大爆死『スカーレット』テコ入れで波紋に思うこと

大爆死「スカーレット」、入場者プレゼント施策が波紋, 「男性キャラの特典が欲しい」というファンの本音, クオリティに疑問を示す人も…, 「果てしなきスカーレット」の制作費が莫大な背景, その他の画像はこちら

テコ入れ施策?が始まる『果てしなきスカーレット』。SNS上では批判の声も出ていますが…(筆者撮影)

このまま終わるわけにはいかない──。

【画像】あなたは欲しい?ランダム配布される細田守直筆のイラスト

そんな関係者たちの、そんな悲痛な思いが聞こえてきそうな施策が今、X上で物議を醸している。

大爆死「スカーレット」、入場者プレゼント施策が波紋

細田守監督の最新作『果てしなきスカーレット』は、主人公・スカーレットが王である父を無実の罪で処刑した叔父・クローディアスに「復讐」を遂げるための物語だ。

しかし、スカーレットは本懐である復讐を遂げる前にクローディアスに殺されてしまい、死者の国をさまようシーンから物語は始まる。復讐もできず何のために生きていたのかと絶望するスカーレットだったが、「実は死者の国にいる」というクローディアスに今度こそ復讐するために歩き出す──というストーリーだ。

公開4週目を迎え、興収5億を突破した本作。一般的には十分にヒットの部類に入るが、細田守監督作品ということもあり、期待に届いていないのは間違いない。前作『竜とそばかすの姫』が最終興行収入66億円だったことを考えると、かなり寂しい数字だ。

そんな中、公開5週目となる12月13日(土)より、入場者プレゼントの実施が決定した。「全世界での順次公開」に加え「Dolby Cinema・4DX・SCREENXなど、各種ラージフォーマットでの上映開始記念」という名目である。

細田守監督作品の歴代ヒロインが描かれたミニ色紙は数量限定で、しかもランダム配布だ。

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12月13日から配布される『果てしなきスカーレット』の入場者プレゼント。原稿公開時は、まだ配布されていない(画像:スタジオ地図Xアカウント)

今回配布されることになったのは、『時をかける少女』『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』『未来のミライ』『竜とそばかすの姫』『果てしなきスカーレット』の7タイトルのヒロインが描かれたミニ色紙。画像を見てもらえればわかるように、各作品の女性キャラのイラストが、サラサラ~ッと流れるようなタッチで描かれている。

“細田守監督描きおろし”という点に魅力を感じる人もいるだろうし、ファンの中には「このキャラのイラストが欲しい!」と思ってリピートする人もいるかもしれない。

だがその一方で、ファンからは厳しい声も寄せられている。とくに多いのは「今さらすぎる」「最初からつけるべきだった」など、ここにきて新たに施策が始まることへの疑問の声だ。

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従来の『果てしなきスカーレット』入場者プレゼント(筆者撮影)

確かに、リピーターの獲得という意味でランダム入場特典は有効な手段だ。だが、魅力的な入場特典を配布するなら、最初から配るべきだったのだろう。コアファンはもちろん、細田守監督作品なら観に行こうかと劇場に足を運んだ層は、すでに映画を鑑賞済みと考えられるからだ。

公開初期に観に行ったコアファンであればあるほど、複数回目となる劇場に足を運ばなければいけないし、今から行こうと思っても、すでに上映館数が少なくなってしまっている。コアファンに苦労を強いる構造に対し、「ファンを蔑ろにしているのではないか?」という指摘が寄せられるのは、仕方のないことかもしれない。

「男性キャラの特典が欲しい」というファンの本音

改めて、12月13日からランダム配布される入場者プレゼント・ミニ色紙の絵柄を見ていこう。具体的には、以下の7タイトル・ヒロインの描きおろしイラストだ。

時をかける少女:真琴

サマーウォーズ:夏希

おおかみこどもの雨と雪:雪

バケモノの子:楓

未来のミライ:ミライ

竜とそばかすの姫:ベル

果てしなきスカーレット:スカーレット

『サマーウォーズ』の夏希をはじめ、細田守監督作品の中で最高興収を記録した『竜とそばかすの姫』のベルも人気が高いキャラクターだ。しかし、細田守監督作品の中では男性キャラクターのほうがファンが多い傾向がある。だからこそ、「細田守が描く男性キャラクターのイラストのほうが良かったのでは?」と感じる人も少なくないのだろう。

歴代キャラクターの中でも、特に『サマーウォーズ』の男性陣は人気が高い。キングカズマを操作するアンニュイ中学生「池沢佳主馬」やラブマシーンを開発した天才「陣内侘助」。さらに、「ちょっと言えないとこ」のひと言であまたのファンの心を狙い撃ちにした「陣内理一」など、魅力的な男性キャラクターが多いのだ。

実際、細田守描きおろし侘助がラインアップされるなら、筆者はランダム配布で侘助がもらえるまで何度もリピートする自信がある。

クオリティに疑問を示す人も…

そもそも、入場者プレゼントのイラストそのものに対する声も多い。入場者プレゼントの実施を受け、「ほとんどのキャラクターが同じ向きなのは手抜きなのでは?」という厳しい声が挙がっているのが現実だ。確かに、ミニ色紙イラストを見るとベル以外のヒロインはほぼ同じ角度を向いている。

