「TBS日曜劇場で注目」も"日高地方"が抱える問題

馬とのふれあいを楽しめるテーマパーク「ノーザンホースパーク」(北海道苫小牧市)の「ディープインパクト」像。同パークの母体となる「ノーザンファーム」が生産したサラブレッドの名馬です(筆者撮影)
最終回まで残すところ3回となった、放送中のTBS日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』。その重要な舞台地であり、ロケ地の1つが北海道中央南部の日高地方です。
【写真】『ザ・ロイヤルファミリー』で再注目! “競走馬の聖地”「日高地方」はこんなところ
日高地方といえば、言わずと知れた名馬「サラブレッド」の産地。
もともとサラブレッドとは、イギリスで18世紀に競走馬向けに品種改良された「軽種馬」の血統で、それぞれに血統書が存在し、両親がサラブレッドでなくてはならない、など厳格に管理されています。「徹底した」を意味するサラ(thorough)と、「育てられた」を意味するブレッド(bred)が語源と言われています。
世界全体では、1年間に9万頭ものサラブレッドが生産されており、うち日本では現在7000~8000頭が生産されています。国内ではやはり北海道がメインで全体の97%となっており、そのうち日高地方が80%ほどの数を占めています。
『ザ・ロイヤルファミリー』に次々登場!
『ザ・ロイヤルファミリー』の重要な舞台は、松本若菜さん演じる「加奈子」の実家が経営しているサラブレッド牧場である「ノザキファーム」。
日高地方の典型的とも言える中小の牧場をめぐる物語が、妻夫木聡さん演じる「栗須」、佐藤浩市さん演じる「山王」、そして目黒蓮さん演じる「耕一」などによって展開していきます。
また、ライバルとなる沢村一樹さん演じる「椎名」が契約する巨大牧場が出てきますが、このモデルとなったのは、新千歳空港からほど近い、胆振(いぶり)地方・安平町(あびらちょう)の「ノーザンファーム」では、と言われています。

『ザ・ロイヤルファミリー』に登場する巨大牧場のモデルと言われる「ノーザンファーム」が母体の「ノーザンホースパーク」。馬がひく「観光馬車」に乗ることもできます(筆者撮影)
こうした、日高地方の零細牧場と、大規模化する胆振地方の牧場とが共存する複雑な構図や、そこにある産業としての問題点も、ドラマによって浮き彫りになっていると言えます。
日高地方では、新ひだか町・日高町・浦河町・新冠(にいかっぷ)町の4町がほぼ同数のサラブレッドを生産する「名馬のふるさと」となっており、「軽種馬生産」は、日高地方の基幹産業と位置づけられています。

「名馬のふるさと」新ひだか町の牧場で飼育される馬たち(写真:HAPPY SMILE/PIXTA)
競馬ファンの「聖地」でも撮影
中でも、静内の町がある「新ひだか町」は、名馬の産地として全国的に有名です。そんな静内の馬の産地の中心であり、『ザ・ロイヤルファミリー』のロケ地ともなっているのが、「競走馬のふるさと日高案内所」です。
「日高案内所」では、牧場で飼われている元競走馬の見学情報の案内や、観光客向けに観光牧場や乗馬施設の案内業務などを行っています。
そして、同敷地内には、日高軽種馬農業協同組合の「北海道市場」があります(一般の見学はできません)。ここでは競走馬の競りが行われていて、ドラマでも「山王」と「椎名」が対峙する緊迫した競りのシーンが撮影されました。

競走馬の競りが行われる「北海道市場」。ドラマのシーンも撮影されました(筆者撮影)
また、静内高校の向かいにある、「セイコーマート静内御幸店」の前は、「栗須」と「加奈子」との印象的な再会シーンが撮影された場所。北海道出身者なら皆さんご存じのコンビニの登場に、ふるさとのことを思い出した方も多いはずです。

栗須と加奈子が再会するシーンが撮影されたのは、北海道民の心のふるさと「セイコーマート」(筆者撮影)
さらに、町の中心部にある「静内エクリプスホテル」は、サラブレッドの町らしく、ロビーの装飾が競馬一色となっている、競馬ファンにとっては“聖地”のようなホテルです。
ドラマでも、「山王」が日高地方に馬を見に来たシーンで登場しました。ホテルの朝食券が「馬券」を模したものになっていることも、ファンには嬉しい演出です。

競馬ファンの聖地「静内エクリプスホテル」。どの辺りが聖地なのかと言うと……(筆者撮影)

ホテル内のあちこちに馬、馬、馬……!(筆者撮影)
新ひだか町のお隣の新冠町も、競走馬好きに知られた場所。
町の中心部にある「道の駅サラブレットロード新冠」は、町のランドマークである「優駿の塔」があり、町を訪れる競馬ファンの拠点となっています。
周辺にも多くの牧場が存在しますが、観光客には、競走馬の見学もできる「にいかっぷホロシリ乗馬クラブ」がおすすめのスポット。年間を通じてサラブレッドの元競走馬に乗ることができる貴重な場所です。筆者が行った際にも、乗馬を楽しむファンの姿が見られました。
また道の駅では、競馬ファンに嬉しい馬関連のグッズのほか、競走馬のデザインのパッケージで、地元の銘菓の代表格である「三石羊羹」、さらに特産品のピーマンを使ったソフトクリームや日高昆布などが手に入ります。

