アラサー理系男性"カンガルーの仲間"に一目ぼれ

フクロモモンガ情報を発信する理系夫婦, 理系男子、フクロモモンガに出会う, モモンガはリス、フクロモモンガはカンガルーの仲間, 飼い始めても数カ月は「威嚇」。簡単ではないフクモモ飼育, ジゲン君にも、パートナーを……

フクロモモンガのジゲン君(写真提供:ひろさん)

かつてペットといえば「犬か猫」が当たり前だった。だが近年、都市部を中心に静かに広がっているのが、「小動物」との暮らしである。
ハムスター、文鳥、レオパ(ヒョウモントカゲモドキ)、ハリネズミ、デグー――。
ペット不可あるいは「小動物のみ可」の集合住宅でも受け入れやすく、また、共働き・単身者・子育て家庭など多様なライフスタイルにフィットしやすい。
この連載では、「ワンでもニャンでもない家族」と暮らす人々に話を聞き、制約の多い都市生活のなかで見つけた、“静かで確かなつながり”を探っていく。
第4回となる今回は、フクロモモンガと暮らす夫婦に話を聞いた。

フクロモモンガ情報を発信する理系夫婦

理系の大学院を卒業し、自動車メーカーでエンジニアとして働くひろさん(仮名)は、現在妻のもえさん(仮名)と3歳の女の子、そして4匹のフクロモモンガと共に、神奈川県で暮らしている。

【写真】飼い主さんの指にしがみつく、フクロモモンガの赤ちゃん

もえさん曰く、ひろさんは「典型的な理系男子」。飼育方法にもエビデンスを求める徹底ぶりで、フクロモモンガに関する情報をブログやYouTubeで発信しているのだという。ちなみにもえさんも理系の大学を卒業している「理系夫婦」だ。

本連載では、小動物を飼育されている方を対象に、取材にご協力いただける方を募集しています。ご協力いただける方はこちらのフォームからご応募ください。

「必ず書籍や論文を参考に、エビデンスのない情報は発信しないよう心がけています」

フクロモモンガの色分けを「メンデルの法則」を引用して解説し、去勢手術に踏み切った理由をQCDのベン図で表現。ひろさんのブログには、論理的で合理的、そしてちょっと不器用なフクロモモンガへの偏愛が詰まっている。

仲睦まじいひろさん・もえさん夫婦に、フクロモモンガとの生活について伺った。

理系男子、フクロモモンガに出会う

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ひろさんの家に舞い降りたフクロモモンガのジゲン君(写真提供:ひろさん)

幸せにつながる扉の前にはたいてい、もふもふした動物が落ちている。ひろさんの場合、漠然とした不安と焦燥感の先に、その扉が現れた。

仕事が終わると、暗く冷たい部屋に吸い込まれるように帰宅する。大学院卒業後、自動車メーカーにエンジニアとして就職し、4年が経過していた。仕事は充実していたが、これといった趣味もない。いつのまにか友人もひとり、ふたりと結婚し疎遠になっていく……。30歳を前に、「なんとなく不安」が澱のように積み重なっていた。

「よりどころが欲しかったんです。僕を待っていてくれる存在が」

ひろさんは、静かな声で淡々と当時を振り返る。その頃からぼんやりとペットの飼育を考え始めた。猫を飼いたかったが、当時住んでいた部屋では難しい。できれば引っ越しはしたくない。ハムスターもいいが、短命だ。愛情が深くなったころに失うのはつらい。たどり着いたのは、爬虫類だった。

ひろさんは、東京で開催されていた爬虫類の展示即売会に足を運ぶことに。展示会には爬虫類だけでなく、鳥類や小動物のブースもあった。

「そこで一目ぼれしたのが、フクロモモンガでした。店の人に何匹か手に乗せてもらったんです。フクロモモンガって本来臆病な生き物なんですが、1匹だけ僕の手にすり寄ってくる子がいて。『なんてかわいいんだ、うちに来るか?』って……」

