ビートたけしさんの兄、北野大さん83歳が語った「母の言葉」とあっぱれ愉快な人生 武内陶子

先日、北野大さんにお目にかかった。ご存じビートたけしさんのお兄さん、マー兄ちゃんだ。83歳。最近はあまりテレビなどにはお出になっていないけれど、今もマー兄ちゃんは現役バリバリ、埼玉の秋草学園短期大学学長でいらっしゃる。お久しぶりにお目にかかったのだが思わず「チャームポイントの笑顔は健在ですね!」とこぼしてしまうほどのビッグスマイルでのご登場に、こちらもすっかり嬉しくなる。
弟の七光りでずいぶんいい思いさせてもらってねえと謙遜なさるが、大さんは大学院を出ていらっしゃるというスマートさとそのおおらかな性格ですっかり人気者になり、マー兄ちゃんとしてドラマに取り上げられたり、いろいろなテレビ番組にお出になったりと、かつては大忙しの日々だった。私もNHK時代に「スタジオパークからこんにちは」という番組でご一緒したことがある。笑顔が素敵なジェントルマンだ。
「弟のたけしは世界の北野でしょ? 悔しいから私は自分のことを足立の北野って言ってるの」と、大さん。生まれも育ちも足立区で今も住む足立区にこだわっておられ、なんと現在勤める埼玉の大学まで電車通勤していらっしゃるのだそうだ。しかも、学校は学長車を用意してくれるというのにそれをわざわざ断って!! 東京の東の端にある足立区から埼玉の西のほうにある所沢まで乗り換え4回、2時間以上かけて職場まで通っていらっしゃるという。「だって、電車のほうが時間が正確でしょ? そして途中考え事や勉強もできる。私はね、動くライブラリーって言ってるの。忙しいからジムなんて行く時間ないけど、歩けば運動にもなるし、遠い遠いって言ってないで、ものは考えようですよね」と、簡単におっしゃるけれど、なかなかできることではない。「遠いなあって思うことないんですか?」って聞くと、飲んだ後がねと(笑)。8時に出ても10時過ぎるからね、と。なんだか会話の一つひとつがチャーミングで、私はすっかり先生との会話に夢中になってしまっていた。

さて、この北野兄弟、育った家が本当に面白いのだが、先生、昔の思い出もたくさん語ってくださった。お父さんの菊次郎さんは徳島の生まれで(おお、私と同じ四国だったのか!と嬉しくなる)、浅草の花川戸で職人をしていらした。お母さんのさきさんは千葉の出身。そしてなんといってもこの、母ちゃんの「さきさん」だ。あと50年遅く生まれていればすごいキャスターになっただろうね、とたけしさんともよく話すのだそうだ。頭の回転が速く、物覚えがよく機転が利いて、近所の人たちからは「はかせ」ってよばれていたんだって。
そのお母さんの言葉を今でも大切にしているという大さん。「ちょっと教えましょうか?」と嬉しそうに語り始めた。
まずは、「実るほどこうべを垂れる稲穂かな」。偉くなるほど謙虚でいろという教えだ。
「自慢高慢バカがする」。さきさんは、バカな奴ほどいばりくさるとおっしゃっていたそう。続いて「一杯の酒に城が傾く」。一杯の酒とは、ただ酒つまり賄賂のこと。城は地位や身分、財産のこと。つまり悪いことはしてはいけないという教えだ。
「上見れば、ほしいほしいの星だらけ。みの着て暮らせ、おのが心に」という言葉も紹介してくださった。上を見れば星、星、ほしいものばかり、しかし贅沢はいけない。心にはいつも蓑を着て暮らせと。明治の人らしい贅沢をいましめる言葉だ。
そして、「若い頃は苦労は買ってでもしろ」ともよく言われたと。「母ちゃん、苦労なんてしないほうがいいじゃないかって言ったらね、母ちゃんは、今はわからないだろうが、おまえにこの言葉を預けておくって言ったんだよね。おまえが私の年になればわかるはずだって。その通りでしたね。だから、若い人にモノを伝える時にはこうして、預けておくっていうのがいいと思うんだよね」と笑っておっしゃる大さん。ほんと、この「預けておく」はとてもいい言葉だ。ずっと心に残り続けるだろうし、自分で考え続けることになるから。さきさん、さすがだなあ。
そしてエピソードは母ちゃんの行動のことに。先生曰く「たけしが、巨泉さんやなんかの悪口言うでしょ? だからね、母ちゃん、盆暮はいつもテレビ局にたくさんの草加せんべいを抱えて、巨泉さんや石坂浩二さんの楽屋を訪ねるんですよ。足立の隣が草加だからね。あれは安くてかさがはって見栄えがするからいいんですよ。私はいつも母ちゃんのお付きでせんべい持つ係だったんだよね」
ということで、いつも番組(MCを務める動画配信サービス学研TV「人生100年!大人カフェ」)ゲストの「お気に入りのおやつ」を食べるコーナーがあるのだが、先生は「草加のしょうゆせんべい」をお持ちくださった。と、見る間に袋を破き、お行儀悪いけどとおっしゃりながらバリバリとおせんべいを噛み砕く先生。す、す、すごい。丈夫な歯!!と思ったら、虫歯を治療したのはあるけれど、83歳で全部自分の歯なのだそう。素晴らしい。かわらぬマー兄ちゃんのビッグスマイルはきっとこの歯のおかげですね。おいしいおせんべい、ごちそうさまでした。
北野学長の部屋はいつも開けっぱなし。若い人たちが入りやすいようにしているのだそうだ。そして誰が入ってきても必ず立ち上がり、決して座って偉そうにはなさらないのがポリシーだそうだ。これは「意識して」そうしていらっしゃるのだそう。自分が若かった頃、上を見ていた目を常に思い出し、どうやったら若者たちの話を聞き、育ててやれるかということに心を砕いていらっしゃる。そして、そんな先生が何より嬉しいのは「ありがとう」と感謝されることだと話す。人生100年時代、元気なうちは努力して「ありがとう」と言われたいと。
おごることなく常に謙虚、ユーモアたっぷりに人生を語り、あっぱれ愉快。まさに実るほどこうべを垂れる稲穂でありつづける北野先生に、たくさんのことを教えていただいた。
最後に、83歳の先生が私のゲストブックに書いてくださった言葉をみなさんに。
「我らに燃ゆる希望あり。北野大」

私たちは20年後にまた会う約束をして、別れたのであった。