映画「チェンソーマン」は「鬼滅」「呪術」に続けるか

9月19日公開の劇場版『チェンソーマン レゼ篇』。いち早く本作を見た筆者が、ネタバレを避けながらレビューする。写真は主人公・デンジの上司であるマキマ(C) 2025 MAPPA/チェンソーマンプロジェクト (C)藤本タツキ/集英社
チェンソーで悪魔をなぎ倒す“どぎつい戦闘シーン”がてんこ盛りの『チェンソーマン』。コアファン向けタイトルかと思いきや、2022年のテレビアニメ第1期は放送前から話題を集め、オンエア後にはその物語も映像演出も絶賛され、一般層に広く訴求した。
【画像11枚】劇場版『チェンソーマン レゼ篇』。圧巻の映像美を誇る本作の雰囲気はこんな感じ!
原作は、『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』とならぶ『少年ジャンプ』(集英社)発の戦闘アクション系漫画。アニメ放送第1期で人気を得て、続編となる初の劇場版『チェンソーマン レゼ篇』が9月19日から公開される。
『鬼滅の刃』『呪術廻戦』ともに劇場版は興収100億円を超えるスーパーヒットシリーズになっている。『チェンソーマン』はそれに続く100億円シリーズとなるのか。劇場版『チェンソーマン レゼ篇』の可能性を探る。
父の借金を返すために働く16歳の少年が…
『チェンソーマン』は、チェンソーの悪魔と契約しチェンソーマンとなった武器人間であり、公安対魔特異4課のデビルハンターである主人公のデンジ(16歳)が、治安維持のために凶悪な悪魔や魔人たちを退治していく物語。
もともとデンジは父の借金を返すために悪魔を駆除するデビルハンターとして働いていたが、ある日ヤクザに騙され、悪魔に殺害される。そのときに「チェンソーの悪魔」が彼の心臓になり、チェンソーマンとなってよみがえる。その後、公安対魔特異4課にスカウトされ、生活を管理されるようになる。

主人公のデンジが凶悪な悪魔や魔人たちを退治していく© 2025 M/CSMP ©TF/S
デンジはふだんはもとの人間の姿だが、胸のスターターグリップを引くと、エンジン音を唸らせて電動鋸の歯が頭と両腕に現れ、チェンソーの悪魔と契約した武器人間・チェンソーマンに変身する。
人間界に存在する悪魔をチェンソーで駆除していく彼の戦いっぷりは、まるでスプラッター映画を観ているかのよう。王道のヒーローとは正反対の、過激な描写連発の衝撃的なシーンが特徴になるダークヒーローの物語だ。

デンジ© 2025 M/CSMP ©TF/S
22年のテレビアニメ化でファン層を広げた
原作は、劇場アニメ『ルックバック』のヒットも記憶に新しい、鬼才漫画家・藤本タツキ氏の同名漫画。
2019〜2021年まで『週刊少年ジャンプ』で第1部「公安編」が連載され、2022年7月から第2部「学園編」が『少年ジャンプ+』で連載中。既刊22巻(2025年9月現在)、シリーズ累計発行部数は3000万部を突破している。
もともとコアファンの下地があったなか、2022年10月期にテレビアニメ第1期が放送されると、一気にファン層が広がり、『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』とならぶ人気タイトルになった。

