【衝撃告白】「部屋を綺麗にしないと呼べない」は大間違い! 家事代行スタッフが明かす散らかった家への本音にホッとする理由

全国の書店員が「いちばん!売りたい」本を選ぶ本屋大賞で、2025年の大賞を受賞した小説『カフネ』。

突然死した男性の「姉」の薫子と、「元恋人」のせつな。家事代行サービスのスタッフとして働いているせつなを、ひょんなことから薫子は助けることになります。

それぞれに抱える傷がありながらも、互いに距離を縮めながら人々の暮らしを救っていく、心温まるヒューマンドラマです。

本記事では『カフネ』作者の阿部暁子さんと、家事代行サービスのパイオニア、株式会社ベアーズの広報を担当する服部祥子さん、そして家事代行スタッフとして働く丸子美奈子さんと、阿久津美和子さんが座談会を開催。

家事代行について描いた阿部さんが、やりがいやモチベーション、大事にしていることなど、現場のリアルを調査。さらに『カフネ』の名シーンや、制作秘話についてもお伺いしました。

家事代行がきっかけで「ちゃぶ台」が生まれた

服部:丸子さんと阿久津さんの自己紹介からお願いできますか。

丸子:ベアーズに入りまして、7年になります。ほとんどがお料理の仕事で、時々お掃除もやります。ロサンゼルス・ドジャーズのファンで、試合を見ている時間が大好きです。

阿久津:ベアーズで働いて、1年ほどになります。お掃除とお料理の仕事をしていて、5歳と7歳の娘がいます。

阿部:よろしくお願いします。『カフネ』では家事代行の仕事を描きましたが、コロナ禍に書いたこともあって、ほとんど取材できませんでした。今日はリアルなお話が聞けると思って、楽しみにしていました。よろしくお願いいたします。

服部:本日はぜひ家事代行のリアルに触れていただければと思います。丸子さん阿久津さんのお二人が家事代行の仕事をする上で、大事にしていることを教えてください。

丸子:家事代行を頼まれるお客様には、お仕事を頑張りたい、病気の家族を支えたいなど、さまざまな事情があります。その事情に踏み込むことはしないけれど、いつもお客様にさりげない優しさを持って接したいと思っています。根底に愛情がないと、成り立たない仕事です。

家事代行がきっかけで「ちゃぶ台」が生まれた, 誰にでも「あなたが嬉しいと、私も嬉しい」気持ちがある, 大腸がんをきっかけに大きな「支え」に気づいた, 散らかっているのは一生懸命生きた「証」

丸子美奈子さん

阿部:素晴らしいですね。丸子さんが実際に仕事をしていて、嬉しかった出来事はありますか。

丸子:以前通っていたご家庭の話です。そのお家には、キッチンに椅子が1つあるだけの、ダイニングテーブルのないお家でした。家族がバラバラに食事をして、会話もあまりなかったようです。やんちゃな小学生のお子さんがいらっしゃって、少し意地悪な振る舞いをされて困っていました。

服部:お仕事中、ご両親は近くにいなかったのですか。

丸子:親御さんはいつも不在で、私が仕事をしている間に、その子が学校から帰ってくるんです。悩んだ私は、ある時から自分の子どものように接することにしました。「今日は早かったんだね」「寒くない?」と声をかけるうちに、その子の態度が変わってきたんです。少しずつ、他愛もない会話ができるようになっていきました。

阿部:微笑ましいですね。丸子さんのさりげない優しさを感じます。

丸子:不思議なことに、ゆっくりとご両親の態度も変わってきて、家族のコミュニケーションが増えたように見えました。ある日、そのお宅に伺うと、食卓のなかったおうちに小さなちゃぶ台があったんです。残念ながらそのご家族は海外に引っ越してしまいましたが、後日会社に「家事代行のおかげで家族がまとまりました」と、嬉しいメッセージが送られてきました。

阿部:丸子さんの愛が、お子さんからご両親に流れていったのがわかります。ちゃぶ台が象徴的です。

丸子:そうですね。私もそのちゃぶ台を見た時に「ああ、家族がつながったんだな」と思いました。とてもやりがいのあるお仕事でした。

誰にでも「あなたが嬉しいと、私も嬉しい」気持ちがある

阿久津:私が家事代行の仕事をしているのは、お客様と交流させていただく時間に喜びを感じているからです。仕事後にハンドクリームを手にのせて塗ってくださるお客様がいて、その温もりが本当に嬉しくて。ささやかなことですが、大きなモチベーションになっています。

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阿久津美和子さん

阿部:お客様も、阿久津さんに家事代行してもらったことがとても嬉しかったんでしょうね。

阿久津:つくった唐揚げを「おいしすぎてみんなに配ったら、すぐになくなっちゃった!」と言われたこともありました。正直な話をすると、家では子どもたちに「ご飯やだ、食べたくない」なんて言われることもあって(笑)。お客様から「おいしい」と言われると、自信がつきます。

服部:子どもがつくった料理を食べないのって、あるあるですよね。

阿久津:そうですよね。料理の仕事をしているので、多少なりとも凹むのですが、お客様に料理を褒めてもらえると、自分の居場所ができていると感じます。

服部:お客様に自分の仕事としてちゃんと届いている実感があると励まされますし、お客様への愛こそがサービスの原点ですよね。『カフネ』に登場するせつなというキャラクターも、家事代行サービスを仕事にしています。ぶっきらぼうな一方で、心の奥には繊細さや優しさがある人だと感じていました。

