「別にいつでも辞めますよ」とZ世代から捨て台詞 氷河期世代の中間管理職が陥りやすい「一方通行コミュニケーション」の特徴

「他の世代と比べるものではないですけど、報われない世代だと感じますね」
イベント設営の会社に勤める45歳の男性はため息をつく。
業務内容はスポーツイベント、ライブ会場、展示場で機材の搬入、ステージの組み立てや解体作業などを行う。勤務する現場や時間帯は不規則だ。
「基本的に仕事現場は関東圏内ですが、遠方の場合は始発の電車で向かうことがあります。体力勝負だけど、最近は若い時のように体が動かない。昨年に野球場で夜中の12時を回ってからイベントの会場設営で朝の7時まで働いたんですが、荷物を運ぶ際に転倒して右手の小指を骨折しました。でも、休む選択肢はなかったです。お金を稼がないと生活できないので」
男性は地元の進学校から国立大に進んだ。だが、就職氷河期と呼ばれる時代で希望していた出版社への就職は叶わず。印刷会社に勤めたが、職場の人間関係に悩んで2年後に退社した。その後は物流業、介護職、警備員などを経験し、現在の職場に転職したのは3年前。派遣社員で1カ月の手取りは10万円台後半だという。
■幻想が崩れた
厚生厚生労働省の最新の初任給調査「令和6年賃金構造基本統計調査結果」の「新規学卒者の学歴別にみた賃金」によると、昨年の大学卒(男女計)の初任給は24万8300円。20年以降、賃金構造基本統計調査の初任給に通勤手当を含める方式に変更されたため以前の調査と一概に比較できないが、同じ統計方法で調査した20年の22万6000円から4年間で初任給が2万円以上増加している。
「僕らの時代は『いい大学にいけば、いい会社に行ける』と言われて勉強したけど、その幻想が崩れた。今、就活が『買い手市場』って言うじゃないですか。学生が企業を選ぶ時代になって、初任給がここ1、2年でグングン上がっている。今の時代に就活していたら違う人生だったのかなと。そんなことを考えても仕方ないんですけどね」

最近は現場のリーダーを任されることが多いが、その状況がストレスになっているという。
「アルバイトや派遣社員は20代が多いのですが、少し強い口調で注意したら辞めてしまう。現場の集合時間に遅刻した子に『やる気がないなら来なくていい』と伝えたら、『別にいつでも辞めますよ』と捨て台詞を吐かれた時もありました。アルバイトが辞めると人手が足りなくなるので、本社勤務の正社員に怒られるんですよ。なんでこっちが怒られるんだろうと……」
印刷会社に勤務する管理職の50代男性は、1カ月前にかかってきた1本の電話に衝撃を受けたという。
「退職代行業者と名乗る男性から、『社員のAさんが御社を辞職する旨をお伝えするために代行で電話させていただきました』と。テレビで見たことがありますが、現実にこんなことが起きるんだと……頭が真っ白になりました」
男性社員のAさんは大学卒業後、今年入社したばかりだった。
■戸惑いの方が大きい
「遅刻や無断欠勤などはなく、仕事をそつなくこなす感じでした。20代の子たちはうるさく言われることを嫌がるじゃないですか。僕らの時代は転職する人間が一握りでしたけど、今は数年単位で仕事を変えるのが珍しくない。こっちは気を使って接していたつもりなんですが……。大きな会社ではないので社員が急に辞めると痛手です」
退職代行業者から電話がかかってきた数日後に、Aさんのパソコンや社員証など会社の備品が入った段ボールが会社に送られてきた。「怒りの感情より戸惑いの方が大きいですね。仕事がうまくいかなかったり、人間関係で悩んだり、会社を辞める人間は何かしら予兆があるけど、今回はまったく予期していなかった。どう対応したらよかったのか、今も正解が分からないです」と複雑な表情を浮かべる。
『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)の著者で、パーソル総合研究所の小林祐児執行役員シンクタンク本部長は、理論社会学と人的資源管理論の専門家で日本の労働、雇用について研究している。

「Z世代は『怒られたくない、失敗したくない、対立したくない』という意識が強い傾向があります。部下は正解を探すより、『正解待ち』のスタンスなので、上司から具体的な指示が欲しい。上司も部下に正解を渡すほうがスムーズに仕事が進むので、やるべきことをすべて用意する。正解を待つ部下に、正解を渡す上司。かみ合わせが非常にいいんです」
一見すると、何も問題が起きていない組織に見える。だが、このシステムは大きな問題を孕んでいるという。
「部下は指示されたことをやるだけなので、成長の余白がないんです。仕事にやりがいも感じられない。コミュニケーションが上司から一方通行なので、意思疎通が図れず組織が停滞する。部下が辞めた時、会社の業績が落ちた時に何が問題だったのかを見つけるのが難しくなります」
就職氷河期を経験した40~50代の中間管理職について、ある特徴を指摘する。
「勉強ができる優等生タイプが多いです。責任感が強いので、5つのプロジェクトを持ったらすべてで100点を取ることを考える。オール5を目指す発想なので、部下に仕事を任せることにリスクを感じてしまう」
■ポイントは助言の仕方
小林氏は、中間管理職が発想を変えることを提言する。
「例えば、1つのプロジェクトが70点でも、他のプロジェクトで130点にすれば平均は100点になります。失敗を想定しながら部下に仕事を任せないと、リスクヘッジばかり考えて能力が伸びていきません。ポイントは助言の仕方です。『部下に聞かれたアドバイスをできない自分はダメ』と思い込んでいる上司が多いですが、正解を渡すことに慣れてはいけません。部下に何が正解かを考えさせることが重要ですし、自分が分からない時はその問題の専門家である違う人を紹介したり、『この本を読んだら?』と助言するだけでもいい。部下は正解の道を模索する上で、上司とコミュニケーションを積極的に取るようになります。時には口論になるかもしれませんが、それだけ仕事に対する思いが強いということです。ネガティブに捉える必要はありません」
職種に限らず、仕事に対する向き合い方やキャリア観の違いなどで、若者と世代間のギャップに悩んでいる中間管理職は少なくない。だが、互いに力を合わせて仕事にやりがいや愛着を感じる組織を構築できれば、見える景色が変わってくるだろう。就職氷河期を経験した世代が、一人でも多く報われることを願うばかりだ。
(ライター・平尾類)