「憂鬱以上、うつ未満」=“半うつ”から脱するには「食う・寝る」を土台から見直すべき理由

なんとなく気分が晴れない。やる気が出ず、集中力も続かない。でも「うつ病」というほど深刻ではないし、仕事や家事はこなせている──。精神科医の平光源さんは、そんな「憂鬱以上、うつ未満」の状態を「半うつ」と名づけ、現代人の5人に1人がこの状態にあると指摘する。「半うつ」から本来の状態に戻るにはどうすればよいのか。新刊『半うつ 憂鬱以上、うつ未満』(サンマーク出版)より、心の土台となる「食う・寝る」の重要性について抜粋する。
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■心の土台は「食う」と「寝る」から
びっくりされるかもしれませんが、現代社会では約5組に1組が「不妊」に悩んでいて、その原因の半分が男性にあると言われています。
それなのに、日本には男性不妊症外来がほとんど存在しません。
一部の方は治療を求め、精神科の門を叩きます。
実は私は男性不妊の治療が得意なのですが、それはなぜかというと、「私たちの体は、私たちの食べたものでできている」という前提に立って治療を行っているからです。
食事による体質改善を中心とした治療によって、多くの方が回復されています。
薬に頼るのではなく、本来の体の機能を取り戻すことで、自然な形で問題が解決されていくのです。
それは、脳や神経もしくは、そのネットワークを支えている神経伝達物質も例外ではありません。
心の安全装置のような存在であるセロトニンや心にワクワクを抱かせてくれるドーパミンが、心にやる気を灯すノルアドレナリンなどの物質が、神経と神経の間を行き来して情報のやり取りをしています。
大切なのは1つひとつの原料が神経伝達物質ごとに違うこと。
たとえば、セロトニンの原料は「トリプトファン」というアミノ酸ですし、ノルアドレナリン、ドーパミンの原料は「チロシン」というアミノ酸です。
そして、それらアミノ酸はタンパク質の中に多く含まれています。

ですから、タンパク質をとらないと、当たり前ですがアミノ酸が体に入ってきません。その結果、脳の機能も低下するわけです。
さらに重要なのは、そのアミノ酸から神経伝達物質への合成は、多くの場合、休息や睡眠の時に行われるということです。
つまり、
1.食事により、アミノ酸を摂取する
2.睡眠中にアミノ酸から神経伝達物質が合成される
3.翌日、心の状態が安定する
この流れが正常に働かないと、どんなに意志の力で頑張ろうとしても、材料不足で心が思うように動かなくなってしまいます。
「食う・寝る」の大切さは、精神論ではなく生理学の話なのです。
「気合で乗り切れ」
「根性が足りない」
そんな言葉をかけられても、材料がなければ神経伝達物質は作れません。
食事と睡眠は、まさに心にとってのガソリンの役割を持っているのです。
だからこそ、心を本来の状態に戻すためにまずは質の高い「食う・寝る」を実践するところから始める必要があります。
■食事も睡眠も“効率化”し過ぎな現代人
それなのに、現代人は、ただ食べればいい、どんな状態であれ眠ればいい、と思っている人があまりにも多過ぎます。
実は、「美味しい」と感じることは、心の健康にとって想像以上に重要です。
食事を「美味しい」と感じた時、私たちの脳ではドーパミンやセロトニンがたくさん分泌されます。
これらは、まさに心の安定に欠かせない神経伝達物質そのもの。
つまり、美味しく食べることは、「心の薬」を飲んでいることと同じなのです。
では、そういった「美味しさ」を感じるためには何が必要でしょうか?
みなさんも一度はご飯を食べる時に、鼻をつまんで食べたことがあるはずです。ほとんど味がしなくなりますよね。
私たちの脳が「美味しさ」を認識するためには、においが必要だということです。

また、視覚情報も同様に大切です。
青いカレーライスを想像してみてください。
想像しただけで味気なく、食欲がなくなりますよね。
においで味わい、視覚で味わうことで、脳は「美味しい!」と認識し、心を安定させる神経伝達物質を分泌してくれます。
ところが、現代人は効率を重視するあまり、スマートフォンを見ながら菓子パンやカップラーメンを食べたり、移動の間に完全栄養食品やゼリー飲料を流し込んだり、「美味しさを感じる時間」を削ってしまっています。
「とりあえずカロリーを取ればいい」と誤解して、心にとって最も大切な「美味しさ」を捨ててしまっているのです。
これでは、栄養は摂取できても、心の薬は受け取れません。
■質の悪い睡眠では心の薬が正常につくれない
なお、「質の良い睡眠」も、心の薬と同じ効果があります。
私たちが深く眠っている間、脳では神経伝達物質の合成が活発に行われています。昼間に消費されたセロトニンやドーパミンが、睡眠中に新しく作り直されているわけです。
つまり、質の良い睡眠は、心の薬を製造する工場のようなものだということ。
ところが、現代人は「とりあえず眠れればいい」と考えがちです。
ベッドに入る直前まで、スマートフォンでメールをチェックし、布団の中で、YouTubeやNetflixを見ながらウトウト、そして、チャットの返信をしながら、いつの間にか寝落ちしている。
こんな行動に心当たりのある方はいませんか?
「眠れているからいいじゃないですか」と思うかもしれません。
しかし、スマートフォンのバックライト自体が発光している画面を見続けることは、太陽光を直視しているようなものです。そんな状態では、脳は、「今は夜だから休む時間」と理解するどころか覚醒を始めます。
その結果、朝起きても「なんだか疲れが取れない」「スッキリしない」という状態になってしまいます。
眠れてはいるけれど、質の悪い睡眠。それでは、心の薬を製造する工場が正常に稼働できないのです。
平 光源(たいら・こうげん) 東北のとある精神科医院を営む、精神科医。高校時代、不登校が原因で医学部受験に失敗。3浪してうつになり、ある本がきっかけでうつから回復した経験をふまえて、約25年精神科医として心のケアに当たる。支援学校学校医、老健施設往診医、いのちの電話相談医、傾聴の会顧問など、その活動は多岐にわたる。精神保健指定医、精神科専門医、日本医師会認定産業医。著書『あなたが死にたいのは、死ぬほど頑張って生きているから』(サンマーク出版)が2022年の第2回メンタル本大賞優秀賞を受賞。