物語は食育から“食文化の継承”へ――鯨の竜田揚げ、筑前煮、せんべい汁…「おいしい給食」が誘う給食バトルの変遷
1980年代の中学校を舞台に、給食マニアの教師と生徒による「どちらが給食をおいしく食べられるか」という静かなる闘いを描いた「おいしい給食」シリーズ。市原隼人が給食をこよなく愛する中学校教師の甘利田幸男をパフォーマティブに熱演する、異色の学園グルメコメディだ。2019年にテレビドラマとしてスタートし、これまでにドラマ3シリーズが放送、劇場版3本が公開されている。

無言給食を徹底する花堺中学の管理教育者、樺沢(片桐仁)。甘利田とは対立する信念を持つようで…
“今世紀最大の給食スペクタクルコメディ大作”と銘打たれた本シリーズの見どころは、なんといってもハイテンションな給食シーン。「給食のために学校に来ていると言っても過言ではない」と言い切る“給食絶対主義者”の甘利田は、普段は折り目正しく規律に厳しい教師ながら、給食の時間になると人が変わったようにテンションが急上昇。シリーズの恒例である給食前の校歌斉唱はダンスつきで熱唱し、ライバル視する生徒のアレンジ給食を見れば「うまそげじゃないか~!」と心の中で絶叫する。もはや顔芸の域にまで到達した市原の喜怒哀楽が笑いを誘い、その高い身体能力を活かしたオーバーリアクションも絶品だ。

給食を愛する甘利田とケン、それぞれの信念がぶつかる――
万人の共感を呼ぶ「給食」という日常を、驚くほどエキサイティングに描きだす中毒性のあるコメディでありながら、同時に“楽しく食事をすることの大切さ”や“生徒との絆”を温かく映しだすヒューマンドラマでもある本シリーズ。この2つの魅力が絶妙に融合したことで多くのファンを獲得し、10月24日には待望の劇場版第4弾『おいしい給食 炎の修学旅行』が公開となった。
正統派の甘利田に立ちはだかったアレンジの天才
本シリーズを語るうえで欠かせないのが、甘利田の最初のライバルとなった常節中学校の生徒、神野ゴウ(佐藤大志)の存在だ。給食の“実食”に正統派で挑む甘利田に対し、“アレンジ給食の天才”である神野は独創的な発想で次々と新しい食べ方を披露。やがて2人は互いの給食愛を認め合い、ライバルでありながらどこか師弟のような関係を築いていく。
そんな2人の関係の始まりにして象徴とも呼べるシーンが、シーズン1の第1話「鯨の竜田揚げ」のエピソード。かつて学校給食で定番だった懐かしのメニューを前に、神野は持参したタルタルソースを竜田揚げにたっぷりかけてコッペパンに挟み、即席のフィッシュバーガーにアレンジする。その掟破りの創作を目の当たりにした甘利田は「なんて…やつだ…」と呆然!さらに神野はミルメーク(いちご味)に持参したいちごジャムを混ぜ、より果実感たっぷりの“デザート牛乳”を生みだすなど、まさにアレンジ給食の革命児として名を刻んだ。
そして教育委員会の給食廃止に抗った結果、甘利田は黍名子中学校へ転勤。シーズン2では、偶然にも黍名子中に転校してきた神野との給食バトルが再び幕を開ける。そのなかでも印象的だったのが、第2話の「筑前煮対決」だ。甘利田が具材を順に味わう“味のリレー”に終始していたのに対し、神野は筑前煮をごはんと混ぜて“炊き込みご飯風”として見事な一品に仕上げて完勝。さらにデザートのコーヒーゼリーと牛乳をシェイカーで混ぜて“自家製コーヒー牛乳”にしたり、「冷やし中華対決」では、別盛りだった麺と具をそのまま食す甘利田を横目に、持参したガラスの器に盛りつけ直して見た目まで演出するなど、神野の自由な発想が冴え渡っていた。
そんな神野の卒業を描いた『劇場版 おいしい給食 卒業』(22)では、冒頭で「ナポリタン対決」が描かれ胃袋を刺激するが(オムナポにした神野の圧勝!)、彼の卒業では共に“給食道”に邁進した2人の絆が感じられ、感動させられた。
地域の食文化をつなぐ役割としての“給食”
そしてシーズン3の舞台は北海道へ。市原はこのシーズンをスタートさせる際に「シーズン3をやる意義を見いださなければと考えました」と語っているが、その深い想いを反映し、給食バトルは新たなステージへと突入。北海道で出会う人々やご当地グルメを通して、“給食=教育の一環”だった世界が “給食=文化の継承”へとスケールアップしていくのである。
そんな新章で甘利田が赴任したのは、函館の忍川中学校。ここで待ち受けていたのは、新たなライバルの粒来ケン(田澤泰粋)だ。第1話から早速始まった「チリコンカン対決」では、ケンが食パンにチリコンカンと棒チーズを乗せ、教室のストーブで香ばしく焼き上げたピザトースト風アレンジを披露。さらに第7話の「カレースープ対決」では、ライスを平らにして焼き上げ、ナン風にしてカレースープに浸すという斬新な発想で甘利田を唸らせた。
そしてシーズン3を締めくくる劇場版第3弾『おいしい給食 Road to イカメシ』(24)では、甘利田が北海道への赴任を承諾する一因ともなった郷土料理“イカメシ”がついに給食メニューに!北海道の味を学校の食卓に取り入れる“ご当地給食”として、シリーズが本格的に地域グルメの方向へ舵を切った。

給食のおばさん牧野(いとうまい子)が開けるバットの中にはメロンパンが…!
この流れを受け継ぐ最新作『おいしい給食 炎の修学旅行』では、甘利田ご一行が函館を飛びだし2泊3日の修学旅行へ。青森&岩手といった北東北をまわるなかで、名物料理や地元食材をめぐるバトルが繰り広げられ、シリーズ史上最もスケールの大きな“食対決”が展開される。

シリーズ3から引き続き登場する甘利田のライバル、ケン。劇場版でも彼の“アレンジ給食”が唸る
アツアツの「せんべい汁」や、食+エンタテインメントの最高峰「わんこそば」など、郷土色あふれる東北の名物料理が次々登場。甘利田は“食の冒険者”であるケンの想定外のアレンジや哲学に翻弄されつつ、地元の味に舌鼓を打つ。ご当地グルメという新たな“食の道”が開かれる一方で、卒業を迎えたケンとの胸アツのシーンも必見だ。
さらに旅先ではトラブルに巻き込まれたケンを助けようとした甘利田の前に、かつての同僚である御園ひとみ(武田玲奈)が現れる。御園が務める花堺中学校は、“無言給食”を徹底する厳格な校風。「食事は楽しくとるもの」という甘利田の信念と、効率を重んじる教育現場の方針がぶつかり合う!これまでシリーズが描いてきた「健康」、「完食主義」、「食の自由」といったテーマを受け継ぎつつ、管理教育との対立という新たな社会的課題にも踏み込んだ内容となっている。

岩手といえばもちろんわんこそば。ここでもまた甘利田vsケンの対決が勃発!?
“みんなで楽しく食べる”という給食の原点に立ち返った『おいしい給食 炎の修学旅行』で、甘利田はどんな食の発見をし、成長を遂げるのか。そして御園との気になる恋の行方は?垂涎の給食バトルと共に、その結末を直接その目で確かめてほしい。
文/足立美由紀