「沈黙の臓器=腎臓」を守る簡単なウォーキング法

30年以上の歳月を費やしてたどりついたメソッド, 「腎臓リハビリメソッド」を始める前の注意点, 気軽に健康寿命が延ばせる「いきいきウォーキング」, まずは「1日に500~1000歩」増やすことから, 体に異変を感じたら、すぐに医師に相談を

「そもそも腎臓病自体を発症させないこと」が大切だという(写真:Pangaea/PIXTA)

「働き者で我慢強く、かなりピンチな状態にならないとSOSを出してくれません」。東北大学名誉教授の上月正博氏がそう指摘する腎臓は"沈黙の臓器"という異名を持ち、腎臓病もほとんど自覚症状がないため、早期治療以上に、「そもそも腎臓病自体を発症させないこと」が大切だといいます。
そこで本稿では、上月氏が30年以上を費やして開発した、「予防」の観点からも効果的な「腎臓リハビリテーション」について、同氏の著書『東北大学病院が開発した 弱った腎臓を自力で元気にする方法』から、一部を抜粋・編集して紹介します。

30年以上の歳月を費やしてたどりついたメソッド

「尿たんぱくの量が多いですね」

「ちょっと尿に血が混じっていますね」

「クレアチニンの値が高いですね」

健康診断にて、医師からこのようなことを言われたのをきっかけに、本稿を読んでくださっている方も多いのではないでしょうか。

【イラスト】腎臓が働かないと体の中はゴミだらけ

腎臓は"沈黙の臓器"という異名を持つほどに寡黙であり、良くも悪くも働き者で我慢強いことから、かなりピンチな状態にならないとSOSを出してくれません。

ちなみに、その仕事内容を簡単に説明すると、体の中に溜まったゴミの処理です。腎臓の機能が落ちるということは、すなわち体の中にゴミが溢れかえってしまうことを意味します。

ときどきワイドショーでゴミ屋敷問題が特集されていますが、積み重なったゴミの山だけでなく、悪臭や害虫の発生といったほかの問題も誘発していますよね。

もしも、それと同じようなことがあなたの体の中で起きていたとしたら……。考えるだけでもゾッとしてしまうのではないでしょうか。

30年以上の歳月を費やしてたどりついたメソッド, 「腎臓リハビリメソッド」を始める前の注意点, 気軽に健康寿命が延ばせる「いきいきウォーキング」, まずは「1日に500~1000歩」増やすことから, 体に異変を感じたら、すぐに医師に相談を

(出所:『東北大学病院が開発した 弱った腎臓を自力で元気にする方法』より)

※外部配信先では図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください

腎臓病はほとんど自覚症状がありません。後戻りできなくなってしまわないためにも、早期に発見することが必要です。そしてもちろん、すぐに治療するに越したことはありません。

むしろ、症状をはっきりと自覚できるころには、慢性腎臓病がかなり進行しているとも言い換えられるでしょう。早期発見するためには尿検査による尿たんぱくや尿潜血、血液検査によるクレアチニンの濃度などが指標となります。

また、一般の方でも「推算糸球体ろ過量(eGFR)年齢別早見表」を活用すれば、腎臓の糸球体ろ過量(GER)を推定できるので、おおよそ慢性腎臓病の疑いがあるかどうかを判断できます。

しかし、もっと理想的なことをいえば、重要なのはそもそも腎臓病自体を発症させないことではないでしょうか。誰だって病気にはなりたくないし、痛い思いもしたくないですよね。

「そんなニーズに応えたい」

「腎臓のために今すぐにでもできることはないのだろうか」

そんな思いが発端となって開発された画期的なプログラムこそが、本稿で取り上げる「いきいきウォーキング」などの腎臓リハビリメソッド(運動療法)を中心とした"腎臓リハビリテーション"です。

私は30年以上の歳月を費やして腎臓の研究と臨床に取り組んできました。さまざまな紆余曲折を経ながら、そして少しの偶然の産物を賜ったおかげでたどり着けたのが、ほかの何物でもない腎臓リハビリメソッドのノウハウです。

