「駅前タワマンはもういらない」柏駅そごう跡地“86億円投入”が露呈させた、地方都市・駅前再開発制度の限界
柏駅西口の再開発停滞
常磐線柏駅は特急列車も停車する、人口43万人以上を抱える首都圏屈指のベッドタウンの中心駅である。駅周辺には多くの商業施設が集まり、千葉県でも有数の商業地となっている。だが、街の整備から50年以上が経過し、老朽化した建物も目立つ。近年はつくばエクスプレス沿線などにできた大型商業施設との競争も激化している。
【画像】「えぇぇぇ!」 これが40年前の「柏駅」です!(計14枚)
特に課題となっているのが、柏駅西口の柏そごう再開発である。2016年の閉店以来、5年以上にわたり放置されるという異例の事態となったが、建物の取り壊しはようやく始まり、再開発に向けた動きが出ている。しかし柏駅周辺は地権が複雑であり、今後の進展には不透明感も残る。
本稿では、柏そごうの再開発地域を含む柏駅東口周辺の街の状況を紹介する。
柏駅東口の再開発と柏そごう

柏駅の位置(画像:OpenStreetMap)
柏そごうは1973(昭和48)年10月、柏駅東口市街再開発の一環として開業した。再開発構想は1960年代までさかのぼる。柏市は市制施行が1959年と比較的新しく、首都圏から30km以内で平坦な地形という利点もあり、1960年代から急速に宅地開発が進んだ。1959年の人口は3万9000人に過ぎなかったが、1970年には16万人を超え、駅舎の拡張や市街地整備が急務となった。
話の取りまとめには苦労があったが、1971年に市街地再開発事業が計画決定され、1973年9月には都市再開発法に基づく駅前再開発として全国初の駅前デッキが整備された。柏駅東口はこの事業で整備され、街の核として柏そごうが誕生した。
柏そごうは本館とプラザ館を合わせて3万5466平方メートルの売り場面積を持ち、地方都市として最大級の百貨店であった。本館はゴシック様式の建物で、最上階にはそごう店舗として初めて回転展望レストランも設けられた。こうした豪華仕様は後のそごう各店舗の開発にも生かされることになる。
広大な売り場を持つ柏そごうは地域の旗艦店として急速に成長した。柏市の象徴としての地位を獲得し、1990(平成2)年には売上高590億円を記録した。また、東口のマルイや地元商店街、西口の高島屋などと競合しながら、柏駅周辺の賑わいを形成した。この結果、周辺地域は埼玉・千葉・茨城の三県にわたる商圏を獲得し、若者を中心に多くの人が集まる商業都市として栄えた。
1980年代には柏そごうは本館とプラザ館の一部を自社物件化し、財務基盤を強化した。バブル景気の影響もあり、ほかの店舗への投資も行い、グループ全体で基幹店舗としての位置を確立していった。
そごう柏店の破綻と地位喪失

柏市の様子(画像:宮田直太郎)
そごうはバブル期の過剰投資により2000(平成12)年に破綻した。グループ内で売上が大きかった柏そごうは閉店を免れたが、そごう破綻によるイメージ低下で地域一番店の地位は失われた。1992年には駅西側に大規模に拡大した柏高島屋ステーションモールにその座を奪われた。
さらに2005年のつくばエクスプレス開業にともない、「ららぽーと柏の葉」などの大型商業施設が次々と開業した。既存の郊外型モールであるイオンモール柏も加わり、顧客の奪い合いは激化した。
その後、ミレニアムホールディングスやセブン&アイ・ホールディングス傘下となったそごう柏店(2002年に名称変更)は、プラザ館へのビックカメラ出店やシニア向けリニューアルなどで巻き返しを図った。しかし売上はピーク時の2割まで減少し、2016年9月30日に43年の歴史に幕を下ろした。
本館の建物は三井不動産に売却された。プラザ館は地権者が運営するテナントビルとして現在も存続し、スカイプラザ専門店街やビックカメラ柏店が入居している。
そごう柏店跡地の廃墟化

柏市の様子(画像:宮田直太郎)
そごう柏店本館の跡地利用は難航し、7年間建物は廃墟のまま放置された。常磐線屈指の規模を持つ駅前の約5200平方メートルの土地が生かされず、街の景観に悪影響を与えていた。柏市は民間主導で駅前にタワーマンションが建設される状況を避けるため、対応を検討していた。
2024年2月、柏市はそごう柏店跡地を86億円で取得し、三井不動産と合意した。同年5月18日から20日にかけて、最上階の回転展望レストランを含むビル全体が特別公開され、多くの人が別れを惜しんだ。6月からは三井不動産の費用負担で建物の解体が始まった。
現在も解体工事は進行中で、2025年11月末の時点では上層部は骨組みだけとなり、作業が続いている。解体は2026年に完了し、更地として柏市に引き渡される予定である。
商店街の老朽化と雑多な街並み

