映画「秒速5センチメートル」聖地がエモすぎた

松村北斗主演、人気アニメーション映画の実写化が話題です(写真:X『秒速5センチメートル』映画公式アカウントより)
10月10日、映画『秒速5センチメートル』が公開されました。新海誠監督による、2007年公開の同名アニメーション映画の世界観を引き継ぐ実写化作品です。
【写真】「再現度が高すぎる…」まるで“秒速”のワンシーンのような、全国の聖地
新海監督といえば、アニメーション映画の『君の名は。』(2016年、興行収入250.3億円)、『天気の子』(2019年、興行収入142.3億円)、そして『すずめの戸締まり』(2022年、興行収入147.9億円)で記録的な大ヒットを収めたことで知られています。
今作の主演は、その『すずめの戸締まり』で重要な役割である「宗像草太」役の声を務めた「SixTONES」の松村北斗さんです。
作品の原点といえば…栃木県「岩舟駅」
『秒速5センチメートル』とは、作品の中でも語られている、「桜の花が舞い落ちるスピード」から来ているタイトル。一見、科学的数値のようなタイトルでありながら、心理的、物理的な距離、時間感覚といった作品の世界観を見事に示しており、これぞ新海作品の原点、と高く評価されている作品です。
作品の舞台は、主人公の「遠野貴樹(とおの・たかき)」が小学校時代に住んでいた東京から、「篠原明里(しのはら・あかり)」と会うために出かけた栃木県岩舟、そして高校時代を過ごした鹿児島県種子島、そして就職してシステムエンジニアとして働く東京へと移り変わります。
アニメ版では、それぞれの場所を舞台に、第1話『桜花抄』、第2話『コスモナウト』、第3話『秒速5センチメートル』の3つの短編に分かれていて、それらが密接に関わり合いながら、「貴樹」の成長と青春の葛藤を描く1つの作品としてまとめられていました。
栃木県南部の小山駅から、JR両毛線に乗って約20分。栃木市にあるJR岩舟駅は、アニメ版の第1話『桜花抄』で、13歳の「貴樹」と「明里」が雪の降る中を過ごす感動的な場所として、有名な舞台地です。

アニメ版『秒速5センチメートル』のポスタービジュアルにも登場した、「岩舟駅」の外観とその付近(写真:アビー8/PIXTA)
駅の忠実な描写がファンの心に残り、聖地巡礼先として大変な話題になりました。また、JR宇都宮線から両毛線への乗換駅であるJR小山駅ホームにあった立ち食いそばの名店「きそば」も作品に登場し、「聖地」として賑わっていました。
残念ながら同店は2022年に惜しまれつつ閉店しましたが、閉店前は行列ができるほどの人気でした。
実写版では、雪の光景を映し出すためなのか、豪雪地帯としても有名な長野県の黒姫駅(しなの鉄道)で撮影されたということで、こちらも新たな聖地となりそうです。

実写版のロケ地となった長野県の黒姫駅(写真:kotaro88/PIXTA)
『コスモナウト』のすべてが詰まった「種子島」
続いて、アニメ版の第2話『コスモナウト』の舞台となった鹿児島県の種子島です。「貴樹」が移り住んで通った「中種子(なかたね)高校」(現在は他校と合併し「種子島中央高校」)を中心に、青春の1ページが生き生きと描かれています。

主人公が通った「中種子高校」の舞台となった「種子島中央高校」。駐輪場は作中にも登場します(筆者撮影)
新海監督は、アニメーションの制作時、中種子町のホテル「グリーンホテルさかえ」に滞在し、作品の構想を練ったのだとか。ホテルは当時と変わらず営業していて、新海監督が滞在した「205号室」は、ファンにとっての「聖地」。
部屋から見える風景はアニメ版に登場したことから、同じカットの写真を撮ろうと、この部屋に滞在するファンもいるそうです。
アニメ版では、島のちょうど真ん中の東海岸に位置する「中山海岸」をはじめ、いかにも南の島らしい美しいビーチが作品に花を添えます。

新海監督が実際に滞在した「グリーンホテルさかえ」の「205号室」。作中にも登場する、部屋から見える景色はこんな感じです(筆者撮影)

『コスモナウト』のヒロイン「花苗」がよくサーフィンをしていた「中山海岸」(筆者撮影)
また、中種子町にあるコンビニ「アイショップ 石堂店」は、「貴樹」と、第2話のヒロインである「花苗」が立ち寄るシーンに印象的に登場します。
さらに、2人の別れのシーンが描かれる「種子島空港」は、現在は廃空港になってしまっていますが、現在でもその姿を見ることができます。
これらの聖地が、実際の風景を元に作中ではきわめて精緻に描かれています。

