芳根京子「苦しい瞬間はいっぱいあったけど、それが私」 コンプレックスに振り回されずに生きる術は「排除じゃなくて共存」

「ネガティブだからここまで来られたのかも」。そう語るのは、俳優の芳根京子さん(28)。最新主演映画「君の顔では泣けない」では、心と体が入れ替わったまま15年の歳月を過ごすという難役に挑んでいます。自分で自分を受け入れることの難しさを知る芳根さんは、この役にどのようにアプローチしたのでしょうか。そして今、芳根さんが抱える「コンプレックス」とは。(全2回の2回目/前編から続く)

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──この仕事をずっとやっていこうって思ったのはいくつぐらいの時でしたか?

 最初にそういう気持ちになったのは、朝ドラ(NHK連続テレビ小説「べっぴんさん」/2016年度後期放送)が終わった時です。「これはやめちゃいけないな」みたいな気持ちになりました。未来への期待で選んでいただいて、朝ドラヒロインをやらせてもらって、これはそう簡単にやめてはいけない、もう自分だけの人生じゃないって。でもその後、「やっぱり自分は俳優に向いてないのかな」と思う瞬間がいっぱいありました。特に22歳の時ですね。

──なぜ22歳の時にそういう気持ちに?

 この世界に入ってからずっと一緒にやってきたスタッフさんとのお別れがあったんです。22歳は、友達は大学卒業した年だし、まだ第二の人生もいけるんじゃないかと。でもそのタイミングで石川慶監督の「Arc アーク」(21年公開)という作品に出合い、「やっぱり、お芝居は楽しい」って……向いてる・向いてないはわからないけど、やりたい・やりたくないで言ったら、やっぱりやりたいということに気づきました。

 そもそも「やりたい」って言ったってすぐ機会に恵まれる仕事ではないし、もしチャンスをいただけるなら、いただけるまでやり続けたいって思ったのが22歳の時です。そこからまた変わった気がします。

──仕事に対する考え方が変わりましたか?

 私の中で思いとどまったあの瞬間があったから、逆にもう止まりたくない、進むしかない!みたいな感じで、22歳から去年あたりまでは突っ走っていた気がします。全力疾走していました。こういう性格なのは本当に変わらないから、これもコンプレックスといえばコンプレックスですよね。

 周りが見えない、前しか見えない。転んでもなお必死に走ろうとするタイプ。好きで転んでいるわけではないし、好きで血まみれで走ってるわけじゃないけど、でももうしょうがない、こういうタイプの人間だから。特に優れた技術があるわけでもなくて、「自分そのまま」みたいなお芝居をしてるなって自分で思うこともあるけど、それでも私は走るしかなかったんです。

──コンプレックスと一緒に走っていたんですね。

 常にコンプレックスの塊で、苦しい瞬間はいっぱいありましたけど、それが私でした。ネガティブな意味でもポジティブな意味でも、「それが私だから」と今では考えることができますが、20代前半でそう考えるのは難しかったです。

■仕草は後からついてくる

──最新主演作の「君の顔では泣けない」では、体と心が一致しないという、どうにもできないコンプレックスを抱えた役柄を演じられていますが、どういうところが一番難しかったですか?

 最初、「入れ替わり」って聞くと、なんとなく思い浮かぶものがあるじゃないですか。「戻るために頑張るのかな」とか、「入れ替わった相手と恋愛関係になるのかな」とか。まずそういうものが全ていい意味で裏切られました。物語の冒頭で、もう入れ替わって15年が経っていて、元の自分に戻らないという選択肢まで考えているストーリーに、今まで考えていたような入れ替わりの固定観念で役作りはできないと思いました。

 ある時、監督から「リハーサルを逆(の役)でやってみませんか?」って提案されたんです。私が本当のまなみ、髙橋(海人)くんが本当の陸でやってみてくださいと言われた時、この作品は本編に私がまなみである瞬間が一つもないところが面白い部分なのに、と思ったんです。今ここまでリハーサルを重ねてきて、本を読み込んできて、陸をよく理解しているのは私で、まなみをよく理解しているのは髙橋くんなのに、それを入れ替えてやるということがどうしても私には腑に落ちなかったんです。これはもう正直に言おうと思って、監督に気持ちをお話ししたら、わかってもらえました。たぶん監督ですら闘い方に悩むくらい、この作品はいい意味でちょっと異質なんだと思います。

──芳根さんはどういう闘い方がいいと思いましたか?

 男だから男らしくとか、女だから女らしくということを考えてはみましたけど、この多様性の時代にそういう固定観念をやる意味はないよなって。それこそもう、そういう固定観念を全部取っ払いたいって思いました。内側からの組み立てさえちゃんとできていれば、仕草は後からついてくる、きっと体はついてくると信じようって。

 一つラッキーだったのは、私たちは入れ替わって15年が経っているので、その歳月の中でいろいろなことが自然にできるようになっているはずで。そう思ったら、観客の方たちが「おや?」って最初に思うぐらいの違和感でいいんじゃないかというところに、リハーサルでたどり着けたんです。

■「おお~、すごい泣いてるなぁ」

──「演じる」ということ自体、まず自分ではない誰かの人生を体現するという難しさに加え、今回の役はさらに「入れ替わり」というフィルターがありますよね。その複雑な構造の中で、実際の「芳根京子」って、どこにいるのでしょうか。時々顔を覗かせたりするものですか?

