「サザエさんの年金」ってどうだったんだろう?

サザエさんの時代、「高齢者」も「就業者」も少なかった, 現在では「サザエさん」「フネさん」は少数派, 「年金3号はお得だ」という通念, 戦後80年で「高齢者」も激変した, 「サザエさんの時代」でない私たちの年金制度改革

東京・世田谷に長谷川町子生誕100年を記念して開館した「長谷川町子記念館」(写真:時事)

授業で学生たちに「ChatGPTやGeminiに、サザエさんに登場する女性で働いている人は誰がいますか、と尋ねてご覧」と言うと、みんなスマホに、サクッと問うていた。

【ひと目でわかる】就業パターン別の生涯収入

「誰かいるかい?」と聞くと、みんな、首を横に振る。「中には花沢さんが働いていると答えるのもあるだろう」と言うと、何人かは、うんと頷く。

日本人の多くは知っているように、花沢さんは小学5年生のカツオの友だちで、お父さんの花沢不動産を時々手伝っている。サザエさんに登場する女性で働いているのは、花沢花子さんくらいである。

サザエさんの時代、「高齢者」も「就業者」も少なかった

年金などの社会保障ではよく「大勢の現役世代が1人の高齢者を支える御神輿型から、1人が1人を支える肩車型になる」と言われるが、実際には就業者1人が支える非就業者の比率は戦後ほぼ変わらず、1対1の肩車型に近く、将来もあまり変わらない。

これはデータでも裏付けられているのだが、それを肌感覚で知ってもらうためには、サザエさんは格好の教材になる。

サザエさんやフネさん達は、非就業者であって就業者ではない。だから、昔からこの国では、高齢者をお神輿型で支えていたことなどない。戦後を通じておおむね就業者:非就業者=1:1の肩車型に近かったのだ。それでもこの間、生産性の向上のおかげで、生活水準は向上した(『「人口減少」を悲観しすぎると、知恵が止まってしまう』)。

サザエさんの時代、「高齢者」も「就業者」も少なかった, 現在では「サザエさん」「フネさん」は少数派, 「年金3号はお得だ」という通念, 戦後80年で「高齢者」も激変した, 「サザエさんの時代」でない私たちの年金制度改革

「御神輿型から騎馬戦型、そして肩車型になる日本の社会保障は持つはずがない」という話は、かつて経済学者ガルブレイスが「通念」と呼んだ、「社会で人気があり、広く受け入れられているが、必ずしも事実を反映していない概念」の代表例であると言える(社会保障をめぐる通念は『読売新聞』2025年10月26日付)を参照)。

『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリは、ホモ・サピエンスの歴史30万年のタイムスパンから眺めて次のように言う。

過去一世紀の間に、社会的・文化的性別の役割は、途方もない変革を経験した。今日、しだいに多くの社会が、男性と女性に同等の法的地位や政治的権利、経済的機会を与えるばかりでなく、性別と性行動の最も根本的な概念を完全に考え直してもいる。.……息を呑むような速さで物事が進んでいる。(『サピエンス全史』上巻、200ページ)

例えば、波平さんは54歳だ。1946年に福岡の『夕刊フクニチ』で始まったマンガ「サザエさん」では、当時一般的であった55歳定年制の下、波平さんは定年を1年後に控えているという設定だった。

もちろんこの間、男女間の役割見直しは進み、家庭内生産にはさまざまなイノベーションも起こっていた。

サザエさんの時代、「高齢者」も「就業者」も少なかった, 現在では「サザエさん」「フネさん」は少数派, 「年金3号はお得だ」という通念, 戦後80年で「高齢者」も激変した, 「サザエさんの時代」でない私たちの年金制度改革