レゼ(左)と主人公のデンジ© 2025 M/CSMP ©TF/S
テレビアニメ第1期では原作1〜5巻の途中までが描かれ、最終話のラストでは、その後の予告的なシーンが入って終わった。そこに映されたのが少女・レゼ。アニメ第2期への期待が高まっていたなか、劇場版『チェンソーマン レゼ篇』として映画館で上映されることが発表されていた。
シリーズ初の劇場版であり、物語的にはテレビアニメ第1期の続編新作となる本作は、待ちかねていたファンの注目が高まるとともに、新たな『少年ジャンプ』発の大ヒットシリーズ誕生への興行関係者からの熱い期待が集まっている。
デンジとレゼの淡く甘酸っぱい出会い
原作の『チェンソーマン』は、さまざまな力を持つ異様な形態の悪魔や魔人たちと対峙する、公安対魔特異4課のデンジを含めたデビルハンターの面々との戦闘アクションが見どころであり、物語のメインになる。
そこには、スプラッター的などぎついシーンがてんこ盛り。読者を選びそうだが、意外にも若い世代の女性を含めた幅広い層に人気がある。その理由のひとつがわかるのがレゼ篇だ。
本作の前半で描かれるのは、デンジとレゼの淡く甘酸っぱい出会いの物語。生まれ育った境遇から、学校教育を受けず16歳でデビルハンターになり、公安に管理されるまま悪魔と闘うデンジには、人生への希望も哲学もなく、女性経験もない。公安対魔特異4課の上司であり、デンジをスカウトしたマキマに惚れながら、刹那的な生き方をしていた。

レゼ© 2025 M/CSMP ©TF/S
そんな生活のなか、明るくいつも笑顔の不思議な少女・レゼに出会う。彼女と会う時間が増えていくデンジは、過去から現在の自身を振り返り、これまでにはなかった人生への葛藤と疑問を抱くようになる。
ふたりが会うシーンの映像は特徴的だ。喫茶店でも街中でも夜中の学校でも、世界が色鮮やかになる。ふたりの気持ちが近づいたお祭りでは、背後で大きな花火が打ち上がり、それぞれの顔のアップに重なる。同時に、縁日の出店で女の子がりんご飴を落とす。美しく印象的な映像が続く。

デンジとレゼが会うシーンの映像は特徴的だ© 2025 M/CSMP ©TF/S
映画館で見るべき規格外の映像描写
そして、あるシーンから転調する。それまでの世界がひっくり返る。
そこからは圧巻だ。温度感が180度変わったスクリーンでは、怒涛のような戦闘アクションが繰り広げられる。それは、テレビアニメ第1期でもあった悪魔とデビルハンターの死闘ではあるのだが、そのスケール感が異なる。まるでアベンジャーズのスーパーヒーローと地球侵略を目論む宇宙人が街を破壊しながら闘う、ド派手で激しい戦闘をイメージさせる。
そのスピードと迫力に圧倒され、実写のような臨場感の映像クオリティに驚かされる。激烈な戦闘アクションの連続。そのインパクトに打ちのめされるようだった。

戦闘シーンが圧巻だった© 2025 M/CSMP ©TF/S
観客の誰もが映画館で見てよかったと心から感じるに違いない。それほどのアクションシーンであり、まさに規格外のスケール。戦闘シーンだけでも映画館で見る価値がある。
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』の無限城の戦闘シーンの映像美が注目されたばかりだが、本作もまったく負けていない。公開後にはきっとさまざまな話題が沸き起こるに違いない。
本作で感じさせられたのは、『チェンソーマン』は映画館で見るべき作品ということ。映画というメディアでこそ真価が発揮されるタイトルになるだろう。

