中国色に染まるラオス「欧米旅人の楽園」が大変貌

街全体が世界遺産に登録されているルアンパバーン(写真:筆者撮影)
今年の正月休みにラオスを旅した経済ジャーナリスト・浦上早苗さんのレポート後編です。
【前編】愛子さま訪問で注目されたラオス、正月は中国人ツアー客だらけのリアル。仏教行事も観光化、「映え」目当ての参拝客増加に感じた時代の変化
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韓国と中国がせめぎ合う田舎町へ
正月のラオス旅行では、ルアンパバーンから30キロ離れたクアンシーの滝にも足を運んだ。名所は名所だが、滝は世界の至るところにあるし……と過去2回のラオス旅行では行かなかったが、愛子さまが訪れたとなれば話は別だ。
【写真】山頂にバイク、なぜ? ラオスの山登りの先で見たもの
乾期とあって滝の迫力はそうでもないが、エメラルドグリーンの滝つぼは中国の九塞溝を思わせる美しさ。そこで泳げるというのが何ともラオスらしい。敷地内にはツキノワグマの保護センターも併設されている。
YouTubeで愛子さまの立ち位置を確認し、同じ場所で写真を撮った。

愛子さまが訪問されたクアンシーの滝(写真:筆者撮影)
道中、送迎してくれたドライバーに「日本の天皇のお嬢さんがこの前来たんだよ」と話すと、「プリンセスだろう。こっちでもビッグニュースだったからもちろん知っているよ」と返ってきた。
「この通りはずらーっと警備員がいたよ。プリンセスが来た日の午前中は、観光客は入れなかったんだ。彼女はスペシャルな存在だからね」
ドライバーの話しぶりから、愛子さまへの関心の高さが伝わってきて嬉しくなった。
ルアンパバーンで過ごした後は、バックパッカーの沈没地と名高いヴァンヴィエンに向かうことにした。夫は次にビエンチャンへ行きたがっていたが、同地は「世界一何もない首都」と言われるほど観光資源が少ないため、今回はスキップした。
ヴァンヴィエンはビエンチャンとルアンパバーンの中間に位置する。筆者が1998年に訪ねたときはどっちの都市からも悪路を半日かけて車で走るか、怪しい飛行機に乗るしかなかったが、道路事情は大きく改善し、2021年に高速鉄道が開通したため、今は両都市から1時間で到達できる。

中国ラオス鉄道のルアンパバーン駅。1月2日は中国人旅行者でごった返していた(写真:筆者撮影)
ヴァンヴィエンが欧米人に人気の観光地になっているのは知っていたが、昨年6月に訪ねたときは韓国人旅行者の多さに驚いた。看板やメニューは英語、中国語、ハングルが併記され、ロッテリアも進出している。聞けば何年か前に韓国のテレビ番組で紹介され、韓国人が押し寄せるようになったらしい。

ラオス語、英語、中国語、韓国語が並ぶ広告(写真:筆者撮影)
高速鉄道駅からも近いので、今後も観光開発が進むだろう。メコン川沿いに建設途中のホテルがいくつもあった。

ヴァンヴィエンのメコン川沿いではホテルの建設が進む(写真:筆者撮影)
中国人向けの店舗が増えていた
ヴァンヴィエンはアウトドアのアクティビティを楽しんだり、あるいは何もせずにゆったりと過ごす、「リトリート」「チル」がキーワードの観光地だ。

ヴァンビエンに有名な観光スポットは少ないが、豊かな自然が外国人旅行者を引き付けている(写真:筆者撮影)

ヴァンヴィエンのブルーラグーンで水遊びをする旅行者たち(写真:筆者撮影)
だから中国人団体客を見かけることはほとんどなかったが、中心部は中国の“侵食”が急速に進んでいた。屋台村エリアには麻辣湯(マーラータン)の店が複数あった。
中国系のテナントだけを集めた建物もあり、半年前にはなかった激安ドリンクチェーン「MIXUE(蜜雪氷城)」もオープンしていた。露店で食べ物を売る女性は全員中国語が書かれたエプロンをつけている。

ヴァンヴィエンの中国系店舗だけが入居する建物(写真:筆者撮影)

ヴァンヴィエンにオープンしていた中国の激安ドリンクチェーンMIXUE(写真:筆者撮影)

