駅前の店がすべて消えた「京成立石」──“失敗が許されない再開発”で揺らぐ下町文化と、コスト増・訴訟が示す構造的リスク
京成立石駅の北口再開発
2025年11月1日、京成立石駅北口で「立石駅北口地区第一種市街地再開発事業」が始まった。竣工は2029年を予定している。西側には地下2階・地上36階建て、710戸のタワーマンションが完成し、商業施設も併設される。東側には葛飾区役所が入る13階建ての建物が建つ計画だ。両者の間にはバスロータリーも設置され、これまで不便だったバスと鉄道の乗り換えがスムーズになる見込みだ。
【画像】「えぇぇぇ!」 これが現在の「京成立石駅」周辺です!(計12枚)
京成立石駅周辺の商店街は、「1000円でべろべろに酔える」と称される“せんべろ”の街として都内でも知られていた。メディアへの露出も多く、全国的に名が知られる場所であった。しかし、道路は狭く、救急車を含む自動車の走行に不便という課題を抱えていた。老朽化した木造建築も多く、地震や火災に対する防災面の不安も残されていた。
こうした課題を背景に、耐震性に問題があった葛飾区役所の移転を含めた再開発計画が動き出した。2023年9月から建物の解体が始まり、一通りの解体作業が終わったところで、再開発ビルの建設が開始された。南口についても、商店街を取り壊して新たな商業施設を建設する計画が2件進行中だ。
最終的には北口と合わせて、計3棟のタワーマンションを中心とした高層建築群が整備される見通しだ。
再開発計画の現場像

京成立石駅周辺の様子(画像:宮田直太郎)
筆者(宮田直太郎、フリーライター)は11月初旬の3連休に、立石の現状を確かめるため現地を訪れた。駅北側では建物がすっかり取り壊され、かつて賑わっていた街は完全に姿を消していた。
壁には、立石に本社を置くタカラトミーの看板商品「ベイブレード」や、沿線ゆかりの漫画「キャプテン翼」の絵が描かれている。そのなかに、再開発で整備される施設の全体像を示す看板もあった。取り壊した後に、行政と商業の中心として立石に新たな賑わいを創出しようとする姿勢は伝わってくる。
しかし、現地で看板を見た人からは
「このタワーマンション、誰が入居するのか」
といった声も聞こえてきた。葛飾区が入居する東棟では、1階よりも3階の床単価が高くなる現象もあり、住民の間には
「不当に高く取得しているのでは」
との懸念がある。集団訴訟に発展する動きも見られる。訴訟の詳細は中川寛子氏が東洋経済オンラインで掲載した記事「あんなに愛された街が…「立石再開発」微妙な現状」に詳しい。住民の再開発に対する懐疑の強さがうかがえる状況である。
賑わいを残す老舗と新たな挑戦

京成立石駅周辺の様子(画像:宮田直太郎)
続いて駅を超え、2年後に再開発が始まる南口のアーケード街を歩いた。アーケード街は昭和の時代がそのまま残ったような雰囲気で、確かに古い。再開発を控え、シャッターが閉じた店もあり、寂しさが漂っていた。
ただ、昼間にもかかわらず満席で入れない居酒屋もあり、まだ賑わいを保つ店も残っていた。経営者は高齢者ばかりではなく、有名人のサインを掲示する店も見られた。立石で商売を続けたいと考える人は少なくない印象だった。
南口の住民や事業者は再開発をどう見ているのだろうか。ある居酒屋の経営者は
「失敗が見えている」
「再開発ビルは賃料が高すぎてとても入れない。どこに移転するかまだ決めかねている」
と話し、再開発には乗り気でない様子だった。その店の常連客は「飲む場所が消えてしまう」と嘆き、街の将来を憂えていた。別の店の店主は
「建設資材の高騰で再開発自体が遅れている。商店街が地震で潰れるのが先か、ビルが立つのが先か、わからない」
と困惑を隠せなかった。北口の進捗や費用増が南口側の事業者や住民心理にも影響し、街の先行きに不透明感を与えている。
増え続ける再開発コスト

