東京に唯一残る味噌蔵に聞いた、味噌汁づくりのこだわりと発酵食品の楽しみ方

美容と健康によい効果をもたらす発酵食は、古来、生活のなかで脈々と受け継がれてきた。調味料をはじめとした多種多様な発酵食品をみんなは、どんなふうに楽しんでいる? 発酵を自在にあやつるプロたちの食卓をのぞかせてもらった。今回は、代々続く味噌蔵の8代目で、味噌職人の辻田宥樹さんにクローズアップ。

糀屋三郎右衛門

旨みと自然な酸味があふれる手づくり味噌の滋味深さ, おいしさを引き出すのは手塩にかけた米麹, ウェルビーイングを一冊丸ごと特集したFRaU11月号発売中!, 「FRaU×SDGsプロジェクト」の 会員になりませんか?【登録受付中】

蔵を案内してくれた辻田さん。「赤味噌は1~1年半、白味噌は3ヵ月~半年ほど熟成させています」

味噌職人 辻田宥樹さん

代々続く味噌蔵の8代目。当代である父や6代目の祖父らとともに、製麹から販売まで一貫して味噌づくりを行っている。庭ではケヅメリクガメを放し飼いにしていて、名前はふくちゃん。

旨みと自然な酸味があふれる手づくり味噌の滋味深さ

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歴史を感じる建物は、創業地の茨城県から東京・上野を経て現在の練馬区に移築した約90年前のもの。

1839(天保10)年に創業した〈糀屋三郎右衛門〉は東京に唯一残る味噌蔵で、伝統的な味噌づくりを続けている。大手メーカーで製造された味噌が主流になったため、時間をかけて熟成させる昔ながらの味噌はいまでは貴重なものとなった。

「そもそも昔は、それぞれの家庭で手づくりされていました。ウチでは、いまは少なくなった自家製の味噌を、昔ながらの方法でつくっているんです。麹と大豆、塩しかつかっていないからこそ、材料のよし悪しや仕込む季節、熟成期間、そして職人の腕で毎回微妙に変化するのが発酵の奥深さ。機械で大量生産すれば味や供給量は安定しますが、天然醸造でしか出せない味わいがあるんです」

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蔵と麹室の間にある作業場では発送作業や味噌づくり教室の準備を行っている。

暑い夏も、しんしんと冷える冬も、味噌づくりに休みはない。麹室で米麹をつくり、大釡で大豆を蒸し、塩きり麹とつぶした大豆を混ぜ、木桶に詰め、熟成、製品化、販売までを一貫して行っている。できあがって桶が空いたらまた新しい味噌を仕込む。

「熟成度合いを見極めるのは、色、香り、味。発酵食品は素材が自然に発酵してできあがるものなので、ウチでは常温で熟成させているわけですが、最近は昔に比べて温暖化が進んでいるので、経験だけでは通用しないことも多くなっていますね」

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商品の味噌は、定番の「おふくろ自慢」や、麹を2割増しで仕込み18ヵ月熟成した「京の里」など全8種。

定番商品である「おふくろ自慢」の甘口(白味噌)は華やかな麹の香りと素材の旨みが広がる。中辛(赤味噌)は、素材の旨さが凝縮された芳醇な味わいで、深くキレのある香りが鼻から抜ける。舌触りがいいのも、手づくりならではだという。

「大豆は皮ごとつかい、潰しきらずに食感を残しています。大手メーカーで製造されているものは皮を剥いてから使用することが多いんですが、家庭で味噌をつくるときにわざわざ皮は剥きませんし、機械のように滑らかに潰せませんから、あえてそうしています。味に関しては、塩っけに頼らなくても間が抜けていないのがウチのよさかな。米麹が大豆の旨みや発酵にともなう酸味をよく引き出しているので、一般的な味噌と比べて塩の量は少なめなんです」

辻田家の味噌汁は、たっぷりの削り節と具材を一緒に煮て味噌をとく。この日、つくってくれたのはナスとマイタケの味噌汁で、味噌は「おふくろ自慢」の中辛だ。

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取材班にふるまわれた辻田家の定番、ナスとマイタケの味噌汁。自社製品の「おふくろ自慢 中辛」は、きのことの相性が抜群だという。

