「あの子は社長している」北川景子演じる母親が息子のウソでプライドズタズタ…それでも凛とした姿はさすが!〈ばけばけ第69回〉

『ばけばけ』第69回より 写真提供:NHK

今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、毎日レビューを続けて10年超えの著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は、第69回(2026年1月8日放送)の「ばけばけ」レビューです。(ライター 木俣 冬)

ヘブン、日本の建前文化が理解できない

 三之丞(板垣李光人)問題で不機嫌なヘブン(トミー・バストウ)。

「今日のお帰りはいつも通りですかね」とトキ(高石あかり、「高」の表記は、正確には「はしごだか」)が聞いても無視。

 三之丞が何かを隠しているとヘブンは思っている。

 気を利かせた錦織(吉沢亮)が学校でヘブンに事情を話す。

 トキが松野家と雨清水家、2つの家のお金を工面していたと知ったヘブンだが、なぜそれを夫になった自分に隠すのかわからない。

 錦織は、それが日本特有の文化「建前」であると説明する。

「建前」とは本当のことを語らないことで「相手と良い関係を築こうとする日本の文化」だ。

「おトキさんあなたとうまくやりたい。だから隠し事をしています」

 きっといつか話してくれるまで待ってあげてくださいと錦織は言うが、ヘブンは理解できないようだ。

 一難去ってまた一難。本音を語らない日本の建前文化にヘブンは悩む。

 外国人は自分の意見をはっきり言う人が多く、日本人は意見を言わないことが多い。

 ただ、建前は、黙っていることではなく、本音を隠すために言う無難なことなので、トキのように何も言っていないことを建前の文化と、ヘブンに教えるのは、いかがなものだろうか。

 例えば、トキが三之丞は会社の社長をやっていて、家庭生活はひじょうに円満で、松野家との関係も良好である、みたいなことをヘブンに話しているとか、すでにヘブンのことも話していて、好意的に受け止めてもらっているなどと話していれば、それは建前とされるかもしれないが。

 そういう意味でも日本語というか言葉って難しいなあと思っていると、雨清水家で本音と建前劇場が行われる。

「あなたからいただいたお金で買うわけにはいきませんからね」

 タエ(北川景子)が「おトキがヘブンさんという西洋の方と結ばれたそうです」と三之丞と話している。

「え」と知らないふりをする三之丞。

「松江に西洋人がいるらしいとは聞いておりましたが」とごまかす。

 タエはトキがヘブンの女中をして「毎月20円いただいている」とカマをかけるが、三之丞は「そうですか」「私より高給取りですね」ととぼけ続ける三之丞。

「そうね」と穏やかに返すタエ。これこそ、本音と建前の例であろう。

 台所では何かがグツグツ煮えている音がする。お互い言えないもどかしい気持ちをグツグツと煮えている鍋の音で表現するのはひとつの手法である。これが日本のテレビの文化である。

 場面が変わって、花田旅館。

「なしてだまっちょったの」とツル(池谷のぶえ)がトキに水臭いと軽く責める。司之介(岡部たかし)がうっかり漏らしたのだ。

 いろいろあって、なかなか家族にも言えなかったというトキに、ツルと平太(生瀬勝久)とウメ(野内まる)がお祝い。3人の息が合わず、いつものように一悶着(ひともんちゃく)しているところに、タエが訪ねてきた。

 ヘブンの家がどこか聞きに立ち寄ったのだ。ちょうどトキがいて……。

 ヘブン宅の縁側で、タエはお祝いに自分の使っていた櫛(くし)を贈る。

「これは私が雨清水に嫁ぐ前から使っていたものです」

「あなたからいただいたお金で買うわけにはいきませんからね」

 静かに、真相を知っていることを明かすタエ。おそらく、黙って、援助されていたことを知って、相当プライドが傷ついているであろう。でも、その感情は出さない。そこが武家の娘という感じである。

