「トー横キッズ」だった娘はなぜ自死を選んだのか 答えを求めて歌舞伎町に通い続けた父の願いとは

■妹思いでよく笑う天真爛漫な長女, ■父が知らなかった娘の姿, ■パキった子を介抱していた, ■命を落とす子どもを減らしたい, ■居場所を求める子どもがいる限り

 約2年9カ月前、16歳の娘が神奈川県内のホテルから飛び降りて、命を絶った。娘に何があったのか。友人たちを訪ね始めた父親は、初めて娘が新宿・歌舞伎町に集う「トー横キッズ」だったことを知る。父親は娘の死を無駄にしないため、「トー横キッズ」を取り巻く環境を変えようと、今日も街に通い続けている。

*   *   *

 やっぱり娘はここにいたんだな――。

 新宿・歌舞伎町。都内に住む浩三さん(42)は、この街を訪れるたびにそう思う。

 2023年3月27日深夜、娘のあきこさんが亡くなった。当時16歳の高校1年生。3歳年上の彼氏と一緒に、神奈川県内の11階建てのホテルの屋上から飛び降り命を絶った。

「なんでこんなことに。本当に訳がわからなかったんです」

 あきこさんは自殺する1カ月くらい前に、その彼氏から暴力(DV)を受け、警察に被害届を出す予定だった。それが、一緒に自殺をしたのだ。

 あきこさんの遺体からは薬物も酒も検出されず、自らの意思で飛び降りたとみられた。警察署の霊安室で対面したあきこさんは、膝から下がなかった。高所からの転落による衝撃で、砕け散ったようだった。

■妹思いでよく笑う天真爛漫な長女

 3姉妹の長女。妹思いでよく笑い、活発で天真爛漫な子だった。ダンスやゲームが好きだった。

 ただ、中学に入ると不登校気味になった。朝起きられなくなり、思春期の子どもによく起きる自律神経の不調による「起立性調節障害」だと妻から聞いた。それでも浩三さんは、「学校に行け」とあきこさんを叱った。けんかが増え、親子関係も悪くなった。

 22年4月、あきこさんは定時制高校に進学したのを機に家を出て、祖母の援助で学生専用のマンションで一人暮らしを始めた。同時に、浩三さんからは連絡も取らなくなった。

 ただ、年が明けた23年1月、浩三さんはあきこさんと仲直りができ、LINEでやり取りをするなど親子関係は元の状態に戻っていた。あきこさんが自死したのは、そんな矢先のことでもあった。

 いま思うと、不登校だった娘を叱りすぎたかもしれないと後悔することもある。ただ、「どうすればよかったのか、わからないです」と吐露する。

■妹思いでよく笑う天真爛漫な長女, ■父が知らなかった娘の姿, ■パキった子を介抱していた, ■命を落とす子どもを減らしたい, ■居場所を求める子どもがいる限り

■父が知らなかった娘の姿

 娘の死の理由を知りたい一心で、浩三さんはあきこさんの友人関係をたどった。やがて、あきこさんが歌舞伎町の新宿東宝ビルの周辺、通称「トー横」と呼ばれる界隈に集まる「トー横キッズ」だったと知った。トー横は自分たちには無縁の場所だった。

 なぜ、娘はトー横に――。

 その答えを求め、浩三さんは仕事の合間にトー横に通うようになった。

 集まっている子たちに片っ端から写真を見せ、「この子、知っている?」と声をかけて回った。そのうち、浩三さんの知らなかったあきこさんの姿が、少しずつ見えてきた。

 あきこさんがトー横に入り浸るようになったのは、高校進学後の22年5月中旬ごろから。なぜそこに向かうようになったのか、その理由はいまもわからない。トー横では友人の部屋に居候したり、歌舞伎町のホテルで過ごしたりしていたという。

 友人からあだ名で呼ばれ、黒を基調とした「地雷系」と呼ばれるファッションに身を包んでいた。

 パパ活などはしておらず、コンセプトカフェのバイトで生活費を賄っていた。薬の過剰摂取「オーバードーズ(OD)」はしていたが、法に触れる薬物には手を出していなかった。

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■パキった子を介抱していた

 優しい一面があったことも知った。ODをして酩酊状態になった「パキった子」を介抱したり、家に帰れない子をかくまっていたりもした。

 一緒に自殺した彼氏とは、トー横に来てしばらくして出会ったようだ。ただ、彼氏といっても、恋愛という関係より、互いに依存し合う「共依存」に近い関係だったのではないかと思うという。

 彼氏はホストをしていたが長く続かず、歌舞伎町の男に斡旋され建設関係の仕事をしていた。劇物を扱う危険な仕事だったが、保護服など十分な安全対策もなく、若い従業員らの監督までさせられていた。給与も搾取され、精神的に追い詰められていった。あきこさんのスマホには、亡くなる数時間前の彼氏とのSNSでのやり取りが残されていた。そこには、彼氏から「死のうぜ」と軽い気持ちで誘われたメッセージが残っていた。

 浩三さんは振り返る。

「それで娘の気持ちが引っ張られて、感情が爆発してしまったんじゃないかと思っています」

 街を歩くうちに、トー横に集まってくる若者たちの身に起きていることも見聞きするようになった。パパ活、OD、違法薬物……。未成年の子どもを大人が搾取し、性的にも利用している実態も目の当たりにした。

■妹思いでよく笑う天真爛漫な長女, ■父が知らなかった娘の姿, ■パキった子を介抱していた, ■命を落とす子どもを減らしたい, ■居場所を求める子どもがいる限り

■命を落とす子どもを減らしたい

 娘の命を無駄にしたくない。一人でも、同じように命を落とす子どもを減らしたい。

 ただ、トー横に通うと怖い思いをすることもある。子どもにボディータッチしている大人がいたので、止めに入ったら、殴られたこともあった。

 それでも通い続ける。

「原動力は自分自身への怒りです。なんで娘があんな死に方をしないといけなかったんだという。たった16歳ですよ……。何ともいえないこの怒りをどこにぶつければいいのか」

 行政への働きかけも行っている。子どもたちが繰り返し飛び降りを図っていた歌舞伎町のホテルの屋上を、東京都や新宿区などと連携し封鎖させることができた。

 いまも週に1度くらいはトー横を訪れる。若者たちに「変なことは起きていない?」と声をかけ、雑談をする。顔見知りも増え、訪れると、「浩三さん」と声をかけてくる子も少なくない。改正風営法が施行され悪質ホストクラブの取り締まりが強化されるなど、警察の介入も増えていることで歌舞伎町は以前に比べ平穏な状態になってはいるという。

■居場所を求める子どもがいる限り

 だが、危うさは消えていない。10月には、トー横に出入りしていたとみられる14歳の女子中学生が歌舞伎町のビルから落下し、死亡した。

 トー横に集まるのは、家庭や学校で居場所を失い、孤独や不安を抱えたまま行き場をなくした子どもたちだ。居場所を求める子どもがいる限り、この場所がなくなることはないだろう。浩三さんは言う。

「だからこそ、トー横を危険や搾取の場ではなく、子どもたちが安心して楽しく過ごせる居場所にしたい。『今日も楽しかったね、またね』と笑って帰れる、そんな場所にしたい。やるしかないです」

 娘を失った父の、誓いだ。

(AERA編集部・野村昌二)

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