【NHK朝ドラ「ばけばけ」第8週開始】ビールとスキップがつなぐトキ(高石あかり)とヘブン(トミー・バストウ) 静かで優しい異文化理解

貧しいながらも、家族のために懸命に働く怪談好きのヒロイン・松野トキ(高石あかり)が、明治の松江を舞台に奮闘するNHK連続テレビ小説「ばけばけ」(毎週月~土曜午前8時、NHK総合ほか)。第8週「クビノ、カワ、イチマイ。」では、異国からやってきた教師・ヘブン(トミー・バストウ)との意思疎通に苦しみながらも、トキが“ビール”と“スキップ”を通じて文化の違いに触れる姿が描かれる。共通の言葉を持たないまま紡がれる、小さな交流の物語に、心がほぐれていく。
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■「シジミサン」「クビ?」言葉の壁が生む不協和
朝、木刀を携えてヘブンの屋敷を訪れたトキは、真剣な面持ちで「よろしくお願いします」と改まった挨拶をする。ヘブンは「ブシムスメ」と感じ入ったように呟くが、基本的に、朝は仏頂面。松江の人々が、自分を“ラシャメンを囲いたがっている下劣な男”だと誤解していると知ったヘブンは、苛立ちを隠せない。
朝の時間、食事の支度を整え、身の回りの世話を焼こうとするトキに対しても、「シジミサン、クビ」と無情な一言。自らの潔白を証明したい気持ちもあるであろうヘブンにとって、もはや女中という存在は、周りから疑いの目を向けられる要因になってしまった。
女中は辞めさせたいが、別の女中を雇うのも一苦労……。そんな板挟みのなか、トキと通訳・錦織友一(吉沢亮)の必死の説得で、なんとか“首の皮一枚”つながったトキ。屋敷に残された彼女は、静かに掃除や洗濯、食事の準備を続けていく。

言葉が通じないということ。それは、些細なことが地雷になりうることを意味する。
ヘブンの頼んだ「beer」という言葉の意味がわからず、花田旅館や松野家を含め、トキたちは「楽器の琵琶」か、それとも果物の「琵琶(ビワ)」かと予想し合い、手当たり次第に柿やみかんなどを買ってくるものの……。ヘブンが求めていたのはもちろん、泡立つ黄金の液体であるビール。欲しかったものが伝わらなかったことで、ヘブンの機嫌はますます悪くなる。
■ビールをめぐる遠回りな冒険
ヘブンの要望に応えるため、錦織の助けも借りて、トキはようやく本物のビールにたどり着く。冷やしたビールを準備して帰宅を待つが、緊張のあまりか無知ゆえか、瓶をうっかり振ってしまった。案の定、栓を開けた瞬間にビールが勢いよく噴き出し、ヘブンの服をずぶ濡れにしてしまう。
失敗が相次ぎ、またしてもクビまで一歩手前のトキ。しかし、彼女は諦めない。もう一度、店に戻って新しいビールを買い直す。店主に注ぎ方のコツも教わり、無事にグラスに美しく注がれたビールを差し出すと、ヘブンの顔にようやく笑みが戻る。小さな乾杯の音が、ふたりの間に生まれる共感の始まりとなる。
苦いし、炭酸が舌に刺さるし……と戸惑うトキにとって、ビールはまだ“未知の味”。それでも、異国の味を恐れず口にしてみるその姿勢こそ、まさに異文化交流の原点だ。
乾杯を交わしたあと、ヘブンはスキップするほどの上機嫌になり、トキにも“スキップしてみて”と教えてくれる。ぎこちないが、跳ねるように歩いてみるトキの姿に、視聴者も自然と笑みを浮かべてしまう。

■異文化を笑い合う、朝の光の中で
翌朝、トキはさっそくスキップの練習を始める。母・フミ(池脇千鶴)にもスキップをやってみてと誘い、そこに友人・サワ(円井わん)も加わって、三人でスキップ大会が始まる。誰ひとりとして、うまく跳べない。それでも笑いながら、照れながら、何度も挑戦するその姿は、異文化をただおもしろがる心そのものだ。
フミやサワだけでなく、錦織や父の司之介(岡部たかし)、勘右衛門(小日向文世)までもが巻き込まれ、スキップ合戦へと発展。もっとも異国を忌み嫌っていたはずの勘右衛門が、誰よりも上手にスキップを決めるという皮肉も笑いを誘う。
夜、蚊に悩まされるヘブンのために、トキが吊っておいた蚊帳。その意図を伝えるために添えられた「蚊の絵」が、ふたりの間にまたひとつ、言葉を越えた理解を生む。
文化も言語も違うふたりが、絵や行動を通じてゆっくり歩み寄っていく描写には、史実における八雲とセツの関係が重なる。実際のところ、書き物をしている八雲の思考を、繊細なシャボン玉に例え、それを壊さぬようにと引き出しの開け閉めにも神経を使ったセツの話が伝わっている。
アイデアを構想中のヘブンの邪魔をしてしまったトキが「クビだ……」と落ち込むシーンもあるが、蚊帳というささやかな心遣いが、またふたりの関係をつなぎとめるはずだ。言葉が通じないことで起きる誤解と衝突、そのたびに積み重なる努力と微笑み。そのすべてが、静かで優しい異文化理解の物語だ。
(北村有)
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