同時並行で公共政策でも、子育てや介護と仕事の両立支援策が充実していった。

電気洗濯機も、冷蔵庫も、掃除機もなく、子育ても老親の介護も家庭内でやらなければならなかった時代を生きていたサザエさんやフネさんには頭が下がる。

現在では「サザエさん」「フネさん」は少数派

そして彼女たちが生きていた時代が徐々に変わり、家庭内生産のイノベーションと子育てや介護の政策的な社会化の動きと並行して、専業主婦世帯は減少し、共働きが増えていった。2024年のデータでは、共働き世帯1300万に対し、専業主婦世帯は500万にすぎない。80年には、それぞれ614万世帯、1114万世帯と正反対の様相を呈していた。

このような変化の途上にあった85年、年金制度では第3号被保険者制度が生まれ、労働政策では男女雇用機会均等法が成立している。

当時の働く現場の様子を、プロジェクトX「女達の10年戦争 85年成立の男女雇用機会均等法」のナレーションでは、次のように伝えていた。

経済界は(男女平等を定める)法律制定に反対と表明した。「結婚や出産ですぐ辞める女を男と同じには扱えない」
採用を調べた。4年制大学の女性の就職はほとんどなかった。わずかな募集には、容姿端麗などの条件がついていた。
ある社長は言った。「僕の周りには残業や転勤までして、男並みに働きたい女の子なんていませんよ」
ある財界の大物は言い切った。「だいたい女に選挙権などやるから歯止めがなくなっていけませんなぁ。差別があるから企業は成り立っているんですよ」

そういう環境の中で、男女雇用機会均等法が成立している。

85年男女雇用機会均等法は、努力義務規定も多く、不十分なものであった。成立から12年経った97年改正(99年施行)でようやく女性差別が実質的に禁止され、そこから均等法が本格的に機能しはじめることになる。

これは学生に話をすると驚くのだが、99年4月になるまで女性は深夜業「午後10時から午前5時までの勤務」が禁止されていた。労働組合側は85年の均等法成立の際には、この女性の深夜業禁止に強いこだわりを見せていたくらいだ。

今は、学生たちは、男女かかわらず、気ままに10時以降にバイトを入れているが、99年4月1日まで女性はそれができなかった。

学生が驚く話としては次もある。保護者による保育所選択や契約が制度上明確に打ち出される以前、保育所の入所は、行政が「保育に欠けるかどうか」を判断し、行政処分として決定する措置制度として運用されていた。

「年金3号はお得だ」という通念

このように女性の働き方や育児支援が大きく変わっていく中、「年金3号はお得で不公平だ」という世の声に触れ、きっとこの制度を利用したほうが得をするのだろうと勘違いして「自発的」に3号を選択してきた人たちが仮にいたとすれば、かわいそうだと思う。

最近、東京都による衝撃的な試算が広く紹介され、多くの人たちに知られるようになってきた。3号を選択した「出産退職型」より2号(厚生年金)のままでいる「継続就労型」は、退職金を除いても生涯世帯収入で約2億円、うち年金で約3000万円多くなるという試算結果だった。

サザエさんの時代、「高齢者」も「就業者」も少なかった, 現在では「サザエさん」「フネさん」は少数派, 「年金3号はお得だ」という通念, 戦後80年で「高齢者」も激変した, 「サザエさんの時代」でない私たちの年金制度改革

しかし今は、公私にわたり、いろんなところで急速に男女平等が進んできた。この2つの写真は、私が今年に入って書いた年金記事に載っている写真である。

サザエさんの時代、「高齢者」も「就業者」も少なかった, 現在では「サザエさん」「フネさん」は少数派, 「年金3号はお得だ」という通念, 戦後80年で「高齢者」も激変した, 「サザエさんの時代」でない私たちの年金制度改革

とても気に入っていて、夫婦2人でニコニコと料理をしていたり、男性が抱っこしている赤ちゃんに、お母さんがバイバーイ、行ってきまーすと話しかけていたりと、先の1985年時の経済界トップの人たちからみれば、信じられないような光景が、今の若い人たちの日常になってきている。

