「月島タワマン」"転売規制"で露呈した残酷な現実

かなり踏み込んだ“転売対策”が話題となった、東京都中央区に竣工予定の「セントラルガーデン月島 ザ タワー」(画像:三井不動産レジデンシャルのサイトより)
「やはり高倍率だった」。SNS上ではそんな声にあふれている。
【写真】「これが選ばれし者が暮らす家か…」《セントラルガーデン月島 ザ タワー》その豪華すぎる内部と間取り
三井不動産傘下の三井不動産レジデンシャル(以下、三井不レジ)は、東京都中央区の月島に建設中の分譲タワーマンション「セントラルガーデン月島 ザ タワー」について、購入者が引き渡し前に転売活動をした場合、三井不レジ側は手付金を没収して契約を解除することができる、と購入希望者に通知した。
そして、この通知が行われてから2週間後の11月中旬、このマンションの第1期1次の販売が行われた。
さらに11月18日、三井不レジが加盟する不動産協会は、マンション引き渡し前の転売禁止を柱とする対応方針をまとめたことを発表した。強制力はないが、転売行為がわかった場合には契約解除や手付金没収に踏み切るという。
「最大5000万円」を捨てる覚悟で転売する人はいるか?
投機目的の売買を抑制し実需層がマンションを買いやすくする。そんな目的のために行われた今回の規制。はたして効果はあるのだろうか?
「セントラルガーデン月島 ザ タワー」は、新築マンションの注目度番付があるなら間違いなく“東の横綱”と言ってもいい物件だ。
勝どき駅徒歩3分・月島駅徒歩4分という抜群の立地に大手デベロッパーがデザイン性の高いタワマンを建設するのだから、購入するには高倍率の抽選は必至だと思われた。
もちろん私も購入を検討したいところだったが、人気がありすぎてモデルルームの予約にすらたどり着けない。早い段階で「これは買えない」と白旗を上げた物件でもある。
そのマンションで引き渡し「前」に転売活動を行った場合、三井不レジは手付金の没収と契約解除が可能になるというのだ。
現在、三井不レジでは人気物件の手付金を10%に設定するケースが多い。1億円の部屋なら手付金は1000万円、5億円の部屋なら5000万円にもなる。この金額を捨てる覚悟で引き渡し前の転売活動をする人はいないだろう。投機目的の買い主にとっては大きな打撃となる可能性がある。
今年7月には東京都千代田区から出された「投機抑制に向けた対策を」という要請もあり、なんらかの行動を求められていた大手デベロッパーが示した1つの答えが、この手付金没収ルールだと思われる。

「湾岸に森をつくる」というコンセプトのもと、敷地内には豊かな緑が広がる予定だという(画像:三井不動産レジデンシャルのサイトより)
「転売ヤー」と言われた筆者
そして、三井不レジの方針を耳にしたとき、私はこう思った。ついにマンション業界で、いわゆる「転売ヤー」の“定義付け”が始まったのだ、と。
私はタワーマンション愛好家だ。これまでに7戸(うちタワマン6戸)を購入し、そのうち4戸を売却してきた。自分ではごく自然な選択だと思っていたし同じような人がたくさんいると思っていたのだが、実は世間では珍しい存在らしい。
これまでの“タワマン遍歴”について2カ月前に掲載した記事や、「PIVOT」にて密着してもらった動画以降、反響が大きく、ありがたいことにさまざまなメディアで取り上げていただいた。
しかし、その記事のコメント欄に、私が強い衝撃を受ける書き込みがあった。
「こいつみたいな“転売ヤー”がいるからマンション価格が高騰している」
――転売ヤー? 私が?
私はマンションが大好きで、最短でも4年は必ず住み、生活の拠点としてきた。自分で住まないマンションを買ったことは一度もない。
常に「一生住んでもいい」と思える家だけを選ぶのだが、次々と新しい魅力的な物件が出るのが悩みの種。断腸の思いでそのとき住んでいるマンションを売却し、次の資金に回してきた。
私は明確に“実需”層のつもりなのだが。そんなことを考えていた矢先、三井不レジの“決断”が発表された。
実需か、投資(投機)か。
この問いに答えるために次の状況を想像してほしい。
あなたは1億円で自分が住む新築マンションを契約した。しかし引き渡しは3年後と、かなり先だ。
するとその1年後、もっと魅力的な3億円の新築マンションが出てきた。あなたにはそれを購入できるほどの貯金はないが、どうしてもこのマンションに住みたいと思うようになった。
そこでマンション市場を調べると、あなたが契約した1億円の部屋と同じような間取りが、今2億円で売買されていることがわかる。
あなたは考える。「1億円の部屋を売って、利益を元手に3億円の部屋を買えないだろうか?」と。
さて、この行為は実需か? 投資(投機)か? あなたは“転売ヤー”なのか?

