見た目や言葉などの違いから視聴者を限定しやすく、一部の盛り上がりのみで終わってしまうという状況が続いている。
ドラマも視聴率による放送収入の割合を減らし、海外を含めた配信再生、イベントやグッズの販売、企業コラボなどを含めて幅広く稼ぐことが求められているが、現時点ではそれらを視聴率獲得より優先させることは難しい。だから海外や配信で受ける韓国ドラマを日本国内向けにリメイクしてもうまくいきづらいし、海外や配信で受けるドラマ作りに長けた韓国のスタッフを国内向けのドラマで生かすことも難しいのだろう。
ちなみに今年、韓国ドラマのリメイクでは『私の夫と結婚して』がAmazonプライム・ビデオ、『怪物』がWOWOW、『私は整形美人』がFODで配信・放送されている。また、Netflixではオク・テギョンが磯村勇斗と主演を担う『ソウルメイト』も控えるなど、配信では韓国絡みの作品が増えているのは明白。局地的な熱狂を生み出したい配信との好相性がうかがえる。
「第1次韓流ブーム」と言われる『冬のソナタ』のヨン様フィーバーが発生したのは2004年。それから20年あまりの時を経て日韓のクリエイターが日本で放送される韓国系ドラマの制作に本腰を入れているのは間違いないだろう。ただ、好きな人がお金を払って見る有料配信で一定のヒットこそ見込めるものの、国民的なブームの気配はないように見えてしまう。
その図式は、韓国の音楽、グルメ、美容、コスメなどが若年層女性から支持を集めながら、国民的な広がりを見せないことと似ている。地上波のドラマと韓国系ドラマは相性が悪く、だからこそ業界内で「韓流は通用しない」という声があがりはじめているのかもしれない。

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