「日本も警戒せよ」ロシア・米国・中国を敵に回し孤立するドイツの現状と失態を反面教師にすべき外交の羅針盤

ドイツ外相の的外れな中国批判

ドイツのヨハン・ヴァーデフール外相(キリスト教民主同盟)の外交音痴が甚だしい。8月のアジア歴訪で日本に立ち寄った際には、「日独両国で安全保障を固め、共に発展しよう」と言ったまでは良かったものの、「中国はインド太平洋での優位な立場を主張し、国際法上の原則を脅かそうとしている」などと中国批判を付け加えて、岩屋毅外相(当時)を困らせた。

ドイツ外相の的外れな中国批判, 親中のインドネシア大統領の前でも中国批判, ドイツの経済人が逃げ出した, 訪中が3日前に「ドタキャン」, 日本はドイツと反対の行動をすべき

ヨハン・ヴァーデフール外相 photo by gettyimages

ちなみにこの会見は18日だったので、中国と日本にとっては、いわば終戦80周年の直後。しかし、ヴァーデフール氏は、ドイツと日本は同じような体験を共有しているとして、“戦勝国”中国を完全に無視。中国の主張する“日本の侵略戦争”にも一切触れず、それどころか、日本はドイツのプレミアムパートナーであると宣言した。

ただ、ドイツはメルケル政権以来、「中国はアジアで一番大切な国である」と豪語していたのだから、中国はおそらく気分を害しただろう。片や日本にしてみても、EUで孤立しかけているドイツに今さら持ち上げてもらって、挙げ句の果て中国を怒らせるのは得策ではない。はっきり言ってありがた迷惑だった。

そこで岩谷外相はなるべくヴァーデフール氏には同調せず、今後も両国は引き続き協力関係を保つということで、その場を収めたが、公式の場で相手が返事に困るようなことを述べるなど、政治家としては思慮に欠けている。それにドイツの産業界だって、経済成長のほぼ止まっている日本に擦り寄って、中国を敵に回すなど、誠に不本意だったに違いない。

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親中のインドネシア大統領の前でも中国批判

しかし、ヴァーデフール氏はこのルール違反を、その後もあちこちで繰り返した。岩谷会談の2日後の20日にはインドネシアを訪ねたが、ちょうどその頃、首都ジャカルタでは、政府の腐敗に対し、民主化を求める抗議デモがエスカレートしていた(死者が7名!)。ところが、ヴァーデフール氏は、その深刻なデモを無視し、“民主的な”インドネシア政府を誉め上げ、ここでも中国批判を滔々と展開した。

ちなみに、昨年10月からインドネシア大統領であるプラボウォ・スビアント氏は、大の親中派だそうで、最初の表敬訪問国はもちろん中国。今年の9月には、自国の不穏な事態も放ったらかして、北京の天安門広場で行われた抗日戦争勝利80周年の記念式典に列席している。

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そんなインドネシアにヴァーデフール外相は、台湾海峡を中国から守るためとして、ヨーロッパとの協力を求めたが、プラボウォ大統領にしてみれば、とんでもない話。氏にとっての中国は、「国民の幸福を目指す文化国家」で、すでに「両国の接する地域を共に発展させる」約束も交わしていた。

それだけではない。中国はインドネシアに、産業とインフラと教育のための支援として、100億米ドルを投資する予定だとか。一方、ドイツの国営銀行KfWは、鉄道の建設に2.5億ユーロの融資を提供したに過ぎず、はっきり言って比較にならない。また、インドネシアは今年の1月よりBRICSの加盟国だ。

ドイツの経済人が逃げ出した

さて、一方、9月1日には、習近平国家主席、ロシアのプーチン大統領、インドのモディ首相が上海で集い(インドにとっては7年ぶりの中国訪問)、パートナーシップを成立させた。ところが、その数日後にヴァーデフール氏はインドを訪問したのだから、なぜか、間違った時期に、間違った場所へ行く人である。しかも、そこで、中国を牽制するためのインド太平洋戦略などという間違った提案までしてしまった。

モディ首相は、現在、多極的な世界における平和を求めており、ヴァーデフール氏の提案など「アジアに対する干渉」としか思えない。「ドイツはいつまで大国のつもりか?」と言いたかったのではないか。この会談の白けた雰囲気は、ヴァーデフール氏との公式ツーショットで硬い表情を崩さなかったモディ首相の様子からも、容易に想像できた。

