60歳を過ぎたら意識すべき「正しい脳の使い方」 「新しいことへの挑戦」ばかりでは裏目に出る

60歳を超えて無理をしないことは、脳の立場から見ても正しいという(写真:Fast&Slow/PIXTA)
無理をすると「脳の老化」は早まる
新しいことにチャレンジする。大切なことですが、気を付けたいことがあります。それは「無理をしない」ことです。
【図表】ちょっとしたことで効果的な「脳にいい習慣」の例
「若い頃は無理が利いたのに、60歳を超えて無理ができなくなった。ちょっと無理をするとすぐ体調が悪くなる」
先日、60代の知人がそんなことを言っていました。若い頃のように、もっといろいろ頑張りたい気持ちはあるそうなのですが、体が言うことを聞いてくれないことにストレスを感じることもあるそうです。
でも、60歳を超えて無理をしないことは脳の立場から見ても正しい行為です。「無理」が脳の老化を早めるからです。無理をすると脳はストレスを感じ、そのストレスが脳の老化を速めてしまいます。
ただ、無理はいけないからと、怠けすぎたり、ダラダラとラクばかりするのも脳にはマイナスです。
「中庸」という考えがあります。中庸とはバランスがとれた、一番エネルギーが高い状態です。このバランスが崩れると病気になったりメンタルがやられたりするそうです。
実はイライラしているときの高齢者の脳もバランスが崩れていることがわかっています。イライラしているときの脳は、左脳ばかりが動いている状態です。この偏りは、脳に負荷がかかります。左脳と右脳のバランスがとれた状態がいいのです。
脳のバランスだけでなく、体のバランスが崩れることも、脳を老化させる原因になります。たとえば、足を組むのもよくありません。
足を組むと、座っているときに背中にずれが生じます。そのずれから骨格が崩れていきます。左右どちらかに体が傾いていると、脳はバランスをとろうとして調整をかけています。脳も動いているのです。この調整をしていることも脳のストレスになります。
足元からも老人脳になっていくのです。いくつになっても脳が老化しない人、若々しい人はみな姿勢がいい人が多いですよね。
話がずれたので、「無理をしないこと」に戻します。
私の研究テーマのひとつに「成功者の脳」があります。成功者に共通するのはどんなことなのかを調べているのですが、成功するために必要なことのひとつに「無理をしないこと」があります。
意外に思うかもしれません。成功した人は無理をしたことで成功を手に入れたと思うかもしれませんが、実は「無理をしない」ことが大切だったのです。
無理をして「自分の身の丈」を越えることをしている人は、一時的な成功はあっても成功し続けることは困難です。自分の得意な領域で、無理をしないで事業をしていくことが、長い間うまくいく秘訣だったのです。
脳をダメージから守ってくれる「休め遺伝子」
「長寿遺伝子」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 寿命や老化などをコントロールする遺伝子のことです。
最近、この長寿遺伝子ですごい発見がなされました。「レスト遺伝子」というものが発見されたのです。
私はこれを「休め(レスト)遺伝子」と呼んでいます(レスト遺伝子の「レスト」の意味は本来全く違う意味になります)。これの何がすごいかというと、休め遺伝子が脳をダメージから守ってくれる存在だったのです。
2019年、ハーバード大学の研究チームが、脳バンクに提供された高齢者の脳を調べたところ、100歳以上の人の脳には70〜80歳で亡くなった人よりも、「レスト」という遺伝子がたくさん発現していました。
休め遺伝子は脳活動の過剰な活性化を抑える役割があって、体全体の活動をゆるやかにして負担をかけないことで、脳の寿命を伸ばす効果が世界的に注目されています。
私も、脳を活性化するために新しいことに挑戦したり、新しい人間関係をつくることをすすめてはいますが、「やりすぎ」は禁物です。脳の活性化は大切なのですが、「過剰な活性化」は抑えなければなりません。
中高年になっても若いときと同じようにアクティブに活動をしていると細胞が傷つきやすくなります。若いときと同じように行動することは細胞の観点から見るとNGです。
でも、一度習慣化してしまうと人はなかなか変えられません。ついついアクティブになりすぎたり、無理をしてしまいます。そこにブレーキをかけるのが休め遺伝子です。
脳は「休養」と「挑戦」のバランスが重要
中高年になると、若いときのような情熱、やる気が薄れてくることがありますが、これは自分に無理をさせないための防御機能でもあります。ですから「最近、昔ほど何かに熱くなれない」「モチベーションが落ちた」というのは、何も悪いことだけではないのです。
むしろ、自分の脳と体を守るために必要なことでもあるのです。その代わりに冷静さが生まれてきます。
昔バリバリ仕事で活躍した人が、いざ情熱ややる気が薄れてくると「自分はどうしてしまったんだろうか?」「昔の自分を取り戻したい」と悩む人もいますが、これは加齢とともに起きる現象で、ある程度はしょうがないものです。
「情熱ややる気が薄れるのは自分のせいではなく遺伝子のせい」そのくらいに思っておくほうがいいかもしれません。実際にこの休め遺伝子は、脳の老化を抑えてアルツハイマー型認知症を予防してくれます。
考えてみてください。60歳になっても、70歳になっても、昔のような活動をしていたら、体はボロボロになります。生命を守るためにも必要なことなのです。
情熱ややる気が落ちてくることは、休め遺伝子が正常に働いている裏返しでもあります。ですから、これまでとは視点を逆転させて、「冷静さ」を強みにするくらいの感覚を持つのがいいと思います。
レスト遺伝子はじめ長寿遺伝子の役目のひとつは、ざっくり言うと「自分を大切にすること」です。
くり返しますが、私も一方では「新しいことに挑戦すること」が大切だと説いていますので、「それだと矛盾してないか?」と思うかもしれません。そうです。これが脳の面白いところで、どちらかに偏ってしまうのがNGなのです。大切なのはバランスです。
挑戦したり、生きがいを持ったりすることは大切ですが、やりすぎないこと。自分を甘やかすことも大切ですが、甘やかしすぎは逆効果です。先にも書いた「中庸」が大切になります。
毎日の中でできる「脳にいい暮らし方」
話はちょっと変わりますが、私には、「毎日ひとつ、何か新しいことをする」と決めている知人がいます。この人は、ほんのちょっとのことでもいいので、いままでやっていなかったことをやると自分に課していて、それが習慣化されているそうです。
たとえば、コンビニで買ったことがないお菓子を買う、家の近所でも通ったことがない道を通ってみる、見たことがないテレビ番組を見てみる、レストランでなかなか頼むことがないメニューを注文してみる……。なんでもいいそうです。
その話を聞いて、この人は「脳にいい暮らし方」を知っているなと思いました。
新しいことをすることは、脳にいい効果を及ぼしますが、それを習慣化することが簡単ではない人もいるようです。そういう人の話を聞いていると、「新しいこと」というのをちょっと大げさに考えすぎてしまっていることがあります。
この知人のように、「ちょっとしたこと」で十分です。それだけで、脳は変化します。たとえば、散歩や通勤で歩いている人であれば、その道を毎日変えてみる。図書館に行く、書店に行くという習慣をつけることも脳にいい行為です。実は、読書の習慣がある人ほど健康寿命が長くなるという研究報告もあります。
「新しいこと」は、行動を変えるだけでなく、環境を変えることでもOKです。花やグリーンを部屋に飾ってみる、部屋の模様替えをする、寝る部屋を変えてみる、枕の位置を逆にしてみる……ちょっとしたことでいいので、ぜひ実践してみてください。

(出所:『増量版 80歳でも脳が老化しない人がやっていること』より)
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