腎臓リハビリにおける運動療法の研究結果を初めて講演したのが2000年のこと――今までの概念を大きく覆すものだったので、当時は否定的な意見も少なくありませんでした。しかし、それを上回るほどに国際的な称賛を浴び、確固たる有意なものとして腎臓リハビリメソッドは世界に広がっていくことになったのです。

私たちが中心となって発足した日本腎臓リハビリテーション学会は、腎臓リハビリにおける世界初の学術団体であり、今でも世界を先導していく立場にあります。

リハビリと聞くと、病後に取り組むイメージが強いかもしれませんが、腎臓リハビリはその限りではありません。腎機能の回復や維持、腎臓病予防の観点からも非常に効果的であり、「クレアチニン値が下がった!」「尿たんぱくが減った!」「人工透析を回避できた!」など、多くの事例によって、その有用性が実証されています。

「腎臓リハビリメソッド」を始める前の注意点

腎臓リハビリの運動療法は、慢性腎臓病の患者さんや人工透析を受けている患者さんでも安全に取り組めるものですが、病院では医師や看護師、理学療法士、作業療法士といった医療従事者のもとで、しっかりと腎臓の状態や運動負荷が管理され、患者さんの体調にもじゅうぶんに注意や配慮がなされています。

そこで、自宅で腎臓リハビリメソッドを始めるときに気をつけていただきたいことがあります。それは、自分自身の健康状態をしっかりと把握することです。

本稿を読んでくださっている方には、自分の病気に真摯に向き合い、頑張る努力を怠らないまじめなタイプが多いことでしょう。しかし、まじめな方ほどはまってしまう落とし穴が、すべてを最初から取り入れようとして頑張りすぎてしまうことです。

例えば、最大血圧が180mmHg以上あるいは最小血圧が100mmHg以上の高血圧であったり、空腹時の血糖値が250mg/dl以上の高血糖であったりする人は、まずは薬物療法や食事療法で血圧や血糖の数値を下げることを優先してください。

また、病院で人工透析の治療を受けている患者さんは、透析中の前半にペダルこぎなどを行い、透析後半や透析終了直後には運動療法を行わないなどの注意点があります。

自宅でも自主的に腎臓リハビリメソッドに励むのはすばらしいことですが、あくまでも無理のない範囲で、できれば透析療法のない日に「いきいきウォーキング」に取り組むといいでしょう。

ほかにも次ページの表で当てはまるものがある場合は、腎臓リハビリメソッドに取り組むための前段階として治療に専念してください。そして、かかりつけの医師がいるのであれば、ひとまず運動の是非を相談してみましょう。

30年以上の歳月を費やしてたどりついたメソッド, 「腎臓リハビリメソッド」を始める前の注意点, 気軽に健康寿命が延ばせる「いきいきウォーキング」, まずは「1日に500~1000歩」増やすことから, 体に異変を感じたら、すぐに医師に相談を

(出所:『東北大学病院が開発した 弱った腎臓を自力で元気にする方法』より)

気軽に健康寿命が延ばせる「いきいきウォーキング」

自分の健康状態を知り、かかりつけの医師にも運動療法の許可を得られたのであれば、さっそく腎臓リハビリメソッドに挑戦してみましょう。まず、みなさんに取り組んでもらいたいのは、ずばりウォーキングです。

もちろん、サイクリング、水泳、エアロビクスといった有酸素運動も腎臓リハビリとして効果的ではありますが、毎日続けることは大変ですよね。でも、ウォーキングならどうでしょうか。

通勤をしたり、買い物をしたり、意識的に「歩こう!」と思わなくても、人は1日に6000歩くらいは歩くといわれています。

「え? 意外に多い!」

そう思われたのではないでしょうか。そうなのです。誰もが、無意識のうちにけっこう歩いているのです。

それをダラダラと歩くのではなく、最後にイラストで紹介している「いきいきウォーキング」に置き換えてみましょう。決して重い腰を上げる必要はなく、誰でもお手軽に始められるはずです。それだけで健康寿命が延びるのですから、やらない手はありませんよね。

