【NHK朝ドラ「ばけばけ」第7週】“お金と誇り”の交差点 トキ(高石あかり)と三之丞(板垣李光人)の残酷かつ優しい「生きちょる人々の倫理」

怪談好きのヒロイン・松野トキ(高石あかり)が、明治の松江を舞台に奮闘するNHK連続テレビ小説「ばけばけ」(毎週月~土曜午前8時、NHK総合ほか)。異国の教師・ヘブン(トミー・バストウ)の女中として働き始めたトキが、誤解と警戒のなかで“自分の身体を差し出すかもしれない”という覚悟すら抱きつつ、松野家と雨清水家を支えようとする姿が描かれる。一方、トキから渡された金の行方をめぐって揺れる、雨清水家の三男坊・三之丞(板垣李光人)のプライドは、貧しさにおける残酷さと人の誇りをむき出しにし、ふたりの選択を対照的に浮かび上がらせる。
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■「ラシャメンになる覚悟」と誤解の先に立つトキ
家族に内緒で決めた新しい仕事は、トキの胸に重い影を落とす。なぜなら、明治時代における“異国人の女中”は、妾=ラシャメンとして扱われる危険を孕んでいたからだ。
しかし、トキはとっくに覚悟していた。「自分の身体を差し出すことになるかもしれない」……そんな最悪の未来すら受け入れ、松野家と雨清水家を守るために働くことを選んだのだ。
しかし、実際のヘブンは、予想外に“ただの変な外国人”である。
朝のテンションは低く、食事になると英語でまくしたてて陽気になり、布団を指差して「フトン!」と言えば、ただ畳んで片付けてほしいだけ。夜中に襖が開く恐怖演出のあと、辞書を引きながら「ゴクロウサマ」と告げ、何事もなくトキを帰らせる。
この落差に、トキは張りつめた心をやっと緩める。“身体を求められることはなかった”という安堵は、彼女の少女らしさを一瞬だけ取り戻してくれた。
しかしその裏では、さらに深い苦しみが進行していた。それが、トキを含む松野家と縁の深い、雨清水家の三男・三之丞との“お金”をめぐる問題だ。

■トキと三之丞、それぞれのベクトル
この週の中心は、なんといってもトキと三之丞の対比である。ふたりは同じ“貧しさ”のなかにいながら、生き方も、そのプライドの方向もまったく違う。
ヘブンの女中仕事をして得た給金20円のうち、その半分である10円を、トキは三之丞に渡す。亡くなった雨清水傳(堤真一)から預かっていたお金だ、と嘘をついて。実際は、傳の妻であり三之丞の母であるタエ(北川景子)の物乞い姿を見たときに、“自分がラシャメンになってでも働くしかない”と覚悟して得た金だった。
しかし彼女はそれを、他人の遺したお金として偽装したのだ。若い少女が、誇りと愛情の間で折り合いをつける方法が、そんな“嘘”しかなかったから。
一方の三之丞は、母・タエが物乞いを続ける現実から目をそらせない。記事にされそうになると、記者に金を握らせて止めようとする。なぜ現金を持っているかを不審に思ったタエには、社長になるための準備金だ、と嘘をつく三之丞。しかし、おそらくタエは、その嘘に気づいていただろう。
三之丞がついた嘘は、“雨清水家のプライドを守るための嘘”である。対してトキの嘘は、“誰かのために自分を捨てるための嘘”だった。ふたりの嘘の質の違いは、彼らの間にゆるやかに対立の種を生む。
そして、松野家にすべての“嘘”が露見する。家族の反応は複雑だが、すでに覚悟を決めているトキだけが、不自然なほど冷静だった。少女にしてはあまりに厳しい現状認識。貧しさが、人を早く大人にしてしまう瞬間だった。
三之丞にだって、覚悟がなかったわけではない。知識も経験もないのに、家の格だけを頼りに社長としての仕事を探し歩く様は、世間から見れば笑い者でしかないだろう。逆に言えば、たとえ没落士族であったとしても、雨清水家の伝統を守るための行動を選んだのだ。

そんなプライドから、三之丞はトキに金を返しにくる。しかし、その金はトキが身を犠牲にしようとして得た金だと知るや否や、彼の凝結したプライドが少しずつ溶け落ちていった。
ふたりは同じ“絶望”を見ていながら、“自分の捨て方”がまったく違うだけだったことに、ここで気づく。涙をこぼしながら三之丞は、ようやく10円を受け取った。貧しさは、人から何を奪い、何をむき出しにするのか。それを容赦なく描いたのが、第7週だった。
■木刀を託す家族、働き続ける少女――“働くこと”の重さと救い
ヘブンの女中を続ける許しを得たトキ。彼女の祖父・勘右衛門(小日向文世)がトキに木刀を渡す場面は、第7週の祈りのようだった。それは、ヘブンのもとで女中として働くことを認める許しとともに、いざというときは自分で自分の身を守れ、という思いの象徴でもあった。
トキは泣き笑いを浮かべながら木刀を握る。少女は自分を捨てる覚悟で働き、松野家と雨清水家、“二つの家”を同時に支える道を選んだ。その姿は痛々しいほど健気で、同時に、明治の少女が持ったであろう強さの象徴でもあった。
ラシャメン誤解騒動のコミカルさの裏で、貧しさと誇りが人をどう変えるかを深く描いた第7週。トキは「誰かのために自分を捨てる覚悟」を選び、三之丞は「自分を捨てられない痛み」と向き合うことになった。
ふたりの選択はどちらも正しく、どちらも残酷だ。ここに、朝ドラ「ばけばけ」が描く“生きちょる人々の倫理”がある。
(北村有)
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