インストラクターの指導のもと、初心者でも本格的なホーストレッキングが楽しめる「にいかっぷホロシリ乗馬クラブ」(筆者撮影)

「にいかっぷホロシリ乗馬クラブ」に在籍する馬のほとんどが競馬で活躍していた元競走馬のサラブレッドだといいます(筆者撮影)
「日高の牧場」が直面している危機
魅力ある日高の牧場ですが、実は取り巻く状況は深刻です。
報告書「馬をめぐる情勢」(2024年、農林水産省)によると、軽種馬(競走馬)飼養頭数は、近年は増加傾向で推移しており、22年度は約4万7000頭となっています。
しかしながら、飼養戸数については減少の一途をたどっており、03年には全国で1468戸あったものが22年には766戸と、約20年で半数に減少しています。特に日高地方ではその傾向が顕著で、1975年の1930戸をピークに23年には642戸と、ピーク時の1/3となっているのです。
主な原因は牧場の経営不振と高齢化であり、ドラマでも描かれているとおり、それに起因する後継者問題が深刻なのです。24年の「軽種馬生産構造改革推進会議」の報告書によれば、日高地方に特徴的だった「家族経営」による牧場経営の限界が指摘されています。
一方で、大規模牧場は、その飼養頭数が微増している状況ですが、こちらも労働力不足は課題となっていて、担い手不足は競走馬の産地全体にとっての問題です。日高は、軽種馬生産の産業への依存度が高い分、地域全体の活性化においては厳しい状況が続いています。

日高町の牧場風景。この美しく広大な土地で馬たちはのびのびと育ちます(写真:Shigeyasu Urayama/PIXTA)
もう列車は来ない…「JR日高本線」の現状
苫小牧から、襟裳岬への玄関口となっている様似町(さまにちょう)まで、かつては日高地方を横断する146.5キロの長大な鉄道路線だった「JR日高本線」。
現在は苫小牧駅から鵡川(むかわ)駅までの約30キロ、片道30分ほどの路線をディーゼルカーが往復するのみの寂しい路線となっています。
15年に発生した高波で線路が被災し、そのまま復旧することなく全体の8割が21年に廃止されました。「日高本線」を名乗りながらも、短くなってしまった結果、全線が胆振地方止まりとなってしまい、いわゆる「日高地方」を通っていないのです。
新ひだか町の元JR静内駅だった場所は、今はバスターミナルとなり、列車は来ません。

今はバスターミナルとなった元JR静内駅(筆者撮影)
かつては観光客も新冠、静内、浦河の町に行くのに日高本線を利用していましたが、鉄道が廃止されてからは路線バスのみの運行となり、公共交通機関で行きづらくなった環境も、日高地方への観光の深刻さを増しています。
さて、『ザ・ロイヤルファミリー』のもう1つの見どころとして、本格的な競馬シーンがあります。撮影は新潟競馬場や東京競馬場でも行われ、競馬ファンでなくとも息を呑む迫力あるシーンとなっています。
中でも東京都府中市にある「東京競馬場」は、人気ゲーム「ウマ娘プリティダービー」の聖地としても知られていて、多くの競馬ファンやアニメ・ゲームファンが聖地巡礼に訪れています。

元JR静内駅にも『ザ・ロイヤルファミリー』の看板だけでなく、「ウマ娘」の等身大パネルが設置されていました(筆者撮影)
「観光客のマナー」が新たな問題に
「ウマ娘」を機に、名馬を生んだふるさととして、日高地方を訪れるファンも急増している中、特に夏場の観光シーズンでは、観光客のマナーが新たな問題となっています。
前述の「競走馬のふるさと日高案内所」が出している「牧場見学の9箇条」では、牧場見学における最低限のマナーを打ち出しています。
たとえば、「無断で放牧地に入らない」「大きな音や声を出さない」「カメラのフラッシュはご遠慮ください」「絶対に食べ物を与えない」など。
さらに、酪農も含めた牧場一般においては、靴についた細菌などが持ち込まれるリスクもあります。

馬のテーマパーク「ノーザンホースパーク」内にある「馬車優先」標識(筆者撮影)
新千歳空港からも1~2時間圏内で訪問できる日高地方は、ドラマやアニメを機に、今後も観光客の増加が見込まれ、人手不足に悩む地域にとってはチャンスである反面、新たな課題に直面していると言えます。
訪問する際にはマナーを守ることを前提に、多くの若年層が「競走馬のふるさと」日高地方に関心を持ってくれることを期待しています。