モデル応募前の阿部寛『ふぞろいの林檎たち』で「勘違いできたこと」で俳優の道へ、一生の宝となった「高倉健さんとひと言だけセリフを交わす」工事人A役

阿部寛 撮影/有坂政晴 ヘアメイク/AZUMA スタイリスト/土屋詩童

コミカル、クール、ニヒル……阿部寛といえば、どんな役も絵になるトップ俳優だ。今秋、阿部が挑むのは、ネットの炎上によって無実の罪を着せられるサラリーマンの逃避行。モデルから転身し、役者の道に“覚悟の半生”を投じてきた阿部寛のTHE CHANGEとは──。【第2回/全3回】

「20代は、演技で評価されるということがなかったですね。身長が189センチあるからって、背が高くてカッコつけた役しかこなかったです」

最新の主演映画『俺ではない炎上』で殺人犯の濡れ衣(ぬれぎぬ)を着せられ、ネットユーザーの追跡から逃げ回る中年男性・山縣泰介を感情むき出しで演じた阿部寛。いまでこそモデル出身の俳優は珍しくないが、『MEN'S NON-NO』などの雑誌モデルから俳優に転身した当時、演技は手さぐりだった。

「思えばモデルに応募する前、ドラマ『ふぞろいの林檎たち』(1983・TBS系でスタート、以後4シリーズを放送)が好きで見ていました。山田太一さんの脚本で、淡々と普通の日々が続くような展開が、いい意味で衝撃的だったんです。俳優さんの演技もナチュラルで、“俺にもできるかもな”と思ったのが、初めて俳優に興味を持った瞬間でした。山田さんのドラマって、“普通なところ”がいいんです」

すぐスランプに「モデルとしての人気も下がってきて、仕事がなくなっていったんです」

とはいえ、モデル時代にはまだ俳優業への興味は薄かった。それでも1987年に『はいからさんが通る』の伊集院少尉役で映画デビューすると、1990年代初頭には期待の若手俳優に。だが、スランプはすぐやってきた。

「役者としてのこだわりもないままやってきて、セリフを言うだけで精一杯でした。しかもモデルとしての人気も下がってきて、仕事がなくなっていったんです。そもそもモデルとしても『MEN'S NON-NO』と『non-no』(ともに集英社)しかほとんどやっていなかったから、まだ当時はプロとはとても言えない半端者でした。“何とかしなきゃいけない”と、武道をやったり、習い事をやってみて、自信をつけようとしていました」

阿部寛 撮影/有坂政晴 ヘアメイク/AZUMA スタイリスト/土屋詩童

危機感を持った阿部がいちるの望みをかけたのが、1992年のドラマ『チロルの挽歌』(NHK)。「工事人A」という役だった。

「主演の高倉健さんとひと言だけセリフを交わす、名前もない役がありました。当時はそんなに仕事もないし、行ったことによって“何か自分は変わるんじゃないか”と、健さんに会うために“この役をやらせてください!”ってお願いしましたね。“こんな役でもいいんですか?”って言われても“いいんです!”と即答して。そのセリフひとつのために、北海道の現場に行きました」

健さんを眺めるだけ「現場でどう振る舞っていて、どんなオーラがあるんだろう」

──実際に高倉健さんに会ってみての思い出は?

「当時の僕は “どういう人なんだろう、現場でどう振る舞っていて、どんなオーラがあるんだろう”と、健さんを眺めるだけでした。俳優としてはもちろん差があるから、到底取り入れるなんてできないんだけれど、“姿を生で見た”というだけでも、一生の宝になる。見たという事実が自分の中に残るじゃないですか。それが自分の人生の中の財産ですね」

──体験してみることで、人生が変わっていったと。

「そう思います。まず『ふぞろいの林檎たち』で、いい意味で勘違いできたことも、潜在的に自信につながったのかもしれないです(笑)。そして『チロルの挽歌』も山田太一さんの(脚本)作品でした。縁もあるし、偶然でも“面白いな”“すごいな”と心が動く瞬間に出合えることが大事なんだなと、その後の人生でも実感します」

もがいていた20代を経て、30代以降も阿部の奮闘は続く。「初めて演技をほめてもらえました」という舞台『熱海殺人事件モンテカルロ・イリュージョン』や、人々との出会いで二枚目俳優の殻を破っていった。

阿部寛 撮影/有坂政晴 ヘアメイク/AZUMA スタイリスト/土屋詩童

阿部寛(あべ・ひろし)

1964年6月22日生まれ。神奈川県出身。189センチ。『MEN'S NON-NO』(集英社)のモデルとして活躍後、1987年に映画『はいからさんが通る』で俳優デビュー。1994年に映画『凶銃ルガーP08』『大阪極道戦争・しのいだれ』で第4回日本映画プロフェッショナル大賞特別賞を受賞。その後、2000年にスタートした主演ドラマ『TRICK』(テレビ朝日系)がヒットし、その後もドラマ『ドラゴン桜』シリーズ(TBS系)、『結婚できない男』シリーズ(関西テレビ・フジテレビ系)、『坂の上の雲』(NHK)、映画『テルマエ・ロマエ』(2012・2014)など主演作多数。2025年は映画『ショウタイムセブン』『キャンドルスティック』、ドラマ『キャスター』(TBS系)で主演。レトロなデザインの公式ホームページもしばしば話題を呼んでいる。

ヘアメイク/AZUMA

スタイリスト/土屋詩童

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■【画像】阿部寛の“一生の宝”となった「工事人A」役で出演した高倉健主演作

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