西武「ニューレッドアロー」、新宿線変革の立役者

新宿線の特急「小江戸」, グレーの車体に「ダンディレッド」, ラッピングで沿線盛り上げも, ライナー車両に置き換え

西武鉄道の「10000系ニューレッドアロー」。新宿線の特急「小江戸」の運用を担ってきた(記者撮影)

西武鉄道の新宿線は、西武新宿と本川越を結ぶ47.5kmの路線だ。

【はじめに写真を見る】▶先輩の「5000系(レッドアロー)」、後輩の「001系(ラビュー)」と比べると地味?▶だが、スマートなデザインで活躍の場を広げてきた西武鉄道の特急車両「10000系(ニューレッドアロー)」▶外観や運転台、客室内を車両基地で独占取材▶「今後の活用」はどうなる?

拝島線(小平―拝島間)、西武園線(東村山―西武園間)、国分寺線(国分寺―東村山間)といった支線を持つ幹線で、フラッグシップ特急の「001系(ラビュー)」が秩父エリアへ走る池袋線と並ぶ西武鉄道の2本柱となっている。

新宿線の特急「小江戸」

新宿線は関東の大手私鉄の本線格に位置付けられる路線のなかで唯一、ほかの鉄道事業者と相互直通運転をしていない。池袋線に東京メトロ有楽町線・副都心線、東急東横線、横浜高速鉄道みなとみらい線の車両が乗り入れているのとは対照的だ。

独立路線を貫く新宿線だが、歴史は1915年開業の池袋線よりずっと古い。西武鉄道の最古の路線は、前身の1つ川越鉄道が1894年に開業させた現・国分寺線で、翌1895年に開通したのが現在の新宿線の東村山―本川越間だった。2025年は川越鉄道全線開業の130周年にあたる。

【写真】個性が強い先輩の「5000系レッドアロー」や後輩の「001系ラビュー」と比べると華やかさはないかもしれないが、シックなデザインで活躍の場を広げてきた「10000系ニューレッドアロー」の外観や運転席、客室内を見る

蔵造りの古い町並みが残る川越は、いまでは都心から気軽に出かけられる“小江戸”として国内外から多くの人が訪れる。その足を担うのが「10000系(ニューレッドアロー)」を使用した新宿線の特急「小江戸」。平日は沿線の人々の通勤・帰宅時間帯の着席需要に応えている。

10000系は1993年、それまで休日ダイヤのみだった新宿線への定期特急列車導入と、池袋線・西武秩父線の特急車両「5000系(レッドアロー)」の後継としての役目を背負ってデビューした。

同年12月6日、本川越駅で開催した出発式では当時の川越市長、西武鉄道社長、本川越駅管区長がくす玉を割って運行開始を祝ったという。翌1994年には池袋線5000系の置き換えが始まった。

コンセプトは「ゆとりとやすらぎの空間」で、車内にはリクライニングシートが並ぶ。5000系の6両編成で定員400人に対し、10000系はシートの間隔を広く取り、7両編成で406人と余裕を持たせた。

シートの間隔は1070mmで、5000系より110mmも拡大。JR東日本の普通列車グリーン車で一般的な970mmと比べても100mm広い。走行機器については5000系のほか、通勤電車の101系、新501系で使っていた制御装置などを再利用している。

新宿線の特急「小江戸」, グレーの車体に「ダンディレッド」, ラッピングで沿線盛り上げも, ライナー車両に置き換え

10000系の車内(記者撮影)

【写真】コンセプトは「ゆとりとやすらぎの空間」。ゆったりと通勤できる10000系の車内はどうなっている?

グレーの車体に「ダンディレッド」

登場時に製作したパンフレットは、外観について「特急車としてのダイナミックさ、スピード感を備えながら、品格のある流れるようなフォルムとしました。車体カラーは、パープル系グレーを3つのトーンで調和させ、全体としてエレガントなハーモニーをつくりだし、その中にダンディレッドのポイントラインを加え、力強さを表現しました」と説明している。

さらに「全席指定で都心までゆとりの通勤が可能です。プレビジネスタイムのエネルギー蓄積空間、アフタービジネスタイムのやすらぎ空間を提供します。また、休日にはショッピング、レジャーの足として目的地まで快適に、スピーディーに走ります」とアピールする。

1996年までに11編成が造られた。2003年、最後に追加された10112編成だけは、制御方式がそれまでの抵抗制御でなく、VVVFインバーター制御。ほかの10000系と車内設備などはほとんど変わらないが、走行音が異なる。前面と側面の種別・行き先表示器はLED化されている。