九州のコンビニチェーン「アイショップ 石堂店」もファンにはお馴染みの場所となっています(筆者撮影)

現在は使われていない「旧種子島空港」(筆者撮影)
世界に、そして宇宙に開かれた場所
そして、種子島を象徴する風景としては、ロケットの打ち上げを抜いては語れないでしょう。
島の南部、南種子町にある「種子島宇宙センター」は、総面積約970万平方メートルにもおよぶ日本最大のロケット発射場で、その海岸線の美しさから、「世界一美しいロケット発射場」とも言われています。
「大型ロケット発射場」「衛星組立棟」「衛星フェアリング組立棟」などの設備があり、打ち上げに関わる一連の作業を行っています。作中でも、美しい海岸線からロケットが打ち上がるシーンが印象的ですが、同じように、島の多くの場所から打ち上げを見学することができ、島外からも多くの観光客が訪れています。

「種子島宇宙センター」に屋外展示されているロケットの模型。打ち上げの際には島のあちこちでその様子を見ることができます(筆者撮影)
さらに種子島といえば、海外から鉄砲が伝来した地として、歴史の授業で学んだ人も多いはず。今でもその史跡が残っていて、のどかな島でありながら、世界に、そして宇宙に開かれた場所という独特な世界を体感することができる、不思議な島です。
種子島は、他にも2012年発売のアドベンチャーゲーム「ロボティクスノーツ」の舞台として知られていて、島内では当時キャラクターのラッピングバスが運行されました。
筆者は、2018年にこの両作品を巡る「聖地巡礼ツアー」に参加しましたが、たくさんの絵になる風景に感動した記憶があります。

ポルトガル人によって伝えられたという鉄砲(筆者撮影)

ゲーム発売当時、島内を走っていた「ロボティクスノーツ」のラッピングバス(筆者撮影)
東京・小田急線沿線で描かれた「切ないシーン」
そして、舞台は種子島から東京へと戻ります。アニメ版の第1話『桜花抄』に登場するのは、新宿駅からわずか2駅、東京都渋谷区にある小田急線の参宮橋駅近くの踏切です。
ここは、「貴樹」と「明里」が「来年も桜の木を見よう」と話し、「明里」が転校のことを「貴樹」に告げるという、切ない名シーンが繰り広げられる場所。『秒速』の聖地として訪れる人も多く、今作の映画版のロケも付近で行われたようです。
また、「貴樹」が社会人となって過ごした場所も、参宮橋駅から代々木八幡駅あたりのエリア。アニメ版の第3話『秒速5センチメートル』では、「貴樹」と大人になった「明里」が偶然すれ違う踏切も近くにあります。
ここは、作品全体のテーマとなっている「桜」の名所として知られていて、童謡『春の小川』のモデルになった地域でもあります。

大人になった2人がすれ違う、参宮橋駅付近の踏切(写真:HIT1912/PIXTA)

桜の季節になると、まさに映画の世界が再現されたような風景が見られます(写真:舞流sky/PIXTA)
ここから小田急線に沿って、世田谷区の世田谷代田駅まで続くエリアは、数多くの作品の舞台地となった街が続きます。
途中の下北沢は、映画『劇場』(2020年)や『ざわざわ下北沢』(2000年)のロケ地となった街。現在は小田急が地下駅となり様変わりしましたが、それでも多くの小劇場がある街として賑わっています。

多くの小劇場があるカルチャーの街・下北沢(筆者撮影)
そしてそこから隣の世田谷代田駅にかけては、大ヒットドラマ『silent』(2022年、フジテレビ)のロケ地となり、話題になりました。世田谷代田駅西口のベンチや近くのカフェには、主演した川口春奈さんや目黒蓮さんの気分を味わおうと、現在でも多くのファンが訪れています。
さらに、代々木上原駅近くには日本最大のイスラム系のモスクである「東京ジャーミイ」があります。東京にいながらにして、宮殿のような建物や礼拝所など、異国情緒あふれる写真が撮れる人気スポットです。

ドラマ『silent』効果で、放送当時、多くのファンであふれた「世田谷代田駅」(筆者撮影)

異国情緒漂う、見事な宮殿の「東京ジャーミイ」(筆者撮影)
新海作品の「聖地」に選ばれるということ
この『秒速5センチメートル』から、名作と名高い『言の葉の庭』(2013年)、そして大ヒット作『君の名は。』へと新海作品はつながっていきます。
新海作品といえば、精緻で圧倒的な映像美や、選ばれた風景には何とも言えない詩情があります。それぞれの作品で、登場人物を彩る舞台となった場所が生き生きと表情をもって描かれていて、観る人に深い没入感をもたらします。
あらめて実写版の映画の世界に触れ、アニメ版との違いを感じながら、それぞれの聖地に足を運びたいものです。