「削り節と一緒に具材を煮て、削り節も一緒に食べるのがウチ流です。赤味噌はキレがあるので、香り豊かなきのこ類ととくに相性がいいです。味噌汁は出汁が大事だと思われているんですけど、ウチの味噌は旨みや香りがしっかりしているので、濃い出汁がいらないんです。まさに味噌汁というか。このほかには、素材を漬け込むというつかい方も多いですね。赤味噌なら肉、白味噌なら白身魚かな」

おいしさを引き出すのは手塩にかけた米麹

味の決め手は自家製の米麹だと即答するその語気に、創業から屋号に糀屋と掲げ続けてきた一家の気概がにじむ。

「麹菌がつくる酵素が大豆のタンパク質やでんぷんを分解して、旨みのもとになるアミノ酸や甘みのもとになる糖をつくり出すので、米麹は味噌の味を決める核になるもの。活きのいい麹でつくった味噌は味もよくなりますし、溶かしたときにダマにならないんです。いい麹は素材の芯まで麹菌が入り込むので、素材をしっかり分解して、大豆と麹、塩を一体にするんですよね」

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蒸し米に種麹を混ぜて麹蓋に広げ、菰を被せて発酵させる米麹づくり。一度に180kg仕込む。

味噌づくりの工程で一番手間がかかるのがこの麹づくり。蒸した米を冷まして麹菌をまぶし、温度と湿度を上げた麹室で寝かせて発酵させる。途中手入れしながら3日ほどでできあがる。辻田さんは祖父や父の仕事を見ながら仕事を覚えてきた。

「麹菌は生き物なので、本当に手がかかりますが、手塩にかければいい麹ができて、味噌をおいしくしてくれるんです。製麹は大まかな工程は決まっていますが、菌が繁殖しやすい温度まで冷ます加減や、米に麹菌をつける手もみ作業の具合は、手触りや嗅覚といったつくり手の感覚頼み。米の水分量や麹菌の状態は季節によっても微妙に違うため、機械では微調整できないんですよ。それが大変なところでもあり、おもしろさを感じるところでもあります」

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麹を発酵させる麹室。壁は調湿機能や保温機能のある大谷石製。

こうした手づくりの楽しさやおいしさを知ってほしいという思いから、手づくり味噌教室を開催したり、味噌の手づくりキットの販売もしている。

「長年やっていると、昔ながらの味噌の味を知る人が少なくなったことを実感するんです。とくに、召し上がった方から『いつも食べているものと違って、酸味や旨みを感じる』というお声をいただいたとき。キムチなんかにも言えますが、本来の発酵食品は熟成することで酸が出るため、自然な酸味があるんですよね。大手メーカーの大量生産された味噌を食べ慣れていると、昔ながらの無添加味噌との違いに驚かれるんだと思うんです。日本の伝統の味、本来の味を受け継いで、後世に伝えたいと日々感じています」

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味噌や米麹の魅力を伝えることも蔵の大事な使命。従業員の昌代さん(写真右端)が考案する料理には、創意工夫によって日々の食卓に味噌や麹を取り入れるためのヒントがいっぱいだ。一般的な料理だけでなく、米麹と果物のシロップや甘酒と味噌のチョコレートケーキなど、そのラインナップは実に多彩で、幅の広さに驚く。

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レシピをもとに生麹をつかってつくったレモン麹シロップ。ヨーグルトや、焼酎の炭酸割りなどに合うという。

「うちで販売している味噌、麹、塩麹、甘酒をいろいろな形で楽しめるように、レシピを公開しています。販売のときにも、食卓への取り入れ方を提案できるので役立っています。発酵食を毎日の食事に少しずつ取り入れて、おいしさや楽しさを感じていただけたらうれしいですね」

味噌の味に感動したことをきっかけに、味噌づくり教室に毎年参加している人もいるという。糀屋三郎右衛門は、地域の人びとの食卓においしさと楽しさを提供し続けている。

●情報は、FRaU2025年11月号発売時点のものです。

Photo:Koichi Tanoue Text:Wako Kanashiro , Riho Nawa , Sayaka Seko

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2025年9月19日(金)発売 価格:1200円

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