「申し訳ございません」と身を小さくするトキに「顔を上げて。悪いのは私です」と全部、自分で引き受ける、相変わらず凛としたタエ。

 三之丞に「雨清水の人間なら、人に使われるのではなく、人を使う仕事に就きなさい」とむちゃを言ったことを反省する。まあ、その通りで、すべての要因はタエのへんな武家のプライドなのだけれど。

「そのせいで、あの子はあなたからお金をもらうようになってしまった」

「あなたがここで働くことになったのも私のせいなんじゃない?」とタエは申し訳なさそう。

 結果的に、まわりまわっていいことになったのだから、結果オーライなのである。日本のことわざだと「塞翁が馬」(午年にちなんで馬のつくものを筆者なりに選びました)。

波乱の結婚披露パーティー

 タエはトキに、タエがこの件(トキがお金を融通していた)を知らなかったことにしておいてほしいと頼む。

「あの子は社長をしていることになっています。その嘘(うそ)を貫かせてあげたいの、そうしないと、あの子は」と頭を下げるタエに、トキはいたたまれない。

 こうして、「さまざまな家族の秘密を抱えたまま2人の結婚披露パーティーが始まりました」(蛇〈渡辺江里子〉)

 場所はヘブン宅。両家の挨拶(あいさつ)を、司之介が気を使ってタエに譲るが、「いいえ、ここはやはり松野家から」とタエは遠慮する。

「松野家は父上が隠岐で異国船見張り番を務めたこともあり偉人嫌いとして名をはせたこともあったが……先生、お主は特別じゃ、困ったら遠慮なく言え。支えてやる」とちょっと威張った感じの司之介。それを錦織がぼそぼそ通訳。

 勘右衛門(小日向文世)は「大船に乗ったつもりでな」と簡潔な挨拶。黒船を憎んできた勘右衛門だったが、いまや自らヘブンを乗せる大船になる心づもりだ。

 そして、雨清水家の紹介。

 三之丞は、この間のこともあるからか、緊張した顔をしている。

 タエはさすが、これまでのごたごたをな〜んにも知らないふりで穏やかに挨拶。これぞ建前の理想形であると錦織はヘブンに教えてあげてほしい。

「雨清水家は松野家よりもずっと格の高い家ですので、なんていうか、こう品が違いますでしょ」とトキが謙遜(これも日本文化)し、司之介が「わしら松野家は品のかけらもなくての……って、何を言い出しまつの」とノリツッコミ&「松野」と「ますの」のダジャレ(これも日本文化?)で繋ぐ。

 あはは、あははと空笑いの中、ヘブンはうつむいて眉間にシワを寄せている。

 冒頭で語られた「建前」をモチーフに、15分を外国人から見た日本人のおかしな文化ネタでつないでみせるふじきみつ彦脚本。

 ここまでショートコント的だったが、司之介に「晴れてみな家族じゃ」と言われたヘブンが発した言葉に、一同は凍りつく。

 緩急のあるよく練られた15分だった。

フォトギャラリー

主なシーンより

第14週(1月5日~1月9日)

「カゾク、ナル、イイデスカ?」あらすじ

日本滞在記取材のためヘブン(トミー・バストウ)と錦織(吉沢亮)は出雲を訪れていた。ある日、トキ(高石あかり)はヘブンに突然呼び出され、大事な話があると告げられる。しかしトキは、その大事な話を家族に伝えられずにいた。そんなトキに対し、ヘブンのイライラが高まっていく。さらにトキは、ヘブンに今まで隠していたタエ(北川景子)や三之丞(板垣李光人)の存在を知られてしまう。

連続テレビ小説『ばけばけ』

作品情報

連続テレビ小説「ばけばけ」。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描きます。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語です。

【作】 ふじきみつ彦

【音楽】 牛尾憲輔

【主題歌】 ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」

【出演】高石あかり(「高」の表記は、正確には「はしごだか」) トミー・バストウ / 板垣李光人 円井わん 野内まる / 渡辺江里子 木村美穂 / 吉沢亮 / 北川景子 / 岡部たかし 池谷のぶえ 池脇千鶴 朝加真由美 生瀬勝久 小日向文世 ほか

【放送】 2025年9月29日(月)から放送開始