料理家・栗原はるみ「人生の総まとめ」器だけじゃない、宝物がつまった赤い棚の中身とは?

75歳でレシピやライフスタイルを紹介する雑誌『栗原はるみ』を創刊。

号を重ねながら、雑誌の企画で挑戦したギターが新しい趣味になったり、猫を飼いはじめたり……。料理はもちろん、自分らしくひとりでも楽しく暮らすためのヒントを発信し続けている料理家の栗原はるみさん。

そんな栗原さんが、誌面だけではどうしても伝えきれない料理のコツ、そして何より料理を作ることの楽しさ、丁寧な暮らしのエッセンスをお届けするオンライン料理教室をスタートさせました。

料理家・栗原はるみ「人生の総まとめ」器だけじゃない、宝物がつまった赤い棚の中身とは?

11月のメニューは、ごぼうハンバーグ甘辛だれに、しょうがごはん。展開料理もあります。雑誌の公式アカウントでは、会員の皆さんの料理投稿もご紹介しています!

今回は、栗原さんの人生の宝物が「宝物でいっぱいの赤い棚」をご紹介します。

玄関から続く廊下の突き当たりにある重厚な赤い棚。小鉢やおちょこ、ご飯茶碗やグラスなど、比較的サイズの小さいものを並べる棚で、特に思い出深いお気に入りだけを置いています。

本邦初公開 ! というほどではありませんが、この赤い棚についてしっかり説明するのは初めてです。 

ひと言で表すなら「人生の総まとめ」でしょうか。

それぐらい、私そのもの、生きてきた過程が見える棚です。 

父が使っていたおちょこ、息子や娘からのプレゼント、仲良しの友達にもらったもの。

全部にストーリーがあります。

例えば、下から2段目の中央にあるきれいなルリ釉の杯は、生前、公私ともにお世話になった陶芸家、荒木義隆さんの作品。

 45年前に初めて購入した荒木さんの器で、玲児さんが愛用していました。棚を見るたびに食卓の風景と笑顔を思い出します。

他にも、仲良しの作家に作ってもらった茶碗や、何かの記念のたびに買い集めてきたバカラのグラスやデキャンタなど。上段の漆器はほとんど私がデザインしたものです。

値段が高いとか、安いとか、有名無名とか、そういう基準ではなく、私にとってはどれも大切な宝物。

ただ、大事なものだから割れたら困るといって棚の奥のほうにしまうということはしません。

普段の食卓で、ちゃんと使うようにしていて、器も頻繁に入れ替えています。

15年以上前に夫とデートしているときに見つけた中国のアンティーク棚。飾ることを楽しむため、器だけでなく、旅先で見つけたキャンドルや、お気に入りの香水瓶なども置いています。

棚のなかにある、宝物の器を公開!

 

繊細な柄が本当にきれいで、優しさが溢れ出ていますよね。

これは石川県加賀市を拠点にされている陶芸家、正木春藏さんのご飯茶碗です。

取材でお邪魔したときに購入しました。 

 

出版記念など、自分へのご褒美として30年近く買い集めてきたアンティークのバカラ。

このグラスで飲むお酒は格別です。

右のストライプは沖縄のガラス作家、山田妙子さんの作品です。

 

花柄に目がありません。

素敵なものに出合ったら購入し、自分でもたくさんデザインしてきたので数えきれないほど花柄の器を持っています。

その中でも特に気に入っているのがこのおちょこです。絵付けをされている方、本当にセンスがいいですよね。

桜だけでなく、 星柄もかわいいし、朱赤やオレンジ、紫など、淡い色使いがとにかくきれい。

手にすると優しい気持ちになります。ちょっとサイズが大きめというのも惹かれます。

お酒だけでなく、小鉢料理にもいいし、ジャムを入れてもいい。いろいろと使えます。 

 

毎日のように器を入れ替えたり、整理したりしているのですが、必ずこの赤い棚に置いているのが佐賀県唐津市にある「天平窯」の岡晋吾さんの器です。

取材させていただいてから大ファンになり、今も親しくさせていただいています。

茶碗に小鉢、レンゲ、豆皿など、なんと表現したらいいんでしょう、全部かわいい! に尽きます。

野山の風景を連想させる唐草模様や草花など、使うたびに素敵だなと思います。

このご飯茶碗は、炊き込みご飯にぴったり。

自分が作った料理にそっと寄り添ってくれる、とっても温かい器です。

 

器の本来の用途に縛られることなく、いろいろ自由に盛ってみるというのが、私が料理家として大切にしていること。

一方で、用途が限られているものにも魅力を感じます。

例えば、中国へ出張で行ったとき、たまたま訪れた骨董市で出合ったこのアンティーク。

色使いと繊細な絵付けに惹かれましたが、何に使うのかと聞いたら、紹興酒を保温するポットとのこと。

中国ではごくごく当たり前のものらしいですが、熱湯を中に注ぎ入れ、紹興酒を入れた杯を上に置き、ずっと冷めないようにする、という考え方と様式にも惹かれます。 

 