西武鉄道広報部の曽根康士朗さんは、10000系ニューレッドアロー導入の経緯について「初代レッドアロー号は西武秩父線開業とともに秩父方面への観光特急として活躍しましたが、その後通勤利用者が大幅に増え、通勤主体の特急となってきたので『通勤特急としてのイメージアップを図る』という考えを基本に作られました」と説明する。

車内にカード式公衆電話も設置されていたが、その場所には現在、モバイルバッテリーのスタンド。「時代に合わせて少しずつ車内設備が変わっています」(曽根さん)。

川越出身の曽根さんは「『小江戸』という名称がついているため、川越市民として個人的にはとても愛着のある車両です。通勤通学時にはほぼ満席となっており、沿線にお住まいのお客さまにとっては日常の足でありながら、観光で川越を訪れる方々にとっては非日常を感じられる、『都心と川越のまちを結ぶシンボルのような車両』です」と位置付ける。

新宿線の特急「小江戸」, グレーの車体に「ダンディレッド」, ラッピングで沿線盛り上げも, ライナー車両に置き換え

10000系の運転席(記者撮影)

【写真】いつもは前面展望ができないため、あまりじっくりと見る機会がない10000系の運転席。10109編成と10112編成ではどこが違う?

ラッピングで沿線盛り上げも

10000系は新宿線・池袋線の両系統で幅広く活躍。ラッピングやイベント列車などでも西武沿線を盛り上げてきた。2011年11月には10105編成による5000系の車体色を模した「レッドアロークラシック」の運行を開始。2021年4月まで9年半にわたって走り続けた。

2016年~2017年には「秩父祭の屋台行事と神楽」「川越氷川祭の山車行事」のユネスコ無形文化遺産登録を記念し「プラチナ・エクスプレス」の秩父・川越両バージョンのラッピング車両が登場。一方、2018年には「ラブライブ!サンシャイン!!」のスタンプラリーに合わせて車体に登場人物のデザインを施した。

運用面では、埼玉西武ライオンズの本拠地ベルーナドームでプロ野球公式戦が開催される日に運行する臨時特急「ドーム号」に充てられた。2025年7月には「川越百万灯夏まつり」に合わせて、車内にビールサーバーを設置した「ビール特急」に変身している。

【写真】もう見ることができない、5000系レッドアローの外観デザインを10000系で再現した「レッドアロークラシック」とは?001系ラビューと並んだ姿も

2019年3月、新型車両001系ラビューが登場。翌年3月以降は、基本的に定期運用は池袋線が001系、新宿線が10000系という役割分担となっている。

7両編成計12本が製造された10000系も順次廃車が進み、現時点で残るのは5本のみ。先代の5000系と同様、富山地方鉄道に譲渡され、3両編成の「20020形(キャニオンエキスプレス)」として第2の人生を送る車両もある。

新宿線の特急「小江戸」, グレーの車体に「ダンディレッド」, ラッピングで沿線盛り上げも, ライナー車両に置き換え

同じ10000系でも左の10112編成と右の10109編成は仕様が異なる(記者撮影)

【写真】個性が強い先輩の「5000系レッドアロー」、後輩の「001系ラビュー」と比べると華やかさはないかもしれないが、シックなデザインで活躍の場を広げてきた「10000系ニューレッドアロー」の外観や運転席、客室内を見る

ライナー車両に置き換え

西武鉄道は2025年度の鉄道事業設備投資計画で、沿線価値向上の施策の1つとして「新宿線有料着席サービスの刷新」を掲げた。10000系については「ライナー型車両に置き換え、停車駅など運行形態も変更しサービスを刷新」するという。

ライナー型車両は2026年度中の運行開始を予定するが、同社によると「10000系の今後の活用については、現状決まっていることはない」という。

新宿線では6月に東村山駅周辺の下り線が高架化、上り線も2027年度末の完成を目指して高架化工事が進む。中井―野方間と井荻―西武柳沢間でもそれぞれ地下化、高架化の連続立体交差事業が進行中。都心側ターミナルの西武新宿駅には東京メトロ丸ノ内線新宿駅と結ぶ新たな地下通路を整備する計画もある。

10000系ニューレッドアローは、先代の5000系レッドアローや、最新の001系ラビューと比べるとシックで質実剛健な印象だが、30年以上にわたって西武鉄道の特急運用を担ってきた。いずれ来る引退もデビュー時と同様、新宿線の転換期を象徴する出来事となりそうだ。