ヴァンヴィエンには偽日本ブランドとして有名なMINISOUも進出している(写真:筆者撮影)
「無印とダイソーとユニクロを足して3で割った」と揶揄される名創優品(MINISO)もあったので、紛失した電源プラグを買った。日本人としては悔しいが、旅行者が必要なものはだいたいMINISOに置いてあるのだ。
中国人と岩山登り
ヴァンヴィエンでは人気の水遊びスポット「ブルーラグーン」などを回る半日ツアーに参加した。
参加者は私たち夫婦の他にインド人カップルと、韓国人と思われる30代女性。
迎えに来たラオス人ガイドは私たちが日本人と知ると、「アプリで知り合った日本人から習っている」という日本語で自己紹介してくれた。昨年高校を卒業したばかりの彼は、大学の受験勉強をしながら、英語学習を兼ねて外国人のガイドをしているという。
最初に連れていかれたのは岩山登りだった。ツアーに申し込んだときは「美しい景色を見に行く」としか説明されなかったので、水遊びするつもりの軽装で参加したが、麻のパンプスにスカートはどう見ても場違い、と思いきや、同じように何も分からないまま連れてこられたとしか思えないワンピース姿の人がちらほらいる。
一緒のツアーに参加している韓国人らしき女性が早速足を滑らせ、思わず「アイヤー」と声を上げた。夫が慌てて彼女の手をつかむ。アイヤーですって? あなた中国人だったのね。彼女も「ハイキングと聞いていたのに話が違うじゃないか」と若干怒っている。
息子より年下のラオス人ガイドに日本語で「気を付けて」「ちょっと待って」「足ここ」と指示されながら、ロープを頼りに上を目指した。相当危なっかしく見えたのだろう。東南アジア人、欧米人と、いろんな人から手を引っ張ってもらってどうにか登頂した先に、すばらしい景色が広がっていた。

左/半日ツアーで参加した岩山登り。右/ハードな山登りを経てたどり着いた頂上には絶景が広がっていた。山頂になぜかバイクがあり、有名な写真スポットになっている(写真:筆者撮影)
しばらくして気づいた。SNSで何度か見たことがある風景だけど、そこに行くのがあまりにも大変そうだったので、はなから調べていなかった。
岩山を30分登ると事前に聞いていたら、そもそもこのツアーには参加していなかった。筆者の運動能力と体力を懸念する夫が止めていただろう。
知識や経験値が増えると、きつくて大変なことのリスクを見積もってちゃんと避けられるようになる。その分何も知らない頃のような感動は味わえなくなる。ラオスはいつも、私に刺激をくれる。
日中関係は「上の人たちの話」
頂上で一息ついて、一緒に山を登った中国人女性・明明(仮名)と話した。中国の正月は春節(旧正月)だが、1月1~3日も公休日だったので、上海から旅行に来たという。
「本当はベトナムに行きたかったけどビザ申請が間に合わなくて。ラオスは(入国時に申請できる)アライバルビザで入れるので、どんなところか分からないままとりあえず来たのよ」
日本人はラオスもベトナムもノービザで入国できる。つくづく恵まれている。
明明は「日本もずっと行きたいのよ。食べ物も観光地も何でも水準が高いと聞いている」と話す。
「今の日中関係じゃ来にくいんじゃないの?」
「上の人たちは上の人たちなりの利益があるのだろうけど、私たちは関係ないでしょう。うちの上司だって、『上の利益と我々の利益は別』と言ってる」
筆者がかつて中国・大連に住んでいたことを知ると、「アイヤ、大連は前のトップが習近平の政敵になってしまったから、習近平が力を持っている限り発展できないね」と腕を組んだ。
前のトップとは、大連市長や重慶市トップを務め、2012年に失脚した薄熙来(ボー・シーライ)氏のことだ。大連の人たちからは時々聞く話だが、上海在住の彼女が言うってことは、中国人の共通認識なんだろうな。
ヴァンヴィエンで1泊し、中国ラオス高速鉄道でルアンパバーンに戻った。前日に予約状況を確認したところ往復ともに満席に近く、どうにか座席を確保できた。中国の休みと重なっているからだろう。

中国ラオス高速鉄道のヴァンヴィエン駅で列車を待つ人々。ほとんどが中国人だった(写真:筆者撮影)
中国の支援で建設された高速鉄道は、改札の仕組みも駅舎の雰囲気も中国の高速鉄道そのままだ。中国とつながっているから当たり前ではあるが。
前回も今回も、乗客のほとんどは中国人を中心とする外国人で、ラオス人らしき乗客は少なかった。
筆者が乗ったルアンパバーン行き列車は、ほぼ全員が中国人ではないかというくらい中国色が濃かった。
中国人は全席指定席であっても自分の座りたい席に座ることがよくある。夫の座席にも知らない中国人が座っており、交渉して移ってもらっていた。指定席とは何ぞや。
私たちが乗った車両は特にフリーダムで、列車が出発して15分経っても全員が着席できない。ついには通路で立ち往生している人たちの喧嘩が始まった。それを見てテンションが上がる周囲の乗客たち。ハロウィンの渋谷のようだ。行ったことないけど。

