【NHK朝ドラ「ばけばけ」第14週開始】給金20円が揺るがす永遠の愛? トキ(高石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)が示す夫婦のかたち

 高石あかりがヒロイン・松野トキを演じる「ばけばけ」(毎週月~土曜午前8時、NHK総合ほか)の第14週「カゾク、ナル、イイデスカ?」では、ついにトキとヘブン(トミー・バストウ)が永遠の愛を誓い合い、物語は大きな節目を迎えた。しかし、それでめでたしめでたし、では終わらない。20円の給金はどうなるのか? 松野家の運命は? そして雨清水家についた“善意の嘘”がバレてしまい……。

■シンプルかつ濃厚な演出の力

 トキとヘブンがそっと手を取り合い、並んで歩き出すシーンは、多くの視聴者にとって「神回」と名高く、2025年の締めくくりとなった。新年を彩る14週の初回・66話で、キャストとしてクレジットされていたのは、トキとヘブン、錦織友一(吉沢亮)の3人のみという潔いミニマム構成。その内容は限りなく濃密で、演出の力をあらためて感じさせた。

 物語は、ヘブンが松江に残る意思を示す場面から動き出す。これまでのように、トキの語る怪談をただ聞く“観察者”としてではなく、彼自身がトキの隣に立ち、自らの意思で未来をともにしたいと告げる。

 かつて、怪談を語るためにヘブンの書斎に入ることを許されたトキ。その逆の構図で、次はトキのパーソナルスペースにヘブンが招かれる。それは、“心の書斎”への招き入れに等しい。

 悲しみも楽しみも、怪談を媒介に分かち合ってきたふたりが、ついにその手を取り合う。その見届け人が通訳の錦織であったことも、また粋である。彼は常に物語の“第三の目”として機能し、鋭くも穏やかに、トキとヘブンを見守ってきた。

■「女中」と「妻」のはざまで、トキが抱えた20円の現実

 心を通わせ、永遠の愛を誓い合ったトキとヘブン。しかしここで、重い現実がのしかかる。女中ではなくなったトキは、ヘブンから給金をもらえなくなってしまうのだ。これまで毎月20円を受け取っていたトキにとって、そのお金は松野家の生活のためだけでなく、親戚の雨清水家へ渡す10円を捻出するための重要な柱でもあった。

 愛と引き換えに、金銭的な自立を失う――この厳しい二択もあり、トキは松野家の面々に、すぐには結婚の事実を言い出せずにいた。その結果、ヘブンとの間にはふたたびすれ違いが生まれてしまう。なぜ夫婦になったことを、あなたの家族に言ってくれないのか。文化的背景の違いだけでは片付けられない、複雑な葛藤が、ここで静かに浮かび上がる。

 タイトル「カゾク、ナル、イイデスカ?」は、この週のすべてを象徴する問いである。これはヘブン視点の純粋な問いかけに見えるが、同時にトキの切実な思いでもあるのだ。彼女にとって“家族になる”とは、給金を失うことであり、松野家や雨清水家に波紋を広げることでもある。

■夫婦になることの難しさ

 ついにトキは決死の覚悟で、ヘブンと夫婦になることを家族に宣言する。父・司之介(岡部たかし)は案の定、渋い顔を見せるが、意外にも寛大に受け入れてみせたのが祖父・勘右衛門(小日向文世)だった。彼は「ええ」と肯定し、その足でタツ(朝加真由美)のもとへ向かい、自らも彼女に思いを伝える。

 タツの「待っちょりましたけん」という一言に、視聴者の多くは胸を打たれたことだろう。トキとヘブンの恋が対外的な枠組みに悩む一方で、勘右衛門とタツの恋は、人生の晩年における“自分”の肯定である。この対比こそが、「ばけばけ」が持つ温度の振れ幅なのだ。

 2人の関係が受け入れられたことを知り、「パーティーシマショウ!」と歓喜するヘブン、思わずトキを抱きしめる姿、そしてそれを視線を外しながら見守る錦織――どの瞬間も、愛と照れと祝福が同居する、まさに「ばけばけ」らしい妙味に満ちていた。

 しかし、めでたい出来事の裏には、静かに綻びが広がるものだ。夫婦になったことで給金を受け取れなくなったトキは、雨清水家のための10円を三男・三之丞(板垣李光人)に渡すことができなくなる。母・タエ(北川景子)が知らなかった秘密は、司之介の不用意なひと言によって暴かれてしまう。

 タエは、毎月10円を自分たちが受け取っていたことを知らず、雨清水家の生活を支えているのは三之丞だとばかり思っていた。善意の嘘が、最悪の形で露見した瞬間である。

 晴れて夫婦となった者が、別の家族を傷つけてしまう。このねじれこそが、「カゾク、ナル」ことの難しさである。“個”として愛を選びながら、“家”としての責任がどこまでも付きまとう――それは、現代にも通じる重たいテーマなのかもしれない。

(北村有)

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