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モディ首相 Photo by gettyimages

さて、10月14日、ヴァーデフール氏の失策は頂点に達した。ベルリンの日独センターの創立40周年記念に招待された氏は、祝賀スピーチの中で、「中国は自国の権利の膨張を正当化するため、ロシアの侵略戦争を支持している」とか、「中国は南シナ海で、海洋国家の権利を無視している」など、言わなくても良いことを喋りまくった。ちなみに、海洋国家の権利に関する協定には、中国だけでなく、米国も署名していない。つまり、ヴァーデフール氏は、ツッコミどころ満載の事柄を並べて、中国非難を展開したのである。

その結果、3日後、つまり、中国訪問のわずか10日前の17日、氏は駐独の中国大使館から呼び出しをくらった。すると、そのあと、ヴァーデフール氏と共に北京を訪問するはずだったドイツの経済人らが、日程の都合が付かなくなったと言って、次々に降りてしまった。

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これまでドイツの政治家の訪中には、多い時には40人もの経済界のボスたちが同行し、大型の商談にサインしてホクホク顔で帰ってきたものだが、今回は、皆がすたこら逃げてしまったわけだ。

それだけではない。肝心の会談相手の中国の政治家たちも、ほぼ全員、都合が悪くなったり、時間が取れなくなったりで、要するに、行っても誰も会ってくれないらしいことがわかった。肝心の産業担当の王文濤商務部部長も会談をキャンセル。結局、残ったのは、王毅外相との会談と、広州の中山大学の附属中学でドイツ語を専攻している生徒との歓談ぐらいしかなくなってしまったという。

訪中が3日前に「ドタキャン」

ドイツでは前ショルツ政権で、緑の党のアナレーナ・ベアボック外相がフェミニズム外交という意味不明の旗を掲げて、あちこちでベテラン外交官に説教して回ったため、最後には誰にも相手にされなくなってしまった。だからこそ、現政権のヴァーデフール氏に大いなる期待がかかっていたのだが、外交は復活するどころか、前よりもさらに悪くなってしまった。

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そして、当然の帰結として、ヴァーデフール外相の訪中はついに「延期」。わずか3日前のドタキャンである。実は現在、中国がチップの輸出をストップしている問題が深刻になっているので、ドイツ政府はすぐにでも会いたいはずだが、大変まずいことになってしまった。次回の予定は立っていない。

独中の蜜月は、1998年のシュレーダー首相(社民党)時代に布石が敷かれ、その後、中国経済が飛ぶ鳥を落とす勢いで伸びていったのにつれて、メルケル時代に佳境となった。ドイツ車は巨大な中国市場に吸い込まれるように売れ続け、ドイツ政府は「ウィンウィン」と有頂天だった。

ところが、それがいつの間にか中国側の一方的な「ウィン」になってしまい、かつては技術では優位に立っていたつもりのドイツが、今ではAIでもEVでも追い抜かされてしまった感がある。それなのに、まだ自分たちの方が上だと思っているドイツの政治家が、あちこちで間の抜けたことをして歩いているというのが実態ではないか。

日本はドイツと反対の行動をすべき

現在、独中関係は険悪だ。しかも、ドイツ政府は、ロシアのプーチン大統領のことは悪魔化し、米国のトランプ大統領とも仲が良いとは言えない。こんな状態のドイツに寄ってこられては、日本はかなり迷惑かもしれない。警戒が必要だ。

かつてのメルケル首相は、ドイツとロシアは仲が良いのだか、悪いのだか、外からは絶対にわからない外交をしていた。だからこそ米国さえ、下手にドイツに手出しができなかったのだ。

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しかし、前ショルツ首相は、21年12月に就任したと思ったら、即座にロシアを敵に回した。その途端、米国がドイツに、そしてEUに、遠慮なく圧力をかけ始めたのは偶然ではない。しかも、現政権もそれをほぼ踏襲し、今では中国まで敵に回しているのだから、ドイツは急速に八方塞がりになりつつある。

だから日本は、その反対をすれば良い。なるべく誰にも手の内を見せず、敵を作らず、しかし、嘘はつかず、できる限り誠実に、全方位外交を展開する。そして、いざという時のための多くのチャンネルを確保し、笑顔を保ちつつ、しかし、絶対に緊張を緩めない。かつての安倍首相の外交がまさにこれだった。

外交の目的とは「国際親善」でも「文化交流」でもなく、自国を豊かにすることだ。高市新政権のメンバーが笑顔と緊張を駆使して、日本が少しでも独立に近づけるような力強い新政策を展開してくれることを期待している。