トランプ氏の国内派兵、何が起きているのか

首都ワシントンに配備された州兵(8月)
ドナルド・トランプ米大統領は国内での州兵派遣をさらに推し進め、イリノイ、オレゴン両州の民主党系指導者との新たな法的闘争の火ぶたを切った。
大統領は1月の就任以降、州兵を複数の都市に派遣しており、「法と秩序を回復する」ために軍隊を国内に展開することの合法性に疑問が生じている。
地元の指導者らは反発し、大統領は犯罪に対する懸念を過度にあおっており、州兵の派遣は緊張状態を悪化させるだけだと主張している。
連邦政府の取り組みについて知っておくベき点をまとめた。
トランプ氏は州兵をどこに展開してきたか
トランプ政権はこれまで、連邦政府の指揮下にある数千人の州兵を首都ワシントンとロサンゼルスに派遣し、テネシー州メンフィスではより小規模な動員を開始した。大統領はニューヨーク、ニューオーリンズ、ボルティモア、サンフランシスコなど他の都市への部隊派遣の可能性も示唆している。
トランプ氏はまた、オレゴン州ポートランドへの部隊派遣を試みたが、先週末に阻止された。同州の連邦地裁判事カリン・イマーグット氏は4日、オレゴン州兵200人を連邦政府の指揮下に置くことを差し止めた。これを受け、トランプ政権はカリフォルニア州から州兵200人をポートランドに派遣するよう命じた。イマーグット判事はその後、オレゴン州へのいかなる部隊派遣も当面差し止めるより広範な命令を出した。政権側は控訴している。同判事はトランプ氏に指名されて現職に就いた人物だ。
トランプ氏は先週末、イリノイ州の州兵300人についても連邦政府の指揮下に入るよう命じ、テキサス州の州兵に関しても同じことを行う可能性を示唆した。イリノイ州の当局者は6日、州兵の展開を阻止するために提訴した。
現在、州兵が最も多く動員されているのは首都ワシントンで、8月以降2300人を超える州兵が駐留している。ロサンゼルスには今も約300人の兵士が残っている。トランプ政権は6月、不法移民の摘発を巡る抗議活動を鎮圧するため、州兵4000人と海兵隊員700人を派遣していた。

オレゴン州ポートランドのキース・ウィルソン市長
州兵は派遣先の都市で何をしているのか
派遣された州兵は今のところ、威力を示す役割を主に果たしている。州兵に逮捕権限はないが、差し迫った安全上の脅威とみなされる個人を一時的に拘束し、警察に引き渡すことができる。
国防当局者によると、ワシントンでは、州兵は目に見える犯罪抑止力として派遣されている。ナショナルモールなど人気の観光地、記念碑、駅の周辺や、高級レストランが集まる地区を巡回している様子が多く見受けられる。
州兵には美化活動の任務もある。州兵を監督するチームの担当者によると、ワシントンに配置された州兵は9月3日時点で1130袋分のごみを拾い、計1000立方ヤード(約765立方メートル)分の植物の保護材を広げ、計270フィート(約83メートル)分の柵にペンキを塗り、400本の木を刈り込んだ。

9月下旬、首都ワシントンでごみ拾いをする州兵たち
ロサンゼルスでは、州兵は連邦政府の施設の警備や、移民関税執行局(ICE)の係官を含む法執行当局者の保護といった任務を与えられている。
州兵の本来の役割は何か
計43万人の人員を擁する州兵組織は一般市民で構成される武装部隊で、兵士は特定の州で任務に就き、州知事の指揮下で臨時の役割を果たすのが普通だ。州兵は自然災害や暴動など州レベルの問題に対処するが、国家レベルの問題で連邦政府の指揮下に入ることもあり、国外に派遣されることもある。
例外的ではあるが、大統領が暴動鎮圧のために州兵を展開させたこともある。1968年にはマーティン・ルーサー・キング牧師の暗殺を受けて、リンドン・ジョンソン大統領が1750人の州兵と1万1000人余りの正規軍兵士をワシントンに展開させた。
陸・海・空軍と海兵隊は州兵とは違って国防総省に属し、大統領の指揮下にある。
政権は州兵を派遣する都市をどのように選んでいるのか
トランプ氏は州兵の展開が必要な理由として、犯罪への対応と連邦政府施設の安全確保を挙げている。同氏はロサンゼルスやシカゴといった一部の大都市のことを、民主党の支配下にある「無法地帯」と呼ぶ。
「われわれは内部からの侵略を受けている」とトランプ氏は先週述べた。「彼らは外国の敵と何ら変わりはないが、制服を着ていないので多くの点でもっと厄介だ。制服を着ていれば、少なくとも排除できる」
ポートランドに関しては、ICEの施設が「アンティファの攻撃を受け、包囲されている」と主張した。アンティファは反ファシストの抗議行動を主導する緩やかなネットワークで、トランプ氏が最近テロ組織に指定した。

米議会議事堂付近を歩く州兵(9月下旬)
トランプ氏はこれまで、民主党が強い州の同党支配下の都市に主に焦点を当ててきた。そうした都市の多くは他の主要都市より犯罪率がはるかに低い。入手可能な連邦捜査局(FBI)のデータによれば、人口10万人以上の都市における住民1人当たり殺人発生件数では、シカゴとニューヨークは上位20位以内に入っていない。
国内で特に殺人発生率が高いミズーリ州セントルイスやアラバマ州バーミングハムなどの都市は、トランプ氏の標的になっていない。
大統領は犯罪を口実にして自身の政敵が統治している都市を標的にしている、と批判する向きもある。
イリノイ州とシカゴ市の弁護団は6日の提訴に当たり、「米国民はどこに住んでいるかにかかわらず、米軍による支配の脅威下で生活すべきではない」と主張した。「特に、その理由が単にその都市や州の指導者が大統領の不興を買ったからというものであってはならない」
犯罪抑制のための州兵派遣は合法か
19世紀に制定された連邦法「ポッセ・コミタトゥス法(民警団法)」は、国内の法執行における連邦兵士の役割を厳しく制限している。連邦政府の指揮下に入れられた州兵は、法的に定義されたまれなケースを除き、民間人を取り締まることはできない。
オレゴン州のイマーグット判事は、政権が権限を逸脱したとの見方を示し、ポートランドでは連邦政府当局に対する反乱の危険性はなく、連邦政府が介入しなくても市警察が抗議活動に対応できるとの判断を示した。
ワシントンは連邦政府の管理下にあるため、トランプ氏は州兵を派遣できた。ロサンゼルスでは、同氏は連邦政府の建物や職員がデモ参加者による脅威にさらされていることを理由に挙げた。幾つかの都市が、州兵派遣は違法だとする訴訟を起こしている。
ある連邦判事は9月初め、トランプ氏によるロサンゼルスへの州兵派遣は違法だとの判断を示した。この判事は、国防長官が州兵の任務を不適切に拡大し、保安パトロールや群集統制、交通規制、暴動鎮圧などをさせたと述べた。政府は控訴している。