「仕事ができる人しかいらない」怖い世界……アメリカ・GAFAの競争社会で日本人が気づいた「たかが仕事」マインドの大切さ

仕事ができないとクビにされる――そんなイメージもあるアメリカの過酷な競争社会。その現実を目の当たりにした日本人の記事が、話題になった。高いプレッシャーのなかで、どのようにして仕事に向き合っているのか? 米Amazonのシニア・プロダクト・マネージャー・テクニカル、福原たまねぎさんに聞いた。<【前編】就活失敗、文系卒から32歳で米Amazonに就職 1日16時間勤務を経てシアトル本社に行くまでの半生>から読む
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「アメリカで働いて感じるのが、“たかが仕事”というマインドです」
福原たまねぎさんはそう話す。日本のアマゾン・ジャパンに6年間勤め、アメリカのAmazon USに転籍して今年で4年目になる。エンジニアと一緒にサービスや機能を開発するプロダクト・マネージャー(PM)として働いているが、同じ会社でも日本とアメリカで働き方は「ぜんぜん違う」という。
福原さんは仕事の傍ら、「note」で働き方について日々の気づきを書いている。中でも話題になったのが、アメリカでの競争環境について書いた記事「"仕事のできるエンジニアしかいらない"という怖い世界」だ。そのなかに、こんなエピソードが出てくる。
福原さんはPMとしてあるプロジェクトに途中から参加した。締め切りまであと3カ月しかない。そんななか、大学卒業から半年も経っていない若手エンジニアが、プロジェクトから外された。
「そんなバカな!」。エンジニアは彼を含めて6人しかいない。しかもあと3カ月しかないというときに、なぜ人を外すのか……。それに対し、福原さんの上司、リサさんは言った。
「大丈夫、私を信じて。仕事があんまり出来ないエンジニアがいなくなると、驚くぐらいチームが機能するから」
■生産性を上げる「非常に厳しい学び」
本当にそうなった。一人ひとりのエンジニアが「イキイキとし始め」、驚くほどスムーズに仕事が回った。結果、そのプロジェクトは大成功した。
チームから外されたエンジニアは、大事な話を聞いていなかったり、一度聞いた話をまた質問したりすることがあったという。そのせいで、ほかのエンジニアたちも不満を漏らしていた。
「仕事ができない人がいない」環境こそがチームの生産性を上げる。得られたのは非常に厳しい学びだった――。
このエピソードについて、福原さんは「確かに評価はシビアです」と言いつつ、こう話す。
■「たかが仕事」でメンタルを守っている
「ただ、合う、合わないの問題もあると思っています。以前、チームを外れた人に連絡したら、新しい会社で楽しくやっているようでした。ここで合わないなら別の会社で活躍すればいい、という『たかが仕事』のメンタリティをみんな持っているように感じます」
「たかが仕事」とはどういうことか。福原さんは、これこそがアメリカの特徴的な点だという。
「アメリカの人たちは、仕事と適切な距離を置き、人生を仕事に支配されないことを意識しています。そうすることで、仕事で大変なことがあっても、それでメンタルがやられないよう事前に防いでいる印象です。

大事なのは『長い時間、会社にいること』ではなく、自分が何を生み出したかにフォーカスすること。成果が出たらさっさと帰って、推しのライブに行っても、家族や恋人とご飯に行ってもいい。
アメリカの成果主義は『成果を出せば細かいことは問われない』という良い面もあります。悪い面ばかりが強調されがちですが、会社にとっても社員にとっても、目標の成果が出ていればそれで良いはず。逆に言えば、成果さえ上がればあなたを拘束しません、というポジティブなメッセージでもあると思っています」
■アメリカの一流が深く認識していること
一方で、アメリカでは「レイオフ(一時解雇)」もある。アメリカのテクノロジー業界では、2022年末に多くの会社で大規模なレイオフが行われたことも話題になった。
「まず前提として、レイオフが行われる理由は場合によりますが、必ずしも能力と関係あるものではありません。レイオフは会社都合で行われるものです。みんな怖さを感じていました。
2022年末に大規模なレイオフがテクノロジー企業を中心に実施された際には、シアトルの町全体がどよんとしているような印象がありました。特に景気が悪いときのレイオフは、ほかの会社への再就職も困難になるので、やはり恐れているという印象はあります。
大事なのは『いつでもどこでも働けるようなスキルや実力を持っていること』だと思います。この点をアメリカの一流の人材は深く認識している印象があり、みんなMBA(経営大学院)に行ったり、エンジニアなら新しい技術をどんどん勉強したりと自己研鑽をしています」
■人を「育てる」のは失礼?
福原さんが指摘するのは、この「自己研鑽」の意識がアメリカでは非常に強いという点だ。
「エンジニアがチームから外されたエピソードの記事を書きましたが、これに対する反応で興味深かったのは『人材育成の観点ではどうなのか?』というものです。仕事ができないからといってチームから外してしまっては、人材を育てられないのではないかと。
しかしアメリカには、そもそも『人を育てる』という概念があまりありません。エンジニアなど一部を除けば、アメリカの大手企業は、新卒入社の入口が狭いことがほとんどです。知り合いのプロダクトマネージャーを見ても、多くは誰も知らないような会社を3~4社経験してから大手に来ています。大人を“育てる”という発想自体が失礼、という感覚もありますね。
小さいところであれば、経験の浅い人を求める企業はあります。そういったところで経験を積めば、大きな企業は教育コストをあまりかけずに実力のある人を採れますし、個人もスキルを磨いて次に進むことができる。そんなキャリア環境があります」

■日本のエンジニアは大切にされていない
ちなみに、福原さんは今の会社では、どのようなことを意識して働いているのだろうか。
「僕が意識しているのは、エンジニアが作ったものへのフィードバックをデータで持ち帰ることです。『顧客からこんなに喜ばれている』『ここは不満が多い』と定量的に示すと、エンジニアはとても喜ぶ。当たり前に見えて難しいので、意識してやります。
これは新卒で働いたベンチャー時代に学んだことです。地道でもデータを取りに行って、フィードバックする。日本では、そのように大切にされていないエンジニアが多い気がします。
アメリカは確かに競争がありますが、やっていることはみんなで良いものを作ること。だからみんな協力するし、基本的にみんな機嫌がいいんですよね。もし頑張っても合わないなら、人も役割も変える。上司に『合ってないかも』と言われれば、『では転職します』となる。部署異動でお茶を濁すのではなく、オープンに動いて適材適所を探る考え方があると思います」
「たかが仕事」の姿勢で距離を置きつつ、どの会社でも通用するスキルを磨く――逆説的だが、シビアな環境ゆえにスキルが磨かれ、結果的に安心して仕事を楽しめる基盤ができているのかもしれない。
(構成/白石圭)
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福原たまねぎ/Amazon USシニア・プロダクト・マネージャー・テクニカル。ワシントン大学MBAメンター(キャリア・アドバイザー)。大学卒業後、ベンチャー企業を経て、2016年、アマゾン・ジャパンに入社。webプロデューサー、プロダクト・マネージャーを務め、22年、Amazon USに転籍。25年、執筆したnote記事のひとつ「"仕事のできるエンジニアしかいらない"という怖い世界」が話題になった。
※インタビューの内容は個人の意見であり、所属会社・団体を代表するものではありません。