YouTubeデビューの「いいね」は4人だけ。「たくおん」が動画再生回数1億回を超えるまで

クラシック系YouTube番組チャンネル「TAKU-音 TV たくおん(以下「たくおんTV」)」をご存じだろうか。これは音楽の都と呼ばれるウィーン在住のピアニスト、石井琢磨さんが開設しているYouTube番組のこと。現在、再生回数は1億を超え、登録者数は32万人以上に上るほどの人気を博している。クラシック音楽というジャンルにおいては異例の数字だろう。なぜこんなにも多くの人たちから支持を得ているのだろうか。

石井琢磨(たくおん)

1989年、徳島県鳴門市生まれ、名古屋育ち、ウィーン在住のピアニスト。東京藝術大学音楽学部器楽科ピアノ専攻を経てウィーン国立音楽大学ピアノ科に入学、同大学ピアノ科修士課程を満場一致の最優秀で卒業。2016年ジョルジュ・エネスク国際コンクールにてピアノ部門第2位受章。国内外で演奏活動を行う他、2000年にYouTubeにて「TAKU-音 TV たくおん」チャンネルを開設。現在、総再生回数は1億回以上、登録者数も32万人を超えている。

今回は6月に上梓した『これが規格外の楽しみ方! たくおん式なるほどクラシック』の刊行を記念し、「たくおんTV」開設のきっかけや幼少期の話、新刊についてを伺った。まずは人気YouTube番組チャンネル「たくおんTV」について。本来なら演奏家であれば、誰もが音楽は生で聞いてほしいと願うものだろう。なのになぜ、石井さんはYouTube番組チャンネル「たくおんTV」を始めたのだろう。

極限状態の中で

きっかけは2020年だったという。そう、コロナが蔓延し世界中が不安定だったあの時期だ。

「世界各国で、あらゆる場所が閉鎖されるニュースが毎日のように流れていました。僕が暮らすウィーンでも強烈なロックダウンがあったんです。外出すると日本円にして約25万円という罰金も課せられたんですよ。しかも1日に外出できるのはわずか1時間。その間にスーパーへ食材を買いに行くのですが、入店制限はあるし、入れても陳列棚はからっぽという状況が1週間以上も続きました。当然、決まっていたコンサートも軒並みキャンセルに。僕も精神的に不安定になっていました。

ウィーンの日常にて。写真提供/石井琢磨さん

でも、これからも演奏家でいたいなら、立ち止まっていてはいけないと思い直しました。今の環境でできることは何だろうと考えた際に、YouTube配信を思いついたんです。始めはクラシック音楽の演奏家としてあるべき姿なのかと葛藤もありました。でもコンサートがなくなり、外にさえ出られない極限状態では、これしかなかったんです。わらにもすがる思いでYouTubeを始めたというのが、正直なところです。でも今となっては、沢山の人にクラシック音楽の魅力を伝えられていると実感しているので、始めてよかったと思っています。ロックダウンは運命だったのかもしれませんね」(石井さん、以下同)

初回配信は「4いいね!」…

一念発起して「たくおんTV」を開設した石井さん。しかし記念すべき1回目は「4いいね!」だったという。それでも諦めずに更新し続けた。

「“4”という数字だけを見ると、少ないなと感じる方が多いかもしれませんね。でも僕はそう思いませんでした。もしこれがサロンコンサートなら、来場者の4人が“よかったわ”と言いに来てくれたのと同じだと思ったんです。そう考えるとすごいことですよ。次もこの4人に向けて配信しようという気持ちになりました。

「たくおんTV」1回目。動画は三脚を立ててスマホで撮影した/YouTube「たくおんTV」より

クラシック音楽は、サロンコンサートで30人も入ったら割とすごいことなんです。演奏家の数字の1に対する価値観は、みなさんよりも重いのかもしれません」

その後、フォロワー数はどのように増えていったのだろうか。

「フォロワー数は地道に増えていきました。1000人に達したのは始めてから約11ヶ月後で54本目の動画でした。YouTubeは1000人を超えると収益化されるため、はっきりと覚えています」

演奏の場を失ったことがきっかけでYouTube番組を開設。チャンネル登録者数がすぐに増えなくても、諦めることなく配信を続けてきた石井さん。演奏家である自身のプライドを守るために、そして誰もが塞ぎ込んでいるあのタイミングで、クラシック音楽を多くの人の心に届け、癒したいという祈りも込められていたのではないだろうか。

後編「「ちょっと生きてみようと思います」ピアニストYouTuberたくおんが思わず泣いた「視聴者からの言葉」」では「たくおんTV」が動画再生回数1億を超えるほどの人気番組になった理由に迫る。