「藤沢・茅ヶ崎より地味」だった駅が激変したワケ

湘南の人々の憩いの場, 「サーキットモール」だから歩いても疲れない, 他の商業施設にはない心遣い, 街を取り込み、街とつながる, 湘南スポットとして魅力を高めた辻堂

湘南エリア最大級の商業施設「テラスモール湘南」(筆者撮影)

波の音と海風が、心地良い。海を感じながら、人々が豊かに暮らしている。この街にいると、自然と気分が明るくなる――。
湘南の海に一度は行ってみたいと、日本中の人が憧れる場所だ。
さまざまな街にある商業施設を、「どのようにして街を変えたか」という観点からレポートする本連載。今回は「辻堂」周辺を歩く。

新橋駅からJR東海道線に50分ほど揺られ、辻堂駅に着いた。平日の昼間にもかかわらず多くの人が降り、続々と「テラスモール湘南」へ流れていく。

【画像】もう地味とは言わせない!「テラスモール湘南」で変化する街・辻堂

辻堂駅は湘南エリアのなかでも、両隣の藤沢駅や茅ヶ崎駅に比べると地味な街だった。そんな辻堂を一躍有名にしたのが、2011年にオープンした大型商業施設「テラスモール湘南」である。

「テラスモール湘南」は、第6回日本ショッピングセンター大賞で金賞を受賞するなど、日本を代表する大型商業施設となった。何が魅力なのだろうか。

湘南の人々の憩いの場

辻堂駅から「テラスモール湘南」は屋根でつながっており、カーブが印象的で明るく開放的な広場が出迎えてくれる。

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駅から濡れずにアクセス可能(筆者撮影)

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「テラスモール湘南」といえばこの景色を思い浮かべる人も多いはず(筆者撮影)

館内へ入ると、白を基調とした空間に、高感度なアパレルやジュエリー、コスメを扱うブランドが並ぶ。入ってまず感じるのは、洗練された印象。駅から来た人を迎えるこのゾーンが、施設の印象を形作っている。

一方で、サミットやユニクロ、無印良品、ロフト、ノジマ、有隣堂、109シネマズといった日常使いの大型店舗もそろっている。地元で暮らす人にとっても、便利な施設だ。

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近所にあると便利な店舗たち(筆者撮影)

「サーキットモール」だから歩いても疲れない

1階から4階に約280もの店舗が集まっているが、「広すぎて疲れる」ことはない。

「テラスモール湘南」は、当時主流であった、1本の長い通路が続く「2核1モール」ではなく、「サーキットモール」の構造が採用されたからだ。

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2核1モールの例。長い1本道が続く(出典:「イオンモール幕張新都心」公式ホームページ)

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「テラスモール湘南」の1階フロアマップ。ぐるっと1周するサーキットモールになっている(出典:「テラスモール湘南」公式ホームページ)

さらに、至るところに座れるスペースが用意されており、疲れそうになったらすぐに休憩できる。くつろげる場所、たたずめる場所が数多く設けられているのが、「テラスモール湘南」の魅力の1つだ。

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2階、3階、4階と段丘状にテラスが作られている(筆者撮影)

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テーブルや植栽の一つひとつのデザインにこだわりが見られ、施設の雰囲気を醸成している(筆者撮影)

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施設内の静かなスポットでは、鳥のさえずりのBGMが聞こえてきてさわやかな気分になる(筆者撮影)

各スペースで、休んだり、本を読んだり、談笑したりする人の姿があった。子連れから高校生、若いカップル、年配夫婦と年齢層も幅広い。

「テラスモール湘南」は、地元の人々みんなの憩いの場になっている。

他の商業施設にはない心遣い

「テラスモール湘南」の2つ目の魅力は、ファミリーへの配慮が行き届いていること。

通路幅が広く、ベビーカーでも楽々歩ける。外には噴水があり、水と楽しそうにたわむれる子どもたちの姿があった。

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噴水は子どもたちが遊ぶ場としても景観としても有効なツール(筆者撮影)

3階には、アカチャンホンポをはじめ、子ども向けの店舗がまとまっている。

子ども向け店舗ゾーンの隣にあるフードコートには、「ファミリー優先エリア」が設けられている。これは、混雑する11:00〜15:00の時間帯に、乳幼児〜小学校低学年の小さな子どもを連れたファミリーが優先的に利用できるというもの。

