「2階建て鉄道車両」なぜヨーロッパには多いのか

ヨーロッパでは2階建て=通勤車両, 「2階建て3ドア車」も走るパリ, ドイツは「東」がいち早く導入, 日立の2階建て車が活躍するイタリア, イギリスにも約60年ぶりに復活?, 日本とヨーロッパで異なる環境

ドイツの2階建て列車。主に近郊用として幅広く導入されている(撮影:橋爪智之)

どこか特別な響きがある「2階建て車両」。近鉄の「ビスタカー」や首都圏のJR普通列車に連結されているグリーン車、かつての東海道・山陽新幹線100系など、それぞれに思い浮かべる車両は異なるだろうが、日本では特急列車やグリーン車などの優等列車、優等座席車両に用いられることが多い。

【写真はこちらから】▶ヨーロッパでは特急や特別車両より通勤列車に多い「2階建て車両」▶パリの近郊路線を支える「2階建て3ドア」の電車や東欧の社会主義時代に造られた客車▶イタリア全土で活躍する日立製の車両など各国を走る2階建て車両の数々

通勤型のように純粋な実用性を求めた車両は、JR東日本のライナー用に製造された215系や、1両だけ試作された常磐線用の415系(クハ415-1901)など、数えるほどしかない。2階建て車両は、2階部分が高い位置にあり通常の車両と比較して眺めが良いことから、日本では特別車両として採用される例が大半だ。

ヨーロッパでは2階建て=通勤車両

一方、2階建て車両は床面積が増えるため、座席数を多くできるという利点があることから、ヨーロッパでは通勤型車両に採用される例がほとんどで、特別車両としての採用例の方がはるかに少ない。

【写真】ヨーロッパでは特急や特別車両より通勤列車に多い「2階建て車両」。パリの近郊路線を支える「2階建て3ドア」の電車や東欧の社会主義時代に造られた客車、イタリア全土で活躍する日立製の車両など、各国を走る2階建て車両の数々

ヨーロッパでは通勤時も立錐の余地もないほどの混雑となることはあまりなく、郊外のベッドタウンと都心部を結ぶ近郊列車の大半は、極力座席数を増やした設計となっている。日本の通勤電車のような3~4ドアの車両は大都市中心部の地下鉄くらいで、パリやロンドンといった世界有数の大都市であっても、車両のドアの数は2つだけ、という近郊路線もある。

その究極形態として誕生したのが、床面積を広げて座席数を大幅に増やした2階建て車両というわけだ。

では、実際に2階建て車両はヨーロッパの中でもどういった地域で運用され、どんな車両があるのだろうか。主要な国を見ると、たいていは何らかの形で2階建て車両を導入している。

積極的に2階建て車両を導入してきたのがフランスだ。高速列車TGV-Duplex(デュプレックス)が有名であるが、もともと1930年代からパリ周辺を中心に2階建て近郊型車両が導入されるなど歴史は長い。郊外からパリ中心部へ通勤する人たちが着席できるよう、少しでも座席数を増やそうという発想から生まれた2階建て車両は、パリ周辺の近郊輸送では欠かせない存在となっている。

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パリ周辺の近郊輸送で活躍するZ8800型電車(撮影:橋爪智之)

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圧倒的な収容力を誇るZ8800型の2階席。横2+3列の座席配置だ(撮影:橋爪智之)

「2階建て3ドア車」も走るパリ

中でも興味深いのは、郊外からパリ市内中心部へ直通する急行地下鉄RER-A線で使用されるMI09型車両で、なんと2階建て車両ながら3ドアを有する。

RER-A線は、パリ市内でもとくに混雑する繁華街を抜けていく路線だ。そのため、2階建て車両とはいえドアの数を増やして少しでも乗降時間のロスを減らそうという設計なのだろうが、2階へ通じる階段は両端2カ所の出入り口のみで中ドアにはなく、2階部分は通り抜けできない個室のような行き止まりのスペースというユニークな構造となっている。混雑はするが、どうにか座席数は増やしたい、という執念を感じる。

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非常に珍しい3ドア2階建て構造を採用したMI09型(撮影:橋爪智之)

【写真】横から見るとよくわかる「2階建て3ドア車」のMI09型

ヨーロッパの高速列車で唯一の2階建て車両であるTGV-Duplexも、増加する利用者数に対し、これ以上の列車本数増加や併結運転だけでは対処が難しいという理由から開発された。日本の優等列車の「プレミアム感」や「眺望性」といった理由とは一線を画し、近郊列車と同様、完全に輸送力が目的である。後継車のTGV-Mも2階建てで、デビューへ向けて試運転が進められている。

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利用者増加に対応するため誕生したTGV-Duplex(撮影:橋爪智之)

【写真】ちょっと圧迫感が……2階建てで天井の低いTGV-Duplexの車内

フランスでは、収容力以外にバリアフリー対策として2階建て車両を導入している側面もある。フランスの多くの駅のホームは非常に低く、通常の車両では車いすで乗車する場合はリフトが必要となる。そこで、床の低い1階部分に出入り口を設けた車両を導入することで、バリアフリー対策も兼ねるという方法を思いついた。TGVに2階建て車両を導入する、もう一つの理由がここにある。

ドイツは「東」がいち早く導入

ドイツも2階建て車両を積極的に導入している国だ。まだ東西が分かれていた時代に、旧東ドイツで多くの2階建て車両が製造された。中・長距離の普通列車や都市近郊列車の「Sバーン」などで使われ、東西ドイツ統一後は旧西ドイツ地域へも導入された。近年は地方都市間を結ぶ優等列車のインターシティにも2階建て客車が導入されている。

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旧東ドイツ時代の2階建て車両。東西ドイツ統一後も活躍した(撮影:橋爪智之)

