陸上自衛隊が「新たなステージ」へ…第2特科団がオーストラリアで「12式地対艦誘導弾」を実弾訓練!

ミサイル発射の瞬間。ミサイル本体が目標に対し電波を照射しながら自身を誘導して、命中するまで追いかける
19ヵ国から3万5000人が参加
南西島嶼部を守る″射程1000km″の「初の国産巡航ミサイル」へ
太陽が昇り始め、周囲を明るく照らしだした早朝6時すぎ。海に面した丘の上にまるで重機のような大型車両がポツンと置かれており、荷台部分に積まれた巨大な筒が大空に向けて起立していた。
と、車両の周囲で小銃を構えていた自衛隊員数名が一斉に丘を下り、姿を消す。あたりが静寂に包まれて約30分が経過した朝7時ちょうど、轟音とともに荷台の筒から激しい炎を吹き出しながらミサイルが飛び出し、あっと言う間に空の彼方へ(1枚目写真)。
数秒後に2発目が発射された後、しばらくしてワッと歓声があがった。拍手も聞こえる。陸上自衛隊が新たなステージへと足を踏み入れた瞬間だった――。
7月半ばから23日間にわたり、オーストラリア全域で行われた米豪主催の多国間軍事演習「タリスマンセーバー25」。
2年ごとに開催され、11回目を数えるが、今回は中国の海軍力増強および南シナ海や東シナ海への進出を危惧するフィリピン、タイ、インド、インドネシアなど19ヵ国、計3万5000人が参加。過去最大規模での開催となった。
日本は’15年から参加。今年も「日本版海兵隊」と呼ばれる水陸機動団が米海兵隊やオーストラリア陸軍とともに上陸訓練といった一連の野戦を繰り広げたのだが、「タリスマンセーバー25」参加のもうひとつの大きな目的が、冒頭のミサイル発射訓練だった。
実施にあたったのは’24年3月に発足した「第2特科団」だ。日本の安全保障上最も重要な九州・沖縄エリアを担当する部隊で、今回発射したのは第2特科団にのみ配備されている「12式地対艦誘導弾」だ。陸上から海上の敵艦艇を攻撃するミサイルで最大射程は200kmと言われている。
日本の領海へ侵入してきた中国海軍艦艇を迎撃し、南西島嶼部に点在する離島を守る防衛上極めて重要なミサイルなのだが、国内では海域及び空域の安全が確保できないため、射撃ができない。そこで「タリスマンセーバー」の枠組みで、豪陸軍の演習場を借りて射撃を行うこととなったのだ。
標的は小型のヨット状の船舶。
発射場所となった件の丘から十数㎞離れた海上へと曳航されたヨットを、オーストラリア軍と連携しながら捜索。発見次第、位置情報を地上部隊に送って12式地対艦誘導弾で破壊するという、実戦的な内容であった。第2特科団長の伊藤久史陸将補は筆者に「陸上自衛隊にとって画期的な訓練だった」と語った。
「今回、ミサイル2発を発射して、異なる方向から同時に命中させる異軸同時弾着に初めて挑みました。ただ弾着させるだけではなく、敵艦に対し妨害電波を仕掛けました。こちらも初の試みです。
日本では実電波を飛ばす訓練を総務省が許可していません。オーストラリアだからこそできた訓練でした」
この「画期的な訓練」を経て、日本のミサイル防衛戦略は加速する。
12式地対艦誘導弾のさまざまな訓練、検証の先にあるのが日本初となる国産巡航ミサイルだからだ。現在、12式地対艦誘導弾をベースとした射程1000kmの「12式地対艦誘導弾能力向上型」が開発中で、来年度には第2特科団へ配備される計画となっている。
これまでは島嶼部沿岸へと近づく敵を対象としていたが、12式地対艦誘導弾能力向上型は敵艦のミサイルの射程圏外からの攻撃が可能。そもそも「近づかせない」防衛戦略へと変わるのだ。最終的には射程を1500kmまで延伸すべく、今後も研究開発は継続される。
東西冷戦時代よりも深刻と言われる厳しい安全保障環境に置かれている日本。
先制攻撃が可能な国産巡航ミサイルの配備は隣国を刺激しかねないが、日々、中国やロシアの海軍艦艇および空軍機の接近・威嚇を受け、1ヵ月に百回を超える出動を余儀なくされている現状を鑑みれば、背に腹は代えられないのである。

いつでも発射可能な姿勢で待機する12式地対艦誘導弾。九州・沖縄エリアのみに配備されている

ミサイルの搭載作業。クレーンで持ち上げられた筒の中に1発ずつミサイルを収容。最大で6発、搭載可能

12式地対艦誘導弾は三菱重工業が製造。移動式発射台として8輪の重装輪車両が使われており機動力は高い

ミサイルの発射場所付近で警戒にあたる第2特科団の隊員。今後は日本初の巡航ミサイル部隊となる計画だ
『FRIDAY』2025年9月12・19日合併号より
取材・文・PHOTO:菊池 雅之