一般的なアニメ映画の入場特典ミニ色紙では、劇場衣装を着ていたりキャラクターによって違う向きだったり、フルカラーだったりするパターンが多い。そういった面でも、他作品と比較してしまう人も多いのではないだろうか。

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細田守監督自らイラストを描いているのがわかる(X公式アカウントより)

また、公式Xで細田守監督がイラストを描いている映像が載せられているのだが、サインペンでサラサラ~ッと描いている姿が映されている。

筆者としては「それだけ描きこんできたということだな。芸術家の絵は、30秒で描いてても30年の蓄積があるって言うしな」などと感じたのだが、あまりイラストを描かない人を中心に「手抜き」という印象を抱いてしまっているようだ。

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配布前の12月11日時点で、すでに転売が出回っている(出所:メルカリ)

ここまで『果てしなきスカーレット』の新規プロモーション施策について綴ってきた。SNS上では批判の声が少なくないのだが、筆者としては「そこまで言わなくても……」と感じてしまった。別に「スカーレット」制作陣に身内がいるとかではなく、「もし自分がスタッフだったとしても、同じような施策をするだろうな」と思うからだ。

以下、「筆者の妄想」と断ったうえで綴っていくが……テコ入れ(だろう、おそらく)を決意した関係者たちは、きっと上述したようなファンからの意見が噴出することなどわかり切っていたはずだ。

細田守監督作品なら男性キャラのほうがニーズがある。こんな状況でプライドもへったくれもない。頭を下げて入場者プレゼントを描いてもらうべきだ──と。中には「貞本義行さんに頼んで描いてもらうといいかも」と思った人もいるかもしれない(※貞本さんは『時をかける少女』『サマーウォーズ』などでキャラデザを担当)。

しかし、実現しなかったのはさまざまな壁があったからだろう。もしかしたら、細田守監督に打診したものの、「主役はスカーレットなんだから、これまでのヒロインが描きたい」なんて言われ、調整した結果なのかもしれない。ヒロインだとファンはそこまで喜ばないかもしれないが、もはや時間もないし、背に腹は代えられずに「これでいこう」となって……。

と、妄想のわりにかなり具体的になってしまったが、炎上プロジェクトというのは大体似たようなものなので、案外そんな感じだったのかもしれない。

振り返ると前作『竜とそばかすの姫』では、公開4週目に興収33億を記録していた。『果てしなきスカーレット』との差は、約6倍以上もある。この状況で、“ランダム入場者特典の配布”というテコ入れをしてでも観客を増やしたいと思うのは当然だろう。

あらゆる調整に奔走し、細田守監督に「描きおろしイラストを描いてもらう」という、豪華すぎる入場者プレゼントの実施を実現させた関係者の努力を思うと、思わず胃が痛くなる。

「果てしなきスカーレット」の制作費が莫大な背景

CGWORLD (シージーワールド) 2026年01月号のインタビューによると、『果てしなきスカーレット』本編の約8~9割がCGで、キャラクターもほぼすべてCGで描かれているらしい。なんと、全体予算の約6割もの費用がアニメーション工程に充てられていたというのだ。

さらに、『竜とそばかすの姫』のCGカットは約40分だったのに対し、『果てしなきスカーレット』は約90分にも及ぶ。見ごたえのある群衆も含め、キャラクターの種類が多いため、従来の3年スパンではなく4年半の準備期間を経て公開に至った。

実は、本作はこれまでの細田守監督映画と大きく変わっている点がある。それは、アフレコ(映像に対して演者が声を当てる)ではなく、プレスコ(先に収録した演技をもとに表情を作る)収録になったことだ。これは、ディズニーやピクサー映画では主流であり、より演者の感情を表情に反映できるリアルな表現となる。

つまり、それだけの手間も費用もかかっている映画だということだ。加えて、スタジオ地図15周年『果てしなきスカーレット』で挑む世界でのプロデューサーインタビューによると、本作は破格のバジェット(予算)で作られたと綴られている。こうした事実を組み合わせると、制作費が非常に高額であることは想像にかたくない。

イタリアで開催された「第82回ベネチア国際映画祭」に選出され、現地では好評を博したこともあり、日本での酷評は予想外だったのかもしれない。『ハムレット』がベースの作品だからこそ、海外での公開で制作費を回収できるのではないか?という希望も見える。

せっかくの機会なので『果てしなきスカーレット』をまだ観ていないという人は、入場者プレゼントももらえるこのタイミングで鑑賞してみてはいかがだろうか。これまでにない新しい映像表現に挑戦した本作のスローガンは「限界“超”突破」。この収益危機も、入場者プレゼントというテコ入れで「限界“超”突破」できるのか。

【もっと読む】「どうして観に来てしまったのか…」 酷評続きの細田守最新作「果てしなきスカーレット」。上映開始5分で「激しく後悔」した単純な理由 では、『果てしなきスカーレット』を観た感想を、細田守監督の過去作と比較しながら、コラムニストの押入れの人さんが詳しく綴っている。

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筆者が鑑賞したのは11月30日。前日夜にチケットを購入した際には、ほとんど埋まっていなかった(筆者撮影)

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2000円を支払って「暗い」「何で?」といった感想を抱いた(筆者撮影)

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(筆者撮影)

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グッズ売り場には人がいなかった(筆者撮影)

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(筆者撮影)