京成立石駅周辺の様子(画像:宮田直太郎)
筆者の取材で見えたこと以外にも、立石の再開発には多くの問題がある。特に課題となるのは組合再開発である。この方式は土地収用の費用がかからない利点がある一方、権利関係が複雑で、各フロアの運営やテナント誘致の方針で権利者同士の意見が食い違い、施設運営に支障が出やすい。
立石の場合、北口と南口で異なる組合が作られ、南口ではさらに東西に分かれる。各組合が連携しなければ、建物の動線が複雑になり、迷ってしまう可能性もある。防災上も好ましくないだろう。
再開発のコストは増え続けている。
・建設資材や人件費の高騰
・アスベスト除去
などの影響で、2022年12月時点で約933億円だった費用は、2024年4月には約1186億円に膨らみ、約253億円、率にして約27%増加した。前述の住民による集団訴訟は、高くなった賃料が原因で
「民間事業者が入居せず、行政機関が埋め合わせとして入居するのではないか」
という懸念から生まれた。
高騰した建設費を補うため、賃料は今後も高くなると想定される。その結果、商業施設には従来の立石の店舗ではなく、上層階のタワーマンションに合わせた高単価・高級志向の店が中心になる可能性が高い。そうなると、これまで立石の魅力であった「安くて美味しい飲食店」を目当てに訪れていた人々が足を運ばなくなる懸念もある。
高級志向の店舗は、立石駅から京成押上線でわずか7分の押上駅周辺、「東京スカイツリータウン」に多く存在する。立石の再開発ビルに同様の高級スーパーなどが入るとは想定しにくい。さらに悪化すると、採算確保を優先した医院や美容院、不動産仲介ばかりで、
「住民が日常的に利用できる店舗がほとんどない」
可能性もある。これでは、住民が利用したいと思えるビルにはならないだろう。
下町の賑わっていた商店街を再開発した結果、高い賃料や住民とのミスマッチのあるテナント構成に直面し、賑わいが戻らないまま空きテナントだらけのモールができる恐れがある。複雑な権利関係で動線が複雑になれば、再開発の意味も薄れてしまう。北区十条の「ジェイドモール」やさいたま市大宮区の「大宮門街」で見られた問題が、立石でも繰り返される可能性がある。こうした最悪の事態を防ぐためには、行政と組合の双方が慎重に検討する必要がある。
高架下スペースの活用可能性

取り壊された「呑んべ横丁」(画像:写真AC)
筆者が気になるのは、立体交差事業を通じて関わる
「京成電鉄の考え」
である。立石駅にバスロータリーを整備し、葛飾区役所を移転させ、商業施設もつくるとなれば、葛飾区の行政・交通・商業の中心を立石に置くことになる。しかし、現状の京成立石駅は各駅停車しか止まらない。再開発で区内や周辺から人が集まるとすれば、現状のままでは不便が過ぎる。
京成電鉄では、押上線から成田空港に乗り入れる有料特急の新設も検討している。再開発後に、隣駅の青砥駅のように有料特急を含め多くの列車を停車させる拠点にするのか、それとも各停のみとするのかは集客に直結する重要な問題である。
また、再開発と同時進行で進む押上線の立体交差事業において、高架下の活用も課題だ。「京成押上線(四ツ木駅~青砥駅間)連続立体交差事業」では、高架下の活用法が長年検討されてきたが、現状では具体的な情報は見当たらない。沿線で商売を続けたい商店主に対し、低賃料で提供することはできないだろうか。
実際、高架下の商業施設はJR東日本の秋葉原駅~御徒町駅や有楽町駅~新橋駅、東急の中目黒駅周辺で例がある。立石でも、再開発で立ち退きになる居酒屋の一部を
「高架下に移転させる」
ことは可能ではないか。南口の居酒屋の常連客からも同様の要望が聞かれている。立石駅周辺の店舗経営者には、まだ商売を続けたいと考える人も多い。そうした地元事業者に提供できれば、地域の賑わいを維持する手立てになるだろう。
老舗店舗の資産価値

京成立石駅周辺の様子(画像:宮田直太郎)
立石の再開発は、全国的に有名だった商店街を取り壊し、老朽化して耐震性に問題のある区役所を移転させ、バスロータリーを整備する事業である。区の商業・交通・行政の将来がかかるため、失敗は許されない。
しかし、高騰する建設費や、訴訟にまで発展した住民の反発、買い物客の動線やテナント管理を複雑にする組合再開発など、多くの課題を抱えている。
立石は、最近まで有名人のサインが飾られた繁盛店が多く、
「飲み文化」
が長年栄えた街である。街を発展させるなら、この資産を生かさない理由はない。商売を続けたい店舗を立石に残せるよう、京成押上線の高架下や新設される商業施設のレストランフロアなどを活用してほしい。