終末論が暗示するテクノロジーの未来 ティール氏が持論展開

ピーター・ティール氏
富豪のピーター・ティール氏は、データや人工知能(AI)、防衛、兵器開発技術の分野で企業に投資してきた。同氏は今、人々にもっと「世界の終わり」について考えるよう呼びかけている。
ティール氏は約1年にわたり、自身が聖書の預言をどう理解しているか、そして急速な技術の進歩が終末論的な未来をもたらす可能性について、公の場で語ってきた。
22日に行われた講演で、同氏は聴衆に対し、AIであれ、他のテクノロジーであれ、科学の進歩に対して真剣に取り組み続けるよう促した。それを恐れたり規制したり、技術の前進に反旗を翻したりすれば、「反キリスト(Antichrist)」の到来を早めるだろうと、ティール氏は述べた。出席者らが明かした。
敬虔(けいけん)なキリスト教徒のティール氏は、反キリストに関してこれまで行った数々の講演や公開インタビューを発展させ、今月、サンフランシスコで4回シリーズの非公開講演を行っている。第2回講演は22日に行われ、最終回は10月初めになる予定だ。
ティール氏だけでなくシリコンバレーの大物たちは最近、自らの信仰についてより率直に語り始めている。これはテック業界の中心・シリコンバレーの世俗的な文化環境とは著しい対比を示す。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が最近の講演を確認したところ、ティール氏は世界の終わりがどのようになるかを次のように描いている。核戦争や環境災害、危険な生物兵器、さらにはAIが誘導する自律型殺人ロボットといった形で、人類の存亡をかけたリスクが出現する。
最後の戦い「アルマゲドン」に向かって人類が突き進む中、平和と安全を約束する世界統一政府が結成される。ティール氏の考えでは、この全体主義的な独裁体制は強制力と実権を振りかざし、現代版「反キリスト」の到来を告げる。キリスト教の教えによると、反キリストとは、世界が終わる前に出現する神の直接的な敵対者と定義される存在だ。
「敗北主義者」にならない
この話の要点は「敗北主義者にならない」ことだと、ティール氏は昨年10月、スタンフォード大学フーバー研究所が制作した一連のインタビュー番組で述べた。アルマゲドンや反キリストについて人々に考えさせることで、同氏が期待するのは、人間社会が第三の道を見つけ、両方の結果を回避できることだ。「聖書の言葉はとっぴに聞こえるが、実際はより希望に満ちている」
シリコンバレーを席巻するAI開発競争は、テック業界のリーダーたちに、より精神的な内省を促すことになった。彼らの一部はAIの進歩にキリスト教の概念を取り入れるよう呼びかけている。ローマ教皇レオ14世はAIが突きつける脅威について語り始めた。過去の技術改革を念頭に置いて(訳注:産業革命がもたらす課題に取り組んだレオ13世を引き継ぎ)、自らの教皇名を選んだほどだ。
「この2年間、AIの台頭によって、高いリスクを伴う会話があらゆる面で解き放たれた感覚がある」。講演出席者のジョナサン・ガンドラック氏はこう述べた。彼は任命された牧師として教区民の中にテック業界の労働者を抱え、弁護士でもある。「スピリチュアリティー(精神性)の高まりを感じる。無限の可能性を持つ新たな存在に対峙(たいじ)している気分だからだ。それはある意味、神のようなものだ」とガンドラック氏は述べた。彼がかつて牧師を務めていた教会に、ティール氏は時々出席していたという。
インテルのパット・ゲルシンガー前最高経営責任者(CEO)は今夏、キリスト教徒である自身の宗教観について講演した。起業家育成プログラム「Yコンビネーター」のギャリー・タンCEOも、宗教をいかに科学技術に取り込むかをテーマにしたトークイベントを主宰している。起業家イーロン・マスク氏は21日、Xで新約聖書の言葉を引用した。同氏は最近、公の場でキリスト教の美徳を称賛している。

