懇願され引き受けた兄の賃貸保証人。家賃滞納で蘇る、「母の葬儀」で兄が放った驚愕の言葉

賃貸物件を借りる時、「賃貸保証人が必要です」と言われる。そして保証人になれるのは、以下の条件を満たしている人になる。

「2親等以内の親族」「安定した収入がある職業に就いている」「高齢でない」「電話やメールで連絡が取れる」「日本国内に住んでいる」「連帯保証人になることを承諾している」

2親等以内というのは親きょうだい。条件をクリアするのはなかなかハードルが高い。

他の条件をクリアしても、最後の「連帯保証人になることを承諾している」のをしたくない場合はどうなるだろう。

11月28日に公開された映画『兄を持ち運べるサイズに』(中野量太監督)は、主人公である理子(柴咲コウさん)が、疎遠になっていた兄(オダギリジョーさん)の突然の訃報に直面するところから話が始まる。

理子は兄とふたりきょうだいで育ったが、兄は母から溺愛される一方、妹である自分はしりぬぐいをさせられてばかりで疎遠になっていた。しかし兄の葬儀も、兄と長男が暮らしていた家の片付けも自分がやるしかない。兄と離婚していた元妻の加奈子(満島ひかりさん)らと合流し、一緒に「兄を持ち運べるサイズに」していく4日間の出来事が描かれる。

©2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会

©2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会

なによりこれは翻訳家でエッセイストの村井理子さんのエッセイ『兄の終い』が原作となっている。つまり実話をベースにしているのだ。

FRaUwebでは映画の公開を記念して柴咲コウさんと満島ひかりさんとの対談も実施した(近日公開予定)。あわせて原作より、映画の中でもインパクトのあるシーンとして描かれた部分を原作からの抜粋記事として紹介した第1回では、村井さんが母に泣きつかれ、兄からも懇願され、兄の賃貸保証人になるまでをお伝えした。第2回では映画の予告編でも驚愕をもって迎えられたエピソードをお届けする。

はじまった滞納

2019年の夏頃から家賃の滞納が続き、兄のアパートの管理会社から私のところに連絡が入るようになっていた。

「もう少しで滞納が3ヵ月になります。3ヵ月を超えますと、保証人さんに支払って頂かなければならないことになるんです」と管理会社の男性は申しわけなさそうに言った。

私は兄の携帯にメッセージを送り続けた。

「家賃を払ってください。迷惑かけないって言ったよね? 迷惑かけるんだったら、 あなたとは他人になります」

私から出る「他人」という言葉が、兄は何よりも嫌いだった。

5年前の母の葬儀で人目を憚らず泣いていた兄は、棺の蓋が閉められると「母ちゃん、ありがとう」と大きな声で言った。そして私を振り返って、「俺たち、二人きりになっちゃったな」と言った。

兄妹なんだから、これからも仲良くしよう、助け合っていこう。そんなことを涙ながらに言う兄に、何か恐ろしいものを感じた。兄は誰かに助けてもらわなければ生きられない人だった。それまでも、両親、配偶者に頼り生きてきた。それをすべて失った兄が、すがるような目で私を見ていた。逃げろ、逃げるんだ、全力で……私は心のなかで何度もくり返した。

迷いながらも一線を引いてきたつもりだった

それ以来、私はことある毎に、「私はもう結婚したから」と兄に言い、兄との間に一線を引いてきたつもりだった。あなたは私に依存することはできないのだと、しっかりと釘を刺してきたつもりだったのだ。

何度メッセージを送っても反応しない兄に業を煮やし、携帯を鳴らした。何十回も鳴らした。とうとう根負けした兄は、翌日になってメッセージを返してきた。

「明日入金することで話はついています。もう他人なんですね。電話をする顔がないです。迷惑かけてすいません。病気をしてから生活がガタガタなんです」

Photo by iStock

糖尿病で高血圧の持病があった兄は、2016年には狭心症となり、カテーテル治療を受けていた。それ以来、体調が完全に戻っていないことは私も知っていた。気持ちが揺れはじめた。1ヵ月分だけでも払ってやったほうがいいのだろうか。

兄はしばらくして、「せがれのために頑張りますけど、追いつめられて追いつかないんです」と書いてきた。しばらく悩んだが、私は返信をしなかった。

すると、私からの返信を求めるように、「迷惑かけてごめんなさい。こんなことになるとは思ってもいなかった。情けないです」と、兄は書いてきた。

私はそれでも、返信をしなかった。過去の軋轢を思い出して怒りに震えながらも体調を崩している兄が心配で仕方なかった。しかし、ここで折れたら、いつか必ず痛い目にあうとわかっていた。

「お前、葬式でいくら稼いだんだよ」

以前、こんなことがあった。

母の葬儀で兄は、喪主を務めたにもかかわらず、大事なことは何一つしなかった。 代わりに、母の死後に必要なさまざまな手続きや支払いはすべて私が行ったが、兄はそれが不満だったようだ。

Photo by iStock

葬儀を終えて多賀城に戻るというタイミングで、私をつかまえて、「お前、いくら稼いだんだよ」と言った。

「どういう意味?」

「お前、葬式でいくら稼いだんだよ」

「稼いでないよ」

「葬式代払っても、少しは残るんだろ?」

「残るわけないじゃん。これから先、どれだけ支払いがあるかわかってる?」

「なあ、頼むから分けてくれよ。このままじゃあ、多賀城に戻れないんだよ」

「そんなこと、なんで私に関係あるの?」

「お前、俺を見捨てるのかよ。頼むよ、これが最後だから」

私は心の底から恐怖を感じた。ついに兄はターゲットを私に絞ったのだと思った。 私は急いで財布から5万円を出すと、押しつけるようにして兄に渡し、「これが最後だからね」と言って、逃げるようにしてその場を離れた。兄は私の背中に、「ありがとうな!」と大声で言った。

©2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会

『兄を持ち運べるサイズに』    

作家・村井理子さんが実際に体験した数日間をまとめたノンフィクションエッセイ『兄の終い』を原作に、中野量太監督(『湯を沸かすほどの熱い愛』『浅田家!』)が家族のものがたりを紡ぐ。マイペースで自分勝手な兄に振り回され続けてきた主人公・理子を演じるのは柴咲コウ。家族を振り回す原因となるダメな兄をオダギリジョー、兄の元妻・加奈子は満島ひかりが演じた。兄と加奈子の娘で、両親の離婚後は母と暮らす満里奈役にnicola専属モデルの青山姫乃、最後まで兄と暮らした息子・良一役は、ドラマ「3000万」の味元耀大が務めた。

ある日、理子のもとに警察から電話が入る。それは疎遠状態で何年も会っていない兄が死んだという知らせだった。発見したのは、兄と暮らしていた息子の良一だという。「早く、兄を持ち運べるサイズにしてしまおう」。そう考えた理子は東北へ向かい、警察署で7年ぶりに兄の元妻・加奈子と、その娘・満里奈と再会。兄たちが住んでいたゴミ屋敷と化したアパートを片づけていた3人は、壁に貼られた家族写真を見つける。そこには、子ども時代の兄と理子が写ったものや、兄と加奈子、満里奈、良一という、兄が築いた家庭の写真などがあった。理子同様に兄に迷惑をかけられたはずの加奈子は、兄の後始末をしながら悪口を言い続ける理子に、「もしかしたら、理子ちゃんには、あの人の知らないところがあるのかな」と言う。これをきっかけに、理子たちはそれぞれに家族を見つめ直すことになる。兄の人生を終う(しまう)ための、家族のてんてこまいな4日間とは──?