ルアンパバーン行きの列車では、発車15分経っても席に座れない人がいてカオスだった(写真:筆者撮影)
女性乗務員が介入しても収拾がつかず、男性乗務員も加勢にやってきた。全席指定で、駅の出入り口と改札で二重にチケットと身分証明書をチェックしているのに、なぜすんなり座れないのか。愛子さまも高速鉄道に乗られていたが、こういったリアルはもちろんご存じないだろう。
大阪と迷いラオスに出店した店主
ルアンパバーンで列車を降り、乗り合いのバンでホテルに向かうと、蘭州ラーメンの看板が目に入り、小腹が空いていたので店内に入った。
みやぞん似の店主がテーブルまで来て、「どこから来たの」と尋ねてきた。「日本」と答えたら、「日本人なのに中国語分かるのか。嬉しいねえ。俺は青海出身だよ」と笑顔になった。笑うとますますみやぞんっぽい。ルアンパバーンのみやぞん、と名付けよう。
そういえば初めてラオスに来たときには、「シェムリアップのゴクミ」「ハノイのひなの」なんていうバックパッカーのアイドルがいたなあ。
ほとんどの日本人は「青海」と言われてもピンとこないだろう。チベット自治区、新疆ウイグル自治区に接する青海省は、貧困、遅れているというイメージが強い内陸部の省だ。蘭州ラーメンは甘粛省蘭州市の発祥ではあるが、蘭州ラーメン店の経営者の多くは青海省出身者だと言われる。
ルアンパバーンのみやぞんは、「もともとは日本で店を出そうと思って、大阪に去年視察に行ったんだよ。日本はガチ中華が人気なんだろ」と話し始めた。
「でも大阪は生活のリズムが速くて。上海みたいで疲れるなと思ってやめた。青海出身の俺にはラオスの方が居心地がいいから、1カ月前にルアンパバーンにお店を出したんだよ。ま、ゆっくりしていってよ」
いい人だったけど、その夜、夫婦そろって嘔吐した。ラーメンにつけたゆで卵が犯人だと思っている。
中国化が進むラオスだが、今のところ団体旅行客がメインなので、町をぶらぶら歩いている限りは、欧米人比率の方が高い。中国人団体客は中国資本のホテルに泊まり、中国資本のレストランで食事をし、著名な観光スポットにバスで乗り付ける。その時、その場所だけ中国色に染まる。
高速鉄道が開通して中国の影響ばかりクローズアップされるが、コロナ禍後にオープンしたホテルの多くは、ベトナムの資本だという。
ルアンパバーンでもヴァンヴィエンでも、ホテルのフロントが軒並みベトナム人なので、何人かに直接聞いたら「ベトナムは人口が多すぎてチャンスが少ないからラオスに来た。ルアンパバーンの中小規模の新しいホテルは、だいたいベトナム人がオーナーよ」との答えだった。
最近は日本人によるラオス人の児童買春も問題化し、在ラオス日本大使館が注意喚起した。
ラオスが観光地として開発されていく中で、果たして現地の人たちは豊かになっているのだろうか、という疑問が頭をもたげる。
日本人にも人気が高まるか?
1月3日、ルアンパバーン空港では日本語がかなり聞こえた。その時間に飛んでいるのはLCCエアアジアのハノイ行きのみ。ハノイからはLCCベトジェットの日本直行便が飛んでおり、2つのフライトを組合わせて帰国する人が多いようだ。
日本人にとって東南アジアの旅行先と言えばタイが真っ先に浮かぶが、バーツ高と物価上昇で、タイも安い旅行先ではなくなっている。日本人の間でラオス人気も高まっていくかもしれない。

中国ラオス高速鉄道のヴァンヴィエン駅。中国人旅行者でごった返している(写真:筆者撮影)
だが、それ以上のスピードで中国人旅行者が増えるのは確実だ。日本とラオスを結ぶ直行便はゼロだが、中国との直行便はビエンチャン、ルアンパバーン合わせて30路線近くあり、さらに高速鉄道が加わる。ヴァンヴィエンは半年の間に中国化が加速していた。

ルアンパバーンの観光スポットであるプーシーの丘入り口で休憩する中国人団体旅行者(写真:筆者撮影)
愛子さまの訪問をきっかけにラオスに興味を持った人は、できるだけ早く現地を訪ねてほしい。2年もすれば、主だった観光地は中国化がもっと進んでいるかもしれないから。

中国料理店が立ち並ぶヴァンヴィエン中心部(写真:筆者撮影)