なぜ、インフルエンザに罹らない人がいるの?

第1の防衛線:ウイルスを門前払いする「FUT2遺伝子」, 第2の防衛線:細胞内のゲートキーパー「IFITM3」と東アジア人の宿命, 第3の防衛線:免疫の司令塔「HLA」とその“相性”, まさかの伏兵:血液型とインフルエンザの都市伝説, 大きな援軍:「ライフスタイル」という後天的な盾, 過去の記憶が未来を守る:「インプリンティング」と抗体の質

なぜ、インフルエンザに罹らない人がいるの?

インフルエンザの流行が大きくなってきています

でも、皆さんの周りにもいませんか? 家族全員がインフルエンザで倒れても、一人だけ涼しい顔をしている「罹ったことがない人」

実はその違い、最新科学でかなり説明がつくようになってきているんです。

今回は、そんな「罹らない人」の謎を、遺伝子レベルから生活習慣まで掘り下げて解説します。

遺伝子の話などは少し難しく感じるかもしれませんが、読み進めていただければ「じゃあ、明日からどうすればいいの?」という具体的なアクションまでつながるように構成しました。

この記事が、今年の冬を乗り切るための「盾のひとつ」になることを願っています。

* * *

インフルエンザが猛威を振るう冬の小児科外来。連日の救急対応で少しお疲れ気味の研修医A先生が、指導医の「ほむほむ先生」に、素朴かつ切実な疑問を投げかけています。

A先生「先生……。また同期のB先生がインフルエンザでダウンしました。同じようにウイルスを浴びているはずなのに、C先生だけはずっとピンピンしてるんです。『不公平ですよね』って言いたくもなりますよ……。」

ほむほむ先生「ああ、よくある光景だね。でもA先生、その『不公平』の正体、実は単なる運ではないとしたらどうする? ウイルスの侵入を拒む遺伝子、細胞内での増殖を食い止める遺伝子、そして過去の『免疫の記憶』。彼らの中には、驚くべき防衛戦術が隠されている可能性があるんだ。いい機会だから、人体を『要塞』に見立てて、その謎を解き明かしてみようか。」

本記事を最後まで読めば、以下のことが分かります。

ウイルスを「門前払い」する遺伝子とは?

日本人を含む東アジア人で「インフルエンザの重症化リスクと関連しうる遺伝子型」が多いと言われる理由

「睡眠と運動」が感染リスクを大きく変える科学的根拠

これらの疑問が氷解するように、丁寧に解説していきます。

第1の防衛線:ウイルスを門前払いする「FUT2遺伝子」

第1の防衛線:ウイルスを門前払いする「FUT2遺伝子」, 第2の防衛線:細胞内のゲートキーパー「IFITM3」と東アジア人の宿命, 第3の防衛線:免疫の司令塔「HLA」とその“相性”, まさかの伏兵:血液型とインフルエンザの都市伝説, 大きな援軍:「ライフスタイル」という後天的な盾, 過去の記憶が未来を守る:「インプリンティング」と抗体の質

ChatGPTで作画

A先生「よろしくお願いいたします! でも『遺伝子』って言われると、もう生まれつき決まっていてどうしようもない、みたいな絶望感があるんですが……。」

ほむほむ先生「ふふ、結論を急がないで。まずは『生まれつきの盾』の話から始めようか。実は、ウイルスとの戦いは『体に入る前』から始まっているんだよ。そのカギを握る候補のひとつが『FUT2(フットツー)遺伝子』だ。」

