生物に影響を与える繁殖干渉とは? 種を超えたオスの求愛が相手種を絶滅させる

写真1:ヤブツルアズキ。2018年10月、つくば市にて著者撮影

(岸 茂樹:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 上級研究員)

日本発祥のアズキとアズキをたべるマメゾウムシ

 最近の研究によると、アズキは日本のヤブツルアズキを栽培、育種したものであるらしい(Chien et al. 2025)。ヤブツルアズキはそれほど珍しくないが、探すと意外と見つからない雑草だ。それは、よく似たノアズキやヤブマメのほうがはるかに多く見つかるからだろう。ただ一度見つけてしまえば簡単で、秋に小さな黒いマメを収穫できる(写真1、2)。

写真2:ヤブツルアズキのサヤの中のマメ。2018年10月、つくば市にて著者撮影

 ヤブツルアズキの実は普通のアズキよりかなり小さいが、アズキと同じように食べられる。ネット記事やYouTubeを検索すると、ヤブツルアズキの実をあんこやぜんざいにして食べたというネタが多くみつかる。

 この数年間、私も晩秋になるとヤブツルアズキの実を採取している。目的は食べることではなく、アズキゾウムシ(以下、アズキゾウ)を探すためである(写真3)。

写真3:アズキゾウムシの成虫

 アズキゾウは体長2~3mmの小さな虫で、マメゾウムシという昆虫の仲間である。ゾウムシと名前がついているが漢字にすると豆蔵虫で、ゾウムシ(象虫)ではなくむしろハムシに近い。

 成虫がアズキの表面に産卵し、幼虫がマメの内部を食べて育つ。文献にはアズキゾウはヤブツルアズキにも寄生すると書いてあるので(渡辺 1986)毎年探しているのだが、残念ながらこれまで野生のヤブツルアズキからアズキゾウを見つけられていない。

 あまりにも取れないので、もしかしたらアズキゾウはもともとヤブツルアズキをメインのエサにしておらず、むしろ畑で栽培されているアズキやササゲをメインにしているのではないかという考えがよぎる。

 そうした畑の近くにヤブツルアズキがあるときにそれをエサとすることはあるが、ヤブツルアズキだけではあまり長く続かないということではないだろうか。アズキゾウは思ったよりも人の生活に近いところでしか生きられないのかもしれない。

 私がアズキゾウを探している目的は、またいつか繁殖干渉の実験をしてみたいとうっすら考えているからである。

なぜヨツモンはアズキゾウに滅ぼされてしまうのか?

 繁殖干渉とは、正しくは「近縁な種間配偶によって生じる干渉型の相互作用」をいう(高倉 2018)。おおまかにいえば、種を超えたオスの求愛や種間交尾による悪影響のことだ。

 既に知っている人も多いかもしれないが、繁殖干渉というと種間交尾や種間交雑のみを考える人も多いが、私はそれ以外の性的な相互作用も非常に重要だと考えている。

 2007年ごろからアズキゾウとヨツモンマメゾウムシ(以下、ヨツモン)の2種を用意していくつかの実験を行った。アズキゾウとヨツモンはさすが貯穀害虫だけあって飼うのはとても簡単だった。2週間から3週間に一度、容器内の成虫をふるって、アズキを交換するだけでよい。実験をするのも簡単ですぐに結果を得られた。

 結果は驚くべきもので、アズキゾウのオスがヨツモンのメスに交尾を迫ることでヨツモンのメスの産卵数が減り、それによってヨツモンが絶滅してしまったのである(Kishi et al. 2009, 図1, 図2)。

図1:アズキゾウムシとヨツモンマメゾウムシのオスとメスをさまざまな組み合わせでシャーレに入れて3日間の産卵数を調べたもの。ヨツモンのメスとアズキゾウのオスの組み合わせのときだけ産卵数が大きく減っている(Kishi et al. 2009 を改変)