阿部:せつなに「どうして家事代行を仕事にしているの?」と聞いたら、スンとした顔で「お金のため」と言うと思います(笑)。一方で彼女は、手際よくお客様のためを思った、完璧な料理をつくる。服部さんがおっしゃってくださったように、根底には愛のある人です。

服部:とても魅力的なキャラクターですよね。阿部さんが、せつなを描く上でこだわったところはありますか。

阿部:私は家事代行をしている人だけでなく、きっと誰もが「あなたが嬉しいと、私も嬉しい」という気持ちを持っていると信じています。その気持ちが、辛い過去がありながらも、お客様に一生懸命対応するせつなの描写に、少なからず影響を与えていると思います。

大腸がんをきっかけに大きな「支え」に気づいた

阿久津:『カフネ』を読んで好きだったシーンは、薫子さんが落としてぐちゃぐちゃになったケーキを、せつなさんがパフェにつくりかえるところです。残り物の食材でつくるのに、りんごをスライスしてつくった薔薇の飾りもあって、豪華なんですよね! 読んでいてワクワクしました。

丸子:本当にせつなさんは素敵なキャラクターです。いろんな問題を抱えているのに、淡々と仕事をこなす姿がかっこよくて、読んでいて涙が出ました。私の話で恐縮ですが、4年前に大腸がんを患ってしまい、抗がん剤治療によって冷たい食べ物の味がわからなくなってしまった時期があります。

阿部:それはお辛かったでしょう。お仕事は休まれたのですか。

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阿部暁子さん

丸子:はい、休むつもりで、会社には話をしていました。でもある時、会社から電話がかかってきて「あるお客様から、どうしても丸子さんがいいと言われている。1軒だけ行ってくれないか」と頼まれました。そのお宅は、私が長いこと料理をさせていただいているお宅でした。味覚のことが心配だからと一度は断ったのですが、それでもいいから来てほしいと懇願されました。

服部:お客様は、丸子さんの存在を待っていたのでしょうね。

丸子:お客様のお宅に伺ったら「きてくれて、ありがとう」と、泣いて喜んでくださいました。それほど私のことを待っていたんだと驚くと同時に、お客様を支えているようで、私が逆にお客様から支えられていると知りました。病気のおかげで、周りの人の支えに気づいたし、以前より人の気持ちを汲めるようになったと思います。

阿部:素晴らしいお話をありがとうございます。もう一冊、小説が書けるんじゃないかってくらい、胸がいっぱいになりました。

丸子:『カフネ』のせつなさんも大変な人生を送っているけれど、だからこそお客様の人生を後押しできるような料理がつくれるんだろうなと思い、自分もがんばろうと思いました。

散らかっているのは一生懸命生きた「証」

服部:家事代行サービスの仕事をしていると、家族のような関係に近づくことがあります。他人だからこそバランスを失わずに、頼れることがあったり、見せられたりする部分があるんですよね。『カフネ』でもお客様とスタッフの「いい関係」が描かれていて、この小説は家事代行の真髄が描かれていると感じました。

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服部祥子さん

阿部:まだまだ家事代行を頼むことに抵抗のある方は、たくさんいると思います。最後に家事が辛いと感じている方に向けて、メッセージをいただけますか。

阿久津:友人に家事代行の話をすると「部屋を綺麗にしないと家事代行を呼べない」とよく言われます。声を大にして言いたいですが、まったく綺麗にする必要はありません! お客様には育児や仕事、プライベートでも、やりたいことを優先してほしい。散らかっているのは、お客様が一生懸命生きた証です。お客様に有意義な時間を過ごしてもらうことが、私たちにとっての誇りだと思っています。

阿部:家事代行を頼むハードルがグッと下がりました! トイレに本が積み上がっていても、大丈夫ですか。

阿久津:もちろんです! もし私がご家庭に伺ったら「本が好きなお客様なんだな」と思って、お客様への愛情につながります。

阿部:ありがとうございます。丸子さんはいかがですか。

丸子:『カフネ』には、紹介制で無料で家事代行を体験できる「チケット」というシステムが出てきますが、社会的に立場が弱い人にも、家事代行サービスが行き渡るといいなと思います。世の中には、家族や仕事を大切にするあまり、自分のことを後回しにしている人がたくさんいます。たまには誰かに家事を頼んで、自分のことを大切にする時間をつくってあげてください。私も仕事終わりには、大好きなたい焼きを食べて、自分のことを褒めています。

阿部:そうですね。『カフネ』にもシングルで子どもを育てている親御さんや介護をしている人など、自分以外の人を大事にするあまり、立ち行かなくなってしまう人たちを描きました。苦しい時にサービスや他者の助けに頼ることが、罪悪感なくできる世の中になることを祈っています。本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

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阿部暁子『カフネ』

一緒に生きよう。あなたがいると、きっとおいしい。やさしくも、せつない。この物語は、心にそっと寄り添ってくれる。

最愛の弟が急死した。29歳の誕生日を祝ったばかりだった。姉の野宮薫子は遺志に従い弟の元恋人・小野寺せつなと会うことになる。無愛想なせつなに憤る薫子だったが、疲労がたたりその場で倒れてしまう。

実は離婚をきっかけに荒んだ生活を送っていた薫子。家まで送り届けてくれたせつなに振る舞われたのは、それまでの彼女の態度からは想像もしなかったような優しい手料理だった。久しぶりの温かな食事に身体がほぐれていく。そんな薫子にせつなは家事代行サービス会社『カフネ』の仕事を手伝わないかと提案する。

食べることは生きること。二人の「家事代行」が出会う人びとの暮らしを整え、そして心を救っていく。