柏市の様子(画像:宮田直太郎)
そごう柏店とともに発展してきた柏駅東口の様子を紹介する。周囲の商店街は人通りが少ないわけではないが、面積の狭いペンシルビルが多く、雑多な印象を受ける。
中心部の「パレット柏」3階付近から商店街を見下ろすと、アーケードや店舗の状況が確認できる。人通りはあるものの、建物の古さが目立ち、老朽化が進んでいる。道幅も狭く、地震や火災に強いとは言い難い状態である。
柏駅東口には駐車場も多く存在する。これらは1970年代から80年代にかけて、複数の経営者により買い物客や住民、商用客を対象として造成された。当時の研究では、
「1件あたりの駐車場面積は年代を経るごとに小規模化している」
と指摘されていた。現在も広大な駐車場や立体駐車場がまとまっているわけではなく、建物間に小さな駐車場が点在する形で分布しており、複雑な所有関係が見て取れる。
公園やパブリックスペースの不足も課題である。屋外イベントの開催が難しく、地域住民や若者の活動も制限されがちで、結果として街の集客力を削ぐ要因となる。柏市も「人々の居場所となるサードプレイスが不足している」と認識しており、街の発展には欠かせない要素と考えている。
柏駅東口再整備の三案

かつての駅前の様子(画像:写真AC)
柏市は2024年度、旧そごう柏店本館の土地を含む柏駅東口駅前の再整備に向け、交通広場の再編や新たな改札口の配置などの方策を検討した。提出された案は三つである。
・既存のスカイプラザの場所を広場化し、施設を南北に集約した配置案
・南側への施設建築集約配置案
・賑わい施設囲い込み配置案
である。このプランでは、柏駅北口に新たな改札口を設置するほか、バスやタクシーのロータリーも再編し、半世紀前に整備された柏駅東口に大きな変化をもたらす内容となっている。
また、柏駅周辺のまちづくりを担う柏アーバンデザインセンター(UDC)は、駅から半径500m以内の商店街や住宅地も含めた開発プランを提示している。そごう柏店当時と同規模の商業施設床面積を維持しつつ、パブリックスペースや住居を増やし、定住人口と交流人口の双方を増やすことを目指す。住居については現在の2倍の床面積にする計画もある。
住居を増やしたいUDCの計画では、タワーマンションは有効に思える。しかし柏市長は
「駅前がタワマンばかりになるのを防ぐ」
として、そごう柏店の土地購入を決めている。目的は同じ駅前再生であっても、開発の方向性は大きく異なり、利害が交錯する状況となっている。
複雑な所有関係と再開発の課題

「既存のスカイプラザの場所を広場化し、施設を南北に集約した配置案」「南側への施設建築集約配置案」「賑わい施設囲い込み配置案」。「柏駅東口駅前再整備実現化方策検討業務報告書【概要版】」より(画像:柏市)
柏駅東口の地権者は複雑な所有関係を持つため、街の人々が思い描く未来像も多様である。再開発には強いリーダーシップが不可欠である。筆者(宮田直太郎、フリーライター)が懸念するのは、市が開発を急ぎ過ぎるあまり、中途半端な建物ができるケースである。行政施設やオフィス、タワマン、商業施設などを同時に詰め込みすぎると、動線の悪い使いにくい建物になることが全国の再開発事例で見られる。
また建設費を抑えるあまり、集客に必要な要素が削られることも懸念される。筆者は数百億円規模の施設を訪問した際、1階のドアが手動で入りにくかったり、エスカレーターが狭くひとり用だったりと、人の導線が軽視された例を確認している。これらの施設は首都圏の駅前にもかかわらず、空きテナントが目立っていた。
柏駅東口の再開発でも同様の問題が起きないよう、半世紀前と同様に全国関係者を驚かせる大胆な計画を実現してほしいと考える。なお筆者の取材時間の都合で、紹介できる内容は限られている。柏駅周辺には西側も含め多くの再開発計画が存在しており、今後も取材を続けて伝えていく予定である。
●参考文献
加藤栄司、中村攻、宮崎 元夫(1987)「柏駅東口駅前再開発地区周辺地域における土地利用の変容過程に関する研究」造園雑誌 1987年51巻5号 p293~298