◎図2:アズキゾウムシとヨツモンマメゾウムシを同数シャーレに入れて飼い続けたときの個体数(1週間あたりの羽化個体数)の変化(一例のみ示す)。170日ほどでヨツモンマメゾウムシが絶滅する

 この効果は一方的で、ヨツモンのオスがアズキゾウのメスの産卵数を減らすことはなかった。一方、アズキゾウの幼虫とヨツモンの幼虫がアズキのマメの中で出会うとヨツモンが勝ちやすいことは昔から知られていて、この実験に使った2種でも同じ結果が得られた。

 つまりヨツモンは、幼虫同士の争いでは強いのに、アズキゾウのオスからのみさかいのない求愛を受けて滅びてしまうのだった。

 アズキゾウとヨツモンのどちらかが勝つかを調べた実験は昔から多く調べられていて(例えばUtida 1953)、教科書にも載るほど有名である。

 これらの実験結果はすべて資源をめぐる争いで説明されてきた。つまり2種がエサや空間を奪い合い、その能力が強いほうが勝ち残るのだといわれてきた。しかしこの実験結果からわかったことは、どちらの種が勝ち残るかを決めるのは資源をめぐる争いではなく、異種のオスの求愛とそれによる悪影響だった。

繁殖干渉が外来種問題に与えるヒント

 近縁な2種が出会ったときにどちらが勝つのか、という問題は生態学の重要な問題の1つである。

 この問題は、例えば外来侵入種と在来種のどちらが勝つのかという問題に帰着できる。最近、日本に侵入した昆虫だけでもチュウゴクアミガサハゴロモ、クビアカツヤカミキリ、ムネアカハラビロカマキリ、ヒアリ、ツマアカスズメバチ、ツヤハダゴマダラカミキリ、アカボシゴマダラと枚挙にいとまがない。

 マメゾウムシの研究結果は、こうした外来種と在来種の性的な相互作用を調べることの重要性を提起している。

 また、近縁な2種のどちらが勝つのかという問題は、近縁な2種の分布の問題にも重要なヒントを与える。

 近縁な昆虫2種の分布がきっぱり分かれている例はとても多い。前回の記事で書いたアカイエカとチカイエカも互いに生息する場所が違う。しかしなぜ分布が違うのか、なぜ2種が一緒に生息できないのかという点は意外とわかっていない。このような問題も繁殖干渉を調べることで明らかになることが多いだろう。

 繁殖干渉はもちろん昆虫だけにとどまらない。植物や魚類、哺乳類など性のある生物であればどの種間でも生じうる。その中には当然、我々人類、ホモサピエンスも含まれる。次回はそのあたりをもう少し掘り下げて考えてみたい。

【参考文献】

◎Chien C, Seiko C, Muto T, et al. (2025). A single domestication origin of adzuki bean in Japan and the evolution of domestication genes. Science 388:eads2871.

Kishi S, Nishida T, Tsubaki Y (2009) Reproductive interference determines persistence and exclusion in species interactions. Journal of Animal Ecology 78:1043–1049.

◎高倉耕一(2018)第1章:繁殖干渉とは.繁殖干渉 理論と実態,名古屋大学出版会.

Utida S (1953) Interspecific competition between two species of bean weevil. Ecology 34:301–307.

◎渡辺直 (1986) 栽培植物の分布拡大に伴う害虫の伝播と植物検疫の意義--特にマメゾウムシ類を中心として. 植物防疫所調査研究報告 22:1–9.

岸茂樹(きし・しげき)

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)上級研究員

愛知県出身。2000年東京大学農学部卒業後、京都大学大学院農学研究科で修士号、博士号取得修了。農研機構上級研究員。専門は昆虫生態学で、農業分野の研究に取り組む。著書に『繁殖干渉-理論と実態-(共著、名古屋大学出版会、2018)』『虫がよろこぶ花図鑑(共著、農文協、2025)』などがある。博士号を取得後、2009年から11年まで広告代理店での勤務も経験。趣味は写真。大学院在学中の2004年にテレビ番組「あいのり」にハカセとして出演。

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