照れ隠しなのか、ひろさんは少しうつむきながら語尾を濁す。「そうだったの?」と、もえさんがひろさんの顔を覗き込んで笑った。当時の話を聞くのは初めてだそうだ。

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ひろさんの指にしがみつく、フクロモモンガの赤ちゃん(写真提供:ひろさん)

そのイベントには、求めていた爬虫類もたくさんいた。なぜ爬虫類を選ばなかったのか。

「爬虫類も見たんですけど、やっぱりフクモモ(フクロモモンガ)のかわいさが衝撃的で、心を奪われてしまったんです」

爬虫類のひんやりした手触りより、ひろさんは柔らかなぬくもりを選んだ。オスのフクロモモンガを「ジゲン」と名付け、男ひとり、オス1匹の生活が始まった。

モモンガはリス、フクロモモンガはカンガルーの仲間

フクロモモンガは、モモンガの一種ではない。モモンガはげっ歯類で、フクロモモンガは有袋類だ。祖先をたどればモモンガはリス、フクロモモンガはカンガルーと交差する。「滑空」というよく似た性質は、同じ環境に適応するうちに似た機能を進化させる「収斂進化(しゅうれんしんか)」の結果らしい。

ひろさんが家族に選んだのは、有袋類の仲間であるフクロモモンガ。飼い主コミュニティでは「フクモモ」という愛称で呼ばれている。

カンガルーの仲間だけに野生下ではオーストラリア周辺に分布し、夜行性で群れを形成して生活している。飼育下での平均寿命は10年以上。食性は雑食で、エサとして売られているペレットの他に、虫も食べればささみも食べる。

飼育下では、日中ケージ内で眠り、活動的になる夜間にケージから出し、「部屋んぽ」(部屋のなかでの散歩)をさせる。ジゲン君の場合は夜9時か10時ごろに起き、活動を開始する。ケージに入れたままで飼い主とのふれあいも少ないと、群れで生きるフクモモはストレスを感じ、夜鳴きや自傷行為に至ることもあるという。

ひろさんは、展示会場でフクモモ飼育に必要なものをすべて買い揃え、ワンルームの部屋にジゲン君を迎えた。ケージの中にはポーチのような寝床を作り、止まり木や食器、給水ボトルを設置する。ケージの床には糞尿を吸い取るためにペットシーツを敷いた。

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フクロモモンガ2匹分のケージ。寝床はポーチのような袋、止まり木や回し車を設置し、下には排泄物を吸収するための木くずやペットシーツを敷く。すぐ隣の白い機械は脱臭機。(写真提供:ひろさん)

【フクロモモンガ飼育に必要なもの】

ケージ

寝床・ポーチ

止まり木・ステージ・おもちゃ

食器・給水ボトル

床材(ペットシーツ)

エサ(ペレット)

フクロモモンガといえば、気になるのが「におい」だ。

特にオスは、臭腺からの分泌物でマーキングをする習性がある。こまめなケージ掃除に加え、ひろさんの場合、脱臭機を購入して臭い対策をしているという。

「でも、ずっと一緒にいるとわからなくなっちゃうんです」と、ひろさんは言う。においはオスの方が強く、もえさん曰く「アクリル絵の具のような獣臭」。ちなみに排泄のしつけはできない。気になるかどうかは、フクモモ愛の強さによるのかもしれない。

そして、フクロモモンガの醍醐味といえば、「滑空」だ。部屋んぽの際は存分に飛ぶ姿を眺められるだろう。期待を込めて尋ねると、もえさんがクスクスと笑い出した。

「私も最初はそう思ったんです。だから初めて見たとき、びっくりして。『飛ぶってこういうことなの?』って」

実際は、通常よりもゆっくり着地するという程度らしいので、空を華麗に舞う姿を期待するとがっかりするかもしれない。

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滑空するジゲン君。空を舞うというよりも、上手に着地するイメージだという(写真提供:ひろさん)