【写真】東ドイツをはじめ、東欧では古くから2階建て車両が活躍していた。いかにも「社会主義時代」を思わせる重厚なデザインのチェコの2階建て客車

スイスは優等列車に2階建て車両を数多く運用している。1990年代にまず、チューリヒの近郊列車Sバーンに2階建て車両が採用され、その後インターシティ用のIC2000型客車やRABe502型電車が都市間特急用として導入された。

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一般の客車(左)と組み合わせて使用されるスイスのIC2000型客車(撮影:橋爪智之)

ただし、スイスは山岳路線が多く、古くからの路線では車体の大きい2階建て車両はトンネルなどの構造物に接触してしまうため、これらの車両は運用制限がある。同国の主要幹線にあるゴッタルドベーストンネルでは2023年8月に貨物列車の脱線事故が発生し、長期間の運休を余儀なくされたが、迂回路となった旧ゴッタルド峠の路線が古い規格だったため2階建て車両による運行ができず、通常の車両をかき集めての運行となった。

日立の2階建て車が活躍するイタリア

イタリアは、2階建て車両は近郊列車という位置づけだ。1970年代にフランスで製造された2階建て客車VB2N型を借りて試験走行を行い、そのまま同型車両(DP型)をライセンス生産という形で導入した。後に2階建て客車の後継車である「ヴィヴァルト」を導入、近年は日立レール製の新型2階建て電車「カラヴァッジョ(ロック)」を導入している。

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日立製の2階建て電車「カラヴァッジョ」はイタリア全土で活躍している(撮影:橋爪智之)

【写真】フランスの車両をライセンス生産したイタリアの2階建て客車

ベルギーやオランダも、2階建て車両を積極的に導入している。ベルギーはM5型客車以降、M6・M7型といずれも2階建て車両を投入している。オランダは、優等列車であるインターシティの主力車両、VIRM型やDDZ型といった2階建て車両を投入しているが、国土の小さいオランダのインターシティは他国における中・長距離普通列車に近いものがあり、考え方としては着席通勤を目指した近郊輸送に近い位置づけかもしれない。

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オランダのVIRM型電車はインターシティとして活躍(撮影:橋爪智之)

【写真】ベルギーの2階建て客車M6型。ホームの高さに合わせてドアが2種類ある

中欧の各国でも、都市圏の近郊用として昔から2階建て車両が導入されてきた。唯一導入していなかったハンガリーも、2020年からスイスのシュタドラー製2階建て電車「KISS」の営業運転を開始、晴れて2階建て車両のある国の仲間入りを果たした。

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ハンガリー初の2階建て車両となった「KISS」(撮影:橋爪智之)

イギリスにも約60年ぶりに復活?

欧州主要国で唯一の例外はイギリスで、ロンドンをはじめ路線バスの多くにダブルデッカー車両が使われ、またブラックプールのトラムにも2階建て車両が使われているのとは対照的だ。

イギリスは在来線の車両限界(ホームや建物などの構造物、隣の線路を走行する車両などに接触しないよう定められた車両の最大断面)が大陸各国と比較して小さいため、1949年に4両編成2本が試作され1971年まで使用されたサザン鉄道の「クラス4-DD」以外で実用化されることはなかった。

高速新線は大陸側と同じ車両限界で建設されているため、英仏海峡トンネルを通る高速列車「ユーロスター」が2030年をメドに2階建て車両を導入することを発表しており、実現すれば約60年ぶりに2階建て車両がイギリスに復活することになる。

日本は人口密度の違いから、ヨーロッパではゆったりとした着席通勤が標準となるような、都心部から50~100km圏の近郊列車でも積み残しが出るほどで、通勤列車の座席数を増やすことがそもそも難しい。

2階建て車両は上下階を結ぶ階段が必要になり、少しでも多くの乗客を詰め込む通勤車両としては、こうした階段部分が無駄なスペースになってしまう点も導入を阻んでいる理由といえよう。また、途中駅での乗降が多いのはもちろん、とくに近年は湘南新宿ラインや上野東京ラインのように、都心部を突き抜けて反対側へ直通する路線が増えたため、途中駅での乗降のしやすさは鉄道会社にとって死活問題と言える。

ヨーロッパでは2階建て=通勤車両, 「2階建て3ドア車」も走るパリ, ドイツは「東」がいち早く導入, 日立の2階建て車が活躍するイタリア, イギリスにも約60年ぶりに復活?, 日本とヨーロッパで異なる環境

フランスのZ8800型電車。2階席へ通じる階段部分(撮影:橋爪智之)

【写真をもっと見る】フランスの2階建て3ドア車や東ドイツ時代の重厚な客車、日本ではあまり知られていないポーランドやチェコの車両など、ヨーロッパ各国で活躍する2階建て車両の数々

日本とヨーロッパで異なる環境

階段のスペースを設けるためにドアの数が少なく、しかも乗降性が悪い車両となれば、いくら座席数を増やしたとしても運行するのは難しい。かつて、オール2階建て車両として注目を集めたJR東日本の215系電車は、座席定員制の通勤ライナーとしては成功したと言えなくもないが、首都圏で一般の近郊用車両として使うには無理があり、すでに全車両が引退してしまった。

一方、ヨーロッパの場合は、一部を除いて近郊列車がそのまま都心部の各駅で客扱いをするのではなく、ターミナル駅で終点となる列車が多い。途中駅での乗降による所要時間の増大や遅延を考慮しなくていいことも、2階建て車両を導入しやすい点といえる。

ヨーロッパでは、2階建て車両は都市近郊の通勤輸送を筆頭に「輸送力増強」の手段として、今後もさまざまな用途で活躍を続けていくだろう。