戦後80年で「高齢者」も激変した

加えて、日本人は年齢の割には元気になっている。

手塚治虫さんが1970年に描いたマンガでは、55歳で腰が曲がり60歳で杖をついていた。しかし今は違う。日本老年学会・日本老年医学会は、2017年に、日本人は若返った、だから高齢者は75歳からにしようと提案していたが、これはムリのない提案である(『「若返った日本人」雇用の質という経済界の課題』)。

今この国で重要な政策は、若返った日本人が、何もやることもなく手持ち無沙汰の毎日を過ごす人たちを包摂できるように社会の構造を転換して、みんなが社会参加できる状況を作ることである。

それは実際、徐々に進んできてもいる。そしてそうした変化が、公的年金にも影響することにもなる。

公的年金では、一般に知られている「出生率」「経済成長率」以外でも、「ライフスタイルの変化」と「日本人の若返り」という2要素も強い影響力を持っている。

そして、この2要素は、日本の年金に対してフォローの風を上空で強く吹かしている。あまりにも上空過ぎて多くの人は気づいていないようだが、その風は、他のさまざまなアゲインストの風を相殺してあまりある結果を出している。

その結果が、24年財政計算時に示された分布推計で可視化された。

サザエさんの時代、「高齢者」も「就業者」も少なかった, 現在では「サザエさん」「フネさん」は少数派, 「年金3号はお得だ」という通念, 戦後80年で「高齢者」も激変した, 「サザエさんの時代」でない私たちの年金制度改革

このグラフでわかるように、10万円未満の低年金者の割合は出生年が後になるほど減少する。その傾向に例外となる世代はない。たとえば1974年度生まれの就職氷河期世代も低年金者の割合は前の世代よりは少ない。日本人のライフスタイルの変化が反映された年金試算では、将来のほうが明るくなるのである。

最近では、週刊プレイボーイが『「年金破綻」も「ひどい世代間格差」もウソ!?』で「年金には世代間格差があり、若い世代ほどもらえない」という誤解を実にわかりやすく説明している。

さらには、もし現在の20~30代は65歳の先まで引退をのばすとすれば、65歳時点での年金額を基にした分布推計を上回って、厚生年金加入期間が延びる可能性が高い。その分、将来の年金額は一層高くなる。

これは、先人たちが「氾濫する川」があったから「堤防」を築いた結果である。

貧困をはじめとした生活問題を生む賃金システム(=氾濫する川)があったから、氾濫を防ぐために賃金のサブシステムとしての被用者保険を作った。この被用者保険中心の社会保険制度は、貧困を防ぐのになかなか頑強な構造である。

私たちは、より多くの人たちが、この被用者保険によって人生を守られる社会を、次の世代に残していかなければならないとも思う。分布推計は、そうしたことを、私たちに考えさせてくれた。

「サザエさんの時代」でない私たちの年金制度改革

最後に、10月に開かれた年金学会シンポジウムでのまとめ「年金とライフスタイルの統合――勤労者皆保険の完成度向上とWork longer戦略」を紹介しよう。

年金政策として筆頭に考えるべきこと
  • ●高齢期の生活保障の柱となる年金政策とライフスタイルの変化の政策的な統合を意識する。
  • ●介護、子育てと仕事の両立支援を一層充実する。
  • ●ジェンダー平等な社会を目指し、男女間の賃金格差に起因する年金格差の解消を目指す。
  • ●65歳以降の雇用確保
  • ●若返り・寿命の延伸と労働力の希少化を反映した無理のないWork Longerにより、将来の公的年金給付は下がらないことを議論のスタートとする。

ここには、「給付引き上げ」といった言葉はなく、「将来の公的年金給付は下がらないこと」が議論のスタートとなっている。世の中で言われている年金悲観論とは随分とイメージが異なるかもしれない。

だが、公私にわたる年金制度に詳しい専門家たちが、事実に基づいて年金のこれからを考えると結局のところ、高齢期の生活保障は、若返った日本人の無理のないWork Longer戦略に落ち着く。

これからの年金改革も、日本人のライフスタイルの変化と若返りを踏まえて、Work Longer戦略と矛盾する制度の見直しに優先順位が置かれることになる。