早川アキ© 2025 M/CSMP ©TF/S
映画はPG-12でも残酷なシーンは健在
もちろんスプラッター作品の本シリーズらしい鳥肌が立つような残酷なシーンもある。基本的に悪魔たちは情け容赦なく無慈悲であり、本作でも目を背けたくなる場面が多々ある。
ただ、直接的な映像描写ではない。本作の映倫レーティングは、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』と同じくPG-12(年齢に関係なく鑑賞でき、12歳未満は保護者の助言・指導が必要)。
間接的な描写や音響表現を駆使しながら、そこで起こったことを観客に想像させて心に刻みつける。そこには不思議と、残酷なシーンを見せられる以上の怖さや恐ろしさがある。デンジがズタボロにされるシーンの印象的な音響には、とてつもない恐怖があった。
そんな本作のおもしろさはギャップだ。デンジとレゼのセンチメンタルな物語から激烈な戦闘シーンがあり、ラストは再び儚く切ないエモーショナルなストーリーに引き戻される。そこに映されるのは、それまでの戦闘バトルの興奮とは打って変わる、胸が締め付けられるような叙情的なラストだ。
レゼの生い立ちには、彼女がそうなるべくしてなった理由がある。しかし、封じ込められた心の奥底には、ひとりの少女のいまにもくずれそうなもろい感情がわずかにでも存在していた。
本作のエンディングは、『チェンソーマン』らしいエピソードの終わらせ方と言えるかもしれない。センチメンタルな流れに戻ったラストは、エンドロールの最後まで途切れずに話が続く。強烈な余韻に浸りながら、客電がつくまで席に残っていれば、感じるものがあるはず。そこまでが物語になる。
激烈な戦闘シーンとセンチメンタルな物語がひとつの作品のなかで混在し、その世界観が交錯することで観客の感情を激しく揺さぶる本作。従来のファンはもちろん、異様なチェンソーマンのビジュアルから怖いもの見たさで入った一見さんの心をしっかりとつかんでしまう物語と映像の力がある。
デンジとマキマの“デートシーン”から感じること
もうひとつ言及したいのは、本作には映画へのメッセージが埋め込まれていること。
前半、レゼと出会う前のデンジは、かつて「1本の映画に人生を変えられた」というマキマと、丸1日かけて映画4〜5本を鑑賞し、その都度作品を語るデートをする。

デンジとマキマ© 2025 M/CSMP ©TF/S
混み合うシネコンで大作映画をいくつも見るが、お互いにありきたりな感想しかない。そして、何本も映画を見たその日の最後に、単館系映画館のガラガラのスクリーンで、人生を淡々と描くような外国の小規模な映画を見る。鑑賞後ふたりで涙し、その映画に出会えたことで1日に満足する。
本編ストーリーとは直接関係のないエピソードだが、そこには昨今の商業大作至上主義の映画製作・配給会社やシネコン、世の中的な話題作ばかりをもてはやすメディアや世間への問いかけがある。
それは、『ルックバック』で漫画を描き続けることの意義を唱えた原作者・藤本タツキ氏の映画というメディアへの愛であり、未来への願いを込めたメッセージなのかもしれない。
本作にはそんな階層の深さがある。観客それぞれに気づきやおもしろさがあるはず。ただおもしろいだけのアニメ作品とは一線を画する奥行きのある仕上がりになっている。
興収100億円台も夢ではない?
そして、上映時間が99分と見やすいことも付け加えておく。その尺でも、体感は155分の『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』と変わらない。十分な見応えと充足感があり、それは上映時間の長さにはよらないことを改めて感じさせられる。
では、本作はどこまでのヒットになるか。大きな目標は劇場版『呪術廻戦 0』(138億円)であり、100億円の大台だろう。難しいかもしれないが、そのポテンシャルは十分ある作品だ。ここ最近の映画館ブームの流れが追い風になれば、夢ではないだろう。

天使の悪魔© 2025 M/CSMP ©TF/S
劇場版こそシリーズの真骨頂となるのではないか
『チェンソーマン』は、原作の既刊22巻のうち、テレビアニメ第1期で1〜5巻まで描かれ、本作で5巻後半から6巻がアニメ化された。連載は現在も続いており、アニメ化はまだ原作全体の3分の1にも達していない。
この先の楽しみはまだまだ続くわけだが、本作を見た後で思うのは、願わくば残りすべてを劇場版にして、映画館で上映してほしいということ。それほど本作の映像クオリティの高さは飛び抜けており、物語としても映画メディアとの親和性の高さを痛感させられる。
まさに映画で映えるタイトルであり、映画でこそファンを最大限喜ばせ、楽しませることができる。劇場版こそシリーズの真骨頂となるのではないだろうか。
『鬼滅の刃』はテレビアニメと劇場版(テレビアニメ再編集版を含む)が交互に続き、ラストは劇場版3部作になる。『チェンソーマン』がどうなるかはこれからだが、テレビアニメを入れつつも、映像化の流れのメインが劇場版になることを願わずにはいられない。