A先生「FUT2……? 消化器内科の回診で、ノロウイルスに関係する遺伝子として聞いたことがある気がします。」

ほむほむ先生「さすが、よく勉強しているね! まさにそれだよ。FUT2遺伝子は、唾液や腸管の粘液に『血液型に関連した糖鎖』をどれくらい出すかを決めているんだ。ノロウイルスやロタウイルスなど一部のウイルスでは、この糖鎖が出るか出ないか(分泌型か非分泌型か)が、感染しやすさに大きく関わることが分かっている。[1–3] インフルエンザウイルスも、細胞の表面にある『糖鎖』という突起を目印にして着陸する点では同じなんだ。飛行機が滑走路の誘導灯を目印にするようなものだね。ただし、インフルエンザの主な受容体はシアル酸という別の糖で、FUT2がインフルエンザの“かかりやすさ”をどの程度左右するかについては、まだ研究途上なんだけどね。[3,19]」

A先生「ということは、FUT2のタイプによってウイルスにとっての“着陸しやすさ”が少し変わるかもしれないけれど、ノロウイルスみたいに『ほぼかからない人がいる』とまでは言えない、くらいのイメージですか?」

ほむほむ先生「その表現が一番誠実かな。日本人の約2割にいる『非分泌型(ノンシークレター)』の人では、粘膜に出ている血液型関連の糖鎖が少なく、特にノロウイルスでは『そもそも結合しにくい』ため感染しにくいことが知られている。[1,2] 一方、インフルエンザについては“FUT2が関係している可能性がある”と示唆する研究はあるけれど、まだ決定打とは言えない。[3] だからここでは、『生まれつき、粘膜の“景色”に個人差があって、ウイルスがつかまりやすい人とつかまりにくい人がいるかもしれない』くらいに理解しておくのが安全かな。」

A先生「うわあ、それは羨ましい……。僕はノロウイルスにもしっかりかかったことがあるので、間違いなくその『選ばれし2割』には入っていない自信があります。」

ほむほむ先生「まあ、落ち込むのはまだ早いよ。これはあくまで第1の防衛線の話。もしここを突破されても、城の中にはもっと強力な『門番』が控えているんだ。」

第2の防衛線:細胞内のゲートキーパー「IFITM3」と東アジア人の宿命

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ChatGPTで作画

A先生「門番、ですか。玄関を突破された後に待ち構えているやつですね。」

ほむほむ先生「ええ。ウイルスが細胞の表面に取り付いて、まさに細胞の中に入り込もうとするその瞬間、『ここから先は通さん!』と立ちはだかるタンパク質がある。それが『IFITM3(アイフィットムスリー)』だ。[4,5]」

A先生「なんだか強そうな名前ですね。具体的には何をしているんですか?」

ほむほむ先生ウイルスが細胞膜を融合させて侵入するのをブロックし、細胞内での増殖を防ぐ、まさに細胞レベルのゲートキーパーだね。[4] この門番が優秀なら、たとえウイルスがやって来ても、重症化する前に“ボヤ騒ぎ”で鎮火できるんだ。インフルエンザ患者さんを対象にした研究でも、このIFITM3の働きが弱い人ほど、重症化しやすい傾向が報告されている。[4,5]」

A先生「頼もしい! じゃあ、我々のIFITM3も頑張ってくれているはずですね。」

ほむほむ先生「……ところが、ここに日本人を含む東アジア人にとって、少し耳の痛い話があるんだ。このIFITM3を作る遺伝子に変異があると、門番の働きが弱くなってしまう。具体的には『rs12252』という遺伝子多型(SNP)だね。[4–6]」

A先生「変異があると、門番がサボるんですか?」

ほむほむ先生「サボるというより、配置がうまくいっていない、シフトにちゃんと入れていないような状態に近いかな。過去のメタ解析などによると、このrs12252のCという型を2つ持つ人(CC型)は、インフルエンザで入院したり重症になったりしやすいことが分かっている。[5]」

A先生「その『サボり屋遺伝子』を持っている人はどれくらいいるんですか? まさか……。」

ほむほむ先生「実は、ヨーロッパ系の人ではこのCという型を持つ人は少数派なんだけれど、私たち日本人を含む東アジアの集団では、このCアレルを少なくとも1つ持つ人が人口の半分以上を占めると報告されている。[4–6] その中でも、Cを2つ持つ“CC型”は、おおよそ4人に1人くらいとされていて、このタイプの人では重症化リスクが高い可能性があるんだ。[4–6]」

