「9連休でも帰りません」年末年始の帰省、もはや“苦行”になったのか? 6割が「予定なし」を選択する、慣習の合理的終焉

年末年始移動の揺らぎ

 年末年始といえば、帰省や旅行による大規模な移動が前提とされてきた。だが、その前提は崩れ始めている。2025年の調査では、9連休であっても「予定なし」と答えた人が6割を超え、帰省も2年連続で減った。景気や物価だけの問題ではない。移動を支えてきた制度、家族観、職場慣行、行動規範が同時に揺らいでいる。

【画像】全国5000人調査で判明! 年末年始、なぜ6割の人が「予定なし」を選ぶのか

 移動の減少は交通や宿泊、地域経済にも影を落とす。長年、年末年始の交通インフラは一斉移動を前提に整備されてきたが、実際には移動する人の割合が減り、ピーク需要を想定した運行計画や高速道路料金体系の見直しが必要になりつつある。

 都市部に暮らす人々は、移動しなくても年末年始の活動が成立しやすく、交通需要の集中は和らぐ。一方、地方では帰省客に依存する交通や宿泊、商業の打撃が大きく、移動減少は地域経済に直結する。

 本稿では、年末年始の移動がなぜ減り、どう形を変えているのかを、数字と制度、文化と心理の両面から読み解くとともに、交通や地域経済に与える影響も併せて見ていく。

移動ゼロの標準化

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帰省イメージ(画像:写真AC)

 インテージが2025年12月25日に発表した調査(全国の15歳から79歳の男女5000人対象)では、年末年始に旅行や帰省の予定はないと答えた人が60.2%に達した。前年より3.8ポイント増えている。帰省の予定がある人は全体で14.4%まで下がり、2年間で4.1ポイント減少した。特に20代から50代で減少幅が大きく、30代では2023年から約10ポイント落ちている。

 この変化は休みが短いからでは説明がつかない。2025年から2026年の年末年始は9連休だ。それでも多くの人が動かない選択をしている。移動しない判断が、例外ではなく標準になりつつある。

 年末年始の国内旅行・帰省の平均予算は4万7871円で、前年比103%と微増にとどまった。理由として、予算が増える場合も減る場合も物価高・円安が最多だった。宿泊料金の上昇やガソリン代の高さも挙げられている。一方で、減る理由には給料が増えない、将来が不安といった回答が続く。

 注目すべきは、予算が大きく減っていない点だ。金額は横ばいでも、移動そのものを選ばない人が増えている。支出額の問題ではなく、移動にともなう負担全体を避けている。

 都市部に生活基盤を持つ人々は、移動しなくても年末年始を過ごせる環境が整っており、交通や宿泊施設への需要集中は和らぐ。一方、地方では帰省客を前提とした交通や商業が存在するため、移動減少は地域経済や交通計画に直接響く。都市と地方のこの差が、移動の価値や選択行動の多様化を加速させているのだ。

帰省負担と相談困難

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帰省イメージ(画像:写真AC)

 帰省が負担になる理由は、移動時間や費用だけではない。2023年7月にgreedenが発表した調査では、義理の実家に帰省する妻(対象1001人)の6割以上が

「憂鬱」

と感じている。理由の最多は気を使うことがストレスで80.1%だった。休みなのに休めない、義理の家族とうまく話せないといった回答も多い。

 注目すべきは、義理の実家で特別に嫌な経験がなくても、6割以上が憂鬱だと答えている点だ。帰省は、楽しみよりも役割を果たす場になっている人が少なくない。

・家事

・挨拶

・同調

といった行動が暗黙に求められ、それを断りにくい状況が続いている。こうした心理的負担が、長距離移動やピーク時の公共交通利用の抑制につながっている可能性もある。

 帰省が憂鬱だと夫に相談できていない妻は51.3%に上る。相談しても解消しない、夫婦関係が悪くなるのが怖いといった理由が並ぶ。一方で、7割以上が本音では誰かに相談したいと答えている。

 家族内での話し合いが成立しにくい状況は、移動を控える選択に直結する。結果として、交通や宿泊、地方経済の需要にも影響することが明らかになっている。

帰省スタイルの多様化

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帰省イメージ(画像:写真AC)

 2025年夏の報道(フジテレビ)では、夫婦それぞれが別々に実家へ向かう

「セパレート帰省」

や、ホテルに泊まる形、オンラインで顔を見せる形が広がっていると伝えられた。共働き世帯の増加により、全員が同じ日程で動くこと自体が難しくなっている。

 この変化は、家族の分断を意味するものではない。負担を減らすための調整であり、実家側にとっても布団や食事の準備が減る利点がある。ただ、顔を合わせる回数が減ることで不安や疑念が残る場合もあり、新たな摩擦を生む可能性もある。

 同時に、こうした多様な帰省スタイルは交通や宿泊需要にも影響を及ぼす。長距離の移動は減り、ピーク時間帯の混雑は和らぐ一方で、短距離の移動やホテル宿泊、日帰り旅行は一定の需要が残る。

 都市部に住む人ほど移動せずに過ごす選択がしやすく、地方では従来の帰省需要が減ることで地域経済への影響も表面化する。移動のタイミングや形態が多様化することで、交通や宿泊施設、地方商業は従来の一斉移動モデルから柔軟な対応が求められる状況になっている。

移動価値観の変化と地域影響

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帰省イメージ(画像:写真AC)

 この変化で得をするのは、柔軟な働き方ができ、都市に生活基盤を持つ人たちだ。移動しないことで時間と体力を守れる。一方、帰省客を前提に成り立ってきた地方の交通、宿泊、商業は厳しくなる。交通需要が集中しないことでピーク対策の必要性は減るが、地方では収益減や利用者減によるインフラの維持課題が表面化する。

また、帰省を当然と考えてきた世代と、選べると考える世代の間で認識の差も広がる。年賀状を送らない人が17.4%まで増えた事実は、関係維持の方法そのものが変わっていることを示している。都市部では移動が必須ではなくなる一方、地方では移動が減ることが経済活動や交通計画に直結し、世代間や地域間での影響の差が拡大する構造となっている。

 今後、年末年始の移動が消えるわけではない。ただし、

「行かなければならない」

という理由は弱まる。移動するかどうかは、負担と意味の釣り合いで判断される。負担が大きく、意味が共有されない移動は避けられ、短く、気を使わず、目的がはっきりした移動が残る。都市部の利便性や地方の制約が、移動価値観の多様化をさらに加速させることになるだろう。

移動の選択行為

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帰省イメージ(画像:写真AC)

 年末年始は、日常とは異なる行動が集中する時期だ。そのため、社会の変化が早く表れる。予定なしが6割を超えた事実は、移動が前提ではなくなったことを示している。

 移動は今後、やるべきことではなく

「選ぶ行為」

になる。その選択は個人の好みだけでなく、家族関係、職場慣行、都市構造、交通の作り方に左右される。都市部に住む人は、移動しなくても生活が成立しやすく、ピーク時間帯の交通や宿泊需要は分散する。

 一方、地方では帰省客に依存した交通や商業活動が多く、移動を控える判断が地域経済や交通計画に直接影響する。

 オンラインでの接触が補助として使われることで、実際の移動はより限定的になる。この変化により、交通事業者や宿泊業は、従来の一斉移動を前提とした計画から、需要の分散や柔軟な運用への対応が求められるようになる。年末年始の静まりは、移動の価値と行動パターンがすでに変化し始めていることを示しているのだ。