駅前に残る「閉鎖百貨店」――日本一の人口増加率を誇ったベッドタウンは、なぜ「買い物難民の街」になったのか
閉鎖百貨店が映す現実
三重県名張市の桔梗(ききょう)が丘住宅地で、駅前の百貨店跡が閉鎖されたまま放置されている。市民から再開発を求める声が出ているが、市は危機的な財政状況だ。
【画像】「えぇぇぇ!」 これが放置された「近鉄百貨店跡」です!(11枚)
近鉄桔梗が丘駅前に出ると「近鉄プラザ」の看板が残る建物が見えてくる。外観に大きな傷みが見えず、まだ使えそうだが、フェンスで囲まれ、なかへ入ることができない。名張市の戸建住宅団地・桔梗が丘。地域のランドマークだった近鉄百貨店跡が、無残な姿をさらす。
施設は1990(平成2)年、近鉄グループのスーパーを3階建てに増床改装し、「近鉄プラザ桔梗が丘店」として開業した。1998年には百貨店に業態を転換、売り場面積約1万2000平方メートルの「桔梗が丘近鉄百貨店」になる。しかし、売り上げが伸び悩んで2012年、百貨店の売り場を半減、近鉄プラザに戻したが、2018年に閉店した。
その後、1階部分に地元スーパーや大手ドラッグストアを誘致して営業を再開したものの、2020年で両店が撤退、再び休業状態に。百貨店時代には通りをはさんだ東側に2階建ての別館があった。本館とデッキで接続してテナントを入れていたが、2016年に更地にされている。フェンスに囲まれた敷地をのぞくと、雑草が人の背丈ほどに伸びていた。
コンビニで買い物していた女性(78歳)は
「昔は百貨店で何でも買えたのに、今はコンビニしかない」
と不満を訴える。近鉄百貨店の売り上げが伸びなかったのは、近隣商業施設との競争激化やインターネット通販の台頭などが考えられるが、住民が老い、現役時代の購買力を失ったことも無関係ではない。
人口増加率日本一のけん引役に

名張市の位置(画像:OpenStreetMap)
名張市は三重県西部の伊賀盆地南部に位置する。
近鉄大阪線で大阪市まで約1時間の地の利を生かし、1963(昭和38)年に造成に着手した桔梗が丘を皮切りに大規模住宅地開発が相次いだ。高度経済成長期前は人口3万人程度だったが、1975年から約20年間に毎年、2000人前後の人口増があり、1981年に7.8%の増加で
「人口増加率日本一」
に輝いている。
そのけん引役を果たしたのが桔梗が丘だ。1965年に入居が始まると戦後のベビーブームで生まれた団塊の世代が夢のマイホームを求めて押し寄せ、近鉄で大阪へ通勤した。
しかし、時代の変化で郊外より職場に近い都心部が好まれるようになる。名張市の人口は2000年の約8万5000人をピークに減少へ向かい、約7万3000人(約14%減)まで落ち込んだ。
南地区は限界集落寸前の高齢化率45.6%

大阪方面への列車が発着する近鉄桔梗が丘駅(画像:高田泰)
桔梗が丘は名張市北東部の丘陵地帯を近鉄グループが大阪のベッドタウンとして開発した。
・桔梗が丘
・桔梗が丘南
・桔梗が丘西
の3地区があり、面積は3.13平方キロメートル。小中学校や病院、スーパーなど暮らしに必要な施設がそろい、約1万3500人が暮らしている。しかし、人口は長く微減傾向が続く。
住民は高度成長期の街開き直後に入居した団塊の世代が多い。成長した子どもたちが独立して桔梗が丘を離れると、一気に高齢化が進んだ。65歳以上が全人口に占める割合を示す高齢化率は、1990(平成2)年に完成した西地区こそ20.1%だが、桔梗が丘地区は38.5%、南地区は
「45.6%」
と全国平均の29.3%を大きく上回る。特に南地区は限界集落が近い。
住宅団地と人口減の影

丘陵地に戸建住宅が並ぶ桔梗が丘住宅地(画像:高田泰
子どもの減少で桔梗が丘地区の県立高校は2018年、閉校した。
団塊の世代の定年退職で通勤需要が減ったことから、桔梗が丘駅の1日乗降人員はピークだった1995年の約1万3100人が2024年で約4270人に(約67%減)。駅前から住宅団地内を巡る三重交通のバスは1時間に1~3本しかなく、週末は運休。市内を走るコミュニティーバスも平日限定で1日6便しか来ない。
桔梗が丘駅から徒歩5分余りの場所にある商業区画へ向かった。片側1車線の車道の両側に歩道があり、ミニスーパーや郵便局、書店などが並ぶ。だが、空き店舗が目立ち、人通りは少ない。
車道を走る車の数は割と多いが、平日の日中とあってか、ハンドルを握るのは高齢者ばかり。犬の散歩をしていた男性(77歳)は
「駅前がイメージダウンを引き起こして若い人が来ない。このままでは街が老人ホームになる」
と肩を落とした。
住民と地元企業の板挟み

商業区画を走るコミュニティーバス(画像:高田泰)
名張市と名張商工会議所、住民組織の桔梗が丘自治連合協議会は駅前再整備の検討会を設け、近鉄百貨店跡を所有する近鉄側に地元の意見を伝えた。桔梗が丘自治連合協議会は
「商業施設としての再出発や公共施設の入居などいろんな住民の声が入っていた」
と振り返る。これに対し、近鉄不動産は百貨店跡の利用方法について
「現時点で未定」
としたままだ。住民の購買力が落ちるなか、採算が取れる施設の立地が難しいとの判断が背景にあるとみられる。
名張市は財政再生団体転落の危機

財政危機に直面している名張市役所(画像:高田泰)
名張市側にも苦しい事情がある。2025年度から5年間の財政見通しで、2028年度に累積赤字が51億円に達して財政再生団体に転落する可能性が出てきたことだ。2016~2023年度の一般会計収支は表向き、黒字で推移しているが、地方債の借入額などを考慮すれば2021年度を除いて実質3~11億円の赤字だった。
桔梗が丘など新興住宅地の住民が一気に後期高齢者となり、税収が落ち込む一方、社会福祉費がはね上がっているからだ。このため、2025年度一般会計予算(地方自治体の通常の行政運営に使う基本予算)では、
・福祉バス運行
・地域福祉増進事業
の補助金廃止など29の事業、補助金にメスを入れた。市職員の給与も全職員を対象にカットしている。10月からは市民病院を独立行政法人化する。
この財政状態で名張市が施設を取得して再整備に乗り出すことはできそうもない。名張市総合企画政策室は
「近鉄側と話し合い、新たな住民を呼び込める駅前づくりを考えるしかない」
と苦しい胸の内を打ち明けた。名張市を人口増加率日本一に押し上げたのは桔梗が丘の誕生だ。桔梗が丘に活力を取り戻すすべは見つかるのだろうか。