A先生「は、半分以上……。じゃあ、日本人はみんな遺伝的にインフルエンザで重症化しやすい民族ってことですか? そんなの、努力じゃどうにもならないじゃないですか……。」

ほむほむ先生「そこは少し注意が必要なところだね。たしかに、“重症インフルエンザになった患者さんたち”を集めて遺伝子を調べると、このIFITM3のC型を持つ人が多い、という結果は出ている。[4,5] でも、実際の重症化リスクは、年齢や基礎疾患、肥満、妊娠、ワクチン接種歴、医療へのアクセスなど、たくさんの要因で決まる。[19] だから、『東アジア人では、重症化と関連しうるIFITM3の型を持つ人が比較的多い』とは言えても、『民族として重症化しやすい運命にある』とまでは言えないんだ。遺伝子は“配られたカード”の一部でしかない。勝負の行方を決めるのは『カードの切り方』、つまりこれからの話だ。」

A先生「……ちょっとホッとしました。遺伝子で“全部決まってしまう”わけではないんですね。」

ほむほむ先生「そう。その上、遺伝的な要因はIFITM3だけではない。例えば、2022年の研究では『ERAP1』という別の分子の変異も、インフルエンザウイルスへの感受性に関わっていることが分かってきている。[7] 私たちの体はもっと複雑で、多くの遺伝子と環境がからみ合っているんだよ。」

第3の防衛線:免疫の司令塔「HLA」とその“相性”

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ほむほむ先生「さて、城壁(FUT2)を超え、門番(IFITM3)も突破されたとしよう。ここで登場するのが、獲得免疫という正規軍だ。その司令官となるのが『HLA(白血球の型)』だね。」

A先生「HLAは移植の時とかに聞くやつですね。白血球の型。」

ほむほむ先生「そうそう。HLAは、捕まえたウイルスの断片(敵の顔写真)を、攻撃部隊であるT細胞に見せて『こいつを攻撃しろ!』と指令を出す役割を持っている。でも、この司令官にも『得意な敵』と『苦手な敵』がいるんだ。[8,9]」

A先生「司令官なのに好き嫌いがあるんですか?」

ほむほむ先生「好き嫌いというより、“顔写真の見せ方が上手いか下手か”かな。例えば、2009年の新型インフルエンザ(H1N1)の時には、あるHLAの型を持つ人ではウイルスの多様な断片を効率よく提示でき、T細胞の反応が強くなりやすい、と示した研究がある。[9] 一方で、別の型では、先住民族集団などでインフルエンザ死亡率が高かった地域に多くみられた、という報告もある。[8] その一例として、HLA-A02:01のように“多くの株に共通する部分をよく提示できそうな型”が防御的に働いている可能性があると議論される一方で、HLA-A24:02については、インフルエンザ死亡率が高かった集団で頻度が高いことが報告されていて、『守ってくれる型』というより“条件によっては不利に働くこともあるかもしれない型”として扱われているんだ。[8,9] だから、HLAに関しては『どの型が絶対に有利・不利』と言い切るのではなく、『型によってウイルスへの反応の仕方に違いがありそうだ』くらいに理解しておくのが、今の科学としては妥当だね。」

A先生「なるほど。同じウイルスが来ても、司令官の指示出しのスキルによって、軍隊がすぐ動けるかどうかが変わるわけですね。」

まさかの伏兵:血液型とインフルエンザの都市伝説

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ChatGPTで作画

A先生「個性の話が出たところで、患者さんからよく聞かれる質問があるんです。『先生、私O型だからインフルエンザにかかりにくいですよね?』って。これって都市伝説ですよね?」

