米ロ高官の通話内容流出 、漏らしたのは誰か

スティーブ・ウィットコフ米和平交渉担当特使
【ロンドン】米国のスティーブ・ウィットコフ和平交渉担当特使とロシア高官の間の電話協議内容が流出したことで、26日、その通話記録を漏えいした犯人を捜す世界規模の謎解きゲームが始まった。通話内容は、どのようにして米ロの首脳を動かし、停滞しているウクライナ和平プロセスを復活させるか、というものだった。
世界中で外交官から素人探偵に至るまであらゆる人が、手段と動機の謎を追った。ロシアと米国の高官同士が携帯電話で交わした会話を盗聴する能力を持っているのは誰か。そして会話内容を流出させることで最も大きな利益を得るのは誰か。
それは、欧州諸国政府の多くがロシアの有利に傾いたと見なす停戦案を妨害したいと考えている欧州の諜報(ちょうほう)機関だろうか。これはロシアの高官たちが26日、すぐに示唆した説だ。
またはロシア自身、つまり戦争から利益を得ていて、戦争の継続を望んでいるロシアの政府あるいは財閥の内部分子だろうか。これは一部の欧州当局者が提起した説だ。ある当局者は、ロシアが影響力を誇示するために、ウィットコフ氏が自分たちの意のままになっていることを示そうとした可能性があると示唆した。
あるいは他の誰かだろうか。ドナルド・トランプ米大統領がウクライナに圧力をかけてロシアに有利な和平合意に調印させかねないと懸念する、米政府機関内の離反者のような。
ロンドンのシンクタンク、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のロシア専門家エミリー・フェリス氏は「誰もがそれが誰なのかを見つけ出そうとしている。ここ2週間は混乱しており、今回の出来事で曖昧さと不明瞭さが一層強まった。すべての国から出されるあらゆる情報が疑われている状態だ」と話す。
ブルームバーグ・ニュースは25日深夜、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の大統領補佐官(外交政策担当)を務めるユーリ・ウシャコフ氏とウィットコフ氏の間の通話記録について報じた。ブルームバーグはその情報源に関する手掛かりを一切与えないようにしており、記事には記者名も日付も添えられていなかった。

ロシアのプーチン大統領の側近で大統領補佐官のユーリ・ウシャコフ氏
あるトランプ政権の高官は、通話内容が外国の諜報(ちょうほう)機関によってリークされたとみており、ターゲットはウィットコフ氏ではなく、ウシャコフ氏だったとの見方を示した。ウシャコフ氏がロシアのキリル・ドミトリエフ特使と行った別の会話も記録されていたからだ。
ある欧州の安全保障当局者は、ウシャコフ氏がオープンな携帯電話回線を利用していたと指摘し、世界で何十もの国々がウシャコフ氏の会話を聞ける技術を持っていると述べた。
この当局者は欧州の国が最も怪しいと思っているが、正確には分からないと話した。また、ドミトリエフ氏が仲介役を担っていることを巡って、政府内に意見対立や内紛があることから、ロシアを排除することもできないと付言した。
今回リークされたのは、トランプ氏の指示の下でパレスチナ自治区ガザとウクライナでの戦争の和平交渉を担当するウィットコフ氏と、ウシャコフ氏の間で交わされた10月14日の通話内容だ。その会話は、最近明らかになってきた28項目からなるウクライナ和平案の元となる内容を一部示唆するもので、ロシアに好意的な米国の姿勢を示していると広く受け止められている。
この電話での会話は、戦争の終結を望んでいないように見えるプーチン氏に対してトランプ氏が批判を強めていた中で行われた。会話の中でウィットコフ氏は、ウシャコフ氏に対し、プーチン氏の方からトランプ氏に電話してこじれた関係を修復し、和平協議を再スタートさせることを提案した。プーチン氏がトランプ氏と会話を始める際には、ガザの和平計画について絶対にトランプ氏を褒めちぎるべきだというウィットコフ氏の発言は、まるでウシャコフ氏に対応を指南しているようだった。
ブルームバーグが最初に明らかにした通話記録によれば、ウィットコフ氏は「その後は、非常にいい電話会談になるはずだ」と語ったという。

モスクワで対面するロシアのプーチン大統領とウィットコフ米特使(8月、ロシア国営メディア提供写真)
この会話の後、同じ週の間にプーチン氏とトランプ氏は、長時間の電話会談を行った。会談の結果はプーチン氏の勝利と言えるものだった。会談の翌日にウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領がホワイトハウスを訪れた際、トランプ氏は、ウクライナ側が米国に求めていた長距離ミサイル「トマホーク」の供与を拒否した。それ以降、ウクライナは外交交渉で守勢に回ることになった。ウクライナ当局者らは、戦場でロシアを圧迫することが、有意義な和平協議の開始をロシア側に強いる唯一の道だと主張している。
トランプ氏は、通常の外交チャンネルを排除し、ウィットコフ氏や義理の息子のジャレッド・クシュナー氏のような仲介役を使った非公式協議を通じてディールをまとめる手法を取っている。トランプ氏は今回のウィットコフ氏の会話について、通常の交渉の一部であり何もおかしな点はないと述べている。
しかし、一部の共和党議員はウィットコフ氏の役割を批判し、この通話内容によってウィットコフ氏がロシア側とあまりにも親密な関係にあることが露呈したと指摘した。
あるウクライナ高官はウィットコフ氏の擁護に回った。ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領府長官顧問は地元メディアへのコメントで、「ウィットコフ氏がロシア側に立って動いているとは考えていない」と語った。ポドリャク氏の報道官はこの報道内容を認めた。
ウシャコフ氏は26日、ロシア国営テレビに対し、通話内容をリークしたのが誰であろうと、ロシアと米国のウクライナ和平交渉を妨害しようとしている可能性が高いと述べた。
同氏はあるロシア国営テレビの記者に「彼らのリークの目的はわれわれを妨害することであり、(ロシアと米国の)関係改善を支援するためではなさそうだ」との見方を示した。
ウシャコフ氏は、誰が通話内容をリークしたのか自身は知らないが、ロシア側の人間ではないとして、「分からないが、彼らは通話内容をリークし、盗聴している。ただ、それはわれわれではない」と語った。
ウシャコフ氏は地元ニュースサイトの取材に対し、米メタ・プラットフォームズ傘下の暗号化メッセージアプリ「ワッツアップ」で会話が行われるケースもあるため、盗聴される可能性があると示唆した。
この会話をリークしたのが誰であれ、今回の件でウクライナ戦争と外交を巡る混迷感と不透明感は増したが、ロシアにとっては恐らく問題ではないだろうと前出のフェリス氏はみている。同氏は「ロシアには絶好の展開だ。彼らはここでほぼ何もする必要がない。彼らが物事を慌てて進める必要性をあまり感じていないことは、ロシア側の反応から十分に分かる」と語った。