JR南武線「ワンマン化で遅延増」汚名返上なるか

JR南武線の電車。同線は2025年3月からワンマン運転を導入している(編集部撮影)
人手不足や運行の効率化などのため、都市部でもワンマン運転の路線が増えつつある。
【写真と表を見る】▶南武線はJR各線や小田急、京王、東急各線などと接続する利用者の多い路線▶2015年度以降の混雑率の推移は?▶沿線や駅周辺の姿、そして同線のネックの1つとなっている「開かずの踏切」の様子など
首都圏では地下鉄や私鉄が先行していたが、JR東日本も2025年3月のダイヤ改正で常磐線各駅停車と南武線でワンマン運転を開始した。2026年春のダイヤ改正では、横浜線でもワンマン運転を開始する。今後は山手線なども含め、さらに導入区間を拡大していく計画だ。
一方、南武線ではワンマン運転の導入後、とくに朝ラッシュ時に遅延が増えたとの声が利用者から上がっている。12月に同社が発表した2026年春のダイヤ改正の概要には、南武線について「ダイヤの一部見直し」を行うことが公表された。
なぜ遅延が拡大?
南武線は川崎―立川間35.5kmを結ぶ路線。川崎では東海道本線と京浜東北線、立川では中央線や青梅線など、そして途中駅でも小田急線や京王相模原線、東横線・田園都市線など東急各線と接続し、乗り換え利便性の高い路線だ。利用者は多いが全列車が6両編成と首都圏の主要路線としては短いこともあり、ラッシュ時は混雑する。
同線は全駅にホームドアを整備したうえで、2025年3月のダイヤ改正からワンマン運転を開始した。その後浮上したのが、利用者からの「遅延が増えた」という声だ。
JR東日本横浜支社は2025年夏、ワンマン化以降の南武線について、遅延の発生した日数は変わらないものの、遅延時分が長くなっていたとの調査・分析結果を示した。以前は10分未満の遅延が多かったものの、ワンマン化後は10分以上の遅延が2倍に増えたという。
その要因とされるのは、1つはドアの開閉に要する時間だ。ワンマン運転に際しては、それまで車掌が行っていたドアの開閉操作を運転士が行えるようにした。そのシステムとホームドアの開閉システムは連動しているが、ドアが開くまでの時間が以前よりも数秒長くなった。各駅で数秒長くなったことにより、その時間が積もり積もって遅延時間が長くなったというわけだ。

ワンマン化前の南武線、沿道から見た駅の様子。ドアの開閉操作は車掌が行っていた(編集部撮影)
一部ダイヤ見直しで「安定性向上」
また、発車メロディも要因という。以前はホーム設置のスピーカーから流れていたが、ワンマン化後は車両に搭載したスピーカーから流している。周辺環境によって音が聞こえにくく、発車時間がわかりにくくなったことがあるという。
筆者もワンマン化後、朝ラッシュ時の南武線に乗ると、ドアの開閉タイミングの遅さや発車メロディが聞こえにくいのはその通りだった。ホームのスピーカーよりも車体のスピーカーのほうが音量が小さいのはやむをえない。

南武線のE233系電車。右側の窓上にある銀色の部分がスピーカー(編集部撮影)
これを受け、JR東日本はドア開閉のタイムラグが少なくなるようシステムの調整を行い、発車メロディについても音量を上げる改修を行った。すでにこれらの対策は実施済みで、JR東日本によると、対策後に行った調査では成果は出ているという。
そして2026年春のダイヤ改正では「さらに安定性を向上させる」(JR東日本)ことを目的に、一部ダイヤの見直しを行う。
一部ダイヤ見直しの内容は「停車時間の調整や折り返し時間の拡大など」だ。
JR東日本によると、停車時間については「実態に合わせ、利用の多い駅の停車時間を若干延ばすなどの調整」を行うという。折り返し時間の拡大は、起終点である川崎・立川での折り返しに要する時間の調整だ。遅れが発生しやすい朝ラッシュ時を中心にこれらの見直しを行い、「遅れが出ても吸収できるダイヤにしていく」という。
筆者が見る限り、小田急線と接続する登戸や、東急田園都市線・大井町線と接続する武蔵溝ノ口、そして横須賀線や湘南新宿ライン、東横線、目黒線と接続する武蔵小杉といった乗換駅で多くの人の乗降があり、停車時間が長くなりやすいと感じる。これは南武線利用者の多くが思うことであろう。