ほむほむ先生「ふふ、よくある質問だね。実はそれ、あながち完全に間違いとも言い切れないデータがあるんだよ。」

A先生「えっ、本当ですか!?」

ほむほむ先生「2022年の大規模な研究で、約170万人の血液ドナーのデータを解析したものがあるんだけど、それによると、O型を基準にした場合、A型の人はインフルエンザによる入院リスクがわずかに低いという結果が出ている。[10] 一方で、古い研究ではB型の人でインフルエンザ様症状がやや多かったとする報告もあったり、血液型による抗体保有率に差がなかったりと、結果は研究によってまちまちなんだ。[11] だから、血液型は『決定的な要因』ではなく、『統計的に見ればわずかな差があるかもね』くらいの話題として捉えておくのが、科学的に誠実だろうね。」

A先生「なるほど、“ちょっとした傾向”くらいに考えておくのが良さそうですね。」

大きな援軍:「ライフスタイル」という後天的な盾

第1の防衛線:ウイルスを門前払いする「FUT2遺伝子」, 第2の防衛線:細胞内のゲートキーパー「IFITM3」と東アジア人の宿命, 第3の防衛線:免疫の司令塔「HLA」とその“相性”, まさかの伏兵:血液型とインフルエンザの都市伝説, 大きな援軍:「ライフスタイル」という後天的な盾, 過去の記憶が未来を守る:「インプリンティング」と抗体の質

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A先生「先生、ここまで聞いてきて、なんだか無力感があります。FUT2もIFITM3もHLAも、全部生まれつきの遺伝子じゃないですか。医療従事者が、不規則な生活の中でできることなんてあるんでしょうか……。」

ほむほむ先生「A先生、ここからが本題だよ。先ほど『カードの切り方』と言ったよね? 実は近年の研究で、僕たちの『生活習慣』が、遺伝子のハンデを覆すほど強力な防御壁になることが、かなりはっきり見えてきているんだ。」

A先生「生活習慣……まさか『早寝早起き』とか言いませんよね?」

ほむほむ先生「その『まさか』なんだよ。しかも、ただの精神論ではない。2023年に発表された、英国とフィンランドの約60万人を対象とした研究があるんだ。[12] ここでは、『不眠症がある』『睡眠の質が悪い』といった睡眠の問題がある人は、インフルエンザを含む呼吸器感染症で入院したり、重症化したりするリスクが有意に高い、と結論づけられている。」

A先生「60万人……! それは説得力がありますね。でも、我々は当直があるから、どうしても睡眠は乱れがちです。」

ほむほむ先生「そこがまさに重要な点だね。オランダの病院勤務者を対象にした研究では、シフト勤務者は睡眠不足や生活リズムの乱れを通じて、呼吸器感染症にかかるリスクが高くなることが示されている。[13] つまり、A先生が風邪を引きやすいのは、遺伝子のせいだけではなく、過酷なシフト勤務で『防衛システム』がダウンしているからかもしれないんだ。」

A先生「うう、耳が痛い……。やっぱり寝不足は免疫の大敵なんですね。」

ほむほむ先生「さらに、2025年に出たばかりの研究では、『適切な睡眠時間』『早めの入眠』『いびきや無呼吸が少ない』などの健康的な睡眠スコアが高い人ほど、感染症で入院するリスクが大きく下がることが示された。[14] スコアが低い人に比べ、最も良い睡眠パターンの人では、感染症入院が4割近く少なかったんだ。寝ることは、サボることではなく、“最強の武器をメンテナンスする時間”なんだよ。」

A先生「寝る子は育つ、じゃなくて、寝る医者は生き残る、ですね。運動はどうなんですか?」

ほむほむ先生「運動も強力な援軍だね。2023年の論文では、週150〜300分程度の有酸素運動に加えて筋トレも行い、運動ガイドラインを満たしている人は、全くしない人に比べてインフルエンザや肺炎で死亡するリスクが約半分だった、というデータがある。[15] 薬だけでここまで死亡リスクを下げるのはなかなか難しいから、“ほどほどの運動習慣”は、かなり強力な“タダで手に入る薬”と言っていいかもしれないね。」