 時々、冷静な私が私を見てる時もあります(笑)。一番すごいと思ったのが、ここ(肩の上)から見てるんです、私が。すごい泣きながらセリフを言ってる時に、ここから「おお~、すごい泣いてるなぁ」って見てる私がいたことが1回だけありました。

 そこまでの体験は本当にその1回しかないんですけど、たまに冷静な私が私の周りにいる感覚はあって、その時の私は私なりに「お芝居の邪魔をしてはいけない」みたいな気持ちでいるみたいで。

──どういうことですか?

 素の私が出たら私になってしまう。「君の顔では泣けない」で言ったら、たとえば「母性」という感情に関して、自分もおそらく持っているけど今普通に生活する中では出てこない能力を出してもらっている感覚がお芝居にはあるんです。

 それはすごく細い針に糸を通す感覚にも似ていて、だからこそ自分で自分の邪魔をしない。自分がどうしたら一番集中してこのシーンを演じ切れるか。例えば泣き芝居のシーンだったら、今の私はどういうふうにここにいたらいいのか。誰かとしゃべってるほうがいいと思ったらしゃべってるし、今の私は一人になったほうがいいと思ったら、しゃがんで下を向いていたりします。自分の中の違う神経と相談して決める感覚があって、それも私は器用にこなせるタイプではなく、いったん自分と向き合わないとわからないんです。自分がその瞬間を乗り越えられるのか?っていう感覚。

──芳根さんが、お芝居している芳根さんを見てる時は、お芝居がうまくいってる時なんですか?

 波に乗ってる時なのかもしれないですね。「行け行けー!」みたいに応援してくれてる気はします(笑)。

■すべての始まりは「ネガティブ」

──自分の一番の応援団というか、一番の観客が自分っていう感覚はいいですよね。先ほど22歳の時に1度この仕事をやめることを覚悟したというお話がありましたが、今でも自分が今この職業をやっていなかったら……と想像することはありますか?

 そういえば今はほとんど考えないようになりましたけど、25、26歳ぐらいまではすごく考えていました。ずっと料理の専門学校に行こうと思っていたので、専門学校を卒業して、就職して……っていうことくらいしか想像できないんですけど。でもあらためて、自分が他の仕事をしてる姿が私は想像できなくて、この仕事が自分に合ってるのかなって思います。やっぱりこの仕事に帰ってきてしまいますね。

──自分には別の人生があったかもしれないというのは、まさに「君の顔では泣けない」の二人ですよね。

 私にとっては、この役が自分じゃなかったらどうなっていただろう?という話でもあると思います。自分じゃなかったら「君の顔では泣けない」はどういう作品になってただろうって……い、いやだー!! いやです。この役を演じることができてよかったです。

──(笑)。芳根さんのまた一つのターニングポイントになりそうですね。

 とにかく陸とのシーンが多くて、ワンシーンもすごく長くて、ずっとセリフをしゃべっているみたいな、ちょっと舞台のような台本だったんです。最初は戸惑いもあったんですけど、本当にNGもなくてお互いスッと進めたので、それは本当に不思議な感覚でした。

──最後に、今このインタビューを終えて、あらためて芳根さんが一番抱えているコンプレックスって、何だと思いますか?

 私が一番抱えているコンプレックス……難しいですね。でも話をしていたら、たぶん今はすごくそれを力にできているし、うまく生きられている気がします。いやもっとうまく生きるやり方は絶対にあるとは思うんですけど、コンプレックスというものに振り回されずに生きることができている気がしています。

 結局、「ネガティブ」なんです。すべての始まりはそこなんですよね。すべてがネガティブゆえに起きるし、ネガティブゆえに心配しちゃうし、不安になっちゃうし、自信も失う。でもネガティブと共存していかないとしんどいことも知りました。心配性なら先に確認すればいいじゃない、不安なんだったら先に見ておけばいいじゃない、気になるなら聞いておけばいいじゃないって。

 今は一応、「あなたのコンプレックスは?」って言われてすぐにパンって出てこないぐらいには封じ込められてはいるけど、私の性格を見るともう、すべてネガティブからの始まり。だけどネガティブが私の人生を切り開く最初の一歩だったりもするなって。ちゃんと準備するからこそ現場で評価してもらえたかなと思うこともたくさんあったし、だからこそ、ネガティブとか言ってられない!って乗り越えられたと思います。

 そう、仕事が私のネガティブを抑えてくれていたのかもしれないな。だからほんと「共存」です。ネガティブとの共存。コンプレックスとの共存。排除じゃなくて共存、です。

(構成/ライター・西澤千央)

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