料理家になり、器に興味を持つようになってから、たくさんの陶芸家と出会い、交流してきました。

中でもいちばん影響を受けて、家族ぐるみで仲良くさせていただいたのが、京都の陶芸家、荒木義隆さんです。

彼を象徴するトルコブルーの器が本当に好きで、子どもたちの結婚式の引き出物の片口をはじめ、たくさんの器を作っていただきました。

この脚付き杯は、私がぶどう柄に凝っていたときに荒木さんの奥さんと一緒に絵付けしたもの。 これでお酒を飲むたびに、そのときの記憶が浮かんでうれしくなります。

 

緑の小皿は20年前、日産の軽自動車「モコ」のCM撮影でニースを訪れたときに買ったもの。

 下の赤と白の小皿は岡晋吾さんの作品で、京都で購入しました。手前の花はキャンドルです。

 

30年以上も前、まだ料理家になって間もないころに、取材で訪れた上海で買った、骨董の茶碗、レンゲ、小皿です。

奥にあるポットもそうですね。

まったくの専業主婦だった私にとって、自分で働いたお金で器を買うというのは夢だったので、この器には当時の念願が叶った喜びが詰まっていて、初心を思い出させてくれる大事な宝物です。

取材はいつもバタバタと慌ただしく、時間を作ってアンティークの店などに行くことはなかなかできませんが、偶然入った店で掘り出し物を見つけ出す直感には、昔から自信があります。

 

食器棚だからといって、食卓にまつわるものしか置いちゃだめなのかというとそうではありません。キャンドルや写真、好きなものを並べたら、整理をする時間が楽しくなるはずです。

私の場合、よく見えるところに沖縄のガラス作家、山田妙子さんの香水瓶を置いています。

以前、雑誌で取材させていただいてからの長い付き合いで、泊まりにおいでよ、と誘ってくれる気さくな彼女が大好き。

香水瓶は優雅で繊細。光にかざすときれいな模様が浮かび上がります。

飾るだけでなく、好きな香水を入れて実際に使うこともあります。

 

ご存じの方も多いと思いますが、この小さい輪花のカップは私がデザインした味見カップです。料理家は味見の連続。

新しいレシピを作るまでには、試行錯誤しながら納得するまで、何度も味見をして分量を決めます。

作り慣れたいつもの料理でもそう。

食材によって味や水分量が全然違うので、塩加減はつねに舌で確かめます。

そのときに欠かせないのがこの味見カップ。

深さがあるので汁物の味見がしやすく、持ち手がついているからさっと使いやすいんです。

味見を怠らず、ちゃんと料理に向き合おうと思わせてくれる道具です。

 

思わずみんなに見せたくなる桜と紅葉のお香立て。

ふと立ち寄った京都のお香屋で目に飛び込んできた瞬間、あまりにも素敵で、花や葉っぱのモチーフが好きな私は買わずにいられませんでした。

そもそも、桜の花びらと紅葉の葉をお香立てにしようという発想がロマンチックですよね。

素材はシルバーなのですが、風が吹いたらすっと飛んでいってしまうんじゃないかというぐらい薄くて繊細。

見惚れてしまうほど細かく彫られていて、普段は箱にしまっていますが、ときどき取り出し、小さなオブジェとして棚に飾っています。

 

この岡晋吾さんの片口は、冷酒やワイン、たれなどを入れたり、料理を盛ったり、いろいろと使えて、実用的なのはもちろんなんですが、置いているだけでも絵になるのが魅力です。

片口が好きで、これまで何百、何千と見てきましたが、これほど、何も入れずに飾れる器にはなかなか出合えません。

ご飯茶碗よりちょっと大きいぐらいの絶妙なサイズや、丸みのあるシルエット、シュッと細く伸びた注ぎ口の形、そしてこの藍色の草花の絵付け、すべてのバランスが完璧。

本当にいい器だな、と手に取るたびに思います。

 

緻密な竹細工のコースターは大分県別府市の 職人さんに作ってもらったもの。

説明を聞かなくてもわかる、手仕事の美しさがあります。 

実際、現地の工房を取材して竹細工作りを体験したのですが、ひとつが完成するまでの工程が本当に多くて大変なんです。

山で切り出した青竹を煮て油を抜く。天日乾燥させる。割って、伸ばして、編む。

そのすべてに熟練の腕が必要で、時間と手間がどうしてもかかる。

だから、多少値が張るのは当たり前なんです。

そばざるやかごバッグも持っていて、これからも別府の竹細工を応援します。

 

漆器というと、お正月などの特別な日に使う器というイメージがあるかもしれませんが、 私にとっては違います。

というのも、母親が漆好きで、毎日食卓に並んでいましたし、お弁当箱も漆だったので、ごくごく日常で使うものだったんです。そんな母の影響もあってか、私の暮らしにも漆が欠かせません。

リビングのテーブルも、棚も漆塗り。器は赤い棚に収まりきらず、家中のあちこちにあり、和食だけでなく、中華にも洋食にも、どんな料理にだって合わせます。

これからも漆器を私らしく使い続けたいと思います。