【あんぱん】アンパンマン誕生秘話。一言のセリフもなく目の力と背中で表現する北村匠海の演技が見事だ!

映画『千夜一夜物語』は大ヒットを記録, 「かっこよくなっても、強くなっても、いけないんです」, 「真のヒーローは……」, 「アンパンマン」がついに登場した

「あんぱん」120回より(C)NHK

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。漫画家のやなせたかしさんと妻の小松暢さんをモデルに、激動の時代を生き抜く夫婦の姿を描く物語「あんぱん」で、より深く、朝ドラの世界へ!

※ネタバレにご注意ください

映画『千夜一夜物語』は大ヒットを記録

NHK連続テレビ小説『あんぱん』第24週のサブタイトルは『あんぱんまん誕生』。ほとんどの視聴者が織り込み済みで見ていることと思うが、このドラマは国民的作品『アンパンマン』の原作者・やなせたかしとその妻・小松暢をモデルとしたものである。

いつアンパンマンが登場するのか気になり続けてきた視聴者も少なくないだろう。その原型ともいうべき、おなかをすかせた人にパンを届けてあげる〝太ったおんちゃん(アンパンマン)〟はすでに登場しているが、持ち込み先の出版社などには認められず、「アンパンマン」はいまだ命を吹き込まれていない状態だ。

手嶌治虫(眞栄田郷敦)からの依頼を受け嵩(北村匠海)がキャラクターデザイン、美術監督をつとめた映画『千夜一夜物語』は大ヒットを記録した。

「あなたのキャラクターを生み出す能力は、これまで見たどの漫画家たちよりも秀でている」と、手嶌は嵩の才能を絶賛する。これは、テレビアニメとなった『それいけ!アンパンマン』に登場したキャラクターが2009年3月の時点で1768体を記録しギネス認定されたやなせたかしがなし得た偉業を予言するかのようでもあった。

映画『千夜一夜物語』は大ヒットを記録, 「かっこよくなっても、強くなっても、いけないんです」, 「真のヒーローは……」, 「アンパンマン」がついに登場した

「あんぱん」116回より(C)NHK

映画のヒットという流れにのって、嵩の担当編集者(平井珠生)もなんでも好きに書いてくれと依頼する。この風にのって、

「あれをお願いしてみたら?」

と、のぶ(今田美桜)はすかさず持ちかける。

あれとはもちろん〝太ったおんちゃん〟のことだ。作品に目を通した編集者も「できれば少し減量できませんか?」とおそるおそる本音を口にするが、

「できません! 個性ですから」

と、のぶは自信たっぷり、きっぱりと断る。

のぶのプッシュもあってか、『アンパンマン』はついに雑誌に掲載された。しかし、この〝太ったおんちゃん〟のヒーローは、のぶ以外にはなかなか理解されず、家族たちにすらもうちょっとかっこいいものにできなかったのかと言われてしまう始末だ。

映画『千夜一夜物語』は大ヒットを記録, 「かっこよくなっても、強くなっても、いけないんです」, 「真のヒーローは……」, 「アンパンマン」がついに登場した

「あんぱん」第117回より(C)NHK

「かっこよくなっても、強くなっても、いけないんです」

幼いころに「はちきん」と呼ばれた活発な女性だったのぶは、悪いやつをこらしめるのが正しいと思っていたという。しかし、それは相手に恨みを残すだけで、本当の正義ではないのかもしれないということを、〝太ったおんちゃん〟に気付かされたのだと。

本作で序盤からずっと掲げられてきたテーマは「逆転しない正義」というものだ。正義とは、その視点や立場によって真逆のものになりうるものだということをさまざまな局面で実感してきた。のぶがアンパンマンに抱く気持ちはまさにそれである。

しかし、雑誌に掲載された「アンパンマン」は、結果として大きな人気を獲得することができなかった。どうして人気が出ないのかと八木(妻夫木聡)らも考えるが、

「うまくいえないんですけど、かっこよくなっても、強くなっても、いけないんです」

と、嵩は相変わらず気弱な雰囲気を漂わせながらも強く主張する。嵩の思い、逆転しない正義は伝わるのだろうか。

「真のヒーローは……」

そんなある日、嵩とのぶの家を訪れたのが、かつての「高知新報」の編集長、東海林(津田健次郎)だった。東海林は感慨深げに、「俺はあのころから、あいつ(嵩)のずば抜けた才能、買うちょったぞ」と、嵩の活躍を自分の手柄のように嬉しそうに語る。そんな東海林も、ひとつだけ腑に落ちない作品があるという。それが「アンパンマン」だ。

「あのおんちゃんはどういて、悪者を倒さんがな? どういてかっこよう空を飛ばん?」

その疑問に、のぶは、「正義を行うなら自分も傷付かねばならない」と答えた。

「強さをみせつけて敵を倒すがではなく、自分を顧みず、弱い人や困っちゅう人を救うがが真のヒーローではないかな、と思うがです」

それこそが、嵩にとっての正義の味方なのだと。こののぶの言葉を聞き、東海林は「やっと見つけたにゃあ」と嬉しそうに言った。それこそが「逆転しない正義」だと。

「あのころおまえらはおんなじもんを探しよった。それを何十年かかけてやっと見つけた。そうやにゃ」

そこに嵩が帰宅し、あらためて東海林は、二人が「逆転しない正義」をついに見つけたのだと言った。

「おまんらぁが長い時間かけて見つけたもんは、間違っちゃあせん。俺が責任を持つ」

太鼓判を押し、満足そうに東海林は去っていく。その後、高知新報でのぶと同期だった琴子(鳴海唯)から手紙が届く。そこには東海林が亡くなったことが記されていた。あのとき東海林は入院していた病院を抜け出し上京していた。そして二人に会い、二人が逆転しない正義をついに見つけたということを嬉しそうに語ったあと息を引き取ったという。

映画『千夜一夜物語』は大ヒットを記録, 「かっこよくなっても、強くなっても、いけないんです」, 「真のヒーローは……」, 「アンパンマン」がついに登場した

「あんぱん」119回より(C)NHK

「アンパンマン」がついに登場した

「命を削って会いに来てくれたんだな」

東海林の思いに呼応するように、嵩の中に新たな炎が灯る。そして、紙の上に鉛筆を走らせはじめる。いつもの〝たっすいがぁ〟ではない内に秘めた強い決意を、一言のセリフもなく目の力と背中で表現するこの場面の北村の演技は見事なものである。

こうして〝太ったおんちゃん〟だったアンパンマンが、新しい姿で生まれ変わった。顔がアンパン、パンを配るのでなく、その顔を困った人に食べさせてあげる。そう、今なお多くの人々に親しまれるヒーロー、「アンパンマン」がついに登場した。まさに、待望の「あんぱんまん誕生」である。

「こんなヒーロー、初めて見た」

とのぶは言う。自分の顔を食べさせる、自己犠牲をともなうヒーローだ。

「たとえ自分の命が終わっても。大丈夫、アンパンマンの命は終わらない。続くんだ」

そして、「だめかな?」と、やはり少し自信なさげな嵩だが、

「そんなことない。うち、こういうヒーローずっと待ちよった気がする」

涙ぐんだ笑顔で、のぶは嬉しそうに言った。こうして新しい命を宿した『あんぱんまん』は、子供向けの絵本として刊行された。「逆転しない正義」を自らの命を削って実践するヒーローは、少しずつ広がりを見せていく。

映画『千夜一夜物語』は大ヒットを記録, 「かっこよくなっても、強くなっても、いけないんです」, 「真のヒーローは……」, 「アンパンマン」がついに登場した

「あんぱん」第119回より(C)NHK

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