「外国人向けの映えだけ…」レースの浴衣に食事はビュッフェ。日本らしさを失った温泉旅館の今【専門家が警鐘】
「食事付きやめました」「懐石料理からバイキングへ変更」「シンプルな浴衣は人気がないので柄浴衣に」——。近年、観光地にある温泉旅館が、外国人観光客向けにサービスを大きく変えている。
京都や箱根など、人気観光地にある宿では、素泊まりプランへの移行、館内レストランの「和食」縮小、さらにはラーメン・寿司・焼肉といった外国人受けメニューの採用が当たり前になりつつある。
シンプルな浴衣からレースの帯や原色の花柄など、映える浴衣に切り替える宿も少なくない。果たして、これが本当の日本らしさなのだろか。

日本政府観光局の調べによると2024年の訪日外国人旅行者数は3,686万9,900人となり、過去最高を記録した。2023年(2,507万人)と比較して47.1%増、コロナ前のピークだった2019年(3,188万人)と比較して15.6%増となっている。
それに呼応するように外国人向けに変化する旅館も増えている。宿泊者レビューの評価向上、SNSでの拡散、そして外国人の「快適さ」への対応。これらはすべてビジネス上、正しいように思える。
だが、その結果——長年通い続けた日本人の固定客が「もうあの宿には行かない」と離れているケースが増えているのだ。
「旅館はただの泊まる場所になってしまったんです」
そう語るのはトラベルジャーナリストの野田ハルカ氏だ。
「本来、日本の旅館は宿泊だけでなく、体験がセットになっていました。たとえば地元の旬の食材を味わう懐石、浴衣で館内を歩く楽しさ、そして旅館のスタッフとの対話……。それらを非効率として削ぎ落としてしまうと、文化の器は崩壊しかねません」
一部の宿では、スタッフも外国語が中心となり、もはや日本語が通じないケースもある。
「日本らしさを求めて来日したはずの観光客が、別の国のような体験をして帰る。本末転倒ではないかという声が上がっているのも事実です」
今回お話を伺った夫妻は、長年通った旅館への残念な思いを話してくれた。
「風情も何もない…とため息混じりに話してくれました。子どもたちが小さな頃から何度も何度も通った旅館だったと話します。それがここ数年で様変わり。部屋食もなくなり、すべてバイキング。醍醐味である風呂場ではルールを守らない客が大騒ぎ。風情はどこにもなく、訪れるのをやめたと話します」
ビジネスとしての選択と文化としての本質。日本の旅館は今、その間に立たされているのかもしれない。
「今一度、日本らしいおもてなしを考え直す時期に来ているのかもしれません。それを履き違えたままでは、日本文化そのものが消費されるだけになってしまいます」
夫妻が体験した旅館の現状は【関連記事「大浴場ででSNSの撮影を…」マナーに唖然。観光が文化を駆逐する。日本人離れが進む温泉旅館の今】でお読みいただける。
【出典】日本政府観光局
【取材協力】ジャーナリスト|野田 ハルカ
観光に精通したトラベルライター。全国各地のホテルや旅館の取材多数経験。旅行アテンドや個人旅行の企画なども行なっている。 新宿
【写真】GetyImages
取材・文/常田真悠