A先生「死亡リスクが半分……。とっても効きそうですね。」

ほむほむ先生「それに加えて、喫煙はインフルエンザによる入院リスクを高め、ワクチンの効果を弱めてしまう可能性も報告されている。[18] つまり、せっかく遺伝子やワクチンが用意してくれた防御力を、生活習慣で削ってしまうこともあるということなんだ。」

過去の記憶が未来を守る:「インプリンティング」と抗体の質

第1の防衛線:ウイルスを門前払いする「FUT2遺伝子」, 第2の防衛線:細胞内のゲートキーパー「IFITM3」と東アジア人の宿命, 第3の防衛線:免疫の司令塔「HLA」とその“相性”, まさかの伏兵:血液型とインフルエンザの都市伝説, 大きな援軍:「ライフスタイル」という後天的な盾, 過去の記憶が未来を守る:「インプリンティング」と抗体の質

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A先生「生活習慣を変えることで、遺伝的な弱点をカバーできる希望が見えてきました。あともう一つ、最初に先生が言っていた『免疫の記憶』って何ですか?」

ほむほむ先生「これは、私たちの体が持つ『歴史の図書館』のようなものだね。A先生、『免疫学的刷り込み(インプリンティング)』という言葉を聞いたことは?」

A先生「初めて聞きます。刷り込みって、カモの親子みたいな?」

ほむほむ先生「似ているね。実は、人生で最初に感染したインフルエンザウイルスの型が、その人の一生の免疫反応のクセをある程度決めてしまう可能性があるんだ。最初の敵の顔を強烈に覚えているから、それと似た親戚のようなウイルスが来ても、ある程度守ってくれる。これを『交差防御』と言うんだよ。[19] 2009年のパンデミックの時、高齢者の死亡率が比較的低かったのは、彼らが子どもの頃に流行したH1N1系統のインフルエンザの免疫記憶を持っていたからだ、とする説もある。[19]」

A先生「へえ! じゃあ、子どもの頃にかかったインフルエンザが無駄じゃなかったってことですか。」

ほむほむ先生「そうともいえるね。さらに面白いのが、『治りやすさ』に関わる抗体の話だ。これまでは感染を防ぐ『中和抗体(HA抗体)』ばかり注目されてきたけど、最近の研究では、ウイルスが細胞から出るのを防ぐ『ノイラミニダーゼ(NA)抗体』も重要視されている。[16,17] 2020年にニカラグアで行われた研究によると、このNA抗体が多い人は、もしA(H1N1)pdm09に感染してもウイルスを排出する期間が短く、症状も早く治まることが分かった。[16] つまり、感染自体は完全には防げなくても、“ボヤで済ませる力”が強いということだね。」

A先生「ボヤで済ませるか、大火事になるか、の違いですね。」

ほむほむ先生「そう。そして、このNA抗体はワクチン接種でもある程度誘導されることが分かっている。[17] つまり、ワクチンは『かからないため』だけでなく、『万が一突破されても、軽症で済ませて周りにうつさないため』の保険でもあるんだよ。」

A先生「なるほど、周りにうつさない、というのは大事ですね。」

ほむほむ先生「その感覚は正しいよ。家庭内で一人がかかると、他の家族への感染リスクは季節によっては3倍前後に跳ね上がる、というデータもある。[20] でも、ワクチン接種をしていると、その二次感染リスクを2〜3割ほど下げられると推定されているんだ。[21] “自分が軽く済めばそれでいい”ではなく、“家族や患者さんにうつさないための盾”としてのワクチン、という視点もとても大事なんだ。」

* * *

A先生「(深く息を吐いて)……なるほど。インフルエンザになりやすいと嘆いていたのは、遺伝子のせいにして諦めていただけだったのかもしれません。当直明けでボロボロの体のまま、ジャンクフードを食べてました。」