小田急線との接続駅、登戸を発車する南武線の電車。上に見えるのは高架の小田急線ホーム(編集部撮影)
南武線特有の原因はある?
実は南武線は、ワンマン化を見据えて2025年3月のダイヤ改正でも駅の停車時間などを増やすなどの微調整を実施している。2026年春の一部ダイヤ見直しは、ワンマン化後の実態を踏まえて、これらの調整をさらに行うものといえるだろう。
だが、南武線と同じタイミングでワンマン化した常磐線各駅停車では、とくに遅延が増えたとの声は出ていない。武蔵小杉で接続する東急東横線も現在は全列車がワンマン運転になっているが、なぜ南武線だけ遅延が目立つとの声が?という疑問は頭からぬぐえない。

稲田堤駅を発車した南武線の電車。同駅は京王相模原線の京王稲田堤駅に近く乗り換え利用も多い(編集部撮影)
となると、同線特有の事情があるといえそうだ。
1つは混雑だ。南武線はそもそも、首都圏有数の混雑路線である。2015年度は190%で、全国のJR線で3位だった。コロナ禍によって輸送人員は一時的に減少し、2021年度は112%まで下がったが、その後2023年度は146%、さらに2024年度は153%に上昇している。沿線人口が増えている地域である一方、列車は首都圏の鉄道としては短い6両編成であることが高い混雑率に結び付いている。
また、近年高架化された区間などはホームを広くとっているものの、それ以外では狭い駅も多い。主要な乗換駅である登戸や武蔵小杉も、ラッシュ時などは電車を待つ乗客が並んでいるとホームを通行するのがなかなか大変だ。一部の車両に混雑が集中しやすい傾向もあるといえる。
このほか、以前から遅延が発生しやすい要因として、踏切の存在がある。遮断機が下りる直前に人が渡るなど、踏切内への人の立ち入りで安全確認のために電車が一時的に止まり、ダイヤの乱れにつながることが多いようだ。
南武線と同時にワンマン化した常磐線各駅停車は踏切がなく、全列車が10両編成で混雑率も123%(2024年度)と比較的低い。南武線はもともと遅延が起きやすい条件があるところにワンマン化後のドア開閉や発車メロディなどの問題が重なり、遅れが目立つようになったともいえるだろう。

朝ラッシュ時間帯の南武線踏切(編集部撮影)
他線のワンマン化に知見は生きるか
南武線では連続立体交差化の計画が進んでいる。矢向―武蔵小杉間は2025年1月に神奈川県から都市計画事業の認可を取得し、2033年度から2038年度にかけて高架線に切り替える予定である。

高架化された稲城長沼駅付近を走る南武線。駅近くには稲城市在住のメカニックデザイナー大河原邦男氏がデザインした、アニメ「装甲騎兵ボトムズ」に登場する「スコープドッグ」のモニュメントがある(編集部撮影)
立体交差化は渋滞の解消などが主な目的だが、踏切が減り、立体交差化で駅も改良されれば遅延の減少にも結び付きそうだ。運転本数の多い都市部の鉄道において、踏切は極力減らしたい施設であり、今後ワンマン化が計画されている山手線でも現状で唯一の踏切「第二中里踏切」は2029年に廃止の予定である。
ワンマン化で遅延なく列車を走らせるためには、さまざまな面での調整が必要である。車掌と運転士の「匠の技」で成り立っていたラッシュ時の定時運行をシステムで支えるのは、そう簡単なものではないともいえる。今後、首都圏でもワンマン運転を拡大していくうえで、南武線で得られた知見は重要となるであろう。