新宿への小田急線「最後の砦」駅長が語る日常風景

小田急電鉄・代々木上原駅の亀井正博駅長。4番ホーム(左)には新宿行きの列車が発着する(記者撮影)
大都会のターミナル、新宿駅を出発した小田急電鉄の列車は、南新宿、参宮橋、代々木八幡と、住宅街の中を走っていく。
【写真はこちら】▶代々木上原駅は東京メトロ千代田線との相互直通運転で乗降客数が小田急全70駅で2位を誇る▶だが、乗り換え客で混雑するホームから改札階へ降りると驚くほどコンパクトで静かな別世界が広がっている
この区間は踏切も多く、新宿駅周辺の喧騒とは打って変わって、昔ながらの私鉄沿線の雰囲気を醸し出している。新宿の1駅隣は南新宿という駅名ながら所在地は渋谷区。明治神宮や代々木公園のそばで都会のなかでも緑が豊かなエリアでもある。
小田急70駅中で乗降2位
ところが、大きなカーブの途中にある代々木八幡を過ぎ、山手通りの下の踏切を通ると、また車窓の眺めが一変する。小田原線の上下線の間に挟まれる格好で地下から東京メトロ千代田線の電車が勢いよく上がってくる。そして到着するのが高架の代々木上原駅だ。
特急ロマンスカー以外のすべての種別が最初に停車する駅でもある。新宿―代々木上原間は距離3.5km、快速急行や急行などは4分で到着する。この先の下り(小田原)方面は登戸まで約10kmにわたって線路が上下2本ずつの複々線区間が続く。
反対に上り電車から見ると、代々木上原は小田急小田原線の新宿方面と東京メトロ千代田線を分ける要衝の駅という位置づけとなる。2024年度の1日平均乗降人員は26万9075人で、小田急全70駅の中で新宿(45万952人)に次いで2位を誇る。
ただ、1カ所しかない改札口と、広いとは言えない改札内の通路を見ると、“小田急で2位”という実感はあまり湧かないかもしれない。小田急線は代々木上原を介して東京メトロ千代田線と相互直通運転をしている。その駅の改札口を出ない乗客の数がカウントされているためだ。
千代田線は代々木上原―北綾瀬間の24kmの路線。表参道・霞ケ関・大手町と都心のビジネス街をつないでいき、つくばエクスプレスや東武スカイツリーラインが乗り入れる北千住を経て綾瀬へと至る。
綾瀬から東はJR常磐緩行線と相互直通運転をしており、小田急・東京メトロ・JR東日本の3社によるネットワークを形成している。代々木上原では茨城県の取手行きの表示も見ることができる。
また、北千住までの千代田線内には小田急の青いロマンスカー車両MSE(60000形)が乗り入れており、「メトロはこね・えのしま」「メトロホームウェイ」という地下鉄ではめずらしい有料座席指定特急が走る。ただし代々木上原では乗務員交代のために停車するものの、乗客の乗り降りはできない。
「高架複々線化の第一歩」
代々木上原駅は1927年4月1日、当時の小田原急行鉄道が新宿―小田原間を開業させた際に誕生した。開業当時の駅名は「代々幡上原」だった。現在の駅名となったのは1941年のことだった。
1976年に同駅付近の連続立体交差化工事が完成した。1978年3月31日に千代田線が代々木公園から1駅(1km)延伸し、相互直通運転を開始。代々木上原が躍進することになった。

新宿方面の4番ホーム(左)と千代田線方面の3番ホームでは駅名標のラインカラーや、発車案内、ホームドアなどのスタイルが異なる(記者撮影)
1980年刊行の『小田急五十年史』は、島式ホームは長さ210m、幅が上り線10m、下り線8mで「ホーム全長にわたって防風壁と一体構造になっている上家を設けた」と説明。また、千代田線との相互直通運転開始については「当社にとっては都心直通の短絡ルートを開くと同時に、将来の高架複々線化の第一歩となった画期的な出来事であった」と位置づけている。
代々木上原から隣の東北沢までの700mほどが小田急で初の複々線区間となった。
代々木上原で特徴的なのは高架上の2面4線の1番から4番まであるホームのうち、外側の1・4番ホームは小田急、内側の2・3番ホームは東京メトロと、ホームドアや発車案内などのスタイルが分かれていることだ。2・3番ホームの駅名標は小田急側と同じデザインだが、ラインカラーが青ではなく千代田線の緑色になっている。

代々木上原駅に並ぶ小田急、東京メトロ、JR東日本の車両。朝のラッシュ時間帯はホーム上が乗り換え客で混雑する(記者撮影)
新宿到着前の「最後の砦」
代々木上原駅の亀井正博駅長は「朝のラッシュ時間帯には2分おきに列車が到着するような駅で、安全第一ながら、新宿への到着を遅らせないように定時運行を担う『最後の砦』の役割があると思います」と語る。

新宿方面へ走り去る列車。4本の線路のうち内側2本が東京メトロ千代田線(記者撮影)
「朝はアルバイトから副駅長までホームに総出でラッシュの対応しています。体調を崩されるお客さまがこの駅で限界を迎えるのか、毎朝必ず数人いらっしゃって、ベッドが野戦病院のようになることがあります。それでも改札口は静かです。改札口の出入りは経堂のほうが多いのではないでしょうか」(亀井駅長)
亀井駅長は1989年4月入社。初めは相模大野駅に配属された。2010年から4年ほどの本社勤務では駅係員の「接客グランプリ」に携わったり、新入社員研修の講師役を務めたりしたという。その後、「小田急お客さまセンター」の所長や本厚木駅長を経て2025年4月に代々木上原に駅長としてやってきた。
ホームと改札口は別世界
「昔の代々木上原駅は商業施設『アコルデ』もなく殺風景な印象だったのですが、いまは周辺にイスラムのモスク(東京ジャーミイ)があったり、“裏渋”といってオシャレなカフェや雑貨店が増えていたりと、環境がよくて私は好きですね」(亀井駅長)

代々木上原駅の改札口は1カ所。乗降人員のわりに改札機の数は多くはない(記者撮影)
列車が到着するたびに乗り換え客で混雑するホーム階から階段を降りると小ぢんまりとした改札口。“小田急で2位”の駅の外にはまだまだ知らない世界が広がっていそうだ。