「元気で長生き」の秘訣、脳が心地よくなる身体の「リズム」をつくるには?

 抗加齢医学のエキスパートとして知られる、医学博士で慶應義塾大学名誉教授の伊藤裕さんは、元気で長生きするには、自分に合ったルーティンを知って、そこからブレないことが重要だという。ただ、そのためには意識的に「小さくブレる」こともコツ。伊藤さんは著書『老化負債――臓器の寿命はこうして決まる』(朝日新書)の中で、この方法を具体的に紹介している。ルーティンを続けるカギになる「リズム」について、本書から一部抜粋・再編集してお届けする。

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■ブレないための「リズム」作り

 自分ならではのルーティンを守り、ブレずに同じ状態を保つことは長寿につながります。しかし、毎日全く同じことを続けることは至難の業です。

 日頃の仕事をのんべんだらりと同じペースで続けるのは楽そうに思えますが、飽きてきますし疲れてもきます。一向にはかどりません。すると、どんどんブレていってしまいます。

 それでは、どうすればブレずにいられるのでしょうか?

 たとえばどんなにきつい仕事でも「月月火水木金金」と働くのではなく、週末は恋人とデートというプランを入れておくことで、ウィークデイの仕事を頑張ることができます。

 ウィークデイとは異なったプランが入ることも含めて、ルーティンにするのです。

 ブレないことは、実は〝小さくブレながらまた元に戻る〞ということを繰り返す―規則正しいブレ、「振動」を持つことで初めて可能になります。メトロノームのような振動、一定の「リズム」を持つことが大切です。

 一定の範囲の中で繰り返す、波のように寄せては返す「波動」のリズムが望まれます。滑らかに連続的に調子が上がり、やがてピークに達すると、その後は次第に調子が下がり、そしてボトムになると、また上昇していき、元の位置に戻る、という動きです。

 こうすることで生活に「メリハリ」ができ、元気ハツラツが維持されます。メリハリとは、元は邦楽用語の「メリカリ(乙甲)」で、低い音を「減り(〝減り込む〞のメリ)」、高い音を「上り、甲(〝甲高い〞のカリ)」と称していたことに由来します。音の高低をうまくつけることでいいリズムが生まれ、その音楽は豊かになります。

 同じことがわれわれの体にも言えます。「リズム」は、音楽の世界で使われることが多いですが、その場合、「耳で聞く」音の連続的な変化を、脳が「リズム」として認識しています。音楽に限らず声に出す言葉や目で読む文章、また、われわれの体の動き、運動競技や舞踏などでも使われます。肌ざわりや舌ざわりなども、細かい触覚の変化のリズムですし、食べることも、食物を反復して噛む中で、さまざまな栄養素が取り出されそれを味わっているわけで、味覚のリズムだと思います。

 いずれもわれわれの身体が「聞く」「話す」「見る」「動く」「触る」「味わう」などの行為を行うことで得られた感覚を脳がリズムとして意識します。

 ここで、それらの感覚が、ひとかたまりの一定のパターンとして「くりかえされる」ことが大切です。

 反復されることで、脳はそのくりかえしを記憶して、次にまた同じようなことが起こることを予測でき、その予測が見事に当たる、あるいは、ときには適度にうまく裏切られることで、なつかしさ、的中感(「どや!」感)、目新しさなどを覚えます。

 こうした感覚は、脳に心地よさを生み出します。その結果、気持ちがリラックスして心身は健康になります。ですから、われわれは本能的にいいリズムを求めます。「リズムを感じる」と思わず、そのリズムに合わせて体が動く、踊り出す、歌い出すというのも、リズムを体が求めているからです。

 われわれの生活のルーティンのリズムは、1日24時間、1週間7日間、1年間365日の中で波の動きを示します。

たとえば血圧も、朝に高く夜寝ている時に低くなります、仕事が始まる月曜に高い人が多く、週末には下がる人が多いです。また、夏に比べて冬に高くなります。季節の移り変わりを通じて、温度、光の量は変わり、それを体は敏感に感じ取って調子が変わります。それぞれの周期の間隔で、3〜5回(周期)ほど、自分の習慣行動、自分の体の調子を意識して観察し、そのリズムを知ることをお勧めします。

■いい「リズム感」を磨く

 わたしたちは、よく体の〝調子がいい〞あるいは、〝悪い〞と言います。自分の体調、健康の状態を〝調子〞、まさに〝リズム〞として感じています。自分固有の体のリズムは、心身の状態に素直に目を向け常に気を配ることで、初めて知ることができます。自分のリズムを知る、感じ取ることができる能力を、わたしは「リズム感」と呼びます。

 いいリズム感を持つ、つまり、ルーティンを守ることによって生まれた自分のリズムを十分認識することができれば、将来どうなるかということをある程度想像できます。これまでの軌跡がこうであったなら、将来はきっとこうなるだろうとあらかじめ予想できるのです。

 ある程度の「想定」を持つことで、いつもと違うこと、「想定外」のことが起こった時、わたしたちはその変化を敏感に捉えることができます。いつもと違うリズム、音色(ねいろ)に気付くことができるのです。

 私は、老化は「負債病」だと考えています。人生という営みの中で起こる「ひずみ」によって生じ、放置しておくとどんどん蓄積して、生活を続けるうえで大きな支障になる。しかし、気を付けて努力すれば返済することもできる。

 「想定外」のことが起きた時こそ、まさに負債が起ころうとする時です。そのリズムの変調、自分に起ころうとしている異変を、敏感に、自分事として感じ取ることができれば、「老化負債」の返済に早くから動きだせます。

 伊藤裕(いとう・ひろし)

 1957年、京都市生まれ。慶應義塾大学名誉教授、同大学予防医療センター特任教授、医学博士。京都大学医学部卒業、同大学院医学研究科博士課程修了。ハーバード大学、スタンフォード大学博士研究員、京都大学大学院医学研究科助教授、慶應義塾大学医学部内科教授を経て現職。

「メタボリックドミノ」を提唱。高峰譲吉賞、日本高血圧学会栄誉賞など受賞多数。