飼育にかかる費用は、ペレットと呼ばれるフクモモ専用のエサ代、1匹なら月に1500円程度で済む。しかしこれがなかなかそうはいかない。

「エサやりは一番大変です。飽きっぽくて、ひとつの種類のエサを食べ続けてくれなくて。飽きさせないよう、体調に合わせて与えるフードの種類も変えなければなりません」

ひろさんはそう言うが、隣からもえさんが、「でも彼は、フードの比較分析が趣味みたいなものだから」と教えてくれた。

実際に雑食で飽きっぽい個体は多いので、何種類かのペレットを買って、ローテーションで与えた方がよさそうだ。

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フクモモの一日の食餌量を卵の大きさと比較したもの。ペレットのほかに、果物やワーム(虫)なども食べる(写真提供:ひろさん)

飼い始めても数カ月は「威嚇」。簡単ではないフクモモ飼育

朝起きて、まだジゲン君が眠っている時間にケージを掃除し、ペレットと水をセットして仕事に向かう。残業を終えて帰る場所は、もう暗く静かな部屋ではない。扉を開けると、がさごそと何かが動く音がする。ケージの中からは、寝起きのジゲン君の大きな目が覗いている。

しかし、飼い始めてから数カ月、ジゲン君はひろさんに全くなつかなかった。共に生きる相棒が欲しかったのに、触れ合うどころか目があえば威嚇されてばかり。それでも手を出せば噛みつかれる始末。しかし……。

「威嚇するしぐさも、かわいいなぁって思いました。小さな腕をいっぱいに広げて、『ジー!』って鳴くんです」

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両手をいっぱいに広げたフクモモの威嚇姿。怒っているのにどこか愛らしい。(写真提供:ひろさん)

フクモモは臆病な生き物だ。簡単にはなつかないことも、ひろさんは理解していた。そしてその方が「フクモモらしくてかわいい」と思ったのだという。

ジゲン君は2カ月かけて環境に慣れ、そしてひろさんの存在に慣れていった。最初のころは広い部屋であちこち逃げてしまわないよう、蚊帳を張ってその中で部屋んぽをさせた。こうすることでフクモモを部屋の中で見失うこともなく、飼い主と一対一で遊ぶこともできる。

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フクモモは小さいので、ワンルームでも見失うことも。蚊帳を張ってその中で遊べば、遠くに行かないうえに、一対一の関係を築きやすい(写真提供:ひろさん)

無理に距離を詰めることもせず、ひろさんはゆっくりとジゲン君のタイミングを待った。ジゲン君が自ら近づいて来てくれたのは、3カ月経った頃だった。

「手のひらに乗ってくれて、おやつを食べてくれた瞬間が、一番感動しました」

今でも「ベタ馴れ」という程ではない。ひろさんとジゲン君は、お互いに心地よい距離を保ち、お互いを必要としながら暮らしている。

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温かいポーチの中でまどろむジゲン君(写真提供:ひろさん)

ジゲン君にも、パートナーを……

ジゲン君を迎えたのち、ひろさんの人生にもう一つ「幸せ」が訪れた。人間のパートナー、もえさんとの出会いだ。ジゲン君の臭い問題も、「慣れれば平気!」と笑い飛ばし、糞尿対策に「フクモモ専用服」に着替えて部屋んぽの相手をしてくれる、前向きで朗らかな女性。

もえさんは、ひろさんの部屋をもう一段明るくしてくれる存在となり、二人は結婚を考え始める。しかし、ひろさんにはひとつ気になることがあった。

「僕はもえと出会って結婚を考え始めているのに、ジゲンは……」

自分だけ幸せになっていいのか。フクモモは本来群れで生きる生き物だ。彼にも生涯の伴侶が必要ではないのか。

後編『「自分だけ幸せになっていいのか」フクロモモンガを飼い溺愛する男性が“自分の結婚”を機に“ペットの婚活”を決意。“ケンカばかり”に見えた2匹の意外な結末とは?』では、ジゲンのパートナー探しとその結末を紹介する。