地上48階建ての高層階ラウンジから見る景色にも期待できる(画像:三井不動産レジデンシャルのサイトより)

ちなみにマンションからの眺望はこんな感じになる予定だという(画像:三井不動産レジデンシャルのサイトより)
本来は曖昧なはずの「実需」と「投機」
行為としては投資(投機)に見えても、その目的は実需。この例が示すように、実需と投資の境界線は、実はとても曖昧だ。ある大手デベロッパーの社長は新聞のインタビューで「投機か実需かを見極めるのはデベロッパー側としても難しい」と答えている。
生活しているマンション価格が予期せぬ値上がりをしていると知れば、売却して含み益を取り出したいと思うのが人間の性。市況が崩れる前に利益を確定させたい、と、焦るような気持ちすら生まれるはずだ。そして、結果的に利益が出れば、外からは投資や投機のような行動に見える。
本来は曖昧なはずの実需と投機。この2つを線引きし、投機を排除する。それが、三井不レジの狙いではないだろうか。
では、三井不レジは、なぜ、引き渡し「前」の転売を“投機”と考えたのだろうか。
まず前提として、マンションを購入した買い主がいつ売ろうが貸そうが住もうが、それは買い主が持つ当然の権利であり、デベロッパーが決めることではない。それでも今回、三井不レジは踏み込んだ。
引き渡し「前」に転売活動を行う者を“転売ヤー”と定義し、転売ヤーを排除することで、マンションを欲しい実需層がより買いやすくするためだ。

「セントラルガーデン月島 ザ タワー」でもっとも広い126平米の部屋の間取り図(画像:三井不動産レジデンシャルのサイトより)
“引き渡し「前」の転売”のみが規制される理由
なぜ、引き渡し「前」の転売のみが規制の対象なのか。それは引き渡し「後」の転売と比較すると見えてくる。
すべての転売で、買い主は一度ローンや現金で残代金を支払うことで物件の引き渡しを受ける。引き渡し「前」の転売でも、当然残代金の支払い義務はある。ここまでは同じだが、「前」と「後」で大きく違うのは、「リスクを誰が負うのか」という視点だ。
もし引き渡し時にマンション市場が下がっていれば、引き渡し「後」の転売者は、その時点で含み損を抱えた状態で引き渡しを受ける可能性もある。つまり自らある程度のリスクを背負うことになる。
引き渡し「前」の転売者は、このリスクを次の買い主に移転させることができる。市況の変化リスクを負わないのだ。余裕を持った売却活動ができることに加えて、購入金額より数千万(時には数億)を上乗せした利益を早期に確定できる。
さらに、引き渡し「前」の転売なら、手付金を次の買い主から受け取ることもできる。市場が下落し、新しい買い主が物件購入を諦める場合は、手付金を放棄しなくてはならないが、転売者はその手付金の分だけ得をすることになる。
転売が目的の場合、明らかに引き渡し「前」の転売にはメリットが大きい。
今回の三井不レジの方針は単なる販売規制ではない。このような投機によって歪みつつあった新築マンション市場に対し「リスクを負わずに利益を得る行為は認めない」というメッセージを伝えたようにも思える。
しっかりとその物件の価値を判断し、自らリスクを負いながらマンションを買っていく。当たり前のことを求められているだけのことだ。
私自身も、4度の売買(当然、引き渡し前の販売ではない)で、このリスクと何度も向き合ってきた。次の物件をすでに契約しているのに、もし市況が崩れて今の物件が安くしか売れなかったらどうしよう。そんな不安で眠れなかった夜もある。
リスクを背負ってきた1人のタワマン愛好家として、マンションを住まずに投機の対象とする行為を肯定することはできない。そう思っている。

ファミリーが暮らすのに十分な広さである74平米の部屋の間取り図(画像:三井不動産レジデンシャルのサイトより)
「セントラルガーデン月島 ザ タワー」は下落する?
さて、この新方針で不動産価格は下がるのだろうか? という問いについて考えてみたい。
まず、すぐに価格が下がる可能性は低いと私は思う。マンション価格の高騰は転売ヤーの存在というより他の要因によるものが大きい。また、デベロッパー自身も決して価格下落は望んでいない。そして、現在は供給の絞り込みによってマンションの値崩れは起こりにくい構造になっている。
ただし、このようなことが起こる可能性がある。
投機目的の買い主が引き渡し「前」に売り抜けられなくなることで、引き渡し「後」に一斉に売却に動く。その場合、売り出しが一斉に行われ、需要と供給のバランスが崩れ、短期的には少しだけ買い手優位の市場が形成されることはあるかもしれない。
実際、かつて私が住んだ大規模タワマンでも引き渡し直後に売り出しが集中し、指し値(希望する売買価格を自分で指定する注文方法)が通りやすい時期があった。ローンを利用して購入した売り主にとって長い売却活動は負担となるため、早く売却するために価格を下げざるをえないためだ。
とはいえ、この現象は一時的なもの。1年もすれば供給が減るため、希少性が高まり、そこから本格的な価格上昇気流に乗っていく。そのときに得をするのは誰だろうか。ギリギリの資金計画で挑むサラリーマン投資家ではない。
ローンの返済が負担とならない(あるいは現金で購入した)、より資金力のある投資家だ。彼らは長い売却活動も苦にならない。つまり、すでに富んでいる者がより有利になるという構図は、これからも変わらないのだ。

セントラルガーデン月島 ザ タワー

シアタールームやフィットネススタジオなど共有施設も充実している(画像:三井不動産レジデンシャルのサイトより)
今回の「三井不レジの規制」はどう波及するか
ならば、この規制は効果を生んだのだろうか。
今、「セントラルガーデン月島 ザ タワー」で検索すると、記事冒頭のように「蓋を開けてみたら抽選の倍率はやっぱり高かった」などといった情報にたどり着く。少なくとも無抽選でどの部屋でも買えるような状況にはなっていないようだ。
豊富な資金力を武器にした投資家が多数参戦したのか、それともこれをチャンスととらえた実需層が奮闘したのだろうか。どれだけの投機層が購入を断念したのか、情報が少なく結論を出すのは、まだ時期尚早。これからの詳しい分析を待ちたい。
タワマン愛好家として、そして“実需”としてマンションに住み続けてきた1人として、そのマンションに住みたいと希望する人がきちんと住めるような、そんな時代が来ることを熱望している。