「歩くだけで寿命が延びるなんて嘘くさいなあ……」

このように訝しむ方もいるかもしれませんが、じつは日頃から効果的に歩けている人は少なく、同時に有用な歩数を確保できている人も多くありません。

そこで、足腰に問題がなく、歩くことに不安のない人は、手始めに3000歩に相当する30分を「いきいきウォーキング」に置き換えてみましょう。

このときのポイントは、息切れしない程度の早歩きをすることと、30分連続で続ける必要はないことの2つです。息切れしない程度の早歩きとは、無理なく会話が続けられることがひとつの目安になります。

また、1日の合計で30分を確保すればいいので、5分を6回、10分を3回、あるいは5分2回+10分2回など、生活リズムに合わせて調整すればOKです。

まずは「1日に500~1000歩」増やすことから

一方で、普段からあまり運動をする習慣がない人や体力に自信がない人もいるでしょう。小分けしていいとはいえ、30分も歩く時間を確保することが大変な人もいると思います。

その場合、まずは歩数計などを使って自分自身の日頃の歩数を知り、1日に500~1000歩増やすことから始めてみてください。

例えば、咀嚼回数を増やすことによって、脳の活性化や記憶力の向上、満腹感を得やすくなることによる食べすぎの防止、唾液の分泌量増加による虫歯や歯周病予防といった、さまざまな健康効果を得られることはよく知られています。

「今よりも料理をひと口食べるときの咀嚼回数を30回増やしましょう」と言われたら、「多いな」と感じる方は大勢いるでしょうが、「できれば10回、難しければ5回増やすだけでOK」であれば、「それくらいならなんとか」と思うのではないでしょうか。

いきいきウォーキングもそれと同じことです。「今よりもほんの少しだけ増やす」を意識するようにしてください。

また、足腰に不安のある方には、透析患者さんが利用しているエルゴメーター(ペダルこぎ)をおすすめしています。

今はネット通販でも1万~2万円くらいでリハビリ用のものが買えますし、置き場所に困らないコンパクトなものも増えてきました。それならば、手軽に購入に踏みきれるのではないでしょうか。

体に異変を感じたら、すぐに医師に相談を

いずれにせよ、ご自身のペースに合わせて、無理のない範囲で取り組むことが大切です。最初は5分だけでも構いません。焦らず、ゆっくりやっていきましょう。

もし、頭や胸が痛くなったり、冷や汗や脱力感が出たり、「おかしいな……」と体に異変を感じることがあったら、すぐに運動をやめて医師に相談してください。また、次のような症状に該当する場合も、すみやかに運動を中止しましょう。

・胸痛や呼吸困難、頭痛、吐き気、めまい、ふらつき、冷や汗などの症状が出た

・運動中または運動後の心拍数が、前日より10回/分以上増えた

・運動中に動悸、頻脈、徐脈、失神などの不整脈の症状が出た

・運動をしていないときでも不整脈が増えた

・尿中ケトン体が2+(20mg/dl)以上の人

もちろん、体調がすぐれない日は無理せずに休むことが第一になります。ほかにも糖尿病性腎症の人は、ちょっとした靴擦れをきっかけに壊疽が広がりやすいので、足の爪の状態やマメの有無、小さな傷などができていないかよく確認しましょう。

腎臓リハビリを続けていれば着実に健康寿命を延ばすことができるので、頑張ることが億劫にならないように、八分目で長い付き合いにできるといいですね。

30年以上の歳月を費やしてたどりついたメソッド, 「腎臓リハビリメソッド」を始める前の注意点, 気軽に健康寿命が延ばせる「いきいきウォーキング」, まずは「1日に500~1000歩」増やすことから, 体に異変を感じたら、すぐに医師に相談を

(出所:『東北大学病院が開発した 弱った腎臓を自力で元気にする方法』より)