イーロン・マスク氏は最近の公的発言でキリスト教の美徳を称賛している
過去の講演を確認したところ、ティール氏はある理論を根拠にしている。それによると「反キリスト」は驚くべきカリスマ性を持つ個人または団体で、世界の終わりについて繰り返し発言する。その結果、社会は科学技術がもたらす人類存亡リスクを規制するため、この個人または団体に必要な権力を与える。
サンフランシスコ湾岸地区のウエストゲート教会で主任牧師を務めるジェイ・キム氏は、シリコンバレーでキリスト教への新たな関心が高まるのを最前列で見てきたが、ティール氏が「反キリスト」に注目するのは的外れだと述べた。
「私の理解する限り、新約聖書の著者たちは、キリストの教えに従う信者が『反キリスト』を特定することにエネルギーを注ぐよう導く意図はほとんど全くなかった」とキム氏は言う。「それを考えるために全エネルギーを傾けるとしたら、努力を相当無駄にしていると私は思う」
ティール氏の一連の講演は、医療ソフトウエアを手がけるスタートアップの幹部、ミシェル・スティーブンス氏が共同で立ち上げたサンフランシスコの非営利団体(NPO)「ACTS 17」が主催している。彼女の夫トレイ・スティーブンス氏は、ティール氏が設立したベンチャーキャピタル(VC)ファウンダーズ・ファンドの投資家であり、米国防総省と契約を結ぶ米防衛テック企業アンドゥリル・インダストリーズの共同創業者でもある。夫妻はティール氏と共に聖書を研究しているとミシェル氏は述べた。
ACTS 17は、「Acknowledging Christ in Technology and Society(技術と社会の文脈でのキリストの認識)」の頭文字をとったもので、キリスト教徒と非キリスト教徒が、宗教やイエスなどさまざまなトピックについて語り合うコミュニティーを作ることを目的としている。
反キリストの「カリスマ性」
アルマゲドンと反キリストという二つの概念は、何十年にもわたって厳しい目を向けられ、関心の的になってきた。中でも、善と悪の最終決戦につながる状況をイメージ化した鮮明な描写が含まれる(新約聖書の)ヨハネの黙示録の解釈は議論を呼んできた。
最近の講演で聴衆の1人がティール氏に、ある特定の世界的指導者のことを反キリストではないかと質問した。ティール氏はこの人物には「十分なカリスマ性がない」と答えた。講演の出席者でスタートアップ企業CEOのネスター・トカチェンコ氏はそう明かす。ティール氏は過去に特定の左派政治家を例に挙げ、反キリストはこういう人物かもしれないと述べたことがある。
今月の講演は、ティール氏がピーター・ロビンソン氏と行った2時間のインタビューがベースになっているようだ。ロビンソン氏はロナルド・レーガン大統領の元スピーチライターで、フーバー研究所の時事番組「アンコモン・ナレッジ」の司会者を務めている。
両氏はアルマゲドンと反キリストに関するティール氏の理論の情報源を議論した。その中にはヨハネの黙示録や(旧約聖書の黙示文学)ダニエル書といった聖書に含まれる文献のほか、1907年にカトリック司祭が著したディストピアSF小説「ロード・オブ・ザ・ワールド」などのフィクション作品がある。

フーバー研究所のネット番組「アンコモン・ナレッジ」で司会者のピーター・ロビンソン氏と対談するピーター・ティール氏
また会話の中で、ロビンソン氏はティール氏に現代社会がおおむね無視してきた文献をなぜ信じるのかと尋ねた。ティール氏はこう答えた。「完全に文字通り受け取らなくても、真剣に受け止めることはできる」
「反キリストは恐らく偉大な人道主義者として登場する。再配分を行い、効果的利他主義を掲げる極めて偉大な慈善家だ」とティール氏は述べた。「これらは単に反キリスト教的というだけでなく、国家権力と過度に結びついた時、必ず何か非常に間違ったことになる」
ティール氏が根拠とする理論の中には、スタンフォード大学で教べんを執ったフランスの歴史家ルネ・ジラール氏の意見や、同氏との個人的な会話もある。出席者によると、サンフランシスコで行われている一連の講演では、ルネサンス期のイタリアの芸術家、ルカ・シニョレッリの絵画や日本の漫画など新たな情報源も加えられている。
「ある意味、終末論的預言は、人類がますます強力な技術を持つ世界で、その技術の使い方に侵しがたい制限がない場合、人類はこのように行動する可能性が高いという予測に過ぎない」。ティール氏は過去にこう発言した。