ほむほむ先生「A先生。この図を見てごらん。一番外側の『FUT2』や細胞内の『IFITM3』といった遺伝子の壁。これらは生まれ持った城壁だ。でも、その城壁を守る兵士たちの士気(免疫力)を維持するのは、日々の『睡眠』と『運動』と『禁煙』なんだよ。[11–15,18]」

第1の防衛線:ウイルスを門前払いする「FUT2遺伝子」, 第2の防衛線:細胞内のゲートキーパー「IFITM3」と東アジア人の宿命, 第3の防衛線:免疫の司令塔「HLA」とその“相性”, まさかの伏兵:血液型とインフルエンザの都市伝説, 大きな援軍:「ライフスタイル」という後天的な盾, 過去の記憶が未来を守る:「インプリンティング」と抗体の質

筆者作成

A先生「遺伝子という『運命』と、生活習慣と経験という『歴史』。その両方が組み合わさって、今の我々を守っているんですね。」

ほむほむ先生「その通り。東アジア人ではIFITM3など“重症化に関わりうる遺伝子型”を持つ人が比較的多いという弱点がある一方で、世界トップクラスの衛生観念やマスク習慣、そして医療へのアクセスという『強み』も私たちは持っている。[4–6,19] 遺伝的な要因はたしかに“ハンデ”になることもあるけれど、多くの人にとっては、ワクチン接種や生活習慣の工夫でその影響をかなり小さくできることが、近年の研究から見えてきているんだ。[11–15,19] A先生、まずは今夜、しっかり寝てほしいな。まあ、僕自身にもいえることだけどね(;^ω^)」

今回のまとめ

第1の防衛線:ウイルスを門前払いする「FUT2遺伝子」, 第2の防衛線:細胞内のゲートキーパー「IFITM3」と東アジア人の宿命, 第3の防衛線:免疫の司令塔「HLA」とその“相性”, まさかの伏兵:血液型とインフルエンザの都市伝説, 大きな援軍:「ライフスタイル」という後天的な盾, 過去の記憶が未来を守る:「インプリンティング」と抗体の質

筆者作成

✅ 「かかりやすさ」は遺伝子の暗号が決めている部分もある

ウイルスの侵入しやすさに関わる粘膜のFUT2遺伝子や、細胞内での増殖を食い止めるIFITM3遺伝子は、防御の要となる分子です。 日本人を含む東アジアでは、IFITM3に“重症化リスクと関連しうる型”を持つ人が比較的多いことが報告されていますが、実際の重症化リスクは年齢や基礎疾患、医療アクセスなど多数の要因で決まるため、「民族として重症化しやすい」とまで言い切ることはできません。

✅ 「睡眠と運動」こそが最強の免疫バフ

最新の研究では、良質な睡眠と適度な運動が、インフルエンザを含む呼吸器感染症による入院や死亡リスクを大きく下げることが示されています。逆に、シフト勤務によるリズムの乱れや喫煙は、呼吸器感染症のリスクを高め、インフルエンザワクチンの効果さえも弱めてしまう可能性があります。

✅ 「過去の記憶」とワクチンで未来を守る

過去に感染したウイルスの記憶(インプリンティング)や、ワクチンで得られる抗体、特にノイラミニダーゼ(NA)抗体は、“感染しても重症化しにくく、早く治る”力と関係しています。家庭内では一人がかかると他の家族のリスクが数倍に上がりますが、ワクチン接種により二次感染を減らせることも示されつつあります。

遺伝的な弱点は、「正しい知識」と「ワクチン」、そして「日々の生活習慣」でかなりの部分をカバーできます。“生まれつき”に目を向け過ぎるより、“今日から変えられるカードの切り方”に、少しだけ目を向けてみましょう。

参考文献リスト

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[4] Zhang YH, Zhao Y, Li N, et al. Interferon-Induced Transmembrane Protein-3 Genetic Variant rs12252-C Is Associated With Severe Influenza in Chinese Individuals. Nat Commun. 2013;4:1418.

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