目を見張るのが、フードコートでのサポートサービス。ファミリー優先エリア内に用意されている専用の立て札を取り、テーブルに置いておくと、なんと注文した商品をスタッフが持ってきてくれるのだ。

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サポートサービスの立て札(筆者撮影)

ベビーカーで子どもを連れて注文したが、商品を取りに行く際に子どもから目を離せない……なんてお困りごとを助けてくれる。数々の商業施設を見てきたが、このサービスには初めて出会った。

2024年春の施設リニューアル時に正式にサービス化されたものだが、口コミを見ていると、それ以前からスタッフが自主的にこのようなサポートをしていたらしい。

他の商業施設にはない、真の心遣いである。

「テラスモール湘南」最大の魅力は、湘南の街を施設に取り込んでいることだ。

まずは、テナント。

駅側から来る人を迎える入り口にあるTOASTY’Sは、葉山の会社が運営するカフェだ。

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駅側からの施設の“顔”部分に地元のテナントがある(筆者撮影)

食物販店舗が集積する1階の「湘南マルシェ」にも、地元の店舗が出店している。

さらにフードコート「潮風キッチン」にも、SHONAN Grill Style、藤沢・鎌倉名物里のうどん、江の島しらす問屋 とびっちょがあり、地元色がしっかり表れている。

せっかくなので、江の島しらす問屋 とびっちょの釜揚げしらす丼をいただくことにした。

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以前、湘南観光をしたときにしらす丼を食べたことを思い出した(筆者撮影)

商業施設のフードコートで、このような地元の食を楽しめるのはうれしい。

実は、地元テナントの出店は、施設を開発・運営するデベロッパーとテナントの双方に難しさがある。商業施設への出店に慣れているナショナルチェーンと違い、独特の統一運営や契約形態に戸惑うケースが多いからだ。

しかし、地元テナントは商業施設の個性を形作るうえで重要な存在だ。日本ショッピングセンター協会SC経営士会は、ナショナルチェーンばかりではよく見る顔ぶれが並んでしまうことを指摘し、テナント構成の魅力アップのために、地元テナントの積極的な導入を図るべきだと主張している。(一般社団法人日本ショッピングセンター協会SC経営士会著『SC経営士が語る 新・ショッピングセンター論』/繊研新聞社)

「テラスモール湘南」は、地元テナントが出店しているからこそ、“湘南らしい”商業施設になっている。

街を取り込み、街とつながる

「テラスモール湘南」を“湘南らしく”しているのは、テナントだけではない。

特筆すべきは、「湘南ヴィレッジ」。大部分の店舗が屋内にあるエンクローズドモールであるなかで、ここは屋外にあるオープンモールになっている。

大型商業施設にいながら、まるで街中をウィンドーショッピングしているような楽しさを味わえる空間だ。

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街中の路地のよう(筆者撮影)

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風が感じられて心地良い(筆者撮影)

施設の外周、歩道(公道)側にもベンチやテラス席が設置されており、施設と街の境界をゆるやかにしている。

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街側にもテラスが作られている(筆者撮影)

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施設と街にはっきりとした壁がなく、つながりが感じられる(筆者撮影)

さらに、外観も街に開かれている。テラスの見える景色が海らしい雰囲気を演出し、壁が垂直ではなく段丘状になっていることで圧迫感がない。

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パラソルが施設に花を添えている(筆者撮影)

「テラスモール湘南」は“湘南らしさ”を取り込み、湘南の街とつながっている。

湘南スポットとして魅力を高めた辻堂

商業施設は日本各地にあるが、似たような店舗が並び、施設と街は遮断され、中にいると「どの街にいるのかわからない」ようなところも少なくない。

そんななか「テラスモール湘南」は、湘南の街を取り込み、街に開かれていることで、地元の人にも広域から訪れる人にも愛される施設になっている。

「テラスモール湘南」ができたことで、辻堂は茅ヶ崎や藤沢とは一味違う、魅力ある湘南の街に変貌を遂げたのだ。

【後編